打越さく良議員は12月4日、参院本会議において、石破総理大臣の所信表明演説に対して(1)選択的夫婦別姓(2)婚姻平等法案の早期成立(3)ジェンダー平等に関する女子差別撤廃委員会の勧告――等について質問しました。予定原稿は以下の通りです。
立憲民主・社民・無所属の打越さく良です。会派を代表して、石破総理に質問いたします。
昨晩韓国のユン大統領が突然「非常戒厳令」を発令し、軍も出動する事態となったことをうけ、冒頭に一言申し上げます。韓国の国会で多数を占める野党により戒厳令解除決議が可決され、わずか6時間でユン大統領も戒厳令を解除し、戒厳軍の撤退を発表しました。軍を動員した戒厳令発令は深刻に憂慮する事態です。ユン大統領の元で日韓関係は改善し、安全保障上も連携が深まってきた中でのこの事態は、日韓関係上にも影響がないとは言えない事態です。今回の事態の受け止めと、今後の対応および日韓関係について総理に伺います。
(1)選択的夫婦別姓制度について
まず、私がなぜここに立っているかについて申し述べます。
私は選択的夫婦別姓の実現に弁護士として取り組んできました。この国は、世界で唯一、夫婦同姓を強制する不寛容な法制度をもっています。婚姻改姓をして自分が自分で無くなったように悩み、苦しむ方々、多くは女性たちに、私は出会ってきました。私は、国会が民法を改正し、こうした女性たちの苦しみを解消してくれると期待して待っていました。
しかし、いつまで経っても実現しない国会に痺れを切らした女性たちの思いを受け、2011年、弁護団事務局長として第一次夫婦別姓訴訟を提起しました。ところが、2015年最高裁大法廷で敗訴しました。この判決は、「選択的夫婦別氏制度に合理性がないと断ずるものではない」とした上で、議論を立法府に委ねたのです。いつまで経っても女性たちの苦しみに耳を傾けない国会だから司法判断を求めたのに、ボールを立法府に跳ね返す判断に、多くの女性たちが落胆し、涙しました。
最高裁で敗訴したという挫折の中、私は「この種の制度のあり方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄である」との判決文を胸に刻みました。それならば国会で選択的夫婦別姓を実現しようと再び立ち上がり、この壇上に立っていることをまず申し上げます。
私が選択的夫婦別姓を求めて国会議員に働きかけていた際、ある議員から言われた言葉が忘れられません。「そんなわがままはダメだ」という言葉です。
「わがまま」ではありません。私が私でいたい、自分の名前でいたい、という願いは、切実です。私たちが負けた最高裁判決でも、人の氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であり、人格権の一内容を構成する」もの(1988年2月16日最高裁判決)と認められているのに、「わがまま」と退けることこそ、日本国憲法(第24条第2項)のもと家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚していなければならないことをまるで認めず、明治民法の家制度か何かが続いていると勘違いした態度です。総理も選択的夫婦別姓を「わがまま」と感じるお一人なのでしょうか。そんなことはないはずです。率直にお答えください。
政府は以前、「国民意識の動向」すなわち世論を、選択的夫婦別姓を先送りにする口実にしていました(第4次男女共同参画基本計画)。しかし、世論が賛成に傾くや、不思議なことに「国民各層の意見」も口実に加えました(第5次男女共同参画基本計画)。「虎に翼」の主人公風にいえば、はて。世論に加えて付加された「国民各層の意見」とは一体何ですか。自民党を支持する一部の反対派を「国民各層の意見」としてことさらに重視するということですか。家制度はとうに廃止されているのにそれを認めない見解を重視するということですか。それは総理が引用された石橋湛山内閣の施政方針演説の「国民の一部の思惑に偏することなく」論議を尽くすとの立場とは相容れないのではないですか。
重ねてお聞きします。石破総理、総裁選の時には、「姓が選べず、つらい思い、不利益を受けることは解消しないといけない」、「実現は早いに越したことはない」とおっしゃっていた。全くもって正しい。総理、このお考えに変わりはありませんか。
自分がアイデンティティを築いてきた、自分の名前でいたい。愛する人と結婚したい。その切実な願いを両方叶えることを、夫婦同姓を強制する民法第750条は許さない。こんな不寛容な制度は改めるべきではないですか。
選択的夫婦別姓については、約30年前の法制審議会から要綱が答申されたのに、極めて異例なことに閣法として提出されないままです。立憲民主党として議員立法案を再提出する準備をしていますが、公明党代表も自民党を説得するとのことでしたので、閣法として提出してはいかがですか。衆議院において与野党は逆転し、法務委員長は立憲民主党の西村ちなみ議員です。世界でたった一国だけになった夫婦同姓の強制を改める時が来たのです。自らの信念に従って、選択的夫婦別姓を導入すると明言してください。
(2) 婚姻平等法案の早期成立について
次に婚姻平等、同性婚の実現について伺います。
同性婚訴訟の原告であった佐藤郁夫さんは、法廷でこう語りました。「死ぬまでの間に、パートナーと法律的にきちんと結婚し、本当の意味での夫夫(ふうふ)になれれば、これに過ぎる喜びはありません。」しかし、佐藤さんは2021年1月に亡くなり、この願いは叶いませんでした。
同性カップルは、婚姻できないことによって、医療福祉、相続、親権など、さまざまな法的効果を受けられません。かけがえのないパートナーを真に人生の伴侶としたいという、切実な思いがかなわないのです。石破総理は「同性婚が認められないことで不利益を受けているとすれば、救済する道を考えるべきだ」と発言されています。総理、このお考えについても変わりはないですよね。
各地の裁判所から、同性婚を認めていない現行制度は日本国憲法に違反するとの判決が次々に出されています。今年3月には札幌高裁、10月には東京高裁と、2つの高等裁判所が違憲判決を出しました。
また多くの世論調査において、国民の過半数が同性婚に賛成しています。2023年2月に産経新聞とFNNが行った調査では、自民党支持層でも60.3%が「賛成」と回答しています。総理、各種世論調査に示された民意について、無視できるとお考えなのですか。お答えください。
同性婚の実現は、基本的人権の問題、命の問題です。立憲民主党は、同性婚を法制化するための「婚姻平等法案」も再提出するべく準備を進めます。石破総理、ご自身の著書において「基本的人権の保障という観点から、権利を阻害されている国民が存在する以上は、最高裁判決を待つまでもなく早急な法制化が必要(ではないでしょうか)」と述べていらっしゃいます(石破茂「保守政治家」)。そのお考えに変わりがないのなら、同性婚の法制化を行うべきと考えますが、総理の見解を求めます。
(3)ジェンダー平等に関する女子差別撤廃委員会の勧告について
ジェンダー平等についてお尋ねします。
先月女子差別撤廃委員会は、選択的夫婦別姓や同性婚を認める法改正をするよう、勧告を行いました。選択的夫婦別姓は実に4回目であり、それ以外にも過去の審査から繰り返し勧告されている事項があります。勧告に法的拘束力がないので従う義務がないという態度は、締約国として如何なものでしょうか。総理のご所見をお聞かせください。
いうまでもなく、条約は、法的拘束力のある国際文書です。条約実現の実効性を高めるため、人権救済等の権限を有する国内人権機関を設置することが有益と考えますが、如何ですか。総理の見解を伺います。
女子差別撤廃委員会から、選択議定書の批准の検討に時間をかけすぎている、と勧告を受けました。条約の締約国189カ国のうち115カ国が批准しているにもかかわらず、日本は何度勧告を受けても未だ批准しないのは、あまりに不合理です。国際的に確立した解釈に背を向けたガラパゴスの司法判断が改善されることは、個人にとっても国益にも望ましいものではないでしょうか。個人通報制度を定めた条約に付帯する選択議定書の批准についてのご決断を、総理に求めます。
(4)訪問介護の基本報酬引き下げ
訪問介護の基本報酬引き下げについて伺います。
政府が行った訪問介護の基本報酬の引き下げ等により、訪問介護事業者の倒産が相次いでいます。今後、訪問介護を受けられなくなる要介護者や介護離職が増えることが懸念されます。
9月の厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会で示された試算によると、これまで最も高い加算を取得してきた事業所のうち、新たな加算に移行して基本報酬の減少を補い増収が見込まれるのはわずか3%にすぎませんでした。今回新たに取得した事業者でも増収はわずか17%にとどまります。事業者は人件費だけではなく物価や燃料費高騰による減収にも直面していますが、人件費に限定された加算ではその分の減収には充てられません。
立憲民主党は、訪問介護の基本報酬引き下げによる影響について調査し、それに基づき、事業者に支援金を支給すること、その上で、訪問介護の基本報酬の引き下げの見直しを含めた介護報酬の期中改定を行うことを厚生労働省に強く求めてきました。また、これを実行する議員立法「訪問介護緊急支援法案」を再提出する準備を進めています。厚生労働省による介護報酬改定の影響によるサービス提供の実態調査は、来年3月ごろの公表予定だと聞いておりますが、その間にも事業所の倒産が増えていきかねないと私たちは危惧しています。事業所の倒産により、ビジネスケアラーが仕事を諦めたり、ヤングケアラーが学業を諦めたり、お年寄りが必要な介護を受けられない事態になりかねません。こうした事態が起きないよう、私たち立憲民主党の提案に速やかに応じていただきたい。総理の答弁を求めます。
(5)えん罪被害者の救済と再審法の見直し・取調べの改革を
次にえん罪防止とそのための再審法改正、取り調べの抜本的改革についてお聞きします。
2024年9月26日、静岡地裁は1966年に逮捕され1980年に最高裁で死刑判決が確定した袴田巌さんに再審無罪判決を言い渡し、10月9日に同判決が確定しました。
袴田さんの事件では、検察が「ない」としていた証拠写真や取り調べ録音テープなどが開示され、再審開始につながりましたが、もっと早く証拠が開示されていれば、袴田さんが再審無罪となる日は今より早かったはずです。再審制度の目的であるえん罪被害者の救済のため、全面的な証拠開示制度を創設すべきです。総理のご所見を求めます。
また、袴田さんは2014年に再審請求が認められましたが、検察官の不服申し立てにより、再審公判開始は2023年まで引き延ばされました。審理を長期化させ、えん罪被害者の救済を遅らせる検察官の不服申し立ては禁止すべきです。総理、如何でしょう。
えん罪の原因の一つとして、違法・不当な取調べによる虚偽の自白が挙げられます。虚偽の自白をなくすためには、取調べの録音録画による可視化や取調べの弁護人立会いの法制化が必要です。総理、如何ですか。
無罪を主張し、あるいは自白しないと長期間身柄拘束をする「人質司法」も見直しが必要です。大川原化工機事件で容疑を否認する社長ら3人を1年近く勾留、長期の身体拘束をしたことは、人質司法の典型です。
えん罪を防ぐため、取調べの抜本的改革に取り組むとともに、人質司法を解消する方策を検討すべきと考えますが、総理の見解を伺います。
(6)農業者の所得向上・米政策について
農業者の所得向上・米政策についてお聞きします。
生産資材の高騰が続く中、価格転嫁による米価格の上昇は、極端な円安の影響で国産米の需要を減少させるおそれがあります。価格転嫁を必要とする生産者の適正価格と、家計の厳しい中で安価な食料品を求める消費者のニーズを、市場原理だけで解決することは困難です。だからこそ、価格は市場で、所得は政策でと、切り分けて考えるべきです。総理、如何ですか。
そのため、持続可能な農業経営の確立に向け、価格形成の新たな仕組みのほかに、食料安全保障の確保と多面的機能の発揮に貢献する農業者の所得向上等に資する農地に着目した直接支払いを実施するなど、抜本的な農業者支援策を併せて講ずるべきです。総理の見解を求めます。
(7)原子力発電所問題(能登半島地震とエネルギー)
原子力発電所と防災問題についてお聞きします。
自治体は、地域防災計画(原子力災害対策編)を策定するにあたり、原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力規制委員会が定める「指針」に従って、地域防災計画と避難計画を策定することになっています。
内閣府は柏崎刈羽地域など13の立地地域ごとに地域原子力防災協議会を設置し、そこで原子力災害にかかわる「緊急時対応」が具体的で合理的であるかを確認・チェックするという建前です。しかし、避難計画の実効性は確認・チェックされません。能登半島地震の際はたまたま停止中であった志賀原子力発電所ですが、変圧器の油漏れなど大きな損害が出ています。多くの道路が寸断され、交通が麻痺しました。たとえば、志賀町が定める「原子力災害避難計画」では、「避難にあたっては、災害の状況に応じ、自家用車をはじめ、自衛隊車両や国、県、町の保有する車両、民間車両、海上交通手段などあらゆる手段を活用する」とされています。他の自治体もほぼ同様の規定となっています。能登半島地震でも万が一志賀原子力発電所で事故が発生した場合、自治体の避難計画では避難は可能ではなかったと危惧されています。
各自治体が策定する「地域防災計画」の実効性を検証する必要があるのではないでしょうか。
避難計画の実効性を確認・チェックする主体はどこですか。国ですか、自治体ですか。原子力規制委員会ですか。実のところどこも実効性を確認・チェックしないのではないですか。避難計画の策定を国は支援するだけで、実効性が伴わなくても知ったことではなく、形式的に策定されてさえいれば、再稼働に支障はないのですか。それではあまりに国として無責任ではないですか。避難計画の実効性を原子力規制委員会の審査対象に含めるべきだと考えます。総理、如何ですか。
私の地元柏崎では、大雪の際に大渋滞が発生します。原発事故と津波、道路の寸断など複合災害となった場合、総合的に対処する計画がなければなりません。地元の同意、そして、実効性が担保された避難計画がないのであれば、原子力発電所は再稼働できないはずです。総理の見解を求めます。
おわりに
総理は、地方創生は「多様性の時代の国民の多様な幸せを実現するための社会政策」であると所信表明演説で述べられました。また、「地方の皆様方が希望と幸せを感じていただくことも重要です」とも表明されました。そのためには、まず国が多様性を阻害する旧い制度の壁を取り払っていくことから始めなければなりません。
私は本日、わが国の旧い制度、現状に即していない法制度等について質問しました。総理は、「全ての国民の幸せを実現するため」課題への対応を進めると明言された。その言葉が偽りでないのであれば、多様な幸せのかたちを頑なに妨げるのではなく尊重するべきです。もし、その決意がないのであれば衆議院で示された民意に従い、直ちに下野すべきであることを強く申し上げ、質問を終わります。