コロナ禍での女性、若者への自殺対策の強化は喫緊の課題です。自殺対策に関する国の方針を定める「自殺総合対策大綱」の見直しを控え、長くこの問題に取り組んできた長妻昭政務調査会長が、NPO法人 自殺対策支援センター・ライフリンクの創設代表の清水康之さんと自殺対策について話し合いました。ライフリンクは、「生き心地の良い社会」の実現を目指して、「つながり」をキーワードにした自殺対策を行うNPO法人です。

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自殺は社会の課題、防ぐことができる

長妻昭政務調査会長)
 自殺総合対策大綱(以下「大綱」)が5年に一度の改定を迎えます。9月10日は世界自殺予防デー、自殺予防週間(10日~16日)でもありますので、清水さんと対談させていただきます。
 私はかなり前にライフリンクの報告書を手に取り、そこに書いてあった言葉が強く印象に残っています。「自殺は極めて『個人的な問題』である。しかし同時に社会構造的な問題』でもある」と。その通りだと思いました。
 そこから、自殺対策に私も力を入れて取り組むようになりました。民主党政権でも、清水さんには内閣府の参与になっていただき、いろいろな自殺対策が相当進んだと思っています。
 現状を見ると、ご存じのようにG7の国で、日本の自殺率、人口当たりの自殺者数が、残念ながら一番多い。昨年1年間に21,007人の方が自殺されておられる。1日に換算すると57.6人。つまり毎日毎日この日本のどこかで、約58人の方が自ら命を絶っておられる。時間に直すと、夜中も含めた24時間で25分に1人の方が日本のどこかで命を絶っておられる。この数字を見ますと、本当に胸が痛くなり、愕然とします。何とか、効果的な形で対策をさらに前に進めていきたいと思っております。
 清水さんにお伺いします。大綱に「自殺はその多くが追い込まれた末の」という言葉があります。そして、「その多くが防ぐことができる」と。3番目として、自殺を考えている人は、悩みを抱え込みながらも「サインを発している」。この3つについての清水さんのお考えをお願いします。

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NPO法人ライフリンク創設代表 清水康之さん)
 そうですね。自殺と言うと、自ら命を絶つ行為を指しますが、ただ日本の自殺の多くは、実は追い込まれた末の死であります。どういうことかと言いますと、失業であったり生活苦であったり、あるいは家族の介護疲れ、子育ての悩み、いじめといったさまざまな要因が複数重なり合う中で、当たり前の暮らしをしていた人が少しずつ生きづらく息苦しくなっていき、もう生きられない、死ぬしかないという状況に追い込まれていく。その末に多くの自殺が起きている。
 自殺をするか生きる道を選ぶか、どちらか選択できれば、多くの人は生きる道を選ぶ。ただ、生きる道が閉ざされ、もう死ぬしかないという中で亡くなっていってるわけです。
 私たちは、自殺で亡くなった523人について、一人ひとりどういう人柄だったのか、どういう暮らしだったのか、またどういう悩みや課題を抱えて自殺に至ったのか、追い込まれていったのかというプロセスを明らかにする調査をしました。
 その中で、平均4つの悩みや課題を抱えていたことが分かりました。生きる道が選べなくなって亡くなっているのです。亡くなる瞬間の行為だけを見て、例えば飛び降りた、首を吊ったとかの行為、その瞬間的な行為としてはもちろん自らそれを行っているわけですが、実際は追い込まれた末に亡くなっている。自殺は、その多くが追い込まれた末の死なのだという捉え方が極めて重要です。

自殺対策は生きることの包括的支援

 この捉え方をすれば自殺対策というのは、生きることの包括的な支援、つまり誰もが死ではなく生きる道を選べるように、支援をしていく。それを社会全体でやっていくことが、自殺対策の本質です。問題の見立てを誤ると当然ながら対策の処方箋も誤ります。
 自殺対策基本法が2006年にできて、その翌年に大綱が作られて、五年ごとに見直しがされていますが、そもそも自殺基本法ができるまで、自殺は個人の問題とされていました。うつの問題、要する病気の問題として捉えられてきました。
 そうすると問題の見立てが、実態と必ずしも合致しないものになってしまうので、処方箋を誤まり、なかなか対策の効果が出ない状況でした。しかし、基本法ができて、大綱において自殺対策の捉え方が変わり、社会全体で対策が進んできている中で、その後2010年以降は、自殺が減少する状況になりました。
 一昨年はコロナ禍の影響で少し増えましたが、ただ減少トレンドに入ることができたのは、自殺は追い込まれた死であり、自殺対策は生きることの支援なのだという考え方が根底にあってこそのことだと思います。

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長妻議員)
 今の追い込まれるという話は、時間的な流れの中で、一定の蓄積がずっとあり、それでも改善しない、その末のやむを得ざる形で、自殺の瞬間がやってくるということなのですが、時間的な流れの途中でそれを断ち切るような支援をできるか否かが大きなポイントになると思います。その時にやはりご本人がSOSを出せないとか、あるいは出せたとしても的確な支援が、そこに届かないとか、どのような課題がありますか。

清水さん)
 まさにおっしゃる通りで、一定の時間を経て追い込まれていくので、その間に支援の余地があります。
 この一定の期間というのも、職業や立場によって追い込まれる期間が異なっていることも、先ほどお話ししたライフリンクの実態調査から分かっています。
 一番短いのは、自営業者です。自営業者の場合は、事業がうまくいかなくなると、途端にいろいろな問題が立て続けに起きてくる。ですから比較的短い期間で、もう生きられない死ぬしかないという状況に追い込まれます。
 一方、精神疾患を長期患っていたような方は、割と長い時間をかけて、徐々に、追い込まれていく。漠然とした死にたい気持ちを抱えていた人が、例えば自殺報道に触れることによって、しかも報道の中で、手順を報じられると、背中を後押しされる。長期間苦しい中、なんとか生きる道を選び続け、死ぬという選択をせずにきたが、具体的な報道に触れて、具体的に自分が自殺でなくなるイメージを持ってしまうと、実際の行動に近づいていきかねない。
 立場や職業等によって追い込まれるスパンが違うと同時に職業や立場によって、どういう悩みや課題を抱え込みやすいか、その悩みや課題の組み合わせも分かっています。
 日本で一番属性として自殺が多いのは、失業者も含めて無職者です。まず失業、そうすると収入が絶たれる、生活が苦しくなる。最初は家族や友人からお金を借りて、生活していくが、そのうち断られるようになり、お金を借りられなくなっていく。生活保護だけは受けたくない、あるいは健康で働ける体の自分が、生活保護を受けていいはずがないと誤解してる人もいます。親しい人からお金を借りられない。生活保護も利用しない。仕事が見つかれば返せると思い消費者金融からお金を借りる。仕事が見つからないまま、返済が迫ってくる。そうすると、責任感が強い人ほど借りたお金は、期日までに返そうとし、別の消費者金融からお金を借りて返済に充てて、借りて返して借りて返して多重債務になる。多重債務になると当然ながら、取り立てが厳しくなっていく。家族との人間関係も悪化し、精神的に追い込まれ、自殺に至る。

自殺の「危機経路」を先回りしたパッケージ支援

 失業があり生活苦があり多重債務があって、家族関係の不和があり、精神的な病があって自殺がある。例えばこういうプロセスが明らかになってきています。もちろん全員が、どこかのプロセスにあてはまるというわけではないです。ただ、このように類型化できる部分があるので、そのプロセスにはまりそうになった時に、いずれ抱え込みかねない悩みや課題に応じた支援策をパッケージで提供すれば、自殺に追い込まれるプロセス、自殺の「危機経路」と呼んでいますが、「危機経路」が進行せずに済みます。
 長妻さんが2009年に厚生労働大臣に就任し、ハローワークでワンストップサービスをやりましたが、それまでバラバラで行われていた相談の支援を、ハローワークを拠点に、効果的なパッケージにして提供しようという画期的な取り組みになりました。
 このワンストップサービスは、就労支援や生活支援、住宅支援に加えて、心の健康、メンタルサポートも含めてやっていく。失業者や無職者が一度失業すると、その後どういう悩みや課題を抱えているかということの想定に基づいて、あらかじめハローワークに来た人たちに対してこういう支援策や、こういう相談機関があるということをパッケージで提供しました。まさにいろいろな「危機経路」に即した形で、そのプロセスに合わせる形でやっていくことが非常に重要です。
 各ハローワークを拠点に、この基本的な考え方に基づいて、今の自殺対策は進められています。つまり「危機経路」を先回りする形でパッケージとして提供していく。それが、生きることの包括的な支援ということです。
 2010年以降10年連続して自殺が減少してきているというのは、既に抱え込んでる複数の悩みや課題に応じて、しっかりと関係機関が連携をして支援をするという形に変わってきているということが、背景にあると私は実感しています。

長妻議員)
 あの時は、清水さんが内閣府の参与で、「眠れないのは鬱のサイン」等の総合的な先手を打った対策をけん引役になって引っ張っていただいたと思います。

ライフリンク清水さん×長妻政務調査会長が自殺対策について対談❷