衆院予算委員会で4日基本的質疑が行われ、立憲民主党会派のトップバッターとして枝野幸男代表が質問に立ちました。枝野代表はこの質疑の中で、(1)新型コロナ対策における、ひとり親世帯への経済的な支援、(2)脱炭素社会に向けた政府の取り組みと原発、(3)日本学術会議の任命問題を取り上げました。

新型コロナ対策におけるひとり親世帯への経済的な支援策

 新型コロナウイルス感染症による影響で、多くのひとり親家庭が生活困窮に追い込まれていることついて、政府の認識が甘く危機感が薄いことを指摘するとともに、早急に追加的な支援策を打ち出す必要があると政府を追及しました。

 枝野代表は、「仕事を失ったり、生活困窮に追い込まれている方が減るという状況には至っていない。それどころかむしろ失業や雇用状況は悪化しており、特に親の仕事が『非正規』で『低賃金』という方が従来から多い母子家庭で、失職し困窮している方が多くなっている」と状況を分析。児童扶養手当を受け取っているひとり親家庭の約6割でこの間、収入が減少し、約1割では収入がゼロだったとする民間調査にも言及。このままでは「年を越せない」という声が多数あると指摘しました。こうした家庭がこの年末年始を乗り切れるよう、ひとり親家庭に対する支援策を早急に見直すべきだと主張しました。そのためには、施行が来年となってしまう補正予算を待たずに、すでにある予備費を使い、臨時の給付金を支給して対応すべきだと述べました。

 枝野代表は、すでに第二次補正予算で臨時特別給付金の支給を実施した、とする総理の答弁が「平時における支援策の棒読みになっているのではないか」と反論。「ひとり親だけでなく、この年末年始、大変な状況になるということを、私たちは真剣に、そして強い危機感をもって感じています。是非、予備費を早期に活用し、こうした皆さんを幸せにして頂きたい」と強く求めました。

脱炭素社会に向けた政府の取り組みと原発 

 政府が2050年までにCO2排出量ゼロの目標を新たに掲げたことに関し、原発の新増設との関係についてただしました。

 枝野代表は、(1)30年後の2050年には、今稼働させることが可能な原発の耐用年数が、いずれも切れること、(2)CO2排出について政府が自ら掲げた目標を達成するため、といった理由から、政府が原子力発電所を新設したり増設したりすることも選択肢の一つと考えているのか――を問いただしました。またこの問いに対する「原発の新増設について、現時点では考えていない」とする菅総理の答弁が、「あらゆる選択肢を追及する中で、必要な限りにおいて原子力も利用する」とした梶山経産相の答弁や、新型原子炉の研究は今後も進めていくとする政府の立場と矛盾しないか追及しました。「閣内不一致ではないか」「『現時点で』というのは、何か条件が変わったら変わるのか」と、さらに問い詰めましたが、政府側は、はぐらかすような官僚的答弁に終始しました。

 枝野代表は、「あの東京電力福島第一原発事故があって、今もなお故郷に帰れない人たちがたくさんいる。わが国の広大な国土、残念ながら立ち入れない地域をたくさん作ってしまっている。こうした状況考えるならば1日も早く原発依存から脱却しなければならないし、新しい発電所を作るなんて考えられない。あの反省と記憶は、総理にはないのですか」と菅総理を問いただしました。そして「現時点では新増設は考えていないけれども、新しい原子炉についての研究開発を進めるというのは矛盾している――私は、そう受け取らざるを得ません」と述べ、この問題に関する質問を締めくくりました。

日本学術会議の任命問題

 日本学術会議会員の任命について「必ず推薦の通りに任命しなければならない訳ではない」との考え方が、「内閣法制局の了解を得た、政府としての一貫した考えだ」とした菅総理の答弁について、問いただしました。枝野代表は(1)「一貫した(解釈)」というのは、いつの頃まで遡ることができるのか、(2)それについて何か証拠となる記録は残っているのか、(3)任命拒否を憲法15条に基づくとする政府判断の根拠、(4)総理の任命判断の客観的な根拠――を取り上げました。

 特に(2)の記録的な証拠について、政府側がはぐらかすような答弁を続けると、枝野代表は、「同じ時期から一貫した解釈だったと言うのであれば、法制局なりなんなりにきちんと(記録が)残っているはずだし、記録が残っていて初めて30年も40年も前のことを『一貫してそうだった』と言える。『当時の記録ありますか』と聞いたら何も答えられないのでは『ない』と受け止めざるをえない。平成30年になって、解釈を変えたのだと受け取らざるをえません」と、政府の答弁を批判しました。

 また(3)の任命拒否の根拠についても「問題があった場合ですら、学術会議の申し出がなければ、総理大臣は勝手に辞めさせられない――これぐらい独立性を高めている組織であるのに、抽象的な憲法15条を持ち出してきて、なんて話はどう考えても成り立たない話だ」と主張しました。さらに枝野代表は、「任命をしないで6名の欠員になると違法状態だし、学術会議が推薦をしてくれなければ、総理は任命できないので違法状態が続く」「もう1回あの6名を推薦して頂いて、それで任命をすることで、とにかくこの問題を早く終わらせましょう」と政府に早期の問題解決を強く働きかけ、質疑を終了しました。

2020(R02).11.04【予算委】衆予算委提出資料・枝野幸男代表.pdf

日本学術会議についての主なやり取り

枝野代表の問いかけ 政府側の答弁
「一貫した(解釈)」というのはいつから?「 一貫した」というのは、日本学術会議が選挙制から現在の推薦に基づく任命制に変わった。それ以来一貫したという意味でございます(加藤官房長官)
「形式的任命」という言葉の意味は?今から40年前でありますから、今から趣旨を把握するということはなかなか難しいと思いますけれども。新しい制度によって会員としてふさわしいものが推薦されるということになるという期待も含めた答弁ではないかと思います。(加藤官房長官)
「形式的任命の趣旨は昔だから分からないが、『必ずしも…』は一貫した考え」というのは矛盾しているのではないか?

中曽根当時総理が「形式的任命」と言った、その趣旨そのもの――それは今時点で把握するということは難しいけれども、先ほど申し上げましたように、そうした一貫した考え方であり、(中略)期待――これを踏まえた答弁だということを申し上げているわけであります(加藤官房長官)

解釈が「一貫している」という主張について、何か証拠となる記録は残っているのか? 平成30年の確認の際には、過去の答弁等も踏まえながら、そうした見解を法制局との間で、作り上げてきた(加藤官房長官)
憲法第15条に基づいて「公務員の選定は国民固有の権利」と規定していることを、総理大臣に自主的な判断権がある根拠としていますが、(憲法の)どこに書いてあるのか?それ(憲法15条1項)を受け、定められた日本学術会議法第7条第2項、内閣総理大臣の任命者任命権者として定めているわけであります。従って、内閣総理大臣は会員のについて、まさに国民からの負託をされ、そしてそれ故に国民の責任を果たしていく必要がある(加藤官房長官)

憲法15条1項に基づいて 総理に実質的な判断権があるのならば、それは規則的裁量か、自由裁量か?
(どのような客観的基準で、推薦を跳ね除けているのか?)

第1項との関係で、推薦した方々は必ずそのまま任命しなければいけないということではない、という点については、内閣法制局の了解を得た政府の考え方であります。それに基づいて、その時点で任命権者として適切に判断している。(菅総理)

総理が全く白紙で、自由にやれるのかっていうことではないことは明らかであります。日本学術会議からの推薦に基づいて、そして総理が任命をするということ。ただ一方において、じゃあ推薦通りにしなければならないのか、という、今のご指摘については、これまでもご説明しておりますように、必ずしも推薦通りに任命しなければないわけではない。そしてそうした任命にあたって、任命権者――この場合は内閣総理大臣でありますけれども――日本学術会議法に基づき、会議の目的及び職務等を踏まえ、適切に行う。(加藤官房長官)

日本学術会議の主旨や目的等に照らして会員の任命について、国民及び国会に対して責任を負えないような場合にまで、推薦の通り任命しなければならないわけではない(加藤官房長官)

個々人の任命の理由については政府の機関に所属する公務員の任命であり通常の公務員の任命と同様にその理由については、お答えを差し控える(菅総理)

会員に 「不適当な行為があった」場合でさえ、学術会議の申し出がないと辞めさせることができないのに、学術会議の推薦に対し、合理的な理由も説明できずに跳ね除けるようなことは、法律上できるはずがないのでは?26条の退職規定、これはまさに一度会員として認めた方について、ということでありました。今議論しているのは会員として任命するにあたってということであり…(加藤官房長官)

一昨日の川内博委員の質疑の中で、総理が「理論的には川内議員の言う通り」と仰っているがどのような意味か?(川内議員は、任命をしないで6名の欠員になると違法状態だし、学術会議が推薦をしてくれなければ、総理は任命できないから、違法状態が続く、という趣旨の発言)

直ちに6名を再任命して違法状態を一日も早く終わらせ、この議論は終わらせるべきではないか。

学術会議の任命は、あくまで今回のために遅れたものであり、推薦された者の扱いを含め、任命権者として最終判断したものです。従って一連の手続きは終わっており、仮に新たに任命を行うことは、日本学術会議法に沿って、改めて補充のための推薦手続きが取られる必要がある(菅総理)