立憲民主党は25日夜、オンライン番組「りっけんチャンネル」で「最前線で戦う医師と考える『第6波』を最小化するために必要なこと」をライブ配信しました。埼玉医科大学教授で感染症専門医の岡秀昭さんをゲストに迎え、逢坂誠二新型コロナウイルス対策本部長と西村智奈美衆院議員が医療現場の状況、ワクチン接種、抗体カクテル療法等について話を聞きました。
逢坂議員は冒頭、「昨年1月に日本で初めてコロナ感染の方が確認されてから1年半以上にわたっていろいろな方がコロナと戦っている。特に医療現場で患者さんの治療にあたっておられる方々に心から感謝、お礼を申し上げたい。医療状況がひっ迫して十分な医療サービスを提供できない中で、相当ご苦労され心労が多いのではないかと思っている。第5波はだいぶ収束の方向に向かっているが、第6波にどう備えるかというお話を岡先生からしっかり伺いたい」と話しました。
岡教授は、自身の病院でも状況は落ち着いてきたと明かしました。第5波の引き方が異様に早く引いたので、2年近く同じスタッフで戦ってきたので心身共に疲弊しているが、今後起きるかもしれない第6波に向けて、起きるまでにできるだけ時間を稼ぐ、あるいは感染拡大を起こさせないように、皆さんに協力をお願いしたいと話しました。
逢坂議員が、新規感染者がものすごいスピードで減っている理由を尋ねると、岡教授は、専門家もまだ正確なことが分かっていないと紹介し、私見としてワクチン接種の効果が大きいのではないかと話しました。
■感染症専門家が不足
また、逢坂議員が日本は世界の中でも人口当たりの病床数多いのに、コロナ禍で医療のひっ迫が起きた原因は何かを尋ねると、岡教授は、日本の総病床数には民間の精神科、リハビリ病院等も含まれており、新型コロナウイルス感染症の治療に対応できるのは一部だけだと説明しました。重症患者には、病床だけでなく感染症、集中治療の専門スタッフが必要だが、日本ではそうした専門家の養成、配置が進んでいないとし、足りないからといってすぐに増やすのは難しいと語りました。
逢坂議員は最大約13万人が入院できずに自宅待機を余儀なくされたことに触れ、そうした事態に対し野戦病院的な医療施設を整備することは有効かと聞きました。
岡教授は、有効な手段の1つだとの認識を示し、感染症専門家を配置できないにしても、少なくとも医療スタッフが誰も診ないよりは医療管理下に入るという意義があると答えました。第6波に備えて、野戦病院的医療施設を準備する戦略は有効で、ワクチン接種を広げることとともに実施して、重症者を増やさないことが大事だと語りました。逢坂議員は、たとえ第6波が起きず空振りになっても、野戦病院型施設の準備を進めるべきだと語りました。
西村議員は視聴者から質問を紹介し、日本の感染症の専門医は欧米と比べて少ない点について尋ねました。
岡教授は、国によって違いはあるが、米国では、エイズの感染拡大を契機に感染症の専門医の養成が進み各病院に配置されようになった経緯を紹介しました。それに対し、日本では感染症専門医がいない病院が多く、集中治療を専門とする医師を置かず外科等の各科の医師が集中治療に対応しているケースが多いと説明しました。その最大の要因として、収益性を重視する民間病院では心臓、がん治療など診療報酬の高い分野が平時であれば収益性が高いので、感染症、呼吸器症の専門医を配置するインセンティブが働かず、予算や人員の増加を要求しても通らないと語り、感染症はいろいろな領域で起こるので、専門家を増やす必要があると主張しました。
■重症化を防ぐためにすべきこと
岡教授は、第6波が来るか来ないかは分からないが、危機管理として対策をしておかなければいけないとし、病院としても準備を進めていると語りました。ただ、医療現場としては、第6波を想定して、患者をどのように病院に受け入れ、しっかり治療し被害を最小限に抑えられる体制を整えていくが、前述のように対応できる専門医師等が足りず、急に養成できるわけではないので、すぐに重症病床を増やすことは難しいと語りました。そうした状況の中、感染者が増えたとしても、できるだけ重症者を出さないようにすることが重要だと強調しました。重症化を防ぐ手段として、ワクチン接種と治療薬の中でも効果が確実に証明されている抗体カクテル療法を挙げました。
■ワクチン接種
岡教授は、ワクチン接種により発症が減っている調査を紹介しました。
変異株のデルタ型についてはワクチン接種による予防効果が落ちているのではないかということが指摘されたが、デルタ型についても発症予防効果は一定程度あり、重症化を予防する効果は維持されていることが分かっていると説明しました。また、重症化している患者さんはほとんどワクチン未接種の方で、たまにワクチンを受けていて重症化する方は抗ガン剤の治療を受けているとか、かなり強い免疫不全を持っている方だったと報告し、そういう方を除けば、ワクチンを打っていれば重症化することはほぼないと言ってよいのではないかと語りました。
3回目のブースター接種は必要かという問いに対し、岡教授は、2回接種後の効果の低下するが、ブースター接種をすると、発症も重症化効果が再上昇すると報告されていと説明ました。ただし、多くの国でまだ全員にワクチンが行きわたっていない中で、ブースターを優先するのかという論点があるのでWHOは推奨していないこと、ブースター接種をしなくても死亡者数は抑えられているので、急いでする必要があるのかという論点があることを指摘しました。
ブースター接種にあたっては優先順位が重要で、死亡、重症化を防ぐことが目的であれば、ワクチンの抗体がつきにくい、抗がん剤を投与されている方、免疫不全等の基礎疾患のある方をまず優先すべきとの考えを示しました。
■検査の拡充、水際対策
岡教授は、新型コロナウイルス感染症は無症状時から感染するので、感染を捕捉するには検査するしかないと話しました。しかし、検査さえすればよいのではなく、検査体制の拡充、検査の解釈も非常に重要だとし、自分で検査して陽性になっても報告しないようなことが起きると結局、感染対策にならないと指摘しました。検査数を増やすことと検査・報告体制、隔離体制を整えることと両輪でやっていかないといけないと強調しました。
水際対策について、今までは水際で防止できずに、日本に入ってきてしまってから対処していた印象があると語りました。その上で、経済活動、人の移動を広げていきたいという思惑や欲求と我慢のせめぎ合いだと思うが、今までのアルファ株、デルタ株の侵入を容易に許してしまい、水際対策が十分ではなかったとの反省に立ち、検査と隔離の体制を見直す必要があるとの考えを示しました。
■抗体カクテル療法
岡教授は、抗体カクテル療法は軽症時に投与するもので、最初の頃は厚労省に連絡すると必要分は翌日くらいに届いていたが、その後、4、5日経ってから届き間に合わなかったので、厚労省に要請し病院にストックを置けるようになった。最近は患者さんに投与が必要だと分かると即日で投与できていると説明しました。
現状では、抗体カクテル療法は重症患者を診る病院でおこなわれているが、これは望ましいことでなく、軽症者に対応する開業医やクリニック、在宅医療などプライマリーケアで投与できるようにすべきだと指摘しました。その場合、政府は供給できる量を示し、それに合わせて体制を組むべきで、そうでなければ数が足りないのにプライマリーケアで使えるようにしても玉切れ起こすだけになってしまうと語りました。
これに対し逢坂議員は、菅総理は抗体カクテル療法が画期的な治療法だと発表したのに、その供給量を政府が一切明かさないので、引き続きただしていきたいと述べました。
■この冬に向けた対応
岡教授は、寒い季節になると新型コロナとインフルエンザの流行が同時に起こると想定して対策をしないといけないので、インフルエンザの予防接種も進めるべきだと話しました。インフルエンザに関しては従来どおりプライマリーケアの医療機関で対応し、重症者だけを専門病院で受け入れる体制にしないともたない。ただし、初期症状の発熱で新型コロナとインフルエンザの区別がつきにくいので、プライマリーケアや野戦病院型医療施設で、発熱などの症状が出ている方を診て、診断がついて重症化した方を専門病院で受け入れるという役割分担を進めていくことにより医療のキャパシティを今までよりも増やしていくことができると説明しました。そして重症者を減らすことが大事であり、ワクチン接種、早期の診断、治療が必要になると話しました。
岡教授は最後に、「医療現場として、何とか第6波が来ても皆さんの健康を守るために努力していきたい。ただ、医療は有資源で限界がある。第5波までで医療がひっ迫していたものが、急激に医療キャパシティを増やすことは難しいと思う。やはり皆さんが感染されない、そして重症化されないというご協力が必要。コロナのワクチンはインフルエンザの予防接種よりも副反応が強いが、相対的に大人に関しては重症化を防ぎ、死亡を減らす効果は依然として高いので、未接種の方はもう一度考え直してみていただきたい。接種したくてもアクセスできないという方に関しては、政治にワクチンの確保に向け頑張っていただきたい。抗体カクテル療法も1つの有効な療法なので体制づくりもお願いしたい」と述べました。
逢坂議員は「今日のお話を伺って、重症患者を診る部分とそれ以外の医学的管理ができる部分の棲み分けをきちんとやることがこれから第6波に備える上で重要だということを再確認した。検査の拡充も単に街角検査のようなことがどんどん進めばいいということでなく、改めて政府の対応も必要になってくると思った。ワクチンについて3回目のブースター接種の議論が進んでいるが、3回目というよりは、できるだけ多くの方に2回目までを打っていただくということが大事だと理解した。政府の足らざる部分をわれわれから提案し、引っ張っていきたい」と語りました。