8月13日開催のオンラインイベント「立憲つながる夏祭り」にて、ジャーナリストの浜田敬子さんと、立憲民主党子ども・若者応援本部事務局長の岡本あき子衆院議員が、「徹底対談!!少子化対策に本当に必要なものは何か」と題した対談を行いました。概要は以下の通り。

先進国で少子化が急速に進んでいる国の共通点

浜田
 日本の少子化対策はなぜ効果を上げてこなかったのか。それは、永田町に女性が少なく、長い間、子どもの問題を真剣に扱ってこなかったことが問題の本質だと思う。私は入社10年でAERAという雑誌に移った。AERAは朝日新聞社の中では比較的女性記者が多かったため、女性の働き方や、子育てと仕事の両立の難しさなどをとりあげた。とはいえ、男性部員の方が圧倒的に多かったため、女性や子どもの問題はニュースなのかという論争もあったが、やはり当事者がその組織に増えると、当然注目する課題が違ってくる。

 日本の政府は、手を変え品を変え、いろんなことをやってきたつもりかもしれないが、海外から見たら無策だったと評価されていることを、非常に謙虚に受け止めなければいけない。

 先進国で少子化が急速に進んでいる国には、いくつかの共通点があると言われている。
1.妻の家事育児の負担が大きい、つまり社会の中に根深い性別役割分業意識がある。
2.職場が家族に優しくない。
3.家族関連の公的支出が少ない。
4.一度出産離職した女性たちの再就職(特に正社員)が非常に難しい。
5.若者の非婚化が進んでいる。
6.多様な結婚の形が認められていない。

 日本の大企業はこの20年間、育休を取りやすくする、短時間勤務できる、などの両立支援制度で多くの良いメニューを整えてきた。しかし、中小企業や非正規雇用の労働者は全く恩恵に被れなかった。また、その制度を利用するのがほとんど女性だったため、性別役割分業がより強固なものになっているという印象を受けている。男性も同じように育休を取りやすくし、取れる人が増え、短時間勤務も男女で同じようにとる、あるいは短時間勤務を取らなくても済むようにし、女性が子育て中だからという理由で昇進や昇給で不利益を被らないようにする政策も必要だと思う。

 若者の非婚化は、岸田政権の少子化対策では弱い部分だと思う。不安定な経済状況、低賃金や非正規雇用などで将来に明るい希望が見出せず、さらに奨学金という数百万の借金を背負っているためになかなか結婚ができないという状況が放置されている。

 多様な結婚が認められていないことも共通点ではないか。フランスやスウェーデンでは同性パートナーが認められ、しかも子どもを持ちやすい政策にどんどん移行しており、事実婚のカップルでも法的な立場が保障され差別を受けない。

 少子化対策の基本というのは、不安や負担を減らし、子どもを育てたいという希望を持てるようにすることに尽きると思っている。

少子化は、ジェンダー後進国であることと通じる
~応急処置的な短期政策と、漢方的な中期政策が必要

 方向性はふたつある。一つは、今困っている人たちに対する応急処置的な短期政策。もう一つは、社会のあり方を徐々に変えていく漢方的な中期政策。

 これまでの日本では、児童手当の拡充、学童の充実、高等教育の負担軽減、出産費用の軽減、男性育休の推進など、応急処置的なものが多かった。しかし、若年層の雇用対策、非正規労働者の正規雇用、最低賃金引上げ、再就職の支援、多様な家族を認める、子どもをめぐる人たちの処遇改善など、漢方的なものも必要ではないか。また、公教育で働く先生たちのやりがいや働く環境が改善されれば、当然公教育が充実し、無理に塾に行かせて私立に行かせる教育費の負担が減るのではないか。

 さらに、いったん出産離職したあと正規雇用で働けないことが、男女の賃金格差を広げている。財務省の調査によると、出産後の賃金低下が、デンマークでは30%だが、日本では70%。親、特に母親に育児やケアの責任を押し付け、父親の育児参加を許さず、教育費の責任も親だけに追わせてきた日本社会のありようそのものが、「子育て罰」を形成してきた。少子化は、ジェンダー後進国であることと背景要因が多分に通底していると思っている。

結婚する前の世代を支え、出産の壁、経済的な壁、住宅の壁、伝統的な家族観の壁を壊そう

岡本
 10年以上前、民主党政権のときに、チルドレンファーストを掲げて少子化対策の取り組みを進めると言ったところ、当時の野党自民党さんからものすごいバッシングを受けた。この「失われた10年」がなければもっと進んだのではないか。非常に悔しい思いだ。

 立憲民主党はもっと良い子ども・子育てビジョンを発表しているが、今回注目をしているのは、結婚をする前の世代の方々を支えること。データが示す若者の状況というところで、理想の子どもを持たない理由では、とにかく教育にお金がかかる、この不安感がダントツで高い。

子どもの数と経済.png

 もう一つ、実質賃金と婚姻率というデータを組み合わせてみると、見事に相関関係がある。実質賃金が下がっていった結果、婚姻率も全く同じ角度で下がってきている。

実質賃金と婚姻率.png

 この点を何とかしなきゃいけないという思いで、立憲民主党としては5つの重点政策を提言している。

5つの重点政策.png

 ビジョンではさらに、出産の壁、経済的な壁、住宅の壁、伝統的な家族観の壁などを指摘しており、これらの壁をしっかり壊していくのが政治の役割だと思う。

もう少し人を大事にする経営を~ドイツなどの事例

浜田
 日本では、2040年には1,100万人くらいの労働力不足になると言われている。正規雇用を増やし、仕事に見合った賃金を払うなど、もう少し人を大事にする経営が必要ではないか。

 6月にドイツとシンガポールに取材に行ってきた。ドイツでは失業させないための教育訓練の機会が非常に多かったのが印象的だった。例えば自動化によってフォークリフトの運転手の仕事がなくなっていったら、行政のハローワークのようなところが中心となり、リスキリング(学びなおし)の機会を提供して、その人に新しいスキルをつけて、違う職場に移ってもらうという制度が徹底している。また、ロースキルですごく低い賃金で働いている、例えば難民の方とか移民の方とか、女性でシングルマザーの方とか、そういった人たちにより賃金の高い職に就いてもらうための教育訓練を非常に手厚くやっていた。地域ごとに、行政、企業、商工会のような経済団体、労働組合、NPOが入って協議会をつくり、「うちの地域は製造業が強いが、これからこういう産業がなくなっていくかもしれないから、そのためにこういった教育機会を設けて、この仕事に就いている人たちをこっちに移しましょう」ということを、みんな集まって話し合っていた。また、賃金を上げるために教育を受けてもらうための啓発活動も盛んで、駅でチラシを配って、「ちょっとハローワークに来てキャリアの相談をしませんか」と呼びかけていた。日本はリスキリングとか人的資本経営と熱心に言うが、いろんな制度や政策の解像度が荒い。以上の二つの国では、もっと緻密にやっている。

岡本
 ドイツに行った際、保育園は朝7時から預かるが、夜は6時に終わると言われた。子どもは保育園に預けて親が長時間働くという社会ではなく、夕方になったら子どもと一緒に家に帰る社会。仕事と子育てをどう両立するかではなく、家族との時間や趣味の時間をちゃんと大切にできる社会。この価値観へと、多少時間をかけてでも転換しなければならないと感じる。

浜田
 ドイツで驚いたのは、午後4時台がラッシュアワー、つまり多くの人が午後4時台に帰るということだ。そのドイツが日本よりも競争力が弱いかというとそうではない。ドイツの人口8400万ぐらいで、来年にはGDPで日本を抜くと言われている。

 デンマークでも午後3時半とか4時ぐらいに皆さんが退社している。一旦退社してどちらかが保育園に子どもを迎えに行き、どちらかが家に帰って夕飯を作って、午後6時ぐらいに家族でご飯を食べて、残った仕事は家でやる。つまりリモートワークなんかも柔軟に取り入れている。かつて日本では、そんなことやると国際競争力が下がると言われていたが、デンマークは国際競争力ランキングで1位。日本は、こういう働き方をした結果、少子化にもなり、国際競争力ランキングも39位になっている。1人当たりのGDPも韓国などにも抜かれている。男女限らず、非正規・正規限らず、もう少しみんなが自分の生活を中心に考え、自分の生活を豊かに考えられる、働き方の柔軟性とか、そもそも効率の良い働き方とか、働き方の価値の転換というのはとても大事だと思っている。

岡本
 リスキリングを含めて人を大切にし、一定のお金と時間があれば、国内の消費にも回っていく。今は余裕も時間もなく、お金を使う場所もない。使うとすると教育しかない。経済を回す意味でも、日本独特の働き方がダメージを与えているのではないか。

子ども予算倍増の財源確保は?

浜田
 ところで、立憲民主の政策は非常に目配りが効いていると思っているが、財源問題をどう考えているのか。

岡本
 立憲民主党は、所得税の累進性を強化するべきだと考えている。特に、株式譲渡所得をはじめとする金融所得が20%の分離課税とされているために、年間所得が1億円を超える方々は逆に税負担率が下がるという矛盾を抱えているので、金融所得課税をちゃんと累進化する提言をしている。また、消費税を上げた分、法人税が下がっているが、一定程度利益を出せる企業には応分の負担を求めるべきだ。

浜田
 ビジョンにもあった高等教育の学費の壁について、子育て世代の読者からよく聞いたのは、公教育が充実していれば、塾に行かなくても私立を目指さなくてもよくなり、子育ての負担が随分減るんじゃないかということだ。

 現在、大学進学率が50%に上がったが、きちんと高校を卒業して手に職がある人たちの価値も見直すべきじゃないかと思う。これからは、警察、消防、電気工事士、自動車整備士など、国や地域のインフラを支える人材が足りなくなると言われている。高校を卒業して手に職を持ってインフラを支える仕事に就けば、ちゃんと子どもを安心して育てられるだけの安定した雇用と賃金が得られるという価値観が育てば、なにがなんでも大学に行って奨学金を背負うということも避けられるのではないかと感じている。

立憲民主党・もっと良い「子ども子育てビジョン」(全文).pdf