参院本会議で5月9日、「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑が行われ、村田享子参院議員が会派を代表して質問しました。予定原稿は以下の通りです。
下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案
ご安全に。立憲民主・社民・無所属の村田享子です。
下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案に対し、会派を代表し、質問いたします。
危険と隣り合わせのものづくりの現場では、自分と仲間の安全を祈り、「ご安全に」という挨拶を使っています。日本のものづくりは、地域の雇用を、日本の経済を支え、そして、その、ものづくりを支えているのが、長年の経験から培った高度な技術をもつ現場の皆さんであり、多くの中小企業で働く皆さんです。
今回の改正案は、中小企業が近年の物価上昇に負けない賃上げの原資を確保するための措置を講じるものであり、法案の趣旨につき、賛同するところです。
その上で、まず賃上げについて経済産業大臣にお聞きします。今年の春季生活闘争、春闘では、連合の5月2日時点での回答集計によると、全体の賃上げ率は5.32%、300人未満の中小組合で4.93%となっており、いずれも昨年同時期を上回っています。昨年に続く 高水準での回答を引き出した労働組合の皆さんに心から敬意を表するとともに、中小組合を中心に、交渉が継続中のところもあり、米国の関税措置による影響も懸念される中、大企業と中小企業の賃上げの格差も指摘されています。国による賃上げへの後押しが必要です。
「価格転嫁なくして中小企業の賃上げは実現しない」
大臣からもこのようなご発言が衆議院の審議においてございました。たしかに、直近では高水準の賃上げが実現しているものの、これまでなぜ価格転嫁が進まず、中小企業で働く人の賃金がなかなか上がってこなかったと認識しているか、お尋ねします。
次に、下請代金支払遅延等防止法、いわゆる下請法の改正についてお聞きします。
22年ぶりの大きな改正となります。前回、平成15年の改正では、経済のIT化等を受け、規制対象の取引に情報成果物作成委託等が追加されました。そもそも下請法の制定にあたっては、昭和20年代後半に、不況の深刻化で製造業の下請代金の支払遅延等が大きな問題となったことで、昭和28年に独占禁止法が改正され、不公正な取引方法が新たに禁止されたものの、昭和30年、神武景気の初期にあたっても、支払状況は改善されず、昭和31年に、代金の支払遅延等の禁止を定めた下請法が制定されました。過去10回の改正が行われており、下請をめぐる問題は、時代背景に応じて、課題も変化しています。
今回の改正では、近年の物価上昇を受け、発注者・受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図ることが重要とされています。
その実現のカギは、「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」にいかに実効性を持たせるかです。現場から「協議を求めたが、取引の打ち切りを示唆され、協議を辞退せざるを得ない」「協議をいたずらに引き延ばされる」等の声があります。衆議院の審議で、どういう協議が違反なのかを運用基準の中で明確に書いていくとの答弁がありましたが、協議の形骸化をどう防ぐのか。また、運用基準の策定にあたっては、現場のリアルな協議の状況を反映すべきと考えますが、伊東大臣の見解をお聞きします。
価格転嫁の交渉にあたっては、パートナーシップ構築宣言、労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針等により、価格転嫁が進んだとの声がある一方、直近の調査では価格転嫁率は49%であり、道半ばです。また、価格転嫁は実現したものの、その後、失注や減注がされたケースもでています。伊東大臣、価格転嫁後の失注や減注対策が必要ではないでしょうか。
今回の改正で、物流問題への対応として、下請法の規制対象に運送委託が追加されました。これまで独占禁止法で規制されていた発荷主と元請運送事業者との取引を、今回、下請法の対象取引に追加した理由とその効果について、伊東大臣にお聞きします。
ガソリン価格の高騰は物流に大きな影響を与えています。今回のGW期間、各地をまわる中でも、「ガソリンを安くしてほしい」との声を最も多く聞きました。立憲民主党は今年7月からのガソリンの暫定税率を廃止する法案を衆議院に提出しました。政府では今月22日からガソリンを1リットルあたり10円引き下げるとのことですが、10円ではなく、251円価格を引き下げることのできる暫定税率の廃止をするべきではないですか。経産大臣の見解をうかがいます。
下請法の対象事業者の定義について、資本金額による基準に加え、従業員数による基準が追加されます。資本金の増減による、いわゆる「下請法逃れ」に対応できる一方、「従業員数は資本金と比較して変動が大きく、取引先の従業員数を調査することも必ずしも容易ではなく、事業者の負担増につながる」との懸念もあります。従業員基準を追加した根拠とこうした懸念への対応について、伊東大臣、お答えください。
今回の下請法の抜本的な改正、その実効性をどう高めていくか。1つは、現場の声を聞く、現状を把握することだと考えます。現在、公正取引委員会の優越Gメン、中小企業庁の下請けGメン、国土交通省のトラック・物流Gメンなど、調査員による聞き取りや大規模な書面調査が行われていますが、中小企業では、問題があっても声を上げづらい事業者、特に、取引関係が1対1だと、情報を国が厳密に管理するとはいえ、情報提供したことが取引先に知られてしまうことを不安視する事業者も多くあります。伊東大臣、実態調査を強化し、申告のない場合でも個別に調査を実施するなど、より踏み込んだ対応が必要ではないでしょうか。
もう1つの実効性を高める方策が、罰則の強化です。下請法においては、公取による勧告・指導が中心であり、最も厳しい罰則である刑事罰の対象となる行為は、発注書を交付していない、取引記録に関する書類を作成・保存していないというものであり、買いたたき、協議に応じないといった価格転嫁に直結する行為については対象となっていません。
独占禁止法の優越的地位の濫用規制では、課徴金が課されていますが、課徴金の額は、カルテルは対象商品の売上額10%であるのに対し、優越的地位の濫用の場合は、取引先からの購入額のわずか1%に過ぎません。あまりに過少であり、しかも、「その額が100万未満であるときは、その納付を命ずることができない」とされており、購入額1億円未満の取引、小規模な受託事業者との取引では、納付を命ずることができない場合が生じます。下請法や独占禁止法の罰則規定を強化すべきと考えますが、伊東大臣いかがでしょうか。

続いて、下請中小企業振興法、いわゆる下請振興法の改正についてお聞きします。
昨年9月の「価格交渉促進月間」の結果では、取引の段階が深くなるほど、一次、二次、三次となるほど、価格転嫁の割合が低くなっています。サプライチェーン全体の取引適正化に向けて、今回の改正では、多段階の事業者が連携した取組への支援が追加されましたが、直接の取引先を越えて、「数次先の取引先まで含めて価格交渉しない」、「頭越しに接触しない」という商習慣があるとされる中、どのように多段階の事業者の連携を実現するのか。あわせて、武藤大臣におかれては、先月、自動車業界各社のトップと面会し、直接の取引先の更に先まで価格転嫁が可能となるような価格決定をすることを要請されたとのことですが、これまでの商習慣を考えると、直接の取引先の更に先、そのまた先が、どれくらいの価格転嫁を必要としているかを知るのは容易ではないと思います。具体的にどのようにして価格決定を行い、取引段階の深いところまで価格転嫁をしていくのか、あわせてお聞きします。
コスト別の価格転嫁率をみると、昨年12月公表の「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果では、原材料価格が69.5%、エネルギーコストが65.9%、労務費が62.4%となっており、労務費の転嫁率が低くなっています。政府は令和5年11月に「労務費転嫁交渉指針」をだしましたが、指針の認知度は48.8%であり、都道府県別では、東京都が57.3%で最も高く、低いところでは、青森県35.6%、岩手県37.3%となっています。地方の中小企業は、人材確保のためにも賃上げ、そのための価格転嫁を必要としており、この調査結果を踏まえ、全体の認知度向上とともに、地域ごとの対応が求められます。今回の改正で、国と地方公共団体の連携が強化されますが、地方の実態をふまえ、連携強化をどう行っていくのか。また、労務費転嫁交渉指針の周知にあたっては、春闘の際、労働組合の側から会社側に対し、指針の情報を提供し、それにより会社が初めて指針を知ったとの話もあります。地方版政労使会議の活用など、地方における政労使の連携も重要と考えますが、経産大臣の見解をうかがいます。
今回の改正で下請法や下請振興法の対象となる取引は増えますが、それでもなお、対象外となる可能性のある取引もあります。
グループ会社内、親会社と子会社での取引について、子会社である中小企業から価格転嫁できていないという声があります。しかも、子会社が「みなし大企業」とされ、「ものづくり補助金」等の中小企業を支援する補助金が使えないという問題もあります。グループ会社間での取引は、下請法や独占禁止法の対象となるか。適用外である場合、適切な価格転嫁をどう進めていくのか、伊東大臣にお聞きします。
また、海外メーカーが発注し、日本企業が部品を納入する受託事業者である取引において、価格転嫁が進まない、との声も多くあります。製造業において、海外との取引に下請法や独占禁止法の適用はされるのか。適用対象とならない場合の対策についても、伊東大臣にお聞きします。
海外関係での価格転嫁では、国内で、海外の事業者と競合している場合、国内の事業者が海外勢に価格で負けて、失注することをおそれ、価格転嫁をしたくてもできないケースがあります。このようなケースにどう対処するのか、経産大臣の答弁を求めます。
本改正案は、衆議院経済産業委員会で、立憲、自民、維新、国民、公明、有志により、附則第一条の施行期日について、「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」から、「令和八年一月一日」に改める修正案が提出され、全会一致で可決しました。
この修正は、施行期日を明確に定めることで、令和八年一月から行われる見込みの春闘での本法律の実効性を確保し、中小企業の賃上げに確実につなげていくためのものであり、労働組合からも強い要望があったものです。
施行期日に向けて、公正取引委員会として、改正法の適用基準等を具体的に示す政令等の下位法令や運用基準の準備、事業者の皆様への周知広報等が必要となりますが、施行期日に間に合い、かつ、本法律の実効性を高めるため、どのように手続きや周知広報を行っていくのか。公正取引委員長にお尋ねします。
今回の改正で、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与える「下請」という用語が見直されます。もちろん賛同するものでありますが、用語の見直しは第一歩であり、対等な関係、価値を認めあう社会の実現が急務です。現場で素晴らしい技術をもって製品を作っても、価格転嫁ができない、むしろ、買いたたかれる、仕事をしてもしても利益がでない、賃金が上がらない。働く皆さんの切実な声をたくさん聞いてきました。発注者と受注者は日本の誇るものづくりを担う対等なパートナーであり、よりよい商品・サービスをともにめざしていくことが日本のさらなる活力を、働きがいを生み出します。事業者の意識改革も含めた、構造的な価格転嫁、持続的な賃上げへの対策を経産大臣にお聞きします。
「価格転嫁待ったなし!」
中小企業、フリーランス、個人事業主をはじめとする、すべての働く人の賃上げにつながる法律となるよう、充実した審議を求め、質問を終わります。
