インドネシア・ジャカルタで10日に開幕した第9回世界平和フォーラム(World Peace Forum, WPF)において、立憲民主党の野田佳彦代表が「ワールドリーダーズ・パネル」にオンラインで登壇しました。

 同パネルには、ユスフ・カラ元インドネシア副大統領、アティフェテ・ヤヒヤガ元コソボ大統領、タイ王国の文化大臣サビーダ・タイセッド氏、イスラム協力機構(OIC)政治局長サーレ・テカヤ大使らが参加。

 各国を代表する指導者や知識人が、テーマである「ワサティーヤ思想とティオンフア思想――中庸と調和による地球的協働」のもと、宗教・文化・政治を超えた平和の在り方を議論しました。

 野田代表は、日本を代表してスピーチを行い、分断と不信が広がる国際社会において、「和を以て貴しと為す」という日本の精神を軸に、中庸と調和を重んじる文明間対話の重要性を訴えました。

 特に、西洋の普遍的価値である民主主義・自由・人権を、アジアの「中庸」「共感」「調和」と結びつけることで、対立ではなく補完による新たな普遍性を築く道を提起。

 本フォーラムを主導するディン・シャムスッディン議長への敬意を表しながら、文明間の協働が持続的な平和を生み出すことへの期待を語りました。

 以下に、野田代表のスピーチ全文を掲載します。

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<第9回世界平和フォーラム 野田佳彦代表スピーチ

 ご紹介いただき、心より感謝申し上げます。日本の立憲民主党代表、元内閣総理大臣野田佳彦です。

 第9回世界平和フォーラムの開催にあたり、主催者の皆さまのご尽力に深く敬意を表します。とりわけ、本フォーラムを長年にわたり導かれてきた古くからの友人であるディン・シャムスッディン議長に、心からの敬意と感謝を申し上げます。先生の不断の努力と信念が、世界の対話と平和の架け橋を築いてこられたことに、心より敬意を表します。

 このフォーラムが、宗教や文化、国家の枠を越え、平和と理解を広げる世界的な対話の場として発展してきたことに、改めて深い敬意を表します。そして、異なる立場や価値観を超えて、平和と共生の未来を語り合うこの貴重な機会を心より歓迎いたします。

  世界はいま、深刻な分断と不信に直面しています。紛争、格差、差別、排外主義――その根底には、他者を理解しようとする想像力の欠如があります。私たちは、情報が瞬時に行き交う時代に生きながら、心の距離をむしろ広げてしまったのではないでしょうか。国際社会は、勝者と敗者、中心と周縁という古い構図を越え、より包摂的で持続可能な平和と共存の秩序を築く責任を負っています。

 本フォーラムが掲げる「ワサティーヤ思想」と「ティオンフア思想」は、いずれも極端を退け、対話と調和を重んじる価値を伝えています。これらの思想は、異なる文明が共に学び合い、相互理解を深めるうえで、私たちが再確認すべき人間的な知恵を示していると感じます。宗教や文化を超えて人間の尊厳を基軸に置くその姿勢は、混迷する世界において希望の光を放っています。

 私はイスラムや華人の伝統思想の専門家ではありませんが、私たち日本人にも深く通じる価値があります。それは「和を以て貴しと為す」という考え方です。異なる意見や文化を排除するのではなく、互いに尊重し合い、対話を通じてより良い関係を築く――その精神は、ワサティーヤの中庸やティオンフアの調和と深く響き合うものです。「和」は単なる妥協ではなく、違いを認め合ったうえでの共生の知恵であり、未来をつくる創造の力でもあります。

 主催者の皆さまが、現代社会における価値の偏りや不均衡を問題提起されている点を、私は重要な視点として受け止めています。確かに、世界のどこかで偏った力の構造や不寛容が平和を脅かしている現実があります。しかし同時に、私は西洋の思想や価値観を排するのではなく、民主主義、自由、人権といった普遍的価値を、アジアの「中庸」「調和」「共感」と結びつけ、アジアと世界が協力して守り抜く道を模索すべきだと考えます。対立を超えて互いの価値を補い合うことこそ、人類が共有できる真の普遍性であり、それこそが、より持続的で安定した平和の基盤を築く道だと信じています。

 私たち政治家の使命は、理念を語るだけでなく、それを制度や行動に転化することです。立憲民主党は、「誰一人取り残さない社会」「多様性を認め合う共生社会」を掲げています。これは単なる国内政策ではなく、地球規模の協調と人間の尊厳を守る哲学でもあります。分断を乗り越え、互いの違いを受け入れながら、尊厳と信頼を基礎とする政治こそが、21世紀の平和を支える道だと信じています。

 最後に、ワサティーヤとティオンフア――この二つの思想を実践する世界中の人々に、心からの連帯を表します。彼らが示す中庸と調和の行動は、私たちが「和を以て貴しと為す」という日本の精神とともに歩むべき道です。異なる文明が互いを映し合い、共に未来を描くとき、初めて「一つの人類、一つの運命、一つの責任」という理念が現実のものとなるでしょう。

 私は、この世界平和フォーラムの精神を胸に、国際法の尊重と多国間主義の強化を通じて、対話と協調の道を歩み続けてまいります。

 ご清聴ありがとうございました。