立憲民主党の野田佳彦代表は11月30日、「ここからはじまる」全国キャンペーンの一環として高知県を訪れ、若手経営者や医療・介護従事者との座談会、乳児保育園の視察、高知港の津波に対する「三重防護」設備の船上視察、南海トラフ地震・津波防災対策に関する意見交換会に参加しました。
 各イベントには田所裕介高知県第1区総支部長(現高知県議)、長尾和明、楠目慎一郎両高知市議も参加しました。

■若手経営者・医療介護従事者との座談会

8dd6fbbf-eb3b-4e57-a317-51282236e4d3.jpg
参加者の質問に答える野田代表

 座談会には30~40代を中心とする若手の経営者・事業者が参加。参加者の業種はIT業界、福祉事業者、医療従事者、農業、美容業、プロテニススクール経営等、多岐にわたりました。
 座談会の冒頭、野田代表は「聞くというのは政治活動のスタート。聞いておしまいでは意味がない。国政につなぐのか、県政や市政につなぐのかを見極め、予算や制度改正に結びつけて初めて『変える』ことができる。今日は幅広く声を聞かせてほしい」と話しました。

 IT業界の参加者からは、SNS広告や偽サイトによる詐欺被害が若い世代にも広がっている実態が報告され、「SNS事業者に対する詐欺広告の審査義務付けや、被害発生時の事業者責任の明確化」を国に求める声が上がりました。野田代表は、「高齢者だけでなく若い世代も被害に遭う時代だ。啓発と同時に、悪質な広告や事業者には厳しく対応する法整備が必要。政治の世界でも偽情報が氾濫しており、その意味でも重要な課題だ」と応じ、具体的なルールづくりの検討を約束しました。

40263641-97d4-4dd8-b98b-2f9e847f11a1.jpg
参加者と会話する田所総支部長

 訪問介護事業の従事者からは、2024年度介護報酬改定で訪問介護のみ基本報酬が2.4%引き下げられたことへの強い危機感が示されました。野田代表は、「訪問介護だけを狙い撃ちするような引き下げは公正ではない。厚労省にとっても、ここ最近では高額療養費見直しと並ぶ大きなミスジャッジだと受け止めている。われわれが提出した緊急支援の議員立法は、必要財源が数百億円規模。決して不可能な額ではない。実現させたい」と力を込めました。

 また、個人事業主の参加者からは「国民年金より生活保護の方が手厚く見える」という素朴な疑問と不安が投げかけられました。野田代表は、「生活保護が常に年金より多いというのは必ずしも事実ではないが、両者の逆転が起きれば制度への信頼は失われる。放置すれば2050年代に国民年金の給付水準が3割減る見通しだったが、その『3割減』に歯止めをかける改革は通常国会で実現した。これを土台に、持続可能で信頼できる年金制度をさらに作り込んでいく」と説明しました。

■子育て・保育現場の視察

20251129_140439.JPG
園長と議論する野田代表と楠目高知市議

 次に野田代表は、高知市内の乳児保育園を訪問し、園長や主任保育士らと意見交換を行いました。ここでは、保育士不足と制度の矛盾が日々の保育・経営を直撃している実態が詳細に語られました。

 園側からは、保育士不足の深刻さとともに、東京への人材流出や人材紹介ビジネスの過熱が指摘されました。「全国的に保育士不足だが、東京都の待遇が良く、人材がどんどん吸い上げられている。高知でも保育士1人の紹介料が80~90万円。年度途中に雇っても同じ額がかかる。採用したくても紹介料が経営の重い負担になっている」との声に野田代表は、「深刻な問題だ。国政につないでいく」と応じました。

また、民主党政権時代に構想された「こども園」への高い評価も示されました。「民主党時代の『こども園』は、幼稚園と保育所を一本化する分かりやすい制度設計だった。今は幼稚園・認定こども園・保育所と制度が複雑になり、かえって保護者にも現場にも分かりにくくなっている。乳児保育所は認定こども園へ移行もできず、このまま0歳児が減れば経営的に行き詰まる」との声に野田代表は、制度整理の必要性を共有しました。

 園長からは最後に、「自民党には保育政策の専門議員がいて、制度の細部まで理解している。将来、立憲民主党が政権を担う時に備え、保育に精通した議員をぜひ育ててほしい」と、党への具体的な要望も出されました。これに対し野田代表は、「確かに、わが党には保育を専門にする議員が少ない。すでに実績のある議員もいるので、党内で改めて担当を明確にし、若手にも専門性を身につけてもらえるよう働きかけたい。現場の皆さんとも継続的に意見交換を続けたい」と応じ、党として保育政策の専門性を高めていく考えを示しました。

■高知港三重防護設備の船上視察

20251129_150747.JPG
船内で防災施設の説明を受ける野田代表と田所総支部長

 続いて野田代表は、船上から高知港の地震・津波対策を視察しました。
 高知湾は「入口が狭く、奥が深い」地形で、湾奥には海抜0メートル地帯が広がっています。昭和南海地震の際には、地盤が約1.2メートル沈降し、満潮時には長期間浸水が続いた歴史があります。

20251129_152348.JPG
建設中の防災施設

 高知港では、L1津波とL2津波という頻度の異なる2種類の津波を想定しています。
 L1津波は概ね100年に1度の頻度で発生することが予想される津波です。L1津波に対しては、「津波の侵入を防ぐ」防災の考え方を採用しています。
 一方、L2津波は千年に1度程度で起こるとされる最大クラスの津波を指します。このような津波には「避難時間を稼ぐ」減災の考え方が採用されます。

 以上のような津波に対し、高知港では地形条件を生かして第1~3ラインからなる「三重防護」で津波に備えています。第1ラインは沖合、第2ラインは湾口、第3ラインは湾内に設置され、それぞれ津波エネルギーの減衰や津波の侵入防止、浸水防止等の役割を果たすことが期待されます。
 対策事業全体の完成目標は2031年度で、総事業費は物価高騰を踏まえつつ約640億円を見込んでいます。

 野田代表は、説明に耳を傾けながら、海から見える防潮堤や避難施設の状況を入念に確認しました。

■南海トラフ地震・津波防災対策に関する意見交換会

20251129_164008.JPG
参加者と意見交換する野田代表

 船上視察の後、野田代表は高知市種崎地区の貴船ノ森津波避難センターを訪れ、自主防災組織や町内会の代表らと意見交換を行いました。
 冒頭、野田代表は改めて、「先ほど海側から三重防護を見てきたが、実際にここで避難生活を送る方々の声を聞き、国・県・市にどうつなぐかを考えたい」とあいさつしました。

 種崎地区は浦戸湾口部に位置し、三方を海に囲まれた半島部です。
 1707年の宝永地震では「一草一木残らず」と記録されるほどの甚大な津波被害を受けた地域でもあります。

 現在、地域では「ハード面の老朽化」という課題が突きつけられています。避難施設は、日ごろから地域コミュニティの拠点であると同時に、津波・洪水時の避難場所としても重要な役割を担っています。
 意見交換会では、津波・洪水対応の防災拠点としての機能強化や地域コミュニティ活動・消防団活動の拠点化、クルーズ船寄港増加を踏まえた行政の「玄関口」としての出先機能等を兼ね備えた形での建て替えを求める声が上がりました。
 田所裕介総支部長は、「市議会にも同志がいるので、これまでの請願・要望を踏まえながら、改めて県議会での議論を後押ししたい」と応じました。

 最も切実な要望の1つは、港の「陸閘(りっこう)」の開閉の問題でした。
 陸閘とは、普段漁業者などが出入りするための開口部であり、そこを閉じなければ津波は防潮堤を簡単に越えてしまいます。参加者からは、「南海トラフ地震が起きたら、揺れの直後に陸閘を閉めに行く時間はない。だから平常時から閉めておこうとしたが、翌朝行くとまた開いている。漁師さんにとっては、車を港内に入れておく生活動線なので、『なぜ閉めるんだ』と揉めることもあった。防災意識の向上に取り組んできたが、ここだけはどうしても開けっ放し状態が続いている」と現状を心配する声が上がりました。
 野田代表は、東日本大震災時の事例を引きつつ、「かつて、消防団の方が陸閘を閉めに行って津波にのまれ、帰ってこられなかったという話を聞いた。人の善意や使命感に頼る仕組みではいけない」と述べ、意見を国政へとつなぐ決意を明らかにしました。

20251129_162159.JPG
参加者の声をメモする野田代表

 避難所運営の課題として、長期避難生活を前提にした設備・備蓄の不足も指摘されました。
 現在、各避難センターでは住民が個人の備蓄品持ち寄って保管しています。
 しかし参加者の1人は、「津波に特化した避難センターなのに、200人規模で長期生活ができるだけのエアーマットやシェルターテントなどの基本設備は整っていない。高知県に何度も要望してきたが、『予算がない』の一点張りだ。何のための避難センターなのか、といつも問い返している」と訴えました。
 これに対し野田代表は、備蓄の役割分担について、「先ほど備蓄庫を拝見したが、水の多くが個人持ち寄りだった。避難所に水がなければ、もはや避難所とは言えない。どこまで個人が、どこから行政が責任を負うのか、きちんと整理しないといけない。エアーマットや簡易テントも含め、行政の責任で最低限のものは必ず備える仕組みを検討したい」と話しました。

 意見交換の最後に野田代表は、「現場で長年取り組んでこられた皆さんならではの視点ばかりで、大変勉強になった。今日お聞きしたことは、国・県・市それぞれの役割を見極めながら、必ずつないでいく。陸閘の問題は私の宿題として国交省に直接伝える」と述べました。
 田所総支部長も、「今日いただいた課題の中には、県が担うべきもの、市と連携すべきもの、そして国に求めていくべきものがある。県議会の場で一つひとつ取り上げ、現段階での具体的な回答をお返しできるよう努めたい」と応じました。