野田佳彦代表は12月22日、広島県呉市を訪れ、深刻な被害が発生しているカキ養殖の現場を視察し、生産者との意見交換を行いました。今回の視察は「ここからはじまる」全国キャンペーンと「農林水産キャラバン」の合同の取り組みで、党水産政策WT座長の徳永エリ参院議員、副座長の梅谷守衆院議員が参加、広島県連からは代表の佐藤公治衆院議員、森本真治参院議員、三上えり参院議員、瀧本実広島県議、的場豊県議、新原芳明呉市長が同行し、意見交換には光宗等呉市議が同席しました。

野田代表に加え党水産政策WTと広島県連所属議員が参加
野田代表に加え党水産政策WTの徳永座長・梅谷副座長と広島県連所属議員が参加

■カキ養殖の現場を視察
 広島県は養殖カキの生産量で全国の約6割、生産額でも5割近くを占めています。視察では養殖業者から、カキの水揚げ時に死んでいた割合である「へい死率」が9割に達しているとの説明があり、通常のへい死率は毎年3~4割程度、5割に達することもあるものの「ここまでの状況は、100年近く漁業を営んできた中で初めての経験だ」と深刻さを訴えました。
 原因については高水温や高塩分、貧酸素などが指摘されているものの明らかではなく、養殖業者は「雨が降らないと栄養のある水が流れてこない」「以前はここまでひどくなかった。ダムができてから状況が変わった」と降雨量の減少とダムの影響も指摘、上流のダムには中層にしかポンプがなく、栄養が豊富な底層水が海に流れてこない構造になっているとして「中層ではなく、栄養のある底層の水を流していただきたい」と要望してきたが、改善は難しいとの回答だったと明かしました。
 また、今回の被害はカキに集中、他の二枚貝には影響が出ておらず、養殖業者は「瀬戸内海の環境は確実に変わってきている」「この5~6年で海にいる生物が変わってきた」と環境変化に懸念を示しました。

水揚げ時に9割が死んでおりカキの出荷ができない状況
水揚げ時に9割が死んでおりカキの出荷ができない状況

■カキ養殖業関係団体との意見交換
 視察後の養殖関係団体との意見交換では、呉産カキ振興協議会の役員は「9月中旬から10月上旬にかけて急にカキが死に始めた。その時は本当に生産者は途方に暮れている状態だった」「とにかく売り上げが上がらないからお金がない。やめないといけないんじゃないかというところからのスタートだった」と当時の状況を振り返りました。その上で「この2年間をどうにか耐え忍んで、3年後の復活に向けて、自分たちがやるべきことはやっていく」と気持ちを語りました。
 政府が取りまとめた支援パッケージについては、(1)カキ養殖業者等の経営継続支援(短期対策)、(2)徹底した原因の究明(中長期対策)、(3)海洋環境の変化等に対応した持続的なカキ養殖の実現に向けた対策(中長期対策)の3点から構成されていますが、養殖業者からは「借りられることはありがたいけど、返すお金がない」「来年もカキが死んでいる状態で収入がない。次の夏に同じことが起きたらどうしようと思ったら、借ります、借ります、で返せませんになる」と不安の声が相次ぎました。
 共済に加入している場合でも、補填額はいかだ1台あたり約30万円にとどまる現状に養殖業者は「3年後に育てるようにするにはいかだを作るのに大体1台150万ぐらいかかる。でも、20、30万しかもらえません。残りはどうしますかって言ったら、借りないとできません。返せません」と切実な状況を訴えました。広島県議会は、いかだ1台あたり50万円を補助する補正予算を可決、呉市は25万円の補助を決定するなど、独自の支援策を進めているとの説明が県議や新原市長からありました。
 また、カキ養殖業は外国人技能実習生に支えられている面が強く、1社あたり5~10人程度を雇用している事業者もあります。技能実習生は3年間の雇用契約を結んでおり、仕事がなくても給料を支払い続けなければならず、養殖業者は休業した場合の休業手当に対する支援などを求めました。
 加えて、養殖業者からは「今残ってるカキが痩せてて、で、実入りも悪い。春になれば良くなるであろうが、それが産卵までいってもらわないと、夏場の採苗ができない。産卵はもう親がいないので、今のカキが弱いまま産卵期に行ったら、産まない。種が取れなかったら、多分みんなもうやめるしかない。残っているのだけでも育ってくれればっていうのがある。海の栄養ということで下水関係もある」との指摘とともに下水処理の規制の緩和を早急に求める意見が出ました。

 意見交換会後、記者団の取材に応じた野田代表は「報道ベースでは、広島のカキ養殖が極めて深刻な状況であるということは一定程度知ったつもりだったが、現場を見て、関係する皆さんの声を聞いて、改めて危機を実感することができた」と述べました。
 政府の支援パッケージについては「今まで出してきたものを整理した感じで、新規は2つしかなかった」と指摘。「当面の問題だけではなくて、2年後、3年後、しっかりと仕事をし続けることができるかどうかが大事だ。原因を究明した上で抜本的な対策を講じるにはどうしたらいいかなど、まだ本質的な問題が残っている。引き続き意見交換をしたり、データを集めたり、調査をしなければいけない」と述べました。
 来年度予算への対応について問われると「政策パッケージの推移を見ていきたいが、必要に応じて来年度予算編成の中でもっとここが足りないと言わなければいけない場面が出てくるかもしれない。水産政策WTとよく相談しながら対応していきたい」と答えました。また「この10年で海が変わったという声はよく聞く。温暖化の影響もあり、中長期の対策のための予算編成が必要かもしれない」と述べ、広島に限らず全国的な水産業の課題として取り組む姿勢を強調しました。

カキ養殖関係団体との意見交換では切実な声が相次いだ
カキ養殖関係団体との意見交換では切実な声が相次いだ

 また、記者団から、高市政権の安全保障担当の政府高官が核保有に言及したことについて問われると、野田代表は「核に対する問題意識が根底からずれてきているのではないかと心配している」と懸念を示しました。戦後80年の節目を迎え、昨年は被団協がノーベル平和賞を受賞したことに触れ、「核の問題を風化させてはいけないと同時に、核廃絶で日本は先頭に立たなければいけない国だ」と強調。「非核三原則を堅持すると明確に言わないで議論をしようとしていること自体問題がある。そばに核保有を語る人物を置いていること自体に問題がある。任命権者の責任だ。早く対応してほしい」と述べ、政府高官の更迭を改めて求めました。