参院本会議で7月17日、立憲民主・無所属の会派から泉房穂議員が登壇し、再審法(刑事訴訟法の一部を改正する法律案)について反対の立場で討論に立ちました。本法案は、賛成多数で可決・成立しました。
予定原稿は以下の通りです。
刑事訴訟法の一部を改正する法律案(再審法)に対する討論
立憲民主・無所属 泉房穂
立憲民主・無所属の泉房穂です。会派を代表し、ただいま議題となりました「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」について、反対の立場から討論いたします。
一、総論
なぜ反対なのか。それは政府案が、①えん罪の被害者らを「確実に救済」できる内容になっていないからです。また、②「迅速に救済」できる内容にもなっていないからです。さらには、この内容では③「立法府の責任」を果たしたとはいえないからです。
二、確実な救済
1、まずは、①「確実な救済」についてです。
今回の改正案の立法趣旨は「えん罪の被害者らの確実な救済」とされていますが、そのえん罪の被害者らが「今の政府案では、えん罪の被害者が救われることにはならない」との声をあげています。
袴田事件の巌さんの姉の袴田ひで子さんは、衆議院の法務委員会に参考人として出席した際にこう言われました。「今の政府案では、巌も助からず、処刑されていた」と。驚くべき話です。えん罪の被害者らを救うべきはずの法案が、被害者らを救えるものになっていないという話です。
福井事件の前川彰司さんも、「再審法は、ただ改まればいいのではない。今まさに苦しんでいる人が救われて、なんぼです」と訴えておられます。
日野町事件の阪原弘次さんも、「満足のいかない状態で法案を法制化すると、今えん罪を戦っている方々に利益のある結果にならない」と言われています。
さらには、東住吉事件の青木恵子さんにおいては、「政府案では、獄中で無実を訴えて闘う仲間は、今以上に苦しむことになる」とまで言っておられます。
えん罪の被害者らのこれらの声に、私たち国会議員がいかに向き合うのか、そのことが今、問われているように思います。
2、実は、えん罪事件の多くには、「証拠の捏造」が関わっています。
最近の再審無罪事件も同様です。袴田事件も福井事件も日野町事件も、3つとも「証拠の捏造」がえん罪の原因です。
えん罪とは、たまたま発生するものではありません。捜査機関が真犯人ではない者を犯人だと思い込み、あえて証拠を捏造するなどして、その捏造証拠を裁判所に提出したがゆえに、有罪判決が確定してしまっているのです。
これらの事件が救済に向かったのは、再審請求審における「幅広い証拠の開示」によって、「無罪につながる証拠」が出てきたからです。裁判所に提出されることなく捜査機関の手元に残されていた「無罪につながる証拠」が開示され、当初の有罪立証の証拠とされたものが実は捏造であったことが判明した結果、救済に至っているのです。
「無罪につながる証拠」が出てくるか否かが、まさに生命線。これら証拠が出てこないことには、救われるべきえん罪の被害者も救われません。この「幅広い証拠開示」こそが、最大のポイントです。
3、この点、政府案でも「証拠提出命令」という制度を新設し、検察官に提出義務を課しています。
しかしながら、あくまでも「再審請求理由と関連する証拠」という極めて限定的な範囲であって、「幅広い証拠開示」ではありません。
これで、はたして「無罪につながる証拠」が確実に出てくるといえるのでしょうか。今回の改正で「裁判所による命令」の範囲が制約されてしまうと、かえって出てこないことにもなりかねません。えん罪の被害者らが、政府案を改悪と言っているのは、まさに特にこの点なのです。
4、さらに政府案には大きな問題があります。「証拠の目的外使用の全面禁止」の規定の新設です。
再審請求審においては、これまではそのような規定はなく、特にトラブルも生じていないのに、あえて全面禁止にする理由はありません。犯罪被害者らのプライバシーへの配慮などは当然に必要ですが、個別に対応すれば足りる話です。
政府案の全面禁止は、えん罪の被害者らにとっては改悪以外のなにものでもありません。
三、迅速な救済
1、次に「迅速な救済」についてです。
再審無罪となった事件も、すぐに救済されたわけではありません。救済までにかかった期間は、袴田事件で58年、福井事件で38年、日野町事件で41年。
どうしてこんなにも長い年数がかかってしまったのか。その理由は大きく2つ。1つは「捜査機関による証拠隠し」。もう1つは「検察官の抗告による引き延ばし」です。
2、「捜査機関による証拠隠し」についてですが、袴田事件も福井事件も日野町事件も、「無罪につながる証拠」は、初めから捜査機関の手元にあった証拠でした。
ところが、これら証拠が開示されるまでにかかった期間は、袴田事件で44年、福井事件で36年、日野町事件で24年。もっと早く開示されていたら、もっと早く救済されていたに違いありません。
「迅速な救済」には、「幅広い証拠開示」が早くなされることが重要です。ところが政府案では、「幅広い証拠開示」が義務化されておらず、「迅速な救済」とはなりません。
3、「検察官の抗告による引き延ばし」も、「迅速な救済」を妨げる大きな要因です。
抗告によって引き延ばされた期間は、袴田事件で9年、福井事件で14年、日野町事件で7年。まさに引き延ばしです。ドイツやフランスなどでは、抗告を全面禁止しています。
日本でも、抗告を全面禁止し、検察官は再審公判で争えばいいだけのことです。
この点、閣議決定前に修正がなされ、抗告には「十分な根拠」が必要とされましたが、検察は、これまでも「十分な根拠」をもって抗告してきたと説明してきており、現状の追認に過ぎません。
検察官抗告を全面禁止にしていないことも、政府案に反対する大きな理由のひとつです。
四、立法府の責任
国会は立法府であり、法律をつくるという役割があります。国会議員はその立法府の一員として議員立法や政府案への修正案を作成したり、提出したりして、それらを制定することも可能です。
えん罪の被害者救済というテーマについても、超党派の議員連盟が設立され、政府案に先立って議員立法が作成されました。まさに超党派で、自民党や日本維新の会からの参加も多く、自民党の議員が中心となって、議員立法の作成がなされたと理解しています。
そして、その議員立法は、昨年6月に6つの政党により共同提出されています。その6党とは、国民民主党、参政党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、立憲民主党の6党です。
その議員立法は、衆議院の解散で、いったん廃案となりましたが、今国会であらためて提出され、衆議院において、政府案と共に審議されましたが、否決となっています。
参議院においては、その議員立法を踏襲した内容の修正案を昨日、法務委員会に提出しましたが、可決には至りませんでした。
超党派の議員連盟が作成した議員立法の内容とほぼ同じ内容であり、政府案よりも、えん罪の被害者らを「より確実に救済」でき、「より迅速に救済」できる修正なのにと思うと、残念でなりません。
えん罪の被害者らが、これでは救済にはならないとの声をあげており、納得もしていない政府案に漫然と賛成することはできません。
えん罪の被害者らへの「立法府の責任」という点からも、政府案には反対です。
五、さいごに
最後に、袴田ひで子さんの言葉を紹介させていただきます。「神様がつくった法律ではございません。人間がつくった法律なんです。その法律をつくるのは国会議員の皆さんです。
国会議員の一人として、その言葉を噛みしめ、えん罪の被害者らの救済のために、引き続きしっかりと取り組み続けることを誓い、この討論を終わります。

