堤かなめ衆院議員が福岡県内の認可保育園「筑紫保育園」を訪ね、保育の実態、政府の保育士の配置基準が抱える矛盾、子どもの育ちをしっかり支えるためにどうすべきか――現場の声を聴きました。
子どものために、何より保育士の配置基準を手厚く
堤議員 今、国会では保育園のことがとても注目されています。理由は日本の少子化が急速に進み、本当に深刻な状況になっているからです。50年前には年間200万人くらい生まれていたのが、今は80万人を切っています。これが社会に与える影響が非常に大きいということで、「国難」「静かなる有事」と言われています。
これを打開する意味でも保育サービスを充実させ、保護者の皆さんが安心して子どもを預けられる。安心して子どもを産める環境を作ることはとても大事です。
子どもたちの伸びやかな成長を支えることが、保育園の大きな役割として重要だといろいろな研究で分かってきました。保育士さんやお友達との、いろいろな関わりの中から、子どもたちが成長していく機能を保育園が果たしていると指摘されるようになっています。
保育については財源がないと先送りしてきたのに、防衛費はすぐに確保しました。このような状況もあって、現場の声をもっと国会に届けなければいけないと今日はこの場に来ております。
理事長 保育士さんたちは本当によく頑張っています。保育士の数を増やすよう、市や県にもいろいろな形で要望してきましたが実現せず、われわれとしては無力感があります。今日はぜひ、私たちの生の声を聴いてもらいたいと思います。そして、保育園で朝1時間でも現場を見ていただき、子どもたちがどんな風にしているか、保育士さんたちがどれだけ頑張っているかを見てもらいたい。
配置基準の問題は国会で法律を変えないとできないので、国会にかかっています。保護者が安心して子どもを預けて働くことができる、心にゆとりをもって子どもを預かることができる、お金のばらまきではなく、これを実現することこそが、岸田総理のいう「異次元の少子化対策」ではないでしょうか。
堤議員 昨年4月から12月の間の不適切保育が914件と報道にもあります。福岡で起きたバス置き去り事件をきっかけに、その後、国会での質疑もあり、置き去り防止ブザーの義務化といった話もありましたが、根本はやはり保育士さんたちが忙し過ぎるという点です。
政府は、保育士の配置基準を変えるのではなく、保育士を配置基準よりも増員した施設に来年度から運営費を加算すると言っています。
事務長 ある程度保育士を雇えれば、3歳児の15対1配置加算付けできます。でも今、保育士の資格を取っても、保育士の仕事に就かない現状もあり、保育士確保にはとても苦労しています。そもそも保育士を雇えない、配置加算が付けられない園もあります。
事務長 ベースにある配置基準そのものを変えないと、加算での対応ではなかなか現場は変わりません。
堤議員 政府は、基準を変えると対応できない保育所が出てくるからという言い訳をします。基準を変えて、例えば、3年や5年の猶予期間を設けるやり方もあると思います。
配置基準6対1の過酷な実態
園長 いかに子どもたちが笑顔で毎日を過ごすことができているかが重要だと思います。
ゼロ歳児は3対1(3人の子どもに1人の保育士)。ところが1歳になった途端に、6対1に変わります。倍の子どもたちを1人の保育士が見なければいけなくなります。
子どもたちは毎日お散歩をしますが、6人連れてお散歩に行かれるのかというと、とても保育士の手は足りていません。そもそも1歳1カ月の子と、もうすぐ2歳の子を同じ保育はできないです。大人が決めた基準に子どもは合わせられています。
子どもは泣くことで自分の気持ちを表現します。泣いたらすぐに「どしたとねー」と声をかけ受け止めてもらえる関係性があってこそ「自分は認められている」「ここにいていいんだ」という気持ちが育っていきます。やがて大きくなった時に、何か苦しいことがあっても「自分は愛されて育った。だから頑張れる」と思い、悲しい事件を防ぐことにつながると思います。
0~2歳児の時の手厚い環境を作っていくことこそが、子どもの将来、日本の将来を作っていくと思います。ぜひ、そこは子どもの気持ちに応えられるだけの配置基準に直していただきたいです。
堤議員 子どもが泣いた時に放置せずに、すぐに応えてあげる応答性が大事です。配置基準を手厚くすべき理由がよくわかります。
園長 放置された子は、やがて諦めて泣かなくなるか、火がでるかのように激しく泣くかです。
園長 4-5歳児では30対1です。小学校でも30人学級と言われているのに、まだ生まれて4、5年しかたってない子が30人。
理事長 その基準が決められたのは、私が生まれた頃です。
園長 幼児期は個別の関わりが必要な時期です。保育士がいくら目配りしていても、30対1ではどうしても子どもの声を聞くことができないです。1人の子がトイレに行ったら、他の子たちには目が届かなくなります。
堤議員 安全を守るということだけでも大変ですよね。
事務長 保育士がトイレに行く時には、事務所に声をかけて誰かに交代してもらいます。
園長 昼食も誰かに見ていてもらわないと食べられません。子どもが待っていると思えば、急いで食べることになります。こうした日常の繰り返しでは、魅力的な職場と言えるのかなと疑問になります。
堤議員 30人のうちの1人がおもらししたりすれば、他の29人には目が行き届かなくなります。保育士もトイレに行かれない。お昼も食べられない。
園長 この基準はおかしいです。
事務長 言葉もあまり出ない、歩行も安定していない1歳児6人を1人の保育士で見るのです。
堤議員 ワンオペ育児という言葉がありますが。
理事長 6つ子を親1人で育てているようなものです。
事務長 6対1がどういうことか体験してみてほしいです。年度当初は大変だろうから加配をつけますが、数カ月たったら6対1でやってねと保育士に言います。言わざるを得ないからで、環境を少しでも整えられないか、工夫ができないか、保育補助の先生をこの時間だけはつけようかとか、毎日そういうやりくりをしないといけません。話し合いをしていると、皆泣きますよ。
園長 子どもたちが泣いていればそばにいてあげたい。ご飯を食べていれば、きちんと食べられるように補助してあげたい。語りかけてあげたい。でも、できないのです。
毎日葛藤する現場
事務長 この園も「子どもの主体性、一人ひとりを大切にする」という理念に掲げていますが、この保育士の配置基準ではできません。私たちの言っていることはすべてきれいごとになってしまいます。でも、なんとか実現したい、その理念だけは崩したくないから、あの手この手と工夫をする。毎日がその葛藤です。
事務長 6対1しか付けられない私たちは、現場の先生方から見れば鬼みたいなものです。
堤議員 経営者は鬼にならざるをえない。もっとひどい所ではブラックにならざるを得ない。これを強いているのは政治ということですね。
事務長 私たちにできることは、こうやって議員の方に制度を変えることを訴えるしかできないです。
複雑な政府の処遇改善は現場には負担
事務長 保育士、事務員、調理師も処遇改善されて給料が上がったことは良かったのですが、去年、処遇改善等加算Ⅲと言われる臨時特例金が出ました。それを職員に説明するのですが、全然ピンとこない。「臨時」とついているので、手当として支給しました。職員は中身がよく分からないので、なんだろうという感じでした。
市町村から何の説明もなかったので、9月に終了後はどうなるのかと聞いたら、10月以降は委託費の中に盛り込まれるとのことでした。
出していただけるのはありがたいのですが、制度が複雑すぎます。処遇改善等加算ⅠとⅡとⅢそれぞれ性質が違う。例えばⅡはキャリアアップ研修の受講という要件があります。「この保育士は5部門」「この保育士は3部門」を受講しないといけない等の要件が、少し緩和はされましたが、あります。今、このような現場の中で、キャリアアップ研修に平日に2、3日も出さないといけない。それはものすごい現場の負担です。研修だけならいいですが、もちろん平日の公休もあるし、土曜日にも公休を入れないといけない。公休が入ったところには必ず誰かが補助に入らないといけない。それは毎日やりくりしています。
保育園は学校と違って、朝の7時から夜の7時まで12時間を回します。1人の保育士の8時間労働では足りず、朝7時から9時までの時間、夜の6時から7時までの時間も誰かが見ないといけません。この12時間を回していくというのが本当に大変です。
事務長 キャリアアップ研修は1年に2、3人にし、今年からは講師の先生に園に来ていただくという方式をとりました。
事務長 基本給のベースを上げてほしいということと、配置基準を変えて保育士の人数を増やしてほしいです。
今年の4月に処遇改善等加算Ⅱ、Ⅲもついて給料があがっているとびっくりした職員が「こんなにもらっていいんですか」と聞かれたことがあります。でも、「私はこんなにいらないから、人を増やしてほしい」と言われました。これが現場の声です。
処遇改善等加算Ⅲのばらまき型ではなく、配置基準を手厚くすることで、結果的に子どもたちの笑顔につながるし、保育士も笑顔で仕事ができる。魅力ある仕事であれば、保育士になる人が増えていくと思います。
国が、取ってつけたように処遇改善等加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲとか増やすと、それぞれに対して申請、実績報告などいろいろな事務作業が発生します。どこの事業者も対応が大変で苦慮しています。保育士の先生は手厚く、事務職の先生にはあまり人件費は充てられない中で、これだけの事務作業を強いられるのも大変です。行政も精査するのに相当時間がとられていると思うので、事務作業をスリム化してほしいです。
堤議員 選挙の前になると処遇改善がされて、これだけやったからありがたいだろうみたいな感じですよね。
事務長 現場は全然ありがた味はないですよ。複雑すぎて全然意味が分からない。
子どもに愛情をかけてあげられるような配置基準に
園長 最近の保護者は共働きが普通で、共働きをしないと生活が大変という家庭が増えてきています。だから保育園の役割が大きくなってきているし、私たちの責任も大きいと思っています。保護者の中には、なかなか働くことが難しい、例えば家に障がいを持っている人がいる、一人ひとりの家庭の事情があるのを感じます。
事務長 ここ最近、保育時間が長くなっています。
園長 保育園は朝7時から夜7時まで開いています。保育時間が10時間以上というのはざらですね。
堤議員 スウェーデンでは保育園を「昼間の家」と呼んでいました。ソファがあって、おうちみたいな所で、20人くらいの小規模でした。
園長 お家だったら、「お母さん」と呼んだらすぐに応えられるような2、3人に1人の保育士がいいです。家の中で3人きょうだいを育てていると思えます。
理事長 親が迎えにくると、さっと駆け寄る。子どもは親に会いたい気持ちを我慢しているのですね。
園長 延長保育の時がそうですね。お迎えが来ると「誰のお母さん?」「次は誰のお母さんだろう?」と様子をうかがっています。1人残っている子を見ると、保育園でたくさん愛情をかけてあげたいなと思います。
事務長 本当に親の代わりなんですよ。お父さんとお母さんが働きにでているからお預かりするという事業です。そうであるなら同じように愛情をかけてあげたいです。かけてあげられるように配置基準を変えてほしいです。
事務長 今日、この場で現場の声を訴えたことを職員に話したり、保護者の方々にも共有したり、私たち一人ひとりが変えるために少しでも動かないと、現場は変わらないと思います。今日の座談会が、解決に向けて、次につながって広がっていけばいいなと思います。
堤議員 なんとかしたいという思いはあるのですが、微力で本当に申し訳なく思います。
小学校からの教育について文科省は、「主体的・対話的で深い学び」を進めようとしています。しかし、今の保育園の配置基準では、保育士が担当する子どもの数が多すぎて、「お散歩に行きますよ!」「ごはんの時間ですよ!」と指示・命令口調になってしまいがちです。つまり、1、2歳から、上からの指示や命令に従順な子ども、受動的な子どもにするような保育にならざるを得ないという現実があります。「保育の量」がある程度達成され、これからは「保育の質」が問われてきます。「未知の社会を生き抜く力を育む教育」の土台となる保育においても、文科省が目指す教育と矛盾しないようにすべきです。
なぜ、教育予算が先進国で最低レベルなのか。予算を大きくつけて、保育士さんたちが理想の保育ができるように、変えたいです。一緒にがんばりましょう。