離婚後共同親権を導入する民法改正案の審議が国会で行われています。この法案をめぐっては、「子の監護や財産管理などを離婚後も行いたい」「親子交流を何とか実現したい」と期待する賛成派と、「離婚後も共同親権を口実に別居親と関わり続けることになるのでは」と恐怖心を持つDV被害者等といった反対派とで、意見や価値観が大きく分かれることから、立憲民主党は非常に重たい法案と考え、慎重な議論を進めてきました。
◆法制審の議論と生煮え、玉虫色の政府原案
法務大臣の諮問機関である法制審議会家族法制部会は、離婚後の共同親権導入などを巡り3年近く議論し、意見対立した末、民法改正要綱案を賛成多数で了承しましたが、参加委員21人のうち3人が反対。また慎重派委員の訴えにより追加した附帯決議は、不十分な内容だとして2人が反対しました。家族法制部会長は「全会一致が望ましかったが、今回は異論が残り採決になったほか、附帯決議も付けた」との所感を述べる異例の事態でした。
このような経緯の中、政府から提出された民法改正原案は、家族法制部会での審議内容や附帯決議が十分には反映されず、さらに関係府省庁間の事前協議や検討が不十分なまま、生煮え、玉虫色の改正案でした。
◆委員会答弁で明確にしたこと
この生煮え、玉虫色の原案に対して、わが会派は委員会質疑で問題点や懸念を浮き彫りにし、政府答弁で明確にすることによって、立法者の意思を明らかにしていきました。
●原案の重要部分である離婚後の親権については
・共同親権、単独親権どちらも原則ではないこと
・日本が批准したハーグ条約は、日本に共同親権の導入を求めるものではないこと
・「偽装DV」「不当な子の連れ去り」「略取誘拐」と一方の親をののしり犯罪者扱いすることは人格尊重義務を損ねること
・親権者を単独にするか共同にするのかと親子交流とは別物であること
・父母双方の合意がない場合、裁判所が共同親権と認め得る場合が極めて限定的であること
――等が答弁で明確になりました。
●政府原案であいまいであった「急迫の事情」の例として
・入学手続き
・DV避難
・緊急の医療行為
・モラルハラスメント
・中絶手術
――等が挙げられる。
●政府原案であいまいであった「監護及び教育に関する日常の行為」の例として
・子の心身に重大な影響を与えないような治療
・ワクチンの接種
・習い事の選択
・アルバイトの許可
――等を挙げた答弁が出ました。
海外では、共同親権を推進し、親子交流の実施などの法改正を行った例もありますが、それによって別居親が子を殺害するなど、子と同居親の生命身体に深刻な事態を生じさせることが多発するなど、葛藤的な共同養育(コペアレンティング)は子と同居親に悪影響を与えました。
離婚が子どもや当事者に及ぼす長期的影響に関する研究の権威であるアメリカの心理学者ジュディス・ウォーラースタイン博士によると、裁判所の命令のもとで、厳密なスケジュールに従って均等的・強制的に行われる親子交流は、子の成長に有益どころか有害であること、子どもの心身に取り返しのつかないような事態を生じさせるということでした。
近年、多くの国々は共同親権(ペアレンタル・オーソリティ)から共同監護(ペアレンタル・カスタディ)、共同養育、そして親責任(ペアレンタル・レスポンシビリティ)へと改正しています。日本だけ1周遅れで共同親権を導入しようとしていることを明確化しました。
◆残された問題・懸念
衆院法務委員会審議を経ても、まだ問題や懸念は残っていました。
・裁判所が親権の指定または変更について判断するにあたって、子の意見表明権の規定がないこと、
・共同親権下でも親権の単独行使ができるとする「急迫の事情」はどれくらい差し迫った時間的範囲を指すのか、
・「監護及び教育に関する日常の行為」とは何が当てはまるのか
――等は依然として曖昧です。
・監護者の定めを義務付けないデメリット、子への支援が減少し不利益となるおそれがあること、
・協議離婚により共同親権を選択する合意型共同親権であっても、DV・虐待・父母の葛藤が激しいケースが紛れ込む危険性、
・裁判離婚で裁判所がDV被害を認定せず、父母双方を親権者と定める非合意型強制共同親権が、子や父母一方を危険にさらすリスクが高まる可能性、
・離婚前後と協議中の相談支援体制の整備が不十分なまま、法施行のみが先行してしまうことの危惧
・共同親権を巡る新たに発しえする裁判や調停に対して、家庭裁判所の裁判官及び調査官などの人員・施設体制は今でさえ十分と言えないこと、
・現行の親子交流では、家庭裁判所の決定により、別居親と親子交流を嫌がる子どもを無理に親子交流させているケースがあること、
・養育費や同居親の親権のために、我慢して傷つく子どもが現れないよう、適切な親子交流の実施について検討する必要があること、
・養育費の公的立替払い制度が実現できなかったこと
――等の課題があります。
◆立憲民主党の11の修正項目 そこでわが会派は、さまざまな問題点や不安、懸念を払拭すべく、11項目に及ぶ修正案を与野党に提案し交渉を重ねました。
【立憲民主党の11項目の修正案】
①離婚後の父母双方が親権者となる場合における監護者の定めの義務付け
②父母の双方の合意がない場合には共同親権を認めないこと
③親権者変更の厳格化(従前の監護実績の重視)
④意見聴取等により把握した父母及び子のそれぞれの意思の考慮の明記
⑤共同親権が原則でないことの明確化
⑥共同親権行使の例外(単独親権行使が可能な場合)の拡大
⑦施行期日の延長
⑧家庭裁判所の人的体制の整備等
⑨親権者の定め等の規定の趣旨及び内容の周知
⑩加害者の更生のための措置
⑪協議による親権者の定めの真意性の確認措置等についての検討
◆合意した修正案
協議し合意した修正案は、立憲民主党の案を全て反映したものとは言えませんが、最低限盛り込まれたものであり、政府原案のまま運用されることによって生じる被害を少しでも軽減できるものです。
①子の監護について必要な事項を定めることの重要性について父母が理解と関心を深めることができるよう、必要な啓発活動を行う。
②親権者の定め方、「急迫の事情」の意義、「監護及び教育に関する日常の行為」の意義等について、国民に周知を図る。
③親権者の定めが父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置について検討を加える。
④父母の離婚後の子の養育に係る制度及び支援施策の在り方等について検討を加える。
⑤施行5年後見直
合意した修正案のうち特に協議離婚における共同親権同意の真意の確認措置を明記できたことは大きな成果と考えます。
◆賛成した附帯決議
立憲民主党も提出者となった附帯決議は、政府及び最高裁判所にさまざまな事柄について格段の配慮を求めています。
✅必要に応じて法改正を含むさらなる制度の見直しの検討
✅「急迫の事情」「日常の行為」「子の監護の分掌」等についてガイドライン等で明らかにすること
✅子の意見の適切な反映
✅子の監護の安全や安心への配慮
✅養育費の受給等適切な実施や公的立替払い制度の検討
✅家庭裁判所の人的・物的体制整備
✅DVや児童虐待の防止に向けた加害者プログラムの実施推進
✅居住地等がDV加害者に明らかになること等によるDV被害・虐待・誹謗中傷・濫訴等の被害発生回避措置の検討
✅子に不利益が生じないよう税制、社会保障、社会福祉制度等において関係府省庁が連携して対応すること
――等がその内容です。
立憲民主党は急迫の事情、日常の行為のガイドライン等を決める場合、関係府省庁のみの閉鎖的な環境で議論策定するのではなく、当事者を含めて外部の意見を取り入れ、公開された中で策定されることを強く求めていきます。
◆立憲民主党の立場
立憲民主党は、修正案について「原案のまま運用させることによって生じる被害を少しでも減らせることができる」とし、衆院法務委員会の採決では「修正案には賛成」「修正部分を除く政府原案に反対」しました。衆院本会議では修正案が盛り込まれた民法等改正案に賛成し、参院に送付されました。
参院でも国会審議を通じて、本法案の曖昧な部分、不安、懸念を少しでも払拭すべく立憲民主党は取り組んでいきます。
◆関係動画・記事等
第213回通常国会の重要法案の解説「共同親権を導入する民法改正案」についてネクスト法務大臣・参院法務委員会筆頭理事 牧山ひろえ議員
共同親権導入の民法改正案の衆院可決を受けて 衆院法務委員会 筆頭理事 道下大樹 衆院議員
共同親権導入の民法改正案の衆院可決を受けて 枝野幸男 衆院議員
共同親権導入の民法改正案の衆院可決を受けて 衆院法務委員会 委員 鎌田さゆり 衆院議員
【衆院法務委】共同親権導入の政府原案に反対、立憲民主党等が修正案を提案、可決