衆院憲法審査会は6月15日、「緊急事態、特に参院の緊急集会・議員任期延長」をテーマに審議しました。立憲民主党の階猛議員が党を代表して見解を表明しました。冒頭、階議員は、衆院の解散や任期満了に伴う総選挙が相当期間実施できないと見られる事態、すなわち「選挙困難事態」においても、「議員任期の復活や延長は必要なく、参議院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだ」との考えを明言しました。以下が階議員の発言の要旨です。

 立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に「選挙困難事態」を認定し、緊急集会が濫用されないような方策を講じるべきです。すなわち、「選挙困難事態」を予防ないし早急に解消するための方策として、選挙人名簿のバックアップシステムの構築、避難先やネットで投票できる仕組みの導入などを行うべきです。

 また、「選挙困難事態」の恣意的な認定を避けるための方策として、当該事態の認定基準、認定を行う主体や手続き、認定された場合にその効果が生じる期間や地域、といった点については、当審査会での議論を進め、必要な法制上の手当てを講じるべきです。

 以上の通り、「選挙困難事態」に備え、権力を縛るという立憲主義的な観点から、あらかじめ対応方法を決めるという点については、わが党の考え方も、おおかたの会派と一致します。東日本大震災に際し、私の地元の岩手県では統一地方選挙について「選挙困難事態」を経験しました。私自身は、なおさらその思いを強く持っています。

 ただし、「選挙困難事態」への対応としては、議員任期の延長ではなく、参議院の緊急集会で行うべきです。今からその理由を述べます。お手元の資料を適宜ご参照ください。なお、立憲の発言欄については、衆参の憲法審査会でのこれまでの議論の経過を踏まえて現時点でのわが党の到達点だとご理解ください。

 第一に、議員任期の延長は、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがあるということです。議院内閣制の下では、解散や任期切れによりその地位を失うはずであった国会議員が議席にとどまることになり、議員の信任を受けて成立している内閣もその地位に居座ることになります。しかしながら、本来であれば選挙によって民意の審判を仰ぐべき国会議員は民主的正統性を欠くことになって、それに依拠する内閣もまた民主的正統性を欠くものと言わざるを得ません。

 この点、参議院の緊急集会で対応しても、国民の代表者から成る衆議院を欠いている以上、民主的正統性を欠くという点では変わりないとの反論もあり得ます。しかしながら、議員任期延長では形式的に二院制が保たれ、国会の権限を確定的に行使できます。それゆえに、その状態が続くことは時の政権として極めて都合のよいことであり、選挙困難事態を口実に時の政権がいつまでも権力をほしいままにする、内閣の独裁化が進むおそれ、すなわち民主的正統性を欠く状態が恒久化するおそれが生じるのです。

 一方、参議院の緊急集会で対応するのであれば、そのおそれはありません。なぜなら、憲法54条3項により、緊急集会で採られた措置は臨時のもので、選挙が実施された直後の国会で10日以内に衆議院の同意がなければ、その効力を失うからです。

 民主的正統性を欠く間は、国会の権限を限定的、暫定的にしか行使できないことにして、時の政権の暴走を防ぐ趣旨だと思われます。同時に、時の政権にとって、国会を正常に機能させるために選挙困難事態を早急に解消しようというインセンティブも働くわけです。

 選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応することは、民主的正統性を欠くがゆえに民主的正統性を早期に取り戻せるやり方だと言えるのではないかと思います。民主的正統性を恒久化するおそれがある議員任期の延長に比べて、はるかに優れていることは明らかです。

 第二に、選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応する場合、場面、期間、権限や案件、暫定性など様々な限定ないし制約があり、国政に支障をきたすとの指摘がありますが、この批判は当たらないということです。

 まず、場面の限定については、憲法の文言を根拠に「任期満了時に緊急集会は開催できない」という説もありますが、当審査会にお招きした両参考人が述べた通り、任期満了時にも緊急集会は開催できるという解釈が今や多数説であり、あえて憲法を改正する必要はありません。

 また、期間の限定については、解散から40日以内に総選挙を実施し、総選挙後30日以内に特別国会を召集すべしという憲法の定め、いわゆる70日ルールに縛られる必要がないとの長谷部参考人の見解に対し、立憲主義に反するなどとして、これを批判する意見が、議員任期延長を主張する会派の委員から、参考人質疑が終わっているのに欠席裁判のように続いています。

 しかしながら、そうした会派に所属する参議院議員の中にも70日ルールに縛られないとする見解を披歴する方がいらっしゃるようです。ぜひ会派の意見を統一して頂きたいと思います。そして、そもそも立憲主義は憲法によって権力を縛り、恣意的な権力行使を防ぐことにその本質があり、ルールを形式的に解釈して恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を運用したり解釈したりすることは、むしろ立憲主義に反すると言わざるを得ません。

玉木委員は、参議院の緊急集会の開催期間を70日以内とすべき根拠として、立憲主義の見地から憲法が定める統治機構のルールは順守されなくてはならないと主張されています。しかしそれを貫くのであれば、永田町の常識とされる「衆議院の解散は総理の専権事項」という考え方こそ、憲法の統治機構のルールに明らかに反しており、問題ではないでしょうか。

 もし同意頂けるのであれば、この問題の解決策についてともに議論していきましょう。なお、緊急集会について権限や案件の限定があること、暫定性があることは、先ほど述べた民主的正統性の早期回復を促すという大きな利点があり、これを緊急集会の欠点とみなすことはできません。ただし、緊急集会の権限につき参議院と合同で協議を行い、足らざる部分がないかを検証し、必要な法制上の手当てを講じることについては、私どもも異存がありません。

 また、本日の主要テーマから外れますが、緊急事態条項の中に緊急政令や緊急財政処分を設けることは、既存の法制度を勘案した場合にその必要性が乏しく、民主主義や自由主義の観点からも問題であることから明確に反対します。

 そして、緊急事態条項の名のもとに、例えば議員任期の延長に関する憲法改正案と緊急政令や緊急財政処分を一括して国民投票に付すことは、主権者の国民投票の機会を不当に制限し、判断を誤らせる危険があるため許されないということも述べておきます。

 最後になりますが、本日のテーマに限らず、国民投票法の改正案は論点を整理できる段階に来ていると思いますので、ぜひ次回はそれを行って頂くよう会長にお願いいたします。

 併せて、デジタル化の進展に伴う新たな人権保障の問題、先ほども申し上げた衆議院解散や臨時国会の召集、予備費を含めた財政民主主義、地方自治や選挙制度、婚姻のあり方など、我が党が提案しているテーマについても次期国会以降、順次当審査会の議題として頂くことを会長にお願い申し上げます。