立憲民主党 外務・安全保障部門/外交・安全保障戦略 PT

 国家の外交・安全保障戦略の要諦はいうまでもなく、我が国の主権および独立を守り、平和で安定した環境で国民が幸福を追求できるよう、紛争の生起を未然に防ぎ、我が国の繁栄の基礎を強化することにある。

 世界的なパワーバランスの変化やロシアのウクライナ侵略のような国際秩序への挑戦も起きており、特に我が国周辺の安全保障環境は急激に変化している。このような現状を踏まえ、立憲民主党は平和主義および国際協調主義に基づく平和創造のための外交を展開し、着実に安全保障環境を改善させるとともに、憲法に基づく専守防衛に徹しつつ、時代の変化に対応した質の高い防衛力の整備を通じて現実的な安全保障政策を推進し、責任をもって国民及び領土・領海・領空を守りぬく。

1. 武力紛争を回避し、平和を創造するための外交努力

 戦争は外交の失敗であり、紛争を回避するための外交努力こそが最重要である。

 平和国家日本に期待されることは、東西を融合する特別な貢献、すなわち、法の支配、基本的人権、民主主義、人間の安全保障、核軍縮・核不拡散などを普遍的な価値として米中を含む国際社会に説くとともに、互いの共通利益を発展させる取組みなど米中の緊張緩和に向けた努力を展開していくことである。力ではなく、「ルールによる秩序形成」において主要な役割を果たしていく。

 我が国の外交・安全保障の基軸は日米同盟にあり、この同盟の信頼性がゆるぎないものであることは、我が国の安全保障にとって大前提である。さらに、韓国は重要な隣国であり、共に米国の同盟国である。東アジアの将来秩序は日韓の協力なしにはありえない。

 中国との向き合い方は現下の最大の外交課題である。中国との間には尖閣諸島をはじめ様々な懸案はあるものの、中国との安定した友好的な関係の構築は安全保障環境の改善に最も大きな影響がある。

 日中双方は互いに 1 位、2 位の貿易相手国であることから、TPP については米国の復帰を求めつつ、中国についても高水準を満たした上での参加など安定した“協商関係”を築く必要がある。首脳会談をはじめ緊密な意思疎通を行い、幅広い共通利益や協力の具体策を探るべきである。また、軍事レベルの信頼醸成の取り組み(安全保障対話)を活性化させ、不測の衝突を回避するためのホットラインを機能させなければならない。

 ASEAN 諸国をはじめ、日中韓を含めた ASEAN+3、米露豪印等も含めたEAS、APEC、さらには Quad(日米豪印)の参加国を増やし、英仏独、ASEAN、時に韓国などを加えた Quad+(プラス)へ進化させていくべきである。それらを通じて中国が「ルールを守る責任ある大国」として役割を果たすよう求めていくべきである。

 また、宇宙、サイバー、AI、データなどの分野でのルール形成において主導的役割を果たしていく。

 ODA、JICA、NGO などを通じて得た世界からの信頼を活かし、「人間の安全保障」を柱にしながら平和構築のための「ファシリテーター(対話の促進者)」を目指すべきである。

 外交力の中核は人材である。長年増員のない外務省の職員や在外公館等で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力体制を抜本強化すべきである。さらに、我が国のインテリジェンス(情報収集・分析能力)の強化のために、縦割りの弊害の排除、体制の抜本的見直しが必要である。

 唯一の戦争被爆国として、核廃絶に向けて核兵器禁止条約へのオブザーバー参加などを通じ働きかけを行っていく。また、タイミングを図りつつ、6 者会合等も活用しながら北東アジアにおける軍備管理・軍縮に関する対話に向けて我が国が主体的に動く必要がある。

 国連安保理が機能していない現状に鑑み、国連改革をリードしていくべきである。特に国連安保理改革については準常任理事国ポストの創設案を含め交渉方針の転換を検討すべきである。

2. 我が国を取り巻く安全保障環境に対する認識

 周辺国の軍事力が急速に強化されてきており、我が国を取り巻く安全保障環境は急速に変化している。

 北朝鮮は、かつてない頻度で弾道ミサイルを発射し、現在の自衛隊や米軍の対処能力を超える新型ミサイルの開発、運用能力の向上を図り、さらに核弾頭の小型化などの核武装の決意を明確にし、新たな脅威の段階に入った。

 中国は継続的に高い水準で国防費を増加させ(20 年で 10 倍以上、現在日本の約 5 倍超)、いわゆる「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」能力を強化し、さらには日米共に保有していない中距離ミサイルを 2000 発近く保有しており、地域におけるパワーバランスが変化している。

 さらに、尖閣諸島周辺における一方的な現状変更の試みは常態化・活発化し、南シナ海における現状変更の試みも継続している。中国の我が国および国際秩序に対する挑戦は深刻な懸念事項である。

 台湾海峡の平和と安全は、我が国にとって最重要である。台湾問題が我が国<に波及し、重要な影響を及ぼす事態を想定しておかなければならない。

 また、ロシアはウクライナに対して侵略戦争を開始し、国際秩序を根幹から揺るがし、憂慮すべき事態である。

 さらに、現在では宇宙、サイバー、電磁波の領域での優越が大きく防衛力を>左右する時代となっており、ドローン等の活用は戦い方を変容させており、車両、航空機、水上・水中機などの無人アセットや軍用ロボットも次々と開発されている。我が国はこれらの新領域、新技術で非常に立ち遅れており、早急に強化する必要がある。

 また軍事と非軍事が組み合わされたハイブリッド戦への対応も迫られている。偽情報などによって人間の心理に影響を与え世論を操作・混乱させる認知戦を含め、平時からこのような事態に備える必要性が生じてきている。

3. 防衛力強化

 外交努力と両輪で、他国からの侵害・侵略を抑止する能力、抑止が破れ国民に多大な犠牲が生じることを避けるための対処力を備えることも紛争を未然に防ぐのに不可欠である。これらの防衛力の強化にあたっては以下の項目について優先的に手当てを行うべきである。

○ ミサイル防空能力の強化

 現在のBMD(弾道ミサイル防衛)の能力向上を確実に進め、極超音速滑空弾や巡航ミサイル、変則軌道の弾道ミサイルなど多様化、複雑化する脅威に対しての対処能力の開発を進めるととともに、陸海空の保持する防空能力を一体的に運用する体制の確立を進めるべきである。

〇 全領域を統合した作戦能力の強化(宇宙、サイバー、電磁波、認知戦等)

 従来の陸海空に加え、宇宙、サイバー、電磁波の各領域の戦力を組み合わせなければ我が国を守るための作戦を遂行することができない。また、これらの領域を活用することによって我が国に対する攻撃を無力化、局限化することが可能であり、我が国の防衛に有効である。これらの領域の安全、抗たん性確保、領域を横断した作戦遂行能力の強化を進めるべきである。

〇 自衛隊の継戦能力強化

 これまで自衛隊は正面装備の導入を優先し、弾薬等の十分な備蓄を行ってこなかった。備蓄を増やし継戦能力を向上させるべきである。また、弾薬の保管場所の偏り、部品の不足を改善し、自衛隊の施設の耐震化、空港・港湾施設の改修などによる抗たん性の向上など、基礎的部分を底上げする。

○ 自衛隊の人的基盤の強化、AI 等による無人化・省人化の推進

 自衛隊員の確保は最重要課題である。自衛官の給与体系、処遇・職務環境や給与のあり方などの検討を加え、早急に必要な措置を講じるべきである。また、自衛官へのセクハラ・パワハラ被害などに鑑み、独立した防衛監察制度(オンブズマン)の導入も検討し、AI 等も活用して無人化・省人化の取組を積極的に推進すべきである。

〇 原発をはじめとした、重要防護施設の防御の強化

 我が国にある 54 基の原発等は、有事においては自衛隊が防護することになっているが、完全な防護は不可能であることから、サイバー攻撃やミサイル攻撃を含む重要防護施設の防御のあり方の検討を早急に行い、PAC3 の配置の見直し、プール内使用済核燃料の乾式キャスク化*、稼働の最小化等、必要な措置をとるべきである。また、発電所、浄水場、通信施設などの重要インフラの防衛についても十分な備えがあるか点検すべきである。

*空気の自然対流によって冷却する方法。可搬式であり電気と水を使わないためより安全とされる。

○ 海上保安庁の体制強化および自衛隊との役割分担と連携強化

 尖閣諸島周辺では中国公船の活動が常態化し、海警局の領海侵入も繰り返されるだけでなく、船舶の大型化、武装増強も進んでいる。

 特にグレーゾーン事態の対応は有事と隣接する事態であるため、事態をエスカレートさせることなく、国際法、国内法に則り、冷静に、かつ、毅然として対応していく必要がある。そのため海上保安庁が常時優勢を保ち、領海の警備や治安の維持に万全を期すため、我が党提出の「領域警備・海上保安体制強化法案」に基づいて、海上保安庁の体制強化を計画的に進める。あわせて、海上保安庁が警察機関であることを踏まえ、海上保安庁、自衛隊がどのような役割を様々なグレーゾーン事態で担うのか、さらには有事を想定した場合にどういった連携が望ましいのかを充分に検討し、基本方針を定め、対処要領を策定し、実際の訓練を行っておく必要がある。 

4. 自衛のためのミサイル能力の向上

 この度の政府三文書においては、これまで万やむを得ない手段として憲法上行使することは可能であるが保有はせず、その行使は日米同盟の米軍の打撃力に委ねるとしてきた他国領域へのミサイル打撃力(敵基地攻撃能力)を保有することとしている。

 我が党は、政府与党が容認したスタンド・オフ防衛能力等による「反撃能力」については以下の懸念を持っている。

(1)政府見解では、「我が国に対する攻撃の着手」があれば先制攻撃にあたらないとされているが、正確な着手判断は現実的には困難であり、先制攻撃となるリスクが大きい。

(2)存立危機事態においても、我が国による相手国領域内への攻撃を否定していない。 

(3)反撃能力の行使は、専守防衛の枠内と述べているが、その態様が日米同盟の盾と矛の関係を変えるものであれば、専守防衛を逸脱する可能性がある。我が国は、日米同盟の基本的役割分担は維持し、自衛隊の装備体系および運用は「必要最小限度」でなければならない。

 以上のことから、「自公合意に基づく政府の反撃能力」には賛同できない。

 一方で、我が党は、厳しい安全保障環境の中、国民の生命・財産を守り抜ために、時代の変化に対応した質の高い防衛力の整備は着実に行わなければならないと考えている。我が国島しょ部などへの軍事的侵攻を抑止し、排除するためのミサイルの長射程化など、ミサイル能力の向上は必要である。

 しかし、他国領域へのミサイル打撃力の保有については、それが政策的な必要性と合理性を満たし、憲法に基づく専守防衛と適合するものでなければならない。

 防衛政策の転換にあたっては、政府からこれらを含めた詳細な説明と国会での徹底した審議が必要不可欠である。立憲民主党は責任政党として国会での議論をリードしていく。

5. 宇宙、サイバー、電磁波、インテリジェンス

○ 包括的検討、縦割りの弊害の解消が必要

 宇宙、サイバー、電磁波については、安全保障に関する議論が深まっていない。特にサイバー攻撃は平時から発生しており、常時パトロールを行う「積極的サイバー防御(アクティブサイバーディフェンス)※」が必要とされる。権>限などを法的に明確化する必要があれば、国民の権利を最大限に保障しながら、電気通信事業法や不正アクセス禁止法等の改正を視野に入れつつ、サイバー安全保障基本法のような包括的な立法を早急に検討すべきである。

 また、より強い権限をもった司令塔組織、例えばデジタル庁と統合したサイバー省(仮称)の創設も検討に値する。同様にインテリジェンスにおいても省庁の垣根を越えた連携を強化し、宇宙からの“眼”(衛星)についてさらに日本の役割を発揮すべきである。

※脅威情報の活用により攻撃被害が出る前にリアルタイムな検知、阻止を目指すなどとされる

6. 国民保護

 本年で国民保護法の制定から 18 年が経過した。国民保護法とその運用が、国民の生命および財産を守るものとして真に機能するかどうか、今一度総点検するとともに、特に次の諸点に関しては、早急に検討の上、必要な改善措置を講ずべきである。

(1) ミサイル攻撃等から身を守るための緊急一時避難施設は、2022年 2 月現在で約 5 万か所が指定されているが、そのうち被害軽減効果がより高い地下施設は一部に過ぎない。この現状に鑑み、緊急一時避難施設の強化および指定の拡大を図りつつ、住民の理解を得ながら既存の地下施設の少ない南西諸島を中心に、地下施設を整備すること。

(2) 台湾や朝鮮半島で有事が発生した場合、在留邦人の退避や外国人および避難民の保護が課題となる。対応の成否は事前の計画・訓練等にかかっている。関係国等との調整をあらかじめ遺漏なきよう進めなければならない。またそれらのために、海上・航空輸送能力の増強や、空港・港湾の整備・利活用の拡大および受入れ体制の整備に取り組むこと。

(3) J アラートのシステム全体の点検、運用の見直し、必要な改修を行うこと。

7. 防衛費の増額・財源について

 立憲民主党は我が国が直面する安全保障環境の変化への対応や新領域における能力向上の緊急性や重要性等に鑑み、真に必要な予算について積み上げた結果、防衛費の一定の増額につながったとしても理解できると表明してきた。

 しかし、GDP 比 2%や 5 年で二倍という増額目標については「最初から数字ありき」にすぎず合理性に欠ける。

 大幅に増額すると無理が生じ、陸上イージスのような無駄につながりやすい。戦略的合理性に基づき、優先順位をつけて積み上げた上に、効率的で無駄のない調達や支出をしなければならない。

 政府が防衛費のベースを大幅に上げるのであれば、恒久財源を充てるのが財政規律上当然である。2011 年の東日本大震災時においては当時の民主党政権は国民の理解と納得を得て復興財源を歳出削減と復興税でまかなった。歳出改革プランも示さぬまま復興財源フレームを流用するのは論外と言える。

 第二次安倍政権以降、米国からの FMS 調達が飛躍的に増えた。(2013 年度1179 億円⇒2022 年度 3797 億円)FMS 調達を改善しなければ予算を増額しても、円安とあわせて足元をみられた販売価格で実質的な防衛力の強化につながらない恐れがある。

 国内の防衛産業の衰退が顕著になっている。国内産業の維持のため国内調達の比率を増加させ、長期に安定した契約など、調達のあり方の検討、適正価格のあり方の検討、研究開発費の支援を行うなどすべきである。

 研究開発についても、最先端技術での優位が安全保障上にも波及する時代であり、ゲームチェンジャーにもなりえる。防衛技術開発も省庁の垣根を越えて協力できる体制を構築すべきである。

 少子高齢化対策、子ども・教育、社会保障費、産業構造対策、食糧・エネルギーを含む経済安全保障など、いずれも我が国の基礎的部分を支えるもので、防衛費だけが青天井というわけにはいかないのは明らかである。国家予算全体の中での優先順位もあり予算全体で我が国の国力を最大化させるバランスのとれた予算を組む必要がある。

おわりに

 戦後 70 余年、我が国は、不戦の誓いを貫徹し、一切武力行使をおこなわず、いかなる戦争にも参加してこなかったことは世界の知るところであり、我が国が誇るべき戦後の歴史である。防衛力を強化し、自衛のためのミサイル能力を向上させたとしても、我が国から現状変更を試みるなど、日本側が攻撃の端緒となることはありえず、あくまで我が国は、「他国の脅威とはならない」という意図を明確に示していく必要がある。戦後一貫して貫いてきた専守防衛の姿勢を維持していくこと、そして信頼できる平和主義国家であることを国際社会に態度で示し、抑止・防衛目的の防衛力の強化であることについて国際社会に理解を求める努力を徹底していくべきである。

221220外交・安全保障戦略の方向性.pdf