2018年に「男女の候補者の数ができる限り均等」と規定した「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が制定されました。法制定をけん引した「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」の会長を務めてきた中川正春衆院議員に、法制定をめぐる経緯等について、政治分野におけるジェンダー平等の視点から平成、令和をどう見るか、話を聴きました。

――男性国会議員が女性の政治参画に目覚めたきっかけ

 私がこの問題にコミットしたのは、民主党政権下で男女共同参画担当大臣に就任した時で、日本がどれだけこの課題に対して遅れているか。逆に言えば、女性が社会参画していくことによって、多様性ある社会を作り、もっと豊かな国を作って行けるということに目覚めました。

 特に子育て、あるいは福祉といった分野での発展途上の状態を卒業して次の 成熟した社会になっていく。人の豊かさは、そういう分野から基本を作っていかないと本当の豊かさになっていかないと思います。そこを切り口として女性の目線を入れていくことが非常に大事になってきます。

 豊かな国の前提条件として、女性の社会参画、特に政治の分野で意思決定に女性が参加することが大事だと学ばせてもらいました。

 大臣の時、他国の国際会議に出席した時にも、日本はとても遅れていることをまざまざと知らされました。

 その当時、大臣として直接各政党を回って、もっと女性候補者を出して女性比率を高めてくれとお願いしたこともありました。その後、日本は政治分野で非常に遅れているので、クオータ制を導入しようと長年運動してこられた「Qの会」という民間の団体の会合で、各政党の代表が「女性の参画が大事です」と話をする機会があって、私も党を代表して出席していました。皆、それは大事だと言いますが、言っているだけで具体的なものになってこない。そこで、「せっかく各党から集まっているのだから、超党派の議員連盟(以下「議連」)をつくって具体的な法律へ向けて固めていこう」とついつい言ってしまったのです。それで、議員連盟ができることになって、言いだした人が会長にということで、私が会長になり、自民党の野田聖子議員が幹事長で始まりました。

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中川正春(なかがわ・まさはる)衆院議員/三重2区 9期

――政治分野における男女共同参画推進法の制定まで

 議連が発足し、そこで具体的な法律を作ろうと始めましたが、本来は、理念法とその理念に基づいて具体的に進めるための法律の両方があって前へ進めるというイメージをもっていました。

 法律を作るとなると、各党のコンセンサスを得る必要があり、具体的な個別法の話を持ち出すと、全てがうまくいかなくなる可能性もあることが、議連で議論しているうちに分かってきました。そこで、個別法は後回しにして、理念法だけでも先に進めることで動かし、「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」として成立させました。

 これは理念法で目標として「パリテ」政治分野で女性と男性が50/50で同等の数の議員にしていきましょうと法律に書いて、それに向けて目標を作ること。目標に対してどこまでできているのかを国民が判断できるようにすることが骨子です。

 2018年に成立しましたが、理念だけなので、どこまで達成されているかを検証しなければいけませんがまだまだです。ただ、国として、国会の意思としてできたことで、各政党は非常に配慮するようになってきたし、それから地方議会にはしっかり伝わっていき、地方議会で相当女性の数が増えてきました。そういう意味では、この法律が具体的に目標を明記させたことは大きく寄与していると思います。

――パリテ(男女半々の議会)の実現を妨げるもの  クオータ制の導入は可能か?

 具体化しようと思うといろいろな思惑が出てくる。現状を乗り越えてゆく議論が必要です。そこが一つ重くあるのだと思います。それからもう一つ、このテーマをやっていく中で感じたのは、必ずしも女性だからと賛成してくれるわけではないということです。おそらく現職の議員の皆さんは、女性という立場であっても、男性と戦ってきて、その中で自分は勝ち残ってきたと。だから、「余計なことしないでほしい」「実力で勝ってきた自分を大事にしたいし、女性だからといって別の枠を作るというのは間違っているのではないか」という考え方を持つ人もいるわけです。

 そういう意見に対して、あなたはそうかもしれないけれど、社会全体で見ていくと、いろいろな壁がある。女性が手を挙げて国会議員になろうと思うようになって、呼び水的に大体30%から40%を女性の議員が占めてくると、女性の声が大きくなって、社会が変わってくる。ここまで来たらこのクオータ制は必要なくなるといった議論をしました。

 それからもう一つの大きな課題は、女性自らが手を挙げてくれるかということ。いろいろな人に相談しなければならないし、特に家族に「いいよ」と言ってもらわなきゃいけない壁もある。仕事と子育ての両立といったことも現実問題として考えるでしょう。教育の中で女性がそういう役割をしていてよい、大事だと教えていくこともしていないです。地方議会レベルではそういうものが確実に克服されつつありますが、そういう動機付けがない中で、さまざまな要因が重なっていると思います。

――法制定で生まれた変化

 閣法ならば、原案を一部の党が反対しても多数決で成立させられるけれども、議員立法はそれが難しくて、全会派賛成を目指していくことが肝要で、議連に所属する議員が中心となって党内を説得していくことが必要です。

 だから、それぞれの党の中で、本気になって説得していく人たちが議連に集まらないといけない。議連の議論を各党に持ち帰り、説得していく中で党内議論も変わってきました。また法律が成立したことで、地方議会が明らかに変わりました。

 一つページをめくったような変化が起きて、この法律に基づいて政府も推進するためのいろいろな施策を作って行かなければならなくなりました。政府の男女共同参画の部署は、地方の議会事務局か、議長会とか市長会といったところに向けて、「法律ができたから頑張ってください」としっかり下ろすことができる。それがきっかけになって、また事務局レベルでも、地方の執行部レベルでも、真剣に考える機会が作られてきました。

 面白いのは、政府の部局は政党に対して、あるいは国会に対しては、あまりものを言ってきません。「遠慮は不要」と言っているのだけれども、何も政党や議会に対しては音沙汰がない。元々議会のことについては、これは選挙法に関連することなので、自律的に議会でやってもらう。そういう意味では、例えば国会にジェンダーをテーマにした委員会を設置することや、議会の中でジェンダーに基づいた政策立案をできる部署をつくるべきと院の議長や副議長にもこの議員連盟の要望書を上げて、今運動を進めているところです。

――政治分野におけるジェンダー平等 次の挑戦

 制定から6年を経て、3年ごとの見直しで、3年前に一度改正し、ちょうど見直しの時期です。新しい挑戦をしていきましょうと、まとめた方向性がクオータ制の法制化を含め3つあります。

(1)政治分野における男女共同参画の推進に関する法律の理念を具体的に公職選挙法の中へ入れ込む。

(2)衆院比例代表選出の方法を工夫する。 

 本法を議論した時に 、個別法として具体的に提案していた内容がありましたが、本法からは外して成立させました。その法律をもう一回復活させようということです。現行は、衆議院の比例に関して、クオータという形で工夫しようと思っても、今の仕組みではできない。しかし、ちょっと法律を変えれば、工夫ができるというのが衆議院の比例代表選出の方法です。同一順位内でのグループ分けを可能とすると 例えば男性グループと女性グループとに分けて、各グループ内を惜敗率で並べて男性グループ、女性グループ・・・ と交互に選出していく。こういうことが党によってやろうと思えばできるようにする。これを公職選挙法の改正でやりたいと思っています。

(3)政党交付金の配分を変える。

 フランス で非常に効果を上げている方法で政党交付金に連動させて、女性の候補者が多いところには多く、少ないところには交付金を削るといった形で連動させる制度です。具体的な個別法で作りたいが、いきなりそこまではという話で、プログラム法の形を考えています。具体的には「連動させる措置の導入について速やかに検討が加えられて、その結果に基づいて必要な法制上の措置をとる」という。

 これら3つを今各党へ持ち帰って、「党内を説得しましょう」ということになっています。

 ここまで具体的な話になってくると、「えー」と言う人たちもいるので、よく説明しないといけない。だからクオータ制と言っても、男女2つに分けるというのは、各政党そうしなければならないというのではなくて、うちの政党はこの制度を使って女性枠を増やしますということであれば、これを使ってください。使うことができます。この程度の控え目な話なので、それでもダメという政党はないだろうという気持ちで各党へ持ち帰っているところです。

中川正春

――なぜ、パリテ(男女半々の議会)なのか?

 原点に帰れば、男性と女性の人口はほぼ同数なのだから当たり前。今の状況がいびつなだけです。このいびつな状況を克服しないと、本来の豊かさは出てこないというとても単純な話。これが自然のままでできればいいけれども、なかなかそうならなかった。具体的に動いてこなかった日本の現状がある。だからそれを動かそうと思うと法律で動かしていくことになる。今の日本の議論はそこまで行っていないが、先進国を中心に女性の政治参画比率が高い国々は、みなこれまでこういう工夫をして社会のコンセンサスを作ってきた。クオータ制も入れながら増やしていくのだというその価値観を先行していかせたいという感じです。

 日本も遅ればせながら、パリテの実現という政策がメインストリームとなる。そこまでやっていかないといけません。そう言うと「そうですね」、みんな「いいね」、 だけど具体論になると、自分の選挙区は0というような現実がある。そこをどうやって克服するかです。

――次の世代へのメッセージ

 フィンランドやノルウェー等の北欧の人たちが日本にやってきて、「日本ではジェンダーはどうなっているのか」を議論する企画に、私はよく招いてもらうのですが、そのような中で私も学んだことが一つあります。私は男性であるにもかかわらず、この議連の会長をやったでしょう。ですが、日本では一般的にこういうものをやる時は大体、女性が会長をやっている。

 フィンランドの議員が来た時に言っていたのは、「自分たちも30年40年前は、日本と同じ状況の中でやっていたのだ」と言う説明がありました。その頃は社会全体の風潮として、女性の社会参画推進は女性のためにという形で展開をしてきた。いろいろな工夫をしながら、今の状況は本当に50/50に近くて、大統領も首相も女性が選出されました。閣僚も多数。「女性初の・・・」は、今では話題にもなりません。

 そういう状況の中で振り返って考えてみると、女性のためということだけではなかった。女性が活躍できる社会、環境は、男性も女性もいる。例えば産休・育休にしても、女性だけが取るのではなくて、男性も取れる。子どもを育てることに対して、男性もコミットできる。あるいは家庭と両立するために労働時間を縮めていく。日本は8時間だけれども、ノルウェーでは6、7時間というような議論をしていて、それは現実のものになっている。そういう形になると、働くことだけを中心にするのではなくて、家庭生活、子どもを育てていくことの楽しさ。その価値観、あるいは仕事以外のところで自分の人生を充実させていくことが、男性も女性もあたり前のものになっていく。

 今の私たちの環境を見ていると、それが豊かさに結びつくのではと感じている。GDPの数字だけが豊かさではなく、人生のクオリティー的なものに結びついているということが分かってきた。このことを日本の男性にもちゃんと説明をする必要がある。 「女性のためだけの話ではない。だからそういう意味では中川さんが男性で議連会長など取り組んでいることが大事だ」とよく言われました。

 私は張り切ってやってきたのですが、恐らく目覚めてくれば、日本の社会もそういう意味では変わっていくのではと思います。今、少子化が課題ですが、これも、ジェンダーの観点で克服していく。男性も女性も、子どもを育てる時の喜び、充実感というものがもっと強調されてくる。そのための改革。目標を持って日本の社会を変えていくということだと思います。次の世代でそうなっていくように、私たちには責任があります。がんばりましょう。