政治に届いていない暮らしや現場の声を受け止め、それを活かし、誤りのない政策立案を進めていく。さまざまな現場と政治をつなぐプラットフォームとして活動する「つながる本部」(本部長:枝野幸男代表)は27日、ジェンダー平等推進本部(本部長:大河原雅子衆院議員)と合同で会議を開き、「コロナ禍の女性たちとつながる」をテーマに、コロナ禍でより厳しい状況に置かれている女性たちの実情について、関係団体などから話を聞きました(写真上は、会議で発言する清水さん)。

 NPO法人自殺対策支援センター『ライフリンク』代表であり、厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」(Japan Suicide Countermeasures Promotion Center略称:JSCP)の代表理事を務める清水康之さんはこのなかで、「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)」(JSCPとりまとめ)をもとに現状について報告。警察庁の自殺統計によると、今年1月から6月までは対前年比で減少していましたが、7月以降増加に転じ、特に女性の自殺者数が増加しています。

「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)」 
【主なポイント】
1.本年の自殺の動向は、例年とは明らかに異なっている。
2.本年4月から6月の自殺者数は、例年よりも減少している。
3.様々な年代において、女性の自殺は増加傾向にある。
4.自殺報道の影響と考えられる自殺の増加がみられる
5.本年8月に、女子高校生の自殺者数が増加している。
6.自殺者数は、依然として女性よりも男性が多い。
7.政府の各種支援策が自殺の増加を抑制している可能性がある。

コロナ禍で女性が抱える問題が深刻化

 「自殺は、平均すると4つの悩み、課題が連鎖すると起きることが明らかになっている。社会的な問題が起き、それが暮らしや仕事の問題に、さらにそれらが深刻化するなかで家族関係の問題、心の問題などに転化された先に自殺が起きる。(電話相談事業)『よりそいホットライン』やSNSで相談を受けるなかで強く実感しているのは、コロナという社会的な問題が起きたことをきっかけに、当初は健康の問題だったものが経済の問題になり、暮らし、仕事の問題になり、さらにステイホームでなかなか行き場がない、例えば学校に通えない、仕事に行かれないというなかで家庭内に閉じ込められ、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害や虐待を受け、いのちの問題にまで転化してしまっている。とりわけ女性や子どもの自殺相談の割合が高くなっていると感じています。実際に、女性の自殺は、統計的にも増加傾向に転じている状況です」と清水さん。報告書では、女性の自殺の背景にある、経済生活問題や勤務問題、DV被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患など、さまざまな問題がコロナ禍でより深刻化していることが影響している可能性があると記しています。

 大きな災害が起きると自分の身を守ろうとする、防御的な反応が高まり自殺が減る。あるいは、自殺念慮を抱えていた人たちが、社会的危機のなかで「つらいのは自分だけではない」との安心感から自殺行動に至らなかった可能性があるとも指摘。7月以降、特に女性や若年層の自殺が大幅に増えた要因として若手有名俳優の自殺報道を挙げ、「過度な自殺報道があると国内外を問わず子どもや若者、もともと心に不安を抱えていた人たちの自殺が増えると言われている(「ウェルテル効果」(※)と呼ばれる)。残念ながら日本でも起きた可能性が高い。今回も女性や子どもの自殺の増加率が高い」と話しました(下図12参照)。

年齢階級特別寄与度.jpg

 今年8月の高校生の自殺者数は42人と、過去5年間で最も多く、男女別でみると、女子高生の自殺者数は統計学的に有意に多く、中学生の自殺者数も実数では増えているとも報告。一方で、自殺者数の実数は依然として男性が多く、8月までの自殺者数の約7割は男性であることも指摘しました。

 コロナ禍での政策的な効果についての検証では、4月から8月までの自殺者数に対する緊急小口資金、総合支援資金の申請件数の女性自殺者抑制効果は5%有意と、政策の有効性が示唆されたと報告。「逆に支援が切れたらどうなるのかを考えて今後の政策を検討していく必要がある」と提起しました。

現場の声をもとに政策立案を

終了後清水さんは今回のヒアリングについて、「民間団体の現場の活動の声をしっかり聞いていただいたこと、『聴いていこう』という思いがわれわれにも伝わってきた。ぜひその現場の声をもとにして、いろいろな政策を作っていっていただきたい」とコメント。実数績では男性が依然高いことを踏まえた上で、そうした現状での変化に注目をすることが大事だと指摘しました。

 「コロナが起きたことによって、社会の脆弱性が露呈した。セーフティーネットが十分に張られていなかったところにコロナが直撃し、これまでぎりぎりでやっていた人が死に追いやられているということ。非常事態に対応できるためのセーフティーネットは、非常事態になってから作るのは難しく、非常事態が起きる前からやっておかなければならない。今すぐにできることではないので、しっかりと中長期的な視点をもって社会全体で取り組めるよう、進めていただきたいと思います。一方でまさに日々、命が失われていっている現実もある。その起きている現実に対して何ができるのかは、まさに現場で活動する民間団体の方々が一番実感として持っている部分だと思うので、ぜひ現場で取り組まれている民間団体の声を聴きながら、それをもとに、今必要としている対策を講じていただきたいです」

「自殺報道は凶器になる」という認識もって

 著名人の自殺に関する報道をめぐっては、WHO(世界保健機関)が2017年にいわゆる『自殺報道ガイドライン』で「やるべきではないこと」と「やるべきこと」を明示しました。この点については、「私も自殺の問題に関わって20年近くになりますが、だいぶ自殺報道のあり方はガイドラインに沿ったものになってきていると思います。『相談窓口の情報を併記する』、あるいは『自殺に用いた手段について明確に表現しないこと』『自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと』など、大手のメディアはそうした方針を踏まえた報道になってきています」と評価。

 一方で、私たちがネットで触れる情報は必ずしも大手のメディアのものばかりではなく、例えば週刊誌やスポーツ紙の情報があふれているので、そうしたメディアがセンセ-ショナルに報じると、どうしてもそれが拡散されていってしまうと懸念を表明。「結果として過激な報道が横行することになり、こうした現状を改めていかなければならない」と指摘し、ネットのポータルサイト会社とも、自殺を誘発する恐れがあるような過激な報道の情報が拡散されないように気をつけてほしいと相談しているところだと話しました。

 「ネット上などでは積極的に選択して情報に触れるというよりも、見出しでぱっと目に触れる機会が多く、1つの記事からどんどん関連記事が表示され、なんとなくクリックして読み進んでしまうことがある。あの仕組み自体は便利なのですが、そうしたセンセーショナルな報道に触れることで、特に子どもや若者、あるいは心に孤独を抱えていた人たちは、亡くなった方に自分を重ね合わせてしまうなど悪い方向にイメージができ、実際の行動になってしまうことはある」と重ねて指摘。「『自殺報道は凶器になる』くらいの認識をしっかりもっていただきたい」と訴えました。

一歩踏み出したコミュニケーションをとる

 今回の新型コロナウイルス感染症は、感染拡大を防ぐため、人と身体的距離を取ること、自粛やソーシャルディスタンスが求められたことで、「コロナストレス」「コロナうつ」などに悩む人も増えていると言われている。こうした状況でお互いがつながり、支え合うために私たち一人ひとりができることは何だろうか。これには「実際、物理的に距離が離れる形になっていますし、心理的な距離も離れがちになっている状況だと思うので、普段よりも非常に強く意識をして人とつながっていく、あるいは心を傾け、届くように声を出していくこと。お互いがこれまでと違う一歩を踏み出してコミュニケーションをとっていく必要がある。そうしたなかで少しでも孤立していく人を救っていくことが大事だと思っています」と話しました。

コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート).pdf

※ウェルテル効果とは、マスメディアの自殺報道に影響されて、一般人の自殺が増える事象のこと。特に若年層が影響を受けやすいとされる。