2021年12月9日

2022(令和4)年度税制改正についての考え方
─コロナ禍の国民生活を支える公平・公正な税制へ─

立憲民主党 税制調査会

 昨春以来の新型コロナウイルス感染症の拡大は、今日に至るまで人々の生活や事業に深刻な影響を与え続けている。同時に、高所得者と低所得者の経済格差、男女間の雇用・賃金格差、人口の都市集中と地方の過疎化、少子化による人口減少と高齢化の進行、気候危機の影響による災害の多発化・深刻化、エネルギー自給率の低さがもたらす脆弱性など、日本社会が従来抱えていた問題・矛盾を顕在化、深刻化させている。これらの諸課題を解決する上で、税制が果たすべき役割は大きい。

 2022(令和4)年度の税制改正にあたっては、こうした新型コロナウイルス感染症が与えている影響やそれが浮き彫りにした問題・矛盾に向き合い、日本社会が活力を取り戻せるように、個人・企業・団体に対する税制上の措置を講じる必要がある。立憲民主党は、こうした基本認識の下、各種団体から要望聴取を行った上で、2022(令和4)年度の税制改正に関する考え方を以下の通り取りまとめた。

 今後、これまでの党内議論をさらに深化させ、抜本的な税制改革に向けた構想の取りまとめを進める。

1. コロナ禍で困難な状況にある個人・事業者等への支援

 昨春以来、新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの個人や事業者が経済的に困難な状況に追い込まれていることに鑑み、税負担を臨時・特例的に軽減することで、個人・事業者等を支援し、日本の社会・経済の回復を図る。

◎コロナ禍が収束した時点を見据え、税率5%への時限的な消費税減税を目指す。

◎原油価格の高騰が家計や事業者の負担を増大させていることに鑑み、財政状況に配慮しつつ、揮発油税のトリガー条項の凍結一時停止・発動を行う。

◎原則1年間とされている現行の納税猶予制度について、コロナ禍の影響の長期化を踏まえ、猶予期間をさらに1年間延長する。

◎コロナ禍で厳しい経営状況にある飲食事業者を支援する観点から、交際費課税の特例措置を延長するとともに、交際費から除外して損金算入できる飲食費の上限額を引き上げる特例措置を講じる。

◎コロナ禍で多大な影響を受けた飲食事業者や酒類業者等を支援するため、時限的に酒税の一律軽減を行う。

◎2023年10月導入予定の適格請求書等保存方式(インボイス制度)については、免税事業者が取引過程から排除されたり、不当な値下げ圧力を受けたり、廃業を迫られたりしかねないといった懸念や、インボイスの発行・保存等にかかるコストが大きな負担になるといった問題がある上に、現在のコロナ禍の経済情勢では準備期間が不足することから、コロナ禍が収束して経済情勢が回復するまでの間は、導入を延期する。

◎事業者の事務負担を軽減するため、簡易で安価な電子インボイスの整備や、電子インボイスの導入を支援するための補助金創設等、必要な措置を講じる。

◎コロナ禍の影響で承継時期を後ろ倒しせざるを得ない事業者に配慮し、2023年3月末となっている事業承継税制の特例承継計画の提出期限を延長する。

◎コロナ禍で多大な影響を受けている航空事業者の負担軽減を図るため、現行の航空機燃料税の特例措置を延長する。

◎コロナ禍で医療を支える医療機関を支援するため、新型コロナウイルス感染症対策の設備投資等について、即時償却または税額控除、償却資産税の全額免除、消費税相当額の補助等の税制上の措置を図る。また、控除対象外消費税問題の抜本的解決のために必要な措置を講じる。

2. コロナ禍を契機とした社会・産業構造の転換の促進

 この間、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、デジタル化、地域分散化が進展した。これを好機として、日本の社会・産業構造の転換を促進するべく、必要な税制上の措置を講じる。

◎中小企業のデジタル化に寄与している少額減価償却資産特例について、取得価額及び取得合計額の上限を引き上げた上で延長する。

◎5G環境の更なるエリア拡大に向け、5G投資促進税制の延長と対象設備・事業者の拡大を行う。

◎申請手続きに時間を要することから、DX投資促進税制の適用期間を延長する。

◎新型コロナウイルス感染症の影響で企業の地方移転の機運が高まっている中、地域経済の活性化や地域における雇用の創出をさらに進めるため、地方拠点強化税制の延長及び税額控除の拡大など制度の拡充を行う。

◎働き方改革やジェンダー平等に配慮した上で、リモートワークの導入に必要となる設備等への投資や、リモートワークの活用を通じて介護や育児などに対し柔軟性の高い働き方を導入した企業などに対して、税制上の優遇措置を講じる。

3. 税制の所得再分配機能・財源調達機能の強化

 「失われた30年」とも言われる長期の経済低迷のなかで、高所得者と低所得者の経済格差は拡大し、日本社会の特徴とされてきた「分厚い中間層」は消滅した。こうした状況を打開し、「分厚い中間層」を復活させるため、「分配なくして成長なし」との考え方の下、直間比率の見直しなど、税制の所得再分配機能・財源調達機能を強化するために必要な税制改革を行う。

◎所得税については、勤労意欲の減退や人材の海外流出等の懸念に十分配慮しながら、最高税率の引き上げを行う。

◎金融所得課税については、当面は分離課税のまま超過累進税率を導入し、中長期的には総合課税化する。同時に資産形成を支援するためNISA(少額投資非課税制度)を拡充する。

◎法人税については、租特透明化法に基づき精査をした上で必要な租税特別措置を残し、超過累進税率を導入する。

◎消費税の逆進性対策については、効果的・効率的な低所得者対策となっていない現行の軽減税率制度は廃止し、基礎的な生活費支出に占める消費税相当額を所得税から税額控除し、控除しきれない分を給付する「給付付き税額控除」の導入により行う。

◎企業の内部留保が賃上げに回るように税制等による措置を強化する。現行の賃上げ税制を強化する場合は、少なくとも、基本給の引き上げを実現するため、適用要件判定などで使用される「給与等支給総額」から、時間外・休日労働による支給額を除外する。

4. 暮らしの安心を支えるための税制 

 現在の日本経済低迷の原因は、GDPの半分以上を占める個人消費の減退にあり、個人消費が伸びない原因は将来への不安にあることから、暮らしの安心を支え、将来不安の解消に資する税制上の措置を講じることで、日本経済の活性化を図る。

◎住宅ローン減税については、当面控除期間を延長するとともに、現在の低金利下で生じている、控除額が利息額を上回る「逆ざや」問題については、実際に支払った利息額分を控除する制度設計にするなど、必要な対策を講じる。

◎自動車関係諸税については、自動車重量税の「当分の間税率」を廃止するとともに、自動車重量税の国分の本則税率を地方税化すること等により、地方財源を確保しつつ、自動車の保有者・利用者の負担を軽減する。

◎現役世代の社会保障への不安解消、高齢者の生活の安定に寄与するため、生命保険・介護保険・個人年金の各保険料控除の最高限度額を引き上げるとともに、保険料控除の合計適用限度額を引き上げる。

◎奨学金の返還に追われる若年層を支えるため、給付型奨学金の大幅拡充を前提としつつ、貸与型奨学金の返還額について所得控除の対象とする。

◎性暴力や児童虐待などによる被害者を支援するため、公認心理師・臨床心理士のカウンセリングを受ける場合、その費用を所得控除の対象とする。

◎家族構成の多様化を踏まえ、主に女性の働き方の選択肢を狭めている配偶者控除のあり方を見直す。

5. カーボンニュートラルの実現に向けた税制 

 深刻化する気候危機を食い止めるべく、原子力エネルギーに依存しないカーボンニュートラル社会の早期実現に向けて、必要な税制上の措置を講じる。

◎2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成できるよう、脱炭素の技術革新・技術開発を税制面からも強力に支援し、税制全体の見直しの中で炭素税のあり方を検討する。

◎我が国の基幹産業である自動車産業の脱炭素化を推進し、国際競争力の維持・強化を図るべく、電動自動車の普及や脱炭素化に資する自動車開発等を支援する税制上の措置を講じる。

◎環境に配慮した農業生産・経営を支える多様な設備・機械装置等の導入を促進するための税制上の措置を創設する。

6. 多発化・深刻化する災害に対応する税制

 気候危機の影響を受け、近年の災害は多発化・深刻化を極めていることから、こうした実態に即した税制を構築する。

◎現行の雑損控除から自然災害による損失を独立させて「災害損失控除」を創設し、繰越控除期間を最低でも5年以上とする。

◎火災保険等に係る異常危険準備金制度について、洗替保証率を引き上げた上で、無税積立率を引き上げる。

◎遺族の生活資金を確保するため、災害時の死亡保険金の非課税枠を拡充する。

7. 地方財政の安定化

 コロナ禍で地方財政は一層厳しい状況に置かれており、地方自治体におけるコロナ対策を含めた財政運営に支障をきたしかねないことから、地方財政の安定化に向けた税制上の措置を講じる。

◎地方一般財源総額及び地方交付税総額の拡充及び安定的な確保を行う。

◎国・地方の税源配分を見直すとともに、偏在性が小さく安定的な税収を確保できる地方税体系を構築する。

◎固定資産税は市町村の基幹税収であることから、コロナ禍で困難な状況にある個人や事業者への支援は国の給付金等で行うこととし、2021(令和3)年度における土地に係る税額の据置措置は本年度限りで終了する。

◎航空機燃料税の税率を引き下げる現行の特例措置を延長するにあたり、航空機燃料譲与税について、税率の引下げ幅に応じた譲与割合の引上げ措置を講じ、安定的な確保を図る。

8. 国際課税の最低税率合意に基づく対応

 デジタル化・グローバル化する経済への対応を目指した国際課税の最低税率に関する合意が実現したことを受け、必要な対応を行う。

◎国際課税の最低税率に関する国際合意に基づき、多国間条約の批准や国内法の整備などを迅速に行う。

9. 納税環境の整備

 税制の基本原則の1つである「簡素」な税制の実現に向けて、税務手続きのデジタル化とそれに対する支援を積極的に行う。

◎e-Tax及びeLTAXの使用性を高めるとともに、その活用等を通じ、電子化対象手続きを拡充するなどして、税務手続きのデジタル化・簡素化を進める。

◎電子取引データの保存にかかるコストを抑えるため、電子帳簿保存法の保存要件を緩和する。

◎地方税の申告・納税の電子化と標準化にあたってのシステム構築や、システムの安全性・安定性の担保等は重要な課題であることから、国が必要な支援や財政措置を適切に講じる。また、地方税の電子申告・電子納税の一層の推進にあたっては、「国と地方の協議の場」等を通じて地方団体の意見を十分に反映する。

各部会から提出された重点要望項目

※PDF(全文)の後半をご覧ください

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