泉健太代表は16日、「持続可能な社会ビジョン創造委員会」の一環として、同委員会委員の慶応義塾大学経済学部の井手英策教授とのオンライン対談を実施。コーディネーターは京都芸術大学の本間正人教授が務めました。
対談ではまず、井手教授が「減税より給付を―個性と多様性が交響する社会へ―」をテーマに持論を解説。かつては10%程度成長していた経済は、バブル崩壊後、アベノミクスの時期も含めて0.9%しか成長していないこと、日本のみならず先進国全体を見ても直近(2011-2020年平均値)1.3%程度の成長であることを踏まえ、「かつてのような成長は不可能だ」ということが議論の出発点であり、いま目指すべきは1.5-2.0%成長が妥当な数字だと切り出しました。
その上で、人口は減少し、経済も成長しない縮減の世紀に必要なビジョンは「成長から自由な社会」だと主張。「野党の政策は消費減税に偏り過ぎている」との見方を示し、「すぐの増税は難しくても、税と結びつけた給付の話を続けるべきだ。低所得層が直面している目の前の危機と、それ以外の多くの人が抱える将来不安を区別し、パッケージ・ポリティクスの考え方で、徹底的に貧しい人たちの命を支えながら、同時に将来の不安におびえている中間層の生活保障機能(住宅手当やベーシックサービスとしての大学や介護・障がい者福祉無償化など)を強める。減税は貯金の付け足しにしかならないが、給付はビジョンの創造になる」などと話しました。
「成長から自由になる」という発想については、「成長は『追うもの』ではなく『ついて来るもの』」だと強調。現在の自己責任モデルでは子育てや教育、医療、介護などの将来不安から過剰貯蓄が起き消費が過小になっているが、ベーシックサービスを通じて人々の生活を徹底的に保障することで将来不安を払しょくし、貯蓄を消費に回すことができると説きました。
泉代表は、党内で「所得税や法人税を引き上げ、これを社会保障費の財源にしてもいいのではないか。もっと累進性を高め、応益負担にしてもいいのではないか」という議論があると紹介。これについて所見を尋ねると、井手教授は「応能負担は大事だ。ただし、富裕層に対する所得課税や大企業に対する法人課税であがってくる税収には限界がある。消費税を外せば大胆な政策は打てない」「税だけで完結してものを考えることはやめなければいけない。『税がどんなに逆進的でも給付が累進的であれば全体として公平である』というのがヨーロッパの常識。法人税、所得税の増税をまず実施しつつ、追って消費税(増税)も実施した方が税収が豊富になる。これを使って大規模な政策転換を行うこと」だと話しました。
本間教授は「分配」について、「本来の分配は、分配のプロセスが見える化されることと、圧倒的に多くを占める自らが中の下、中の中と認識している人への給付が厚くなることで結果的に分配の校正が実現する」のが井手教授の立場だと説明。これを受け井手教授は、OECD(経済協力開発機構)による「教育」「医療」「社会的住宅」「乳幼児期の教育・ケア」「高齢者福祉」を給付することでどれだけ所得が改善するかの調査によると、低所得者ほど所得が改善され、格差の改善につながっていることに言及し、「今までの立憲民主党の分配概念は弱者救済だが、そうではなく、救済を保障に変えてくれということ。中間層を含めたすべての人々の生活をベーシックサービスで保障すると、結果的に貧しい人にとって大きく所得が改善する。格差是正の理念もここで転換する。弱者救済ではなく、弱者を生まない、貧しい人をつくらないことがポイント。すべての人を受益者にしていく発想が大事。そのときに、消費税のメリットは貧しい人を含めてすべての人々が払うので、貧しい人は救済される、施しを受ける対象ではなく、納税者として権利あるものとしてサービスにアクセスできるようになる。住宅手当の新設で現実には低所得層は負担よりも給付のほうが大きくなるが、それも施しではなく、納税者への生存保障。みんなで痛みを分かち合いながらみんなで希望を分かち合っていく社会。弱者をバッシングする理由のない社会をつくるべき」と述べました。
泉代表が「日本では低所得の人が自分のことを低所得だとなかなか意識できていないまま低所得の生活で苦しんでこられたと思う。まさに『救済』ではなく『保障』だという意識を世の中に広げていくためにはどうするといいのだろう」と問いかけると、井手教授は「例えば大学の無償化、あるいは子どものいない世帯や子育ての終わった高齢者に対しては総合合算制度をパッケージで出すことで実質的な不安を取り除いていく。目に見える形で人々の暮らしの不安を取り除く施策は必ず有権者に届く」などと応じました。
泉代表は「貯蓄する主な目的は住宅と健康と学び。そこで負担が少なくなるというメッセージが届くと生活者の意識の大きな転換につながるのではないかと思った」と発言。党内でもこうした議論の内容を共有していく考えを示しました。