衆院本会議で5月19日、侮辱罪の法定刑を引き上げる政府提出の「刑法改正案」(侮辱罪厳罰化法案)と立憲民主党が提出した対案「加害目的誹謗等罪法案」の討論・採決が行われました。立憲民主党から階猛衆院議員が登壇し、政府提出法案に反対、立憲民主党の対案に賛成の討論を行いました。
階議員は、インターネットを使った匿名の情報発信で他人を誹謗中傷し、心身にダメージを与える事件の再発を防ごうとする立法の目的は、「政府も立憲民主党も違いはない」と述べました。一方で「問題は目的達成のための手段だ」と述べ、政府案が「30万円以下の罰金」や「1年以下の懲役もしくは禁固」を加え、厳罰化するものであることについて「なぜこれで必要十分なのかについては、名誉棄損罪の法定刑とのバランスを取るといった形式的な説明しかしてない」と指摘しました。階議員は、「『1年以下の懲役もしくは禁固』を法定刑に加えれば、刑事訴訟法上の逮捕要件が緩和され、侮辱罪について公権力や私人による現行犯逮捕が頻発するおそれが生じる」「表現の自由の萎縮と刑事司法の混乱が生じる」等の問題点を委員会で政府に指摘したことで、政府が「侮辱罪による現行犯逮捕は実際上、想定されない」と統一見解を示しましたことを紹介。この点について評価しました。
また、階議員は、厳罰化を行うことで、ネット上の誹謗中傷を行おうとする者に対し威嚇・抑止効果が働くと政府が説明していることについて、「そもそも現時点でネット上の誹謗中傷による被害が年間にどれぐらい発生しているのか、政府は把握していません」と指摘。ネットでもリアルでもいかなる言動が侮辱罪の構成要件にあたるかにつき明確な基準はないこと、名誉棄損罪と異なり、表現の自由を保護するための違法性阻却事由を定める規定も侮辱罪にはないことを問題視しました。
さらに政府が「侮辱罪厳罰化法案」が成立しても侮辱罪の処罰範囲が変わらず、権力者への批判を萎縮させることはないとしていることについて「そもそも現在の処罰範囲がどうなっているかを明らかにしていないため、意味がない」と述べ、明確な判断基準を示すべきと主張しました。政府案で、懲役及び禁錮を廃止し、改善更生を図るために必要な指導を行い得る拘禁刑を創設することには、「権力者を批判して拘禁刑になった者にはどのような指導がなされるのか」と疑問視しました。
立憲民主党提出の「加害目的誹謗等罪法案」については、表現の自由の萎縮を避け、インターネット上の誹謗中傷行為につき適切に刑事、民事の制裁を加えられるようにするものであることを階議員は説明。侮辱罪に当たらないような他人を傷つける悪質な言動についても処罰範囲を明確にした上で処罰し、表現の自由に配慮した要件や特則を設けており、「『侮辱罪厳罰化法案』よりも害が少なく、益が多いことは明らかだ」と訴えました。
最後に階議員は、昨年、一昨年の5月18日は、検察官の任期延長ができないという政府解釈を国会に無断で変えたことを正当化する、「検察庁法改正案」、名古屋入管でウィシュマさんが死に至った真相を国会に隠ぺいしたまま入管の権限・裁量を強めようとした、「入管法改正案」の成立を政府が断念した日であることに触れました。
法案成立を食い止めるために、大きな役割を果たしたのはSNSや街頭を通じて多くの方々が政府を批判する声を上げたことだと述べ、「侮辱罪厳罰化法案」が成立すれば、「こうした健全な政府批判が萎縮し、政府による国会、ひいては国民への侮辱行為がまかり通ってしまう危険がある」と主張しました。こうした状況を踏まえ階議員は、「昨年、一昨年と、国会での数の力で劣っていても民意の力でまちがった法案は正すことができるということが証明されました。このことをネット上でご覧になっている皆さんにもお伝えし、立憲民主党へのお力添えを心よりお願いする」と締めくくりました。