衆院本会議で4月10日、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、坂本祐之輔議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下の通りです。

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑

立憲民主党・無所属 坂本祐之輔

 立憲民主党の坂本祐之輔です。ただいま議題となりました、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」、いわゆる「給特法改正案」について、会派を代表して質問いたします。

 OECD国際教員指導環境調査2018報告書によりますと、中学校教員の一週間の仕事時間の参加国平均は38.3時間であるにもかかわらず、日本は56時間と参加国48カ国中、最長との結果でした。そして、その最大の原因が労働条件の最低基準を定める労働基準法の第37条を適用除外とした給特法であることは明らかです。教員の長時間労働の厳しい労働環境により、教員採用選考試験の受験者は年々減少しています。また、採用されたとしても、早期に退職する教員も多く、精神疾患による休職者は過去最高を更新する状況にあります。さらに、教員不足による業務過多な状況が長時間勤務を助長させています。教員の現状の劣悪な労働環境は、教員自身の労働問題であるだけではなく、子どもたちの教育を受ける権利の侵害にも当たる重大な問題です。そして、教職員の命と健康を守ることもできません。学校の持続性が保てないという危機的状況にあります。
 このような状況下でも、学校の先生方は必死で職務を全うしようとしています。総理は、長時間勤務を強いられている今の現場の状況をどう認識されているでしょうか。また、子どもたちと日々向き合い、奮闘する教職員の姿をどのように思っているでしょうか。石破総理の答弁を求めます。(石破総理)

 そもそも、給特法ができる前には、全国で時間外手当等請求訴訟が提起され、労働者側勝訴・自治体側敗訴の判決が続々と出されていました。また、1963年に、人事院は、教員の超過勤務については労働基準法に従って残業時間に応じて超過勤務手当を支払うべきであるとの見解を示していたのです。ところが、教師は一般労働者と違うから超勤を支給することに問題があるとの議論が与党から起こり、結局1971年に給特法が成立しました。その後、当時の時間外勤務8時間に相当する教職調整額4%のみで、時間外勤務に従事しても自主的・自発的勤務とされ、労働基準法が定める、36協定や残業代支払いによる時間外勤務への抑止が機能せず、正確な勤務時間が記録されない、いわゆる「定額働かせ放題」とされる状況が生まれました。
 同じ教員でも、私立学校や国立大学附属校の教員については、時間外勤務等も労働時間として管理され、当該時間に応じて労働基準法 第37条に基づく割増賃金が支払われています。

 2019年の給特法改正の際の議論では、当時の萩生田文部科学大臣自らが、「給特法などの法制的な枠組みについて根本から見直しをします。その際、現在の給特法が昭和46年の制定当初に想定されたとおりには機能していないことや、労働基準法の考え方とのズレがあるとの認識は見直しの基本となる課題であると受け止めており、これらの課題を整理できる見直しをしてまいります。」と答弁しています。大臣の答弁は非常に重いものと受け止めていますが、今回の改正法案では、萩生田大臣の言う「これらの課題」がどのように根本的に見直されたのでしょうか。総理の明確な答弁を求めます。(石破総理)

 昨年の自民党総裁選挙における石破総理の政策集の中に、「教員給与の早急な引き上げや教師の働き方改革など公教育の立て直しに全力を挙げます。」と記載されています。
 総理は田中角栄元総理を「政治の師」と仰いでいらっしゃると報道等を通じて聞いておりますが、その田中内閣の時に成立・施行されたのが「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」、いわゆる人確法です。自民党のホームページにも、「義務教育職員給与を一般公務員より25%引き上げることを内容とする『義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法』を定めたことも、画期的な文教政策であり、田中内閣の功績として見逃すことはできません。」と記載されています。このような人確法の理念についてどのように考えているのでしょうか。今回の給特法改正案にはどのように反映されているのでしょうか。総理の見解を伺います。(石破総理)

 昨年末の予算折衝における大臣合意は、前回の法改正での萩生田文科大臣の先ほど示した答弁からは後退したものとなってしまっており、極めて遺憾です。合意では、「将来的に、教師の平均時間外在校等時間を月20時間程度に縮減することを目指して、まずは、今後5年間で、平均の時間外在校等時間を約3割縮減し、月30時間程度に縮減することを目標とする。」としていますが、文部科学省の調査によると2023年度に残業時間に相当する1ヵ月の「時間外在校等時間」が45時間を超える中学校教員が42.5%、80時間を超える中学校教員が1割もいるというのが実態です。本法案ではその実態から何を・どれだけ削減して月30時間になるかの工程表は何も示されていません。総理が今国会冒頭の代表質問で答弁されているように、時間外在校等時間を削減するために授業時数の見直しや校務DXなども進めるべきですが、月30時間に向けて具体的にどういった業務を削減し、どのように教職員を増やしていくのでしょうか。総理の答弁を求めます。(石破総理)

 また、「経済財政運営と改革の基本方針2024」、いわゆる「骨太の方針2024」では「教職の特殊性や人材確保法の趣旨、教師不足解消の必要性等に鑑み、教職調整額の水準を少なくとも10%以上に引き上げることが必要などとした中央教育審議会提言を踏まえる」ことが明記されたにもかかわらず、結果は文部科学省と財務省の大臣合意により、年1%の増額にとどまったのは何故でしょうか。少なくとも2030年度までに10%に引き上げることを約束いただけるでしょうか。それ以上の引き上げ、もしくは早期の引き上げもあり得るとお考えでしょうか。総理の答弁を求めます。(石破総理)

 子どもの不登校、いじめの認知件数が最多を更新、また、子どもの自死も過去最多となっています。子どもの貧困、外国ルーツの子ども、特別支援学校・学級に在籍する子どもも増えています。これら複雑化・多様化する子どもの課題に教職員が真摯に向き合ってきていることも、多忙化の大きな要因となっています。一方で教育の内容についても、道徳の教科化、小学校からの英語教育、プログラミング教育やがん教育など教える内容は増えるばかりで減ることはありません。学校に課せられるものが積み重なって、子どもにとっても「カリキュラム・オーバーロード」の状態にあります。また、国連子どもの権利委員会からは、日本の「競争的なシステムの是正」が指摘されています。子どもにとって現在の授業時間数は多過ぎて大きな負担になっているという認識はあるでしょうか。また、教職員が子どもと向き合う時間の確保の観点からも、業務を減らす、例えば学力調査のあり方や部活動の地域移行、学習指導要領の内容の見直しや授業時数そのものを減らすことなどが必要と考えますが、総理の答弁を求めます。(石破総理)

 地方公務員災害補償基金が取りまとめた「過労死等の公務災害補償状況について」によると、2019年からの5年間では、公務災害認定者の職種別構成比で、脳・心臓疾患は、地方公務員等の中で義務教育学校職員が一番多く、精神疾患等では義務教育学校職員が二番目に多い状況となっています。「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では過労死防止のためのポイントとして「時間外労働の上限規制の遵守徹底、過労死等の再発防止指導」が挙げられています。
 公立学校は教員に対して、給特法によって校外実習や職員会議に関する業務など超勤4項目を時間外勤務として命じることができる一方、それ以外の勤務は「自主的・自発的勤務」と整理され、持ち帰り業務の時間も計測されないことから、実際に勤務に従事している時間の把握・計測が難しく、過労死等の認定は非常にハードルが高くなっています。公務員の労働基準監督機能は、自治体においては人事委員会、人事委員会をおかない自治体においては首長とされています。公立学校の教員の時間外労働の上限規制を遵守させるためには、監督機能が不十分と考えますが、総理の答弁を求めます。(石破総理)

 給特法下においても、管理職・設置者に安全配慮義務はあり、前回の法改正後、長時間労働の要因である業務過重等について管理職・設置者の安全配慮義務違反が問われる判例が出されています。過労死等の防止には、しっかりと健康確保措置、安全配慮義務が履行されることが必要と考えます。罰則等を管理職・設置者に課す必要があるのではないかと考えますが、この点について総理の答弁を求めます。(石破総理)

 学校の働き方改革が進まない最大の原因は、労働基準法の第37条を適用除外とした給特法であることは明らかです。今回の改正では働き方改革や労働時間短縮の視点も欠如しており、改正内容は余りにも不十分なものです。少なくとも業務削減や働き方改革を具体的に進めるための修正を行うべきです。労働基準法とのズレを早期に是正し、将来的には給特法を廃止すべきと考えますが、総理の見解を伺います。(石破総理)

 我々が政権を預かった際には、速やかに給特法を廃止し、公立学校の教員が労働者としてしっかりと守られること、教員の超過勤務を解消し、労働環境を改善して、子どもたちのゆたかな学びを保障することをお約束申し上げ、私の質問とさせていただきます。

 ご清聴ありがとうございました。

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20250410「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑.pdf