立憲民主党は、4月7日、農林水産部門(部門長・金子恵美ネクスト農林水産大臣・衆院議員)・災害・緊急事態局(局長・近藤和也衆院議員)合同会議を岩手県大船渡市で開催、同市の林野火災による農林水産被害の視察を行い、綾里漁業協同組合及び大船渡市と意見交換を行いました。 合同会議の視察・意見交換には、金子恵美衆院議員(農林水産部門長)、近藤和也衆院議員(災害・緊急事態局長)、神谷裕衆院議員(農林水産副部門長)、渡辺創衆院議員(農林水産副部門長、災害・緊急事態局事務局長)、柳沢剛衆院議員(衆院農林水産委員会委員)、横沢高徳参院議員(岩手県連副代表)らが参加しました。
■林野火災現場の視察、意見交換
一行はまず、林野火災現場を訪れ、「東北食べる通信」の阿部正幸編集長から林野火災の当時の状況や、具体的な被害状況等について説明を受け、意見交換を行いました。
途中、車窓より、当初避難場所となっていた体育館、消火活動の拠点となった小学校の校庭、建設中の仮設住宅等を視察しました。
林野火災現場では、今なお、焦げ臭いにおいが立ち込めていました。
森林土壌である腐葉土は少し掘ると湿っていますが、現場では50cm下まで乾燥していたため、堆積した枯れ葉が激しく燃え、これが樹木に燃え移ったため被害が大きくなったとのことです。2月26日の火災発生は合足(あったり)集落が火元ですが、一行はその対岸の火災現場を視察しました。当日は、13時に出火し、13時5分に消防団出動、13時20分には合足地区に避難指示が出され、同地区の山上に火柱が立ち、風速18mで燃えた枝が対岸に次々と飛んできました。14時頃には同時多発で火災となり、15時過ぎには阿部編集長の自宅付近も燃えはじめ、16時過ぎに帰宅したときには周囲は火の海になっていたという生々しい説明がありました。
住宅については、地元の消防団、消防隊が事前に放水するなど尽力していただいたため、ある程度延焼を防ぐことができたとのことです。
森を見ると、茶色になっている立ち枯れのスギが散見されました。緑に見えている木も根元が燃えているため、水を吸えなくなっており、時間の問題で倒れてしまうことが予想されます。2017年に400haを焼失させた釜石の山林火災では、数年経過後に被害木が倒れた実例があるとのことです。
斜面の土は灰交じりで、踏むとすぐに崩れ、雨による土砂流出が懸念されました。
綾里地区は宮大工の町で林業が盛んです。そのため、人工林が多く、手入れされた森林や伐期を迎えた木が被害を受けています。
2017年の釜石での山林火災は、50年生の木が被害に遭いましたが、地権者が費用を出して再植林にこぎつけました。今般の火災の被害面積は釜石の7倍であり、樹齢もまちまちであるため、困難が予想されるとのことです。
■ワカメ加工施設の視察「綾里ワカメ大作戦!」の取組
次に、ワカメ加工施設を視察し、阿部正幸編集長による「綾里ワカメ大作戦!」の取組について説明を聴取しました。
綾里地区では、山林火災の影響で避難指示が出されたため、ワカメの刈り取りや出荷が2〜3週間ほど遅れました。ワカメ漁のシーズンは3月上旬から4月末ごろまでと短く、この時期に収穫しないと、ワカメが海の中で腐ってしまいます。3月10日に行われた避難指示解除がもう少し遅れていたら、全量廃棄の可能性もありました。
こうした中、阿部編集長は、避難指示によりワカメの収穫が遅れた漁業者を支援する取組を始めました。このプロジェクトは「綾里ワカメ大作戦!」と銘打ち、全国からワカメの加工、出荷作業などを手伝うボランティアを募集し、ワカメ漁師のもとへ派遣するものです。特に今年は、ワカメの生育がよく、量が多い状況にあります。収穫できなかったワカメは海に廃棄することとなるため、阿部編集長は、これを少しでも減らそうとボランティアとワカメ漁師とのマッチングを進め、現在、8軒のワカメ漁師のもとへボランティアを派遣しています。
■綾里漁業協同組合
次いで、綾里漁業協同組合を訪れ、和田豊太郎代表理事組合長らと意見交換を行いました。 和田組合長からは、「今回の森林火災により、自分の好きな漁船漁業も自分の代で終わりになってしまうのではないかと悲壮な思いをする中、避難しきれず組合の駐車場で夜を明かした人の気持ちを考え、組合員の生活再建が絶対大事であるという信念で、行政には組合の再興よりも組合員の生活安定が一番だとお願いしてきた」との説明があり、さらに「被災された人たちへの更なる支援をお願いしたい」との要望がありました。
現時点で漁協が把握している被害額は、漁協の共同利用施設のうち定置網倉庫が3億円、定置網が6〜7億円で、合計約10億円。漁業者の住宅を除いた漁業資材が4〜4.5億円で、総額約15億円です。
定置漁業については、「特例的な国庫補助の嵩上げにより先が見えてきた。一方、本年3月が2年に1度の定置漁業の従業員募集時期に当たっていたところ、山火事のために延期となり、人材が他の仕事に就いてしまうと呼び戻すことができないことが懸念される」との説明がありました。
また、網については、「綾里漁協での規格の網が県内外にあるのかどうかを調べてもらい、ゴールデンウィーク明けには何とか入手できそうだ」とのことです。
漁獲共済は水揚げがないと対象になりませんが、いつもよりも網入れが遅れてもある程度の水揚げは期待でき、漁業共済と積立ぷらすで経営を維持できると考えているそうです。
一方、漁業者の被災状況は深刻で、住宅は組合員のみで29棟損壊、倉庫・物置・長屋を入れると36棟が全焼、倉庫に保管していた高額な漁業資材も全部焼失、養殖ワカメ生産者66名中8名の資材がなくなりました。漁協が無償で貸し出すこととし、8名のうち2名は借り受けながら養殖ワカメを生産していますが、6名は家も倉庫もなく、避難所から通ってボイル加工するのは困難とのことでした。
定置網の倉庫について、保険に入っていない人が多く、仮に保険に入っていても中に保管してある漁具は対象にならないとのこと。水産庁と相談したところ、共同施設での対応の可能性もありますが、「今般の火災は集落を超えて飛び飛びで被災しており、漁業者としては倉庫は自宅に持ちたいと考えており、自宅から離れた場所の倉庫を利用するのは現実的ではない」との説明がありました。そのため、漁協としては義援金での対応等、市への要望を調整中とのことです。
5月後半から6月上旬にはウニ漁が始まりますが、資材がない人があり、早く発注しないと漁に間に合わないため、漁協の購買を通じて漁具を発注するとともに、市に支援をお願いしたいと考えているそうです。
漁業資材を調達できても保管場所がないため、がれきの撤去を早急に行い、プレハブでよいので建設をお願いしたいとのことです。市の支援内容が明確に見えてこないため、とりあえず漁協が義援金の中で準備したいとのことでした。
また、漁協からは流木に関する懸念も示されました。これまでも松くい虫の被害木が流れ着くことがありましたが、今後、台風や低気圧によって多量の樹木が流木となり、養殖施設や定置網への被害が危惧されます。流れ着いた流木は海水に浸かっているため、処理するまで半年ほど放置する必要がありますが、量によっては保管スペースが不足するのではないかと心配しているとのことです。
横沢岩手県連副代表より、「被災者生活再建支援金は現状300万円だが、これを600万円に引き上げる法案や、半壊以上の国の補助率を2分の1から3分の2に引き上げることなどを提案している。引き続き国の施策に反映させたい」と発言しました。
■大船渡市との意見交換
その後、大船渡市役所を訪れ、林野火災被害状況や対応等について意見交換を行いました。
大船渡市から、被害状況について「焼失面積は2,900ha、人的被害は1名死亡。家屋等の被害は住家を含め221棟、うち全壊が175棟。農業関係ではブロイラー・倉庫損傷。ブロイラーは約2,400羽が被害。鶏舎自体は焼失を免れ無事でしたが、1週間ほど避難指示が出されたため給餌できず餓死したもの。林業関係はシイタケ栽培施設、大型林業機械4台。水産関係は定置の倉庫、中に保管されていた定置網4セット、63組合員の倉庫・漁具。民間でアワビを生産している施設が停電のため水を送ることができなくなり、養殖していたアワビがへい死した」との説明がありました。
被害木の伐採について、「激甚災害の指定を受けた場合、発災年度を含む4か年度で伐採することとされますが、発災年度が前年度であり、令和7年度から9年度までの期間で伐採を行わなければなりません。その後の造林は5か年度以内という制約があります。林業に携わる人が減っている中、被害林野の再建は期間内では難しい。国が激甚指定し、特別交付税を考慮しても、実質的な市の負担は1割で、数千万円規模となります。能力的に実施できても財政的に問題があります。国には、事業期間の緩和やさらなる財政的支援を要望したい」との説明がありました。
水産関係については、「金曜日に農林水産大臣に来ていただき、一定程度の対策を示していただいた。ただ、その中に漁具の喪失に関する方策が示されていなかったため、支援の要望が考えられます」「養殖アワビは約250万個がへい死している。国内屈指の養殖アワビの施設であるが、このままでは事業の継続はかなり厳しい状況にあるため、支援をお願いできないか。へい死したアワビの処分、飼育水1,000トンの処理方法について、明確な方針が示されていないので、支援をお願いしたい」との要望がありました。
林業関係については「4台の林業機械が焼失したが、1台数千万円と高価なもの。林業機械を所有していた森林組合からは、新規購入に際しての補助があれば、という要望を受けている。時期をみて国に要請していきたい」との発言がありました。
住宅再建については「避難生活から一日も早く脱してもらうため、県が仮設住宅40棟の建設を進めており、みなし仮設住宅への入居募集をしているところ。仮設住宅については5月中旬に完成予定、みなし仮設住宅については4月中には入れる見込み。今回、住宅に被害を受けた方で、東日本大震災の被害を受けた方、二重被災の方にどういった支援をしたらいいのか、県が検討しているが、まだ方向性が定まっていない。大船渡市としても県と協力して検討するとともに、市独自の支援策を検討している」との説明がありました。
海水による消火活動の影響について「農地に海水がかかったが、畑や水田への影響はないと聞いている。林野の現地には入っていないが、業者からのヒアリングでは、海水がかかった樹木は、塩分を含んでいることから、製材する機械が壊れてしまうため利用できないと聞いている」との説明がありました。
土砂流出について、「下草が燃えており、土砂災害が懸念される。急斜面で民家がすぐそばにあり、梅雨を迎えるので心配している。流出した土砂により海水が濁ることも懸念している。現在、県が治山事業を検討している」との説明がありました。
被災者生活再建支援金について「300万円では足りないということは結構言われている。建設コストが上がっているので、心配されている方が多い」との発言がありました。
視察後、報道関係者の取材に対し、金子部門長は「先週、江藤農相が現場に入っているが、提示された支援メニューでは足りないという声をいただいた。このことをしっかりと関係省庁に伝え、現場のニーズに対応できる仕組みづくりを強く求めていきたい」と述べました。
近藤災害・緊急事態局長は、「住まいの確保、心理的なダメージに対する支援、人手不足への対応を強く求めていきたい。また、被災者生活再建支援金が300万というのは厳しいとの声もうかがったので、しっかりと動いていきたい」と述べました。
横沢岩手県連副代表は、「スピード感のある柔軟な対応が必要だと訴えてきた。今日、現場で伺った声に対し、党として国の対応を求めていきたい」と述べました。
