衆院本会議において4月18日、日本学術会議を特殊法人化する「日本学術会議法案」に対する趣旨説明と質疑が行われ、立憲民主党の市來伴子衆院議員が登壇しました。以下、予定原稿です。

「日本学術会議法案」に対する趣旨説明質疑

2025年4月18日
立憲民主党・無所属 いちき伴子

 立憲民主党のいちき伴子です。ただいま議題となりました「日本学術会議法案」について会派を代表してすべて坂井学内閣府特命担当大臣に質問いたします。

【はじめに】
 本法案は、76年もの歴史を刻んできた日本学術会議を「国の特別の機関」から特殊法人に変更する法案ですが、そもそも学術会議を法人化する立法事実はどこにあるのでしょうか。菅義偉政権において、2020年10月に学術会議より推薦された6名の候補が任命されなかったことが判明し、その直後に法人化の検討が行われました。つまり、この任命問題が法人化の端緒となっています。そのため法案審議にあたっては、まず任命拒否の経緯を明らかにする必要があります。なぜ6名の会員候補者の任命を拒否する事態となったのですか。石破総理は、ご自身の著書『保守政治家-わが政策、わが天命』において、任命拒否問題について「今回どういう手続きが踏まれたのかも明確にしておいた方がいい」と述べていますが、任命拒否について明確な理由を坂井大臣に伺います。
 その上で今回、なぜ学術会議を特殊法人に変更する必要があるのか、お答えください。総務省ホームページにおける説明によると特殊法人は「企業的経営になじむもの」とありますが、学術会議は企業的経営になじむのでしょうか、伺います。
 今週4月15日、学術会議は総会を開き、「科学者の代表により起草された現行法を廃止し、日本学術会議の理念や組織の骨格を定める内容の法案を政府が提出したことは、遺憾と言わざるを得ない」などとの声明を発表しました。また、総会において法案修正を求める決議が承認され、光石会長は「76年の歴史の中で極めて重要な決議」と述べています。学術会議のこれらの声明や法案修正を求める決議に対する見解を伺います。

【学術会議の独立性】
 本法案で学術会議の独立性をどのように担保するのか伺います。
 学術会議の業務を定めた本法案37条には現行法3条の「独立して」の文言がありません。なぜ「独立して」の文言を省いたのですか、伺います。
 新法人に関する組織体制は極めて複雑です。内閣総理大臣が任命する「監事」、内閣府におかれる「評価委員会」、外部有識者が務める「選定助言委員会」、「運営助言委員会」が設置されます。監査、評価、助言と多重な監督により学術会議への関与を強め、管理強化となるおそれはないですか、見解を求めます。また、250人の組織に少なくとも22人もの外部の者が関与することになりますが、これらの委員や監事などに天下りを含めた政府関係者が就く可能性はあるのでしょうか、伺います。

【監事】
 内閣総理大臣が任命する二人の監事は、報告、監査のみならず、学術会議が総理大臣に提出するすべての書類を調査し、会長または総理大臣に意見を提出できるとあり、35ある他の特殊法人のなかで最も強い権限を持つとされています。監事の任期は3年ですが、再任に制限はなく、実質的に一人の者が務めつづけられる唯一の役職です。なぜ、監事には再任の制限がないのでしょうか、再任制限を設けるべきではないですか、伺います。
 会長の行為が利益相反事項にあたる場合、監事は学術会議の代表権を行使できるとされています。監査役である監事が代表権を行使するのは相応しいのでしょうか、伺います。監事に権限が集中しないよう、代表権を有する者を総会が事前に定めておくなど他の方法を講ずるべきと考えますが、見解を伺います。
 このような監事の強い権限は学術会議の活動を萎縮させる可能性はありませんか。政府の意向が監事を通して活動全般に及ぶことのないよう監事のあり方を見直すべきだと思いますが、見解を求めます。

【新会員の選考】
 発足時に新会員を選考する「候補者選考委員会」の委員は、内閣総理大臣が指名した有識者と学術会議会長が協議の上任命するとしていますが、なぜ、発足時に政府が関与する特別な選考を行うのでしょうか。会員選考がゆがめられる恐れがあり極めて不自然です。「候補者選考委員会」の委員は、現会員の中からも選定できるのか、伺います。
 発足時の「候補者選考委員会」は、3年後の「会員候補者選定委員会」にそのままスライドすることになっており、同じ委員が2回にわたり会員を選定することになります。現学術会議の会員は3年後の会員更新時に再任されないため、実質的に現会員との連続性はなくなり、学術会議を変質させるのではないかと危惧するものです。会員選考にあたっては、政府側の恣意的な選考とならないように「候補者選考委員会」をやめて、学術会議が選考すべきと考えますが、見解を伺います。
 選定された新会員の候補者は、内閣総理大臣が権限の一部を委任した「設立委員」が指名するとしています。つまり、新会員は実質的に内閣総理大臣が指名することになるとの疑念が拭えません。他の特殊法人において、内閣総理大臣がすべての構成員を指名する法人はあるのでしょうか、伺います。
 新会員の候補者の選定にあたって「先端的、学際的又は総合的な研究分野」、「行政、産業界等との連携」などと配慮事項が明記されていますが、「先端的、学際的又は総合的な研究分野」とは何を指すのか、伺います。「行政、産業界等との連携」とありますが、民間企業の研究者が会員となることを想定しているのでしょうか、伺います。
 現在約2000人が所属する学術会議の連携会員について何ら規定されておりません。連携会員については廃止するのでしょうか、伺います。

【評価委員会】
 内閣総理大臣が任命する外部有識者による「評価委員会」は、学術会議の自己点検評価の方法及び結果を評価し、学術会議は自主的に策定する中期的な活動計画に評価委員会の意見を反映させなければならないとしています。評価対象となる具体的な範囲と内容について伺います。
 政府が学術を評価することは、憲法23条で定められた学問の自由が脅かされかねません。日弁連は、本法案について「独立性・自律性というナショナル・アカデミーとしての生命線ともいうべき根幹を損なうものであり、学問の自由に対する重大な脅威ともなりかねない」と警鐘を鳴らしていますが、「学問の自由」との関係をどのように考えているのか、見解を求めます。また、独立性が担保されるべきナショナル・アカデミーを政府が評価する国は他にあるのか、伺います。

【助言委員会・事務局等】
 「選定助言委員会」は、アカデミア全体や産業界等から会長が科学者を任命し、会員選考方針案などに意見を述べるとされていますが、会員の選定は、学術会議が独立性・自主性を確立するための中心的な要素であり、適当でないと思いますが、見解を伺います。また、「選定助言委員会」は個別の会員選考には介入しないという理解でよいか、伺います。
 外部の知見を取り入れるために設置される「運営助言委員会」について、政府は「会員ではカバーしきれない分野の人たちから適切なサポートを受けていくために活用されることが想定されている」と説明していますが、業務の肥大化を招くのではないでしょうか、見解を伺います。
 新法人の事務局体制について、「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」では、「アカデミアと政府・産業界などの実務をつなぐ、いわばファシリテーターのような役割」としてリサーチ・アドミニストレーター等を配置する必要性があるとされていますが、事務局の人選に政府が関与する余地はあるのか、事務局の人選は学術会議が行うべきではないですか、伺います。また、事務局に官僚は出向するのか、出向する場合はその規模を伺います。
 学術会議の財源について、政府から長期的に十分な補助が行われるのか、伺います。世界の学術から孤立しないよう国際学術団体への分担金を支払う十分な財源を補助すべきと考えますが見解を伺います。また、自主財源に関する規定はありませんが、どのように考えているのか伺います。

【罰則・賠償規定等】
 役員および会員に対し、任務を怠った時の損害賠償責任を課していますが、どういった事案を想定しているのでしょうか、伺います。また、職務上知ることのできた秘密に守秘義務を課していますが、現学術会議は人事案件以外の議論については公開が原則です。人事案件以外に守秘義務の対象となる秘密とは、どのようなものを想定しているのか、伺います。
 本法案49条では、内閣総理大臣が必要と認めたときは職員が学術会議の事務所に立ち入り、帳簿、書類、その他必要な物件を検査できるとし、50条では不正行為の「おそれがあると認める」場合にも是正措置を講ずることを求めることができるという強力な介入が明記されています。政府の介入が極めて強い立ち入りや是正措置は見直すべきと考えますが、見解を伺います。さらに罰則規定を設けていますが、この規定は役員および会員を萎縮させるものでしかなく、必要性が見当たりません、見解を求めます。

【学術会議の使命】
 今回の法改正により、「科学者の国会」ともいわれるナショナル・アカデミーの存在意義が揺らぐのではないかという懸念があります。現学術会議の使命として前文で謳われた「科学者の総意のもとに」、「平和的復興」、「人類社会の福祉に貢献」の文言を削る一方、新法人の目的を「学術に関する知見を活用して社会の課題の解決に寄与する」としていますが、政府のいう「社会の課題の解決に寄与する」ことは何を指すのでしょうか、伺います。2022年12月に内閣府が発出した「日本学術会議の在り方についての方針」にある「政府等と問題意識や時間軸等を共有」することが本法案に維持されているのか伺います。

【むすびに】
 学術は独立した自由な営みがあってこそ進歩すると考えます。時の政府の政策を誘導するために都合よく利用するものであってはならず、耳の痛いことでも真摯に向き合うことこそが、民主主義のあるべき姿です。こうしたことが守られるのか徹底的に審議することを求めて、私の質問を終わります。

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