参院本会議で5月28日、「日本学術会議法案」について代表質問が行われ、石川大河参院議員が登壇しました。予定原稿は以下のとおりです。
日本学術会議法案 趣旨説明質疑
2025(令和7)年5月25日
立憲民主・社民・無所属 石川大我
立憲民主・社民・無所属の石川大我です。私は、会派を代表し、「日本学術会議法案」について質問をします。
先ず、法案の経緯、についてお尋ねします。本法案は、76年にわたり続いてきた日本学術会議のあり方を根本的に変えるものです。2015年に出された、「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」の報告書は、「現在の制度は、日本学術会議に期待される機能に照らして相応しいものであり、これを変える積極的な理由は見出しにくい」と述べています。10年ほどの間に、組織の根本的な変更を必要とする事情の変化が果たしてあったのか、坂井大臣に伺います。
今月16日、2018年の安倍政権下で、任命拒否を可能とした法解釈の内閣法制局審査資料の黒塗について、東京地裁が違法と断じ、全ての箇所を開示すべきと判示しました。判決は文書を「従来の運用を大きく変える」ものとし、墨塗箇所について、「公開される公益性は極めて大きい」と述べています。しかし、これに対し国は、あろうことか26日に東京高裁に控訴しました。
坂井大臣に質問します。墨塗箇所は、任命に関する考え方、すなわち総理が任命拒否できる場合の法解釈が書かれているはずですが、具体的にどのような任命拒否の要件が書かれているのですか。また、その考えは、政府が答弁してきた2020年の菅総理による任命拒否の『総合的、俯瞰的』との判断の根拠となっているものなのですか、あるいは、それとは関係のないものなのですか、お答え下さい。
2018年11月13日の最終の解釈文書では、事前の10月30日の審査で形式的任命の概念が破棄されたことにより墨塗箇所も削除され、任命拒否の要件が何もない無限定な解釈となっています。墨塗箇所が開示されない限り、菅総理の6名の学者の任命拒否の正当性の判断は出来ず、改正法案の審議の前提を欠くのではないですか。坂井大臣、見解をお示しください。
また、これに関して、10月30日以前の内閣法制局審査資料には菅総理の任命拒否が違法であることを政府が自白する「内閣総理大臣に(任命)拒否の権能はない」、「総理の任命行為は・・・形式的なものと解している」、「実質的な任命権は日本学術会議にあり」などの文言が記されています。坂井大臣に伺いますが、これらの文言を削除した理由はなぜですか、また、一般論として、これらの見解は政府の現行の学術会議法の解釈と整合するのですか、それとも誤った解釈なのですか、お答え下さい。
更に、重要な問題を指摘します。各資料の墨塗箇所は総理の任命拒否の要件などが記載されている、すなわち、総理の学術会議への問題意識の根幹が記されているものですが、これらは今回の改正案において、総理任命である監事や評価委員、更には、総理指定の設立委員についての総理の判断基準の根幹であるはずであり、それが記された墨塗の開示なくして改正案の審議は許されようがないのではないですか。また、政府は先週の23日に、改正法と現行法の法解釈は関係がない、などと答弁していますが、政府の学術会議への関与の問題意識は変わらないはずですが、なぜ関係がないと言えるのか、坂井大臣、具体的に説明下さい。
これに関係して、衆議院の審議の際に、坂井大臣は、「党派的な主張を繰り返す会員は学術会議が解任できる」といった答弁を行いました。学術会議が判断するとは言っているものの、何が党派的な主張に当たるかの判断は難しく、そうした判断自体が党派性を帯びることにもなりかねません。このような仕組みは、形を変えた任命拒否です。坂井大臣の「党派的な主張を繰り返す会員は学術会議が解任できる」という答弁のような判断が本当に可能とお考えなのか、またそもそも、党派性を理由に会員を解任することが許されると今もお考えなのか、更には、坂井大臣の答弁の問題意識は墨塗箇所にその意味するところが、書かれているのか、坂井大臣に答弁を求めます。
他にも、本改正案と墨塗箇所の関係を裏付けるものがあります。13回にも及ぶ内閣法制局審査の7回目の資料でそれまで存在していた「日本学術会議は、独立した立場から」という文言と、「学問の自由は憲法で保障されているところであり」という文言が削除されています。学術会議の独立の文言削除と学問の自由への侵害は、本改正案で学術会議側も最も危惧する争点です。なぜ、当時、これらの文言を削除したのかその理由を答弁下さい、そして、その理由と密接に関係するはずの墨塗箇所の開示なくして本改正案の審議を求める資格は政府にはないのではないですか、坂井大臣の答弁を求めます。
また、この墨塗資料は、憲法の定める議会制民主主義そのものの否定行為です。これまで内閣法制局審査資料の解釈部分に墨塗がなされたことはない、と承知しています。墨塗のままでは、国会として、政府の「任命拒否可能」の法解釈の正当性そのものが判断できず、本改正案の正当性も判断できません。そして、このような墨塗が許されるのであれば、国会による政府の法解釈への監督は一切できなくなり、我が国の法の支配が崩壊します。このことについて、東京地裁判決は、「現時点で整理した法解釈及び運用だけでなく、当該法解釈及び運用が整理される経緯や理由についても、国民に十分に明らかにされ、吟味される必要がある」、「このように解することは、情報公開法の理念とも整合する」と判示しています。憲法が定める国会の政府監督権を否定する墨塗の即刻の開示を行うべきではないですか、坂井大臣の見解を問います。
以上のような問題を有する墨塗の開示については、令和2年12月17日付での「内閣委員会理事会協議案件」となっていました。墨塗は参議院の内閣委員会に対して行われている暴挙であり、墨塗のままの委員会審議は内閣委員会を否定し愚弄する行為であるのではないですか、そして、墨塗を開示しないまま改正案の審議を求めることは許されないのではないですか、坂井大臣の見解を問います。
次に、改革の方向性や理念について質問します。法案は、「独立性」という、学術会議が訴えるナショナルアカデミーの5要件における最も本質的な要素についての規定もありません。国から独立した法人格を有するというだけで、活動の独立性が保障されるわけではありません。むしろ、現行法と同様に、独立性という文言を規定することが改正法全体の運用指針となるはずです。政府が本当に学術会議の独立性を尊重する意思があるのであれば、明確に法案に記述すべきです。坂井大臣、ご答弁ください。
次に、会員選考の自主性・自律性です。現在の学術会議が採用するコ・オプテーション方式は、主要国ナショナルアカデミーのスタンダードです。しかし、法案では、新法人発足時の会員選考、さらにその3年後の会員選考について、会員以外のものを含む候補者選考委員会が、新会員の候補者を選考するという仕組みです。
なぜ、現会員が入れ替わるまで、このような不自然ともいえる仕組みをとる必要があるのか、また、法案が定める特別な選考の仕組みが、なぜ現在のコ・オプテーション方式より優れていると言えるのか、その理由について坂井大臣の答弁を求めます。
次に、監事についてです。政府の官僚だった者が監事に就く可能性を大臣は衆議院で否定されませんでしたが、これは、いわゆる天下りではないでしょうか。政府の意向を天下った元官僚が監事となり学術会議に反映させる。独立性が脅かされる危険性があり決して許されません。天下りは禁止すべきではないですか。坂井大臣に明確な答弁を求めます。
法案では、内閣総理大臣が任命する委員から構成される評価委員会が内閣府に設置されます。委員会は、「自己点検評価の方法及び結果」や「中期的な活動計画」について、意見を述べることとされています。この意見が、学術会議の活動の本質的な部分にまで、影響を及ぼすのではないでしょうか。また、「中期的な活動計画」については、独立行政法人などの中期計画との違いが不明瞭です。問14】政府が、学術会議の業務の事細かな管理を意図しているのではないかという疑念も生じます。中期的な活動計画や評価委員会といった仕組みを通じて、学術会議の活動の独立性が損なわれない、と言えるのか、その理由を坂井大臣の見解を求めます。
安定した財政基盤の保障という点でも、法案には「必要と認める金額を補助する」とのみ規定されており、補助金を通じ、政府が学術会議の活動に影響力を及ぼすことが出来ることは明白です。
また、今の時代、公費だけに頼らずに、外部資金の獲得に努めるべき、との意見は一見するともっともです。しかし、それでは、具体的には、どのような組織から資金を獲得することを想定しているのでしょうか。また、原子力産業や防衛産業、製薬会社など、特定の企業や団体、組織などから資金を受け取れば、その意向に従った調査研究が行われる危険性もあります。中立性にも疑義が生じます。そうした危険、疑義は生じない、とするならばその理由とその企業や組織が、外国の“日本に好意的でない勢力”と繋がっている可能性をどう排除するか。坂井大臣の明確な答弁を求めます。
本法案は、「日本学術会議の機能強化に向けて、その独立性、自律性を抜本的に高める」ため、とされています。しかし、独立性や自律性への配慮よりも、政府によるガバナンスをいかに強化するかを最優先に設計されたもの、と言わざるを得ません。
トランプ政権のアメリカを見てください。民主主義の下においても、さまざまな政府の権限を背景に、大学に対し、多様性推進などを問題視して、補助金を凍結したり、留学生受け入れ資格取り消しを発表するなどの圧力をかけています。
トランプ政権が行なっている「学問の自由」への侵害と今回の法案が目指すものと、どこが違うのか、坂井大臣、明確にお答えください。政府の方針に反する大学などのアカデミアは潰してしまえ、と言わんばかりの今回の法案は極めてトランプ政権の行為と類似性が高いと言わざるを得ません。支持率低下の現政権の焦りなのか、離れる一部保守層を再び惹きつける道具として本法案を提出したのではないしょうか。立法事実がない本法案は、選挙対策法案と言っても過言ではありません。
アカデミアへの政府の介入は民主主義の自殺行為です。政治的介入に影響されることなく、日本の未来に対して提言することができるのが、科学者の最高組織であるナショナルアカデミー日本学術会議です。日本学術会議の独立性を法文、運営において、明確に保障することが、国際的に日本政府の「品格」を示すことでないでしょうか。
私たち立憲民主党は、学問の自由を守り、学術会議の独立性を担保する修正案を準備しています。野党各党の皆さまにおかれましては、広くご賛同いただきますよう、お願い申し上げます。また、政府与党におかれましては、法案の正当性判断の前提である墨塗箇所の即刻の開示とともに、内閣提出の「日本学術会議法案」は、廃案にし、修正案に真摯に向き合って頂きますよう、強く申し上げて、質問を終わります。
ご清聴ありがとうございました。

