立憲民主党など野党は11月7日、旧統一教会問題に関する第25回目となる国対ヒアリングを実施しました。

 今回は、元エホバの証人3世の夏野ななさん(仮名)、同元2世の団作さん(仮名)、一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」から荻上チキさん(代表理事)、若林直子さん(理事)、岩本室佳さん、町田彩夏さんと、関係省庁が参加して行われました。

■元エホバの証人3世の夏野ななさんの話

20221107_105625_02_re_rez.JPG

 夏野さんは現在30代で東京在住の女性。両親、父方の祖父母、母方の祖母、叔母がエホバの証人の信者という家庭に生まれた3世で、両親の別居や小学校入学に伴う引越しなどを経て、10歳で祖母が家を出てからは父との二人暮らし、その後中学生になり夏野さんが家出を繰り返すなどで祖父母・叔母が呼び戻され5人で暮らしていたと話しました。

 3歳頃からの記憶で週3回、宗教の教義を聞き勉強をする集会への出席を強制され、また長期休みには長いと3日間施設に集まり朝から夕方まで講義を受ける大会というものがあったと説明。集会や大会で話を聞いていなかったりすると、トイレに連れていかれ「鞭」をされたと語り、「鞭」は下着をとられお尻を出した状態で叩かれるもので、夏野さんの家では小さいうちは平手で、その後は父親の革ベルトだったと話しました。また、信者同士で何を使えば効率的に子どもにダメージを与えられるかという話し合いが日常的にされていたと語りました。

 保育園や幼稚園は悪い影響を受けるからと行かせてもらえず、アニメや漫画やゲームなどの娯楽は全て禁止。クリスマスや誕生日、七夕やひな祭り、お正月やお盆などのありとあらゆるイベントも禁止されており、小学校に入学してからも幼稚園で覚える歌や遊びのルールも知らず、共通の話題がなく友だち作りに大変苦労したと語りました。

 小学校高学年の頃には鞭に性的な羞恥心も覚えるようになり、毎日いつ自殺しようか本気で悩み、毎日ベランダから下を見て死ねるかどうかを考えていたが、実際には飛び降りる勇気はなかったと語る一方で、今でもあの時飛び降りていればよかったと思っているとも話しました。

 士業を志し、中学校受験をしたかったが宗教活動に割く時間が減るからと許してもらえず、また中学生になり親に内緒で先輩と付き合うようになったが、それが発覚し「不道徳だ」と言われ邪魔をされ、家出をしたが警察に捜索願を出され何度も連れ戻されたと語りました。警察でも鞭や体罰を含め話したが児童相談所に繋いだり、保護されることもなかったと話しました(児童虐待防止法が施行後の2001年の話)。

 最終的には暴力に訴え家出を完遂したものの、中学生が一人で生きていくのは宗教とは違う地獄だったと語り、「家に帰れない女子中学生に群がるのがどういう類の大人かはみなさんも想像に難くないでしょう」と話しました。

 今回、発言するに至った理由として、同じ境遇の子どもたちを救いたいということを挙げ、顔を出して発信しているのは、エホバの証人という団体名が報道されないことに疑問を感じてるからだと述べました。

 「私たち過去に被害を受けた者が未来ある子どものために発信していくしかない」と述べ、国に望むこととして、子どもが親に信仰を強制されないことや学ぶ機会が奪われないことを挙げました。

 議員から今は団体との繋がりがないかと聞かれると、祖母や父が信者なのでアプローチがあり、特に祖母から「戻ってこないと滅ぼされる」と連絡をとれば日常的に言われていると語り、その他にも住んでいる最寄り駅の前で団体が勧誘活動をしているのを見ると、つらい気持ちを思い出し、心が不安定になったり、嫌な気持ちになると話しました。

■元エホバの証人2世の団作さんの話

20221107_112358_re_rez.JPG

 団作さんはオンラインで参加。10月末に、宗教を背景とした虐待や人権侵害を救済する法整備を求め各政党に要望書を提出した宗教2世当事者の一人。最初に強調したのは、「絶対に譲れないお願い」として本件を取材しているメディア関係者に対して、エホバの証人という団体名を出して欲しいと語り、特に一番注目を集める見出しに出すよう求め、宗教2世の覚悟と思いを受け止めてほしいと訴えました。

 続けて、旧統一教会とは違い、エホバの証人に関連する事件が最近起きていないので報道できないというのは「勘違いだ」と語り、「事件は起き続けている」「宗教活動と信教の自由を隠れみのに親、家族、多くの信者が一体となって子どもたちを虐待し、権利を侵害し、自由を踏みにじってきた」と指摘しました。

 児童虐待や権利侵害から救うためにエホバの証人の団体名を出すことは公益性があると語り、「信教の自由は無制限の権利ではない。ましては他者の権利を奪うものではない。これをわたしたちは1995年3月20日に学んだはず」だと訴えました。そして「一人ひとりの人生を見て聞いて丁寧に報道してください」と訴えました。

 また、「旧統一教会2世ら」「旧統一教会2世たち」「旧統一教会とは別の宗教団体2世」といった記事をたくさん見てきたと述べ、「屈辱の極み」だと語り、「多くのエホバの証人の2世の被害や人生は、旧統一教会のついででも、その他に括られるものでもない」と訴えました。

 また夏野さんの鞭の話に関連し、自ら受ける体制を取るよう指示をされ、指示に従わなかったり逃げ出したりすると鞭の回数が増やされるなどもっと酷い目に遭うことを経験上理解しているため、素直に従うしかないと語りました。

■「宗教2世」当事者の実態調査(チキラボ)

20221107_103700_01_re_rez.JPG

 荻上さんは、チキラボが9月に行った宗教2世(3世以降も含む・以下も同様)に関するウェブ上でのアンケート調査について報告しました。

 この調査は新興宗教に限らず、宗教2世当事者を対象に「その体験がどういったものだったのか」「その後の人生をどう生きたのか」「いま政治に求めるものは何か」などを幅広く聞き、社会が当事者の視点取得を行うとともに、議論が必要な論点を共有することを目的に行われました。スノーボールサンプリングで行っていることから回答者の経験などを具体的に把握することが可能となる一方で、回答者の偏りから「日本の宗教2世」を代表するようなデータにはならないことや「より強い被害に遭った人」や逆に「自分の宗教には問題がないと思わせたい人」などが回答する可能性があります。(詳しい結果はこちらで確認できます。https://www.sra-chiki-lab.com/reaserch-result/)

 調査では、入信宗教のタイプを「仏教系」「神道系」など複数の選択肢から回答されたものの他、任意の自由記述で教団名を記入する項目で上位3つを占めていた「創価学会」「エホバの証人」「旧統一教会」についてはアフターコーディングされ集計が行われました。

 回答者の多くは、宗教をめぐる社会的な改善を求めており、「子どもでも親から教団から安全に離れられる制度」(73.0%)が最も多く、「社会問題を起こした宗教団体への解散命令や法人格の取り消し」(71.9%)、「カルト教団の定義と規制法」(67.3%)、「宗教トラブルについての法律相談」(62.5%)などが続きます。

 荻上さんは、宗教や宗派ごとに課題が違うと述べ、キリスト教系(特にエホバの証人や旧統一教会)の場合、「デートをしてはいけない」「婚前交渉などをしてはいけない」などの性に関する規範意識やタブー意識が高く、「男らしくあれ、女らしくあれ」「性的マイノリティに対する攻撃的な感覚」が高いと説明しました。

 また、エホバの証人の回答者のうち、8割以上が家族からの体罰を経験しており、、また他の宗教の回答者を比べ著しく大学進学率が低い状況にあると語り、「世の人と交わってはいけない」「教育などするよりも、さまざまな祈りの時間に捧げなさい、世の中が終わるのだから」といった形で学業から遠ざけられていたと説明しました。

 「信心のおかげで成功できたんだね」との頻繁な声がけ経験が最も多かったのが創価学会の回答者だったのに対し「ちゃんと祈らないから失敗したんだ」「地獄に落ちますよ」といったネガティブな声がけはキリスト教系、とりわけ旧統一教会やエホバの証人の回答者に目立ったと述べました。

 9割ほどの回答者が12歳以下の段階で2世信者となっていると説明した荻上さんは、「宗教2世問題を親子関係に矮小化する動きがあるが、違う」と述べ、(1)親がおかしいと思ったとしても他の信者集団が同じことをしており「こういうものなんだ」と信じやすい環境に置かれがち(2)特定の教義などがあり、「世界はこのようにできている」「このように考えるのが正解」といった考え方や、ものの見方を意図的に連続的に集団的に子どもに与えられ続ける――と指摘しました。

 提言としては、次の6点を挙げました。

○事件後、さまざまな当事者が声を上げているが、それらは決して特殊なケースでもなければ、個別家庭の問題にとどまるものでもなく、多くの2世が共有しているものであった。また、そこで求められている対策(虐待対策や自立支援他)には、多くの当事者が求めているものと重なっていることが確認できた。

○信仰の自由を奪い、信仰を口実に行われる「宗教的虐待」から、子どもが離脱できる権利を確保すること。そのために、「宗教的虐待」の存在を前提とした福祉ネットワークの再構築が必要となる。

○また、問題のある宗教団体に対しては、子ども救済の観点からの社会的対応が必要であることが確認された。教義に立ち入ることは信仰の自由の侵害となるが、虐待行為、及びその推奨については、反社会的行為としての介入も必要となると考えられる。

○虐待定義の拡張、消費者被害の救済、子どもコミッショナーや子どもシェルターの確保、教育ネグレクトなどへの介入、宗教トラウマへの広範な保険適応、社会適応プログラムなど、現代日本において不足している支援パートの拡充が必須であると考えられる。

○あまり論じられていない問題としては、しつこい再勧誘などの「宗教的つきまとい」などから、適切に距離を取れる手段を持つこと。「脱会」手続きの透明化なども重要であると考えられる。

○「2世問題は旧統一教会だけではない」「宗教法人だけではない」「いっときの問題で終わらせないでほしい」という自由記述が多かった。他方で、宗教2世問題にクローズアップされることで、宗教全般へのスティグマにつながることを懸念する自由記述も多かった。宗教全般、2世体験全般をネガティブに語るような発信には、くれぐれも注意が求められる。