衆院本会議で2日、「地域的な包括的経済連携協定」いわゆる「RCEP」に関する趣旨説明と質疑がおこなわれ、立憲民主党の小熊慎司議員が登壇しました。RCEPに関して、(1)安全保障への影響(2)サプライチェーンとの関係(3)知的財産権保護(4)日本農業への影響(5)ミャンマーへの対応――などについてただしました。

 質問に先立ち茂木敏充外務大臣はRCEPへの承認を求める件の趣旨に関して、「本協定は物品及びサービスの貿易の自由化及び円滑化を進め、投資の機会を拡大させると共に知的財産、電子商取引等の幅広い分野での新たなルールを構築すること等を内容とする経済上の連携のための法的枠組みを設けるもの」と説明しました。この協定の締結により、「世界の成長センターであるこの地域とわが国との繋がりがこれまで以上に強固になり、わが国及び地域の経済成長に寄与することが期待される」などと述べました。

 それに対して小熊議員は、RCEPが経済連携協定ではあるものの、その経済・通商上の側面だけでなく、地政学的な意味合いも考えなければならないと説きました。特に米中対立が深刻となる中、ウイグルの人権問題、ミャンマー情勢などアジア太平洋地域にも不安定な要因が目立っていると指摘し、「RCEP協定がこうした不安定な要因を助長するようなことになってはならない」と政府に警鐘を鳴らしました。さらにRCEPが中国主導の枠組みとなるのではないかなどの懸念の声を紹介し、「地域の平和と安定のためにどのように活用していく考えか」と外務大臣に所見を求めました。

 外務大臣は、「(RCEPは)ASEANが推進力となって交渉が進められ合意に至ったものであり、中国主導の枠組みであるとは認識していない」「RCEP協定を通じて地域における経済秩序の形成に主導的役割を果たしていきたい」などとの見解を示しました。

 RCEPによって日本が中国と経済連携協定を初めて結ぶことになるため、それが尖閣諸島問題に影響を与えないか懸念を示しました。中国による尖閣諸島での挑発がある中、RCEP締結となれば、「この程度なら日本は許容しているというシグナルを中国に送ることにはならないか」と指摘し、「そういった懸念を払しょくするため、日本政府は中国及び国際社会に対して、どういった説明や対応を考えているか」と答弁を求めました。外務大臣は、「正確な情報を発信し理解と支持を得ることは重要であり引き続き取り組んでいく」などと述べるにどどめました。

 新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けたサプライチェーンの問題についてもただしました。日本でもサプライチェーンの脆弱性(ぜいじゃくせい)、中国依存の高さが明らかとなり、生産拠点の国内回帰や多元化などサプライチェーンの強靭化が喫緊の課題になっていると指摘しました。「本協定を締結することによって、中国への依存が更に高まり、サプライチェーンの強靭化を損なう懸念がないのか」と政府の見解を求めました。

 梶山弘志経済産業大臣は、「協定の締結はサプライチェーンの強靭化に資するものであり、特定の国への依存度を高めることにはならない」と答弁しました。その理由として、「全てのRCEP参加国が関税を削減、撤廃することで日本国内で製造して相手国に輸出するという選択肢を取りやすくなり、結果的に日本国内の製造基盤の維持強化につながる」などと答えました。

 知的財産権侵害が後を絶たない中国の現状についても疑問を呈しました。中国では、WTO加盟を機に知的財産保護に関する法制度が整備されつつあるというが、模倣品・海賊版等の不正商品の問題が続いていると指摘しました。「問題は、法制面ではなく実態面と言える。本協定でも知的財産の保護に関する規定が置かれているが、その実効性をどのように確保していくのか」と追及しました。外務大臣は、締約国が協定の規定と相容れない措置をとった場合、「協定に規定された協議メカニズムや紛争解決手続を活用して適切に対応していく」と答弁しました。

 物品の貿易、特に農林水産品についても質問しました。RCEPによって、巨大市場である中国へのほたて貝やパックご飯など、日本の輸出関心品目の関税撤廃が獲得されていることは輸出拡大につながると評価しました。ところが、関税撤廃を獲得した品目の中でも、イチゴやブドウのように中国が検疫条件を設定していないため、輸出できないものもあることを明らかにしました。こうした関税以外の輸出障壁の撤廃に対してRCEPが「どのような効果をもたらすのか」など、輸出障壁への対策を聞きました。

 これに対して農水大臣は、「本協定では衛生植物検疫措置いわゆるSPS措置に関する手続きの透明性の確保にかかる義務を規定する他、自国と他の締約国との間の貿易に影響を及ぼしていると認める場合には技術的協議を要請することができ、同要請が行われた場合には原則として30日以内に協議を行う義務を定めている。本協定が発効すればSPS措置に関する協議について本協定に基づく協議の場も活用することができるようになる」と答弁しました。

 また、RCEP参加国の中には、東京電力福島第一原子力発電所事故を理由として、日本の農産品等に科学的根拠に基づかない輸入規制を課している国があることを取り上げ、「これまで通りの積み重ねでなく新たな取り組みのもと、どのように規制解除を働きかけていくのか」をただしました。外務大臣から「輸入規制措置を維持するRCEP署名国に対してさまざまな機会をとらえて更なる働きかけを行っていく」との答弁を引き出しました。

 2月1日にクーデターが発生して以来、国軍が抗議デモに対し弾圧し多数の死者を出すなど、事態が悪化の一途を辿るミャンマーとRCEPとの関係について政府の姿勢をただしました。このままミャンマーが軍事政権下でRCEPに定められた締結手続きを完了した場合、軍事政権を承認するのか否かについて見解を求めました。外務大臣は、「RCEP参加国とも緊密に意思疎通ながら今後の対応を検討する」と述べるにとどめました。最後に小熊議員は、ミャンマー国軍の暴挙に触れ、「アジア地域の安定、世界平和のために日本外交が非道な国軍に加担することなく王道を進むことを求める」と力を込め、質問を終えました。

20210402-131818.jpg