衆院本会議で4月15日、近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に鑑み、(1)事業者が通報者に対して不利益な取り扱いをした場合の刑事罰の導入(2)民事裁判になった場合の立証責任の転換(3)公益通報者の範囲拡大(4)通報者を探索する行為の禁止(5)事業者に対する立入検査権限の新設――等を盛り込んだ「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」が審議入りし、尾辻かな子議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下の通りです。
「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑
2025年4月15日
立憲民主党・無所属 尾辻 かな子
立憲民主党の尾辻かな子です。私は会派を代表し、「公益通報者保護法改正案」について、全て伊東良孝内閣府特命担当大臣にお聞きします。
公益通報者保護法は、不正を正すために勇気を出して声をあげた人を守るための法律です。2006年に施行され、19年が経過しました。今回、2度目の改正となります。この間、内部通報者によって明らかになる事象も増え企業の体制整備も行われてきましたが、一方で内部通報を契機とした探索行為や報復行為により通報者が甚大な不利益を被り、時には因果関係の立証はできませんが、お亡くなりになるような事件も起こっています。今回の法改正により進む部分もありますが、不十分な点がいくつもあるため、順次質問をしてまいります。
まず、公益通報者保護法の根本的な課題として、その仕組みの複雑さがあり、公益通報を行おうとする者にとっても仕組みの理解が難しいことがあげられます。さらに、公益通報者保護法は、公益通報者が通報により会社から報復として不利益な取り扱いを受けた場合、通報者保護を求めるためには、自ら民事訴訟を提起する仕組みとなっており、通報者の大きな負担となっている現状があります。
まず、公益通報にあたる対象法律の狭さについてお聞きします。政府は国民の生命・身体・財産の保護に関する法令、刑事罰、過料がある約500本が公益通報にあたると説明しています。従って、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントの多くは、公益通報に該当しません。対象法律について、対象を絞るポジティブリスト方式からネガティブリスト方式へ変更する方がより公益通報にあたる事象が広がると思いますが、大臣の見解を伺います。
森友学園問題に関して、財務省から公文書改ざんを命じられた赤木俊夫さんが命を絶たれてから7年が過ぎ、今年1月に財務省の森友学園をめぐる公文書の不開示決定を取り消す判決が大阪高裁で出され、やっと公文書が開示されることになりました。闘ってこられた赤木雅子さん、関係者の皆さまに心から敬意を表します。赤木さんが理不尽な公文書改ざんを命じられた時、公益通報として財務省の窓口に通報した場合、公益通報にあたるのでしょうか。公文書管理法は公益通報の対象に入るのか、伺います。

次に、兵庫県庁文書問題に関連してお聞きします。兵庫県代表監査委員に提出された「文書問題に関する第三者調査委員会」の調査報告書では、元西播磨県民局長による文書の作成・配布行為は、公益通報者保護法における報道機関や消費者団体など外部への通報「3号通報」に該当するとしました。兵庫県知事が、通報者の探索を行った行為についても公益通報者保護法違反としました。文書の作成・配布行為を懲戒処分の理由の一つとしたことも違法・無効としました。これは、兵庫県において公益通報者保護法が機能しなかったといえるのではないでしょうか。一連の兵庫県文書問題を巡って公益通報者保護法違反との指摘がなされていることについて、公益通報者保護法の実効性が問われる重大な事態であると考えています。担当大臣としてどのようにお考えか、お聞かせください。
さらに、体制整備義務違反について、第20条により、自治体は除外されています。兵庫県の事象を踏まえると、消費者庁が指導・助言できるように20条の除外を見直すべきではないでしょうか。
今回の法改正では、一般職の国家公務員等について、公益通報をしたことを理由とする不利益な取り扱いを禁止し、違反して分限免職または懲戒処分をした者に対し、6カ月以下の拘禁刑、又は30万円以下の罰金を科しました。違反して分限免職又は懲戒処分した者とは、処分権者になるわけですが、国家公務員においては大臣等、地方自治体においては知事・市長村長なども含むということでよいのか、大臣に確認します。
さらに、今回の法改正の最大の課題である通報者への不利益取り扱いについて2点質問します。
法改正により、公益通報をしたことを理由として解雇又は懲戒をした者に対し、拘禁刑、罰金など刑事罰を科すことになりました。一歩前進かもしれませんが、なぜ、対象を「解雇又は懲戒」に限定したのでしょうか。日本弁護士連合会の調査では、通報者が受ける不利益取り扱いは、最多が嫌がらせ、次に配置転換です。声をあげた勇気ある通報者を守るためには、不当な配置転換等も、刑事罰の対象に含めるべきではないでしょうか、大臣の答弁を求めます。
また刑事罰へのプロセスも不透明です。通報者は民事裁判によって公益通報者として保護されるという事実認定を得なければいけないのか、消費者庁として、どのようなプロセスを想定しているのかお答えください。
消費者庁における有識者検討委員会では、報復配転への罰則には、企業側の委員が反対を唱えました。一方で、内部通報訴訟の内部通報者等はヒアリングされていません。有識者検討委員会で、通報当事者のヒアリングをしなかったのはなぜですか。
もう一点は、立証責任の転換です。今回の法改正で、通報後1年以内の解雇又は懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定するとしました。立証責任の転換については前進ですが、これも、解雇と懲戒だけに限定され、配置転換等が除外されています。韓国やEUなどは、すでに不利益取り扱いの立証責任は企業側に転換する制度を作っています。配置転換等も立証責任の転換の範囲にいれるべきだと思いますがいかがですか。
保護すべき通報者の範囲についてお聞きします。今回、保護すべき通報者にフリーランスを含めることは評価しますが、フリーランスに該当しない取引先事業者、通報者の支援者などは通報者保護の対象外となりました。取引先事業者は、不正を知り得る立場にありますが、通報したことを知られると取引を打ち切られる弱い立場にあります。通報者の同僚など通報者を支援する立場の者なども保護すべき場合があります。これらの方々を保護すべき通報者の対象にすべきではないでしょうか。
通報の際の証拠収集、持ち出しについてお聞きします。内部通報をしてももみ消されてしまうのはないかと感じ、報道機関や消費者団体など外部への「3号通報」を行った場合は、真実相当性が問われます。そのためにも、証拠を収集し持ち出す必要がありますが、鹿児島県警の内部文書漏えい事件のように持ち出しと外部通報が守秘義務違反に問われる場合があります。こうした証拠収集、持ち出し行為については、守秘義務違反の免責規定をつくるべきではありませんか。
また、今回の改正案で新たに「通報妨害の禁止」及び「通報者探索の禁止」が規定されましたが、いずれも正当な理由がないことを要件としています。正当な理由とはどういった内容を想定しているのでしょうか。
公益通報者対応業務従事者の指定及び体制整備の義務の事業者の規模は、300人超の事業者に限られており、全事業者数に占める割合は低いのが現状です。100人超の事業者まで拡大することで、公益通報の対象になるような違法行為があった場合には、公益通報することに躊躇しないような職場を作るべきではないでしょうか、大臣の見解をお伺いします。
今回の法改正により、事業者に対しての立入検査権限が新設されました。これは前進であると評価しますが、増加する業務量に対応できるのか懸念が残ります。現在、消費者庁で公益通報を担当している職員は何人でしょうか、非常に限られた人数で実務を担われている現状を見ると、予算・人員体制の整備がセットで必要ではないでしょうか。
圧倒的な情報量と力を持つ雇用主である会社と裁判を闘うことの困難さ、本人の経済的負担、時間的負担、心理的負担は非常に重いものがあります。通報者の保護策、救済策が充実しなれば、リスクを負って通報するハードルは依然高いものになります。日本の精密機器メーカーで内部通報をした濱田正晴さんの例ですと、会社に籍を置きながら、その会社を相手に配転転換は内部通報によるものであり、無効であるとして民事裁判を8年闘われました。奇跡的な勝訴を勝ち取りましたが、元の部署に戻ることはできませんでした。内部通報者に対して、現実的な救済が難しい場合も多いのが現状です。費用手当のある専門ADRの創設や、米国にあるような報奨金などの新制度の検討が必要と思いますが、大臣の見解をお伺いします。
今回、法改正から次の改正までの検討期間が5年となりました。改正内容以外にも検討をすべき課題は多く残っています。今回も前回改正と同様に3年で見直すべきと考えますが、見解を伺います。
兵庫県では、元西播磨県民局長が通報者の探索、懲戒処分などを受け、「死を持って抗議する」とのメッセージを残し、お亡くなりになりました。後に県が設置した第三者委員会で、公益通報にあたり、県側の行為は公益通報者保護法違反であると認定されましたが、残念ながら亡くなられた命は戻ってはきません。このようなことを二度と起こしてはなりません。
そして、実効性ある公益通報者保護法にするためには、私たちが提案する配置転換を刑事罰に加えるとともに、立証責任の転換に加える等の法案修正に応じて頂くことを強くお願いしたいと思います。
不正を許してはならないと勇気を持ち、声をあげた公益通報者を真に保護できる公益通報者保護法になることを願って、私の質問を終わります。ご清聴、ありがとうございました。