参院本会議で21日、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案が議題となり、採決に先立ち、「立憲民主・社民」会派を代表して田島麻衣子議員が反対討論を行ないました。
本法案は、医師の働き方改革、各医療関係職種の専門性の活用、地域医療構想の実現に向けた国の病床機能・再編支援について定めるものです。
■地域医療構想の撤回、再検討が必要
田島議員は、法案に反対する理由として、新型コロナウイルス感染拡大の前に決まっていた地域医療構想を実現するために国が病床機能・再編を進めようとしていることを挙げ、「現在も国がコロナ禍で深刻な状況にあり、今後も医療需要の増大が見込まれるにもかかわらず、こうした視点を欠いたまま、公立・公的病院の病床機能の重点化・見直しや再編統合が先行して進むことは問題」と指摘しました。
公立・公的病院は、地域医療の確保のために、過疎地などにおける医療や、感染症、救急、災害などの不採算医療の提供など、重要な役割を担ってきており、新型コロナウイルス感染症の対応においても、2021年1月31日現在、地域医療構想・調整会議の対象となるリストに名指しされた436病院のうち、250病院が新型コロナウイルス患者を受入可能と表明し、191病院が実際に新型コロナウイルス患者を受け入れていることを紹介しました。
その上で、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大時の最重要課題は、医療提供体制の強化にあるのではないか。また、今の日本に必要なのは、ここで一度立ち止まって、これまでとは違う視点を加えて、今後の地域医療体制をどのように構築していくのかを考える事ではないか。そして、そのためにも、地域医療構想の再検討が必要であるのではないか」と訴えました。
立憲民主党が衆院審議段階で、地域医療構想の実現に向けた医療機関の取り組みの支援に係る、改正規定の削除などを盛り込んだ修正案を提出した経緯に触れ、「地域医療構想そのものを否定するわけではない。しかし、まずは436病院のリストを撤回するとともに、地域医療構想をゼロベースから再検討し、地域医療構想全体の方針を示すことが先ではないか。今行うべきは病床削減ではない。医療人材の確保や病床の確保など、新型コロナウイルス感染症の影響により、経営が苦しい医療機関に対して、支援を行うことだ」と訴えました。
■さらなる仕事と子育ての両立支援、過労防止が必要
次に、法案が女性医師の働き方に着目をした対応を十分に取っていない点を取り上げました。
全医師数に占める女性医師の割合が増加傾向にあるものの、「ワークライフバランスを支える職場環境の整備は、非常に遅れていると言わざるをえない」と指摘しました。参院厚生労働委員会での質疑で(1)全国における病院の院内保育の実施状況は2017年の時点で56%が未実施(2)育児休業制度の規定のない医療・福祉分野の事業所が16%――などの状況が明らかになったと報告し、女性医師をはじめ、子育て世代の医療従事者が、仕事と子育てを両立できる環境を整備するよう厚生労働省に改めて求めました。
また、この法案が「過労死基準をはるかに上回る時間外の上限規制を、医療機関に勤務する医師に対して国が事実上、認めてしまっていることも今後の重要な検討課題」だと指摘し、「医療機関に勤務する医師も、働く人間の一人。地域の医療提供体制に影響を及ぼすことがないように、国が必要な支援を行ないながら、勤務医の働き方改革をさらに進めていく必要がある」と訴えました。
■医師への挑戦の門戸を広げるべき
田島議員は、医学部入試で女性、浪人生や社会人の受験生に対する差別があったこと、自身が民間企業で働いてから国連職員に転職した経験に触れ、医師を目指す人について「医業は仁術と言われる。先の医大入試不正で明らかになったように、こうした仁術にあたる人々が、高校で優秀な成績を収め、ストレートで医大に合格した人のみでよいのか。むしろ、大学進学後に、自分が本当に進むべき道を見つけた人、また社会人を一度経験した後に、悩みながらも医学を志す事を決めた人、こうしたさまざま人生経験を経て、人の苦しみや悩みを理解する多様な人々がいることの方が、患者の皆さんのためになるのではないか」と問いかけました。そして、「失敗しない最善の方法は、挑戦をしないこと。活力ある社会を作るには、失敗を忌み嫌い、避けるのではなく、失敗からの学びこそ大事にする価値観、そして、たとえ少しくらい人生の寄り道をしても、再び活躍のチャンスが開かれる社会が必要だ」と表明しました。
そして「コロナで社会のあり方が大きく変わり、令和の時代にふさわしい生き方や、働き方を誰もが模索する今こそ、何歳でも失敗を恐れずに果敢に挑戦できる社会が大事。また、コロナ禍で社会が疲弊する今こそ、地域医療構想の再検討の必要性が強い」と訴え、討論を締めくくりました。