立憲民主党は6月5日、障がい・難病プロジェクトチーム(PT)と厚生労働部門合同の会議を国会内で開催。精神科病院の入院患者への身体拘束の実施要件を定める厚生労働大臣告示が35年ぶりに改正の動きがあることを受け、有識者および当事者団体から話を聞きました。
冒頭のあいさつで、障がい・難病PT座長の横沢高徳参院議員は「昨年の障害者権利条約のなかにもあり、世界の5分の1とも言われる精神科病棟のベッドが日本にある現状を適正な状況に持っていかなければいけないという問題意識を持っている。その上でも、今現場でどのようなことが起こっているのか、この先どうしなければいけないのか。ご意見を頂き、党としても検討していきたい」と発言。
ネクスト厚生労働大臣の早稲田ゆき衆院議員は、「身体拘束の話は国連からも指摘を受けていながらなかなか改善されない問題。しっかりご意見を承り、私たちとしてできることを考えていきたい」と述べました。
身体を拘束するには精神保健福祉法に基づく要件があり、患者が自殺や自傷行為をしかねない、「多動や不穏」が著しく、他に方法がないなど、指定医が判断した場合に限られています。厚労省による大臣告示の改正に向けた報告書で示された、精神保健福祉法37条1項の規定に基づいて入院中の精神障害者に対して実施される行動制限である、隔離・身体的拘束の新たな要件では、医師の裁量を広げ、より身体的拘束の実施要件を拡大することになる危険性があるとの指摘があります。
会議ではまず、名城大学法学部教授(憲法学・人権論)の植木淳さんが「憲法学からみた身体拘束」、杏林大学保健学部リハビリテーション学科教授の長谷川利夫さんが「身体拘束の実施要件を定める厚生労働大臣告示の改定問題」と題してそれぞれ説明。改定に向けた議論では(研究委託された)野村総研の研究メンバーは非公開で告示案の全容も明らかにされてこなかったこと、現在明らかになっている提案内容には要件拡大の恐れがあることなどの問題点を指摘し、基準の改定により基本的人権が毀損される新たな危険、新たな被害を生じさせないよう慎重な審議が必要であり、国会でのオープンな議論の展開を求めました。
当事者団体の全国「精神病」者集団の桐原尚之さんは、告示改正の必要性を訴える立場から「隔離・身体的拘束には3要件(「切迫性」「非代替性」「一時性」)で歯止めがかかるので改悪ではない。野村総研報告書には曖昧な記載が所々にあるので、具体的に提案しながら人身の自由を考える議論をやっていく必要がある」と発言。日本ピアスタッフ協会会長の磯田重行さんは、「混乱した状況にいる人に必要なことは身体拘束のような自由を奪うことではなく、時間をかけて話を聞き、寄り添い、一緒にその場にいて待つことだと思う」と主張、「すべての専門家、当事者が知恵を絞って努力すべきだ。身体拘束を認めない方向でお願いしたい」と求めました。
昨年の臨時国会で成立した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律に対する付帯決議では、隔離・身体的拘束に関する告示について「患者に対する治療が困難という文言を用いることが適切であるかについて関係団体との意見交換の場を設け、当該文言やそれに類似する文言の使用によらない方策を検討し、必要な措置を講ずること」とあることから、会議では今後、この付帯決議も踏まえ議論を深めていくことを確認しました。