立憲民主党は2月21日、講師に成蹊大学教授の伊藤昌亮さんをお招きし、国会内で勉強会を開催。「曖昧な弱者とその敵意~社会分断の新たな構造」と題して講演をいただきました。
伊藤さんは、一般的に社会的弱者とされている人へのバッシングがインターネット上で続いている背景として、従来の弱者像に当てはまらない「曖昧な弱者」の存在を指摘。日本社会が変化するなかで、例えば「ひきこもり」「コミュ障」「ニート」といった、社会保障制度の対象となるほどの困窮者ではなく、人権政策の対象となるような被差別者でもない、それぞれが困難さを抱え、いわゆる社会的排除の状態に置かれているような人々が大量発生したと言います。
リベラリズムはその歴史的経緯から、1つは従来の福祉国家論の立場で、社会福祉や公的扶助の主たる対象者として高齢者や障がい者、失業者など、もう1つは近年のアイデンティティポリティクスの立場で、とりわけジェンダーとエスニシティ(民族性)に関わるマイノリティとして女性やLGBTQ、在日外国人などを社会的弱者と定義し、その支援に努めてきた。一方で、この枠に収まりきれない「曖昧な弱者」は、「明白な弱者」と、それと連帯するリベラル派への反発を強めてきたと説明。自分たちだって大変な思いをしているのに庇護されていないとの不満から、弱者認定をめぐる「弱者争い」、あるいは生活保護受給者や貧困層、母子家庭などへのバッシングや、若年女性を支援する団体へのサイバーハラスメントといった「弱者叩き」が横行した。結果として、マジョリティと結託、2000年代以降の右傾化を大きく後押ししていた部分があるとの見方を示しました。
伊藤さんは、「こうした今の分断状況は、いろいろな政策の綻びから生まれてきたモンスター」だと述べ、日本型福祉社会や日本型差別構造の歪み、ネオリベラル化への場当たり的な対応、なかでも既存の企業、労働者、旧来型の受益者を大切にしながらネオリベ化を進めたことで情報化への取り組みが遅れ、脱工業化から離脱できなかったことを一因とするものだと指摘。その上で、「本来非常に希望のある情報産業への従事者が、IT土方(デジタル土方)(※1)をやらされて、非正規、下請け、フリーランスに就かされている。そのため、彼らのモチベーションが阻害され、彼らを怪物化させていくことになり、その結果、情報産業の発展が阻害された面もあり、実はこれが日本の情報産業の弱さとも関係している」と述べました。
曖昧な弱者を支援していくためには、いかに包摂するか、社会に参入させていくかだと強調し、情報産業や知識社会に建設的に参入させていく道筋を産業政策と結びつけながら包摂政策としてできると良いのではないかと話しました。
講演後の質疑応答で、参加議員からは「ネット上で広がる日本至上主義的な傾向をどう見るか。それがまた新たな差別を生むことはないのか」「新しい弱者の人たちは、共通項として政治的な関心をどこに向けているのか」「明白な弱者との関わり方としては、どういうメッセージを発していくのが良いのか」「『新しい包摂』という概念をどう上手く打ちだせるか。良い政策を具体的に出していきたい」など、多くの質問や意見が上がりました。
※1 IT業界における多重請負構造の末端で働く単純作業を低賃金で行うITエンジニアのことを指す