参院本会議で5月21日、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」について代表質問が行われ、会派を代表して斎藤嘉隆参院議員が登壇しました。予定原稿は以下のとおりです。

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」
本会議代表質問
立憲民主・社民・無所属 斎藤嘉隆


 冒頭、江藤農林水産大臣辞任の件について伺います。米高騰で苦しむ国民生活に思いを馳せることができない大臣に農政を司る資格はなく、辞任は当然だと思います。

 そもそも備蓄米を放出しても米の価格が下がらない、適時適切な手が打てていない。この時点ですでに大臣としての任にあらずであったと思います。辞任はまさに遅きに失したものと考えます。私たち野党の更迭要求に応じず、一度は続投を明言したにもかかわらず、最 終的に辞任にいたったのはなぜなのか。また、総理ご自身の任命責任について、どのように考えてみえるのか、ご答弁願います。

 では、法案について質問します。私は 17 年間、教員をしていました。教職はすばらしい仕事です。子どもたちの成長に寄り添い、ともに学ぶ日々はかけがえのないものでした。教え子たちが同様に思ってくれているかどうかはわかりません。ただ、今も大人になった多くの教え子たちとつながり、その関係性は生涯にわたり続いていくと思います。私は生まれ変われるのであれば、国政をめざすかどうかは正直わからないけれど、学校の先生にはもう一度なりたい、そう思います。

 そんな教職が、ブラックといわれ、不人気で、採用倍率も年々低下しているとされています。厳しい労働環境の現状と、それを生み出したこれまでの教育政策の不作為等について、真摯に認識しなければ改善策は生まれません。

 石破総理のお母様は教員であったとお聞きします。そのようなお立場からも教育については一家言あるものと思います。

 どのような教育観をおもちか、また、これまでの自民党政権のもとで行われてきた教育改 革についてどのような認識をおもちか、冒頭伺います。是非、総理ご自身の言葉でお願いいたします。

 現在も、各地で担任不在の学級が存在しています。教育現場の必死の努力にもかかわらず、配置されるべき教職員がみつからない、いわゆる「教員不足」が常態化しており、年度の後 半に向けて状況はますます悪化していきます。これは現場や各教育委員会の責任ですか。とんでもないと思います。子どもたちの学ぶ権利を奪っている「教員不足」の問題は、総額裁量制導入や定数崩し容認、非正規教職員の増など、国の方針・施策によるところも大きいと考えます。

「教員不足」の現状について、子どもたちへの責任、教育の保障という観点から政府としてどのように捉えるか、石破総理に伺います。

 また、「教員不足」の具体的要因と今後の改善策について、所管する文部科学大臣の認識を伺います。

 今回、教員の処遇改善に向け、教職調整額の基準となる額について、現行の4%を 26 年以降毎年1%ずつ引き上げ、31 年に 10%とする措置が盛り込まれています。処遇改善の方向性については賛同します。しかし、昨年の概算要求時点では教職調整額を 13%にする要求をしていましたが、財務大臣との合意で 10%となり、さらに毎年 1%ずつ上げるというものとなりました。

 当初の方針より増額の規模が小さくなったことや、実施に多年を要することについては 正直残念に思います。このことについて文部科学省としてどのように説明するのか、大臣の答弁を求めます。

 現在の教職調整額 4%は 1966 年当時の月換算時間外勤務8時間に対応して定められたも のですが、本来、時間外勤務時間と連動して考えるべき性質のものではありません。一方、教員の賃金は人材確保法によって一般公務員より優遇することが定められています。人材確保法が 1974 年に制定された後、教員の賃金は一般公務員に比して 7.4%以上上回るに至りました。この優遇は主に義務教育等教員特別手当をもってなされたものです。しかし、この義務特手当も段階的に引き下げられ、いまや優遇分はほぼない状況となりました。教員に有為な人材を確保することを目的とするなら、給特法ではなく、人材確保法の趣旨に基づき、義務教育等教員特別手当を増やすことで処遇改善を図るべきです。

 処遇改善と教職調整額を連動させることが法の趣旨等と矛盾し、文科省の従来見解と異なるとの指摘にどのように応えますか。文部科学大臣、論理的にお答えください。

 時間外勤務手当が支給されようと、働き方改革が未達の場合に何らかの罰則が付されようと、長時間労働は改善しません。一人一人の教員の業務そのものが減らない限り、勤務自体を削減することは不可能です。業務量管理等の計画策定を教育委員会に義務づけたとて同様です。現場も市町村も行いたくても行えないのです。そんなことで改善するのであればとうの昔に改善しています。

 働き方改革のために国が行うべきは、責任転嫁のような机上論ではありません。国がすべきは、定数増、特に基礎定数を増やし正規教員を増やすこと、指導要領を改訂し、膨張した学習内容を精選すること、必要な予算をきっちり措置することなど、具体的な支援を行うことです。

 今回の修正でも明記された時間外在校等時間の月換算30時間程度までの削減や教員一 人あたりの担当授業時数の削減にむけて、具体的にどのような手立てを講じていくのか、5年間の具体的工程表を示す必要はないのか、文部科学大臣の見解を伺います。

 衆議院における修正では、教員の勤務条件のさらなる改善に向けて、その勤務の状況について調査を行う旨の規定が盛り込まれました。前回の給特法改正では勤務実態調査の実施が明確に示されていましたが、今回は実態調査ではなく、状況調査となっています。各教育委員会に対して聞き取りなどを行う状況調査では、持ち帰り仕事の増などによる隠れ残業の在り方、確かな時間外在校等時間の把握などが難しく、精緻な実態を把握できない可能性が高いと危惧します。

 勤務状況の調査とはどのようなものか、それで持ち帰り時間も含む正確な勤務実態の把 握が可能なのか、また、今回、将来的な勤務実態調査実施を明示しないのはなぜなのか、文部科学大臣に伺います。

 今回の修正で示された時間外在校等時間 30 時間程度への削減という措置に関して伺います。法案では業務削減に向け、文部科学大臣が定める「指針」に即した業務管理・健康確保措置実施計画を各教育委員会が策定することとなっています。

 5年間で時間外在校等時間を30時間程度に縮減するという方針は、当然ながら新たに設定される「指針」に明記するということでよいですね。

 具体的数値目標を「指針」にすら書き込むことができないようでは、実効性あるものとし て捉えることはできません。働き方改革に向けた覚悟と熱量の問題です。文部科学大臣の明確な答弁を求めます。

 教員の業務を減らすことが、事務職員等他の職種の業務を増やすことにつながっては意味がありません。単なる業務の付け替えです。事務職員、スタッフ職などの業務過重となら ないような業務の精選、人員増が必要です。文部科学大臣の認識を伺います。

 修正案には公立中学校の35人学級実現に向けた法制上の措置を講じることが明示されました。評価したいと思います。教職員定数については、小学校の教科担任制、中学校生徒指導担当教員の拡充など今後、数年かけて計画的に定数を増やす方向性が示されています。しかし、あくまでも年度ごとの予算措置に基づくものであり、地方自治体での計画的採用を促すには至っていません。このことが非正規教職員の増加にもつながっています。

 かつて 7 次まで明示され実施された教職員定数改善計画のように、政府として明確な教 職員定数増計画を新たに位置づけるべきではないでしょうか。総理の見解を伺います。

 この中学校の段階的な35人学級導入について、1点留意いただきたい点があります。中学校では、教科担任のため、35 人学級導入によって学級数が増えると、教員一人あたりの授業持ちコマ数が増え、逆に多忙化が進む可能性があります。また、一部の教科では担当教員が見つからず、免許外での対応を余儀なくされることも想定されます。

 そこで、中学校での少人数学級を働き方改革につなげていくためには、学級増対応以外に 一定の定数増が必要となります。こうした検討もしているのか、また、小学校も含め、定数標準法のいわゆる「乗ずる数」の見直しの必要性などについて、文部科学大臣の見解をお聞きします。

 部活動について伺います。極めて安価な保護者負担で、高い教育的意義をもつ部活動が学校教育に根付いてきたのは、ひとえに教員の努力によるものです。ちなみに私も、部活動指導に心血を注いできた元教員の一人です。しかし、今や、働き方改革を目指す上で部活動改革は避けては通れません。

 部活動そのものを地域クラブ等に移管し、学校から地域に展開していくことが必要ですが自治体は頭を悩ませています。特に、会場の確保、用具の整備、指導者への報酬など多額の予算の確保は最大の課題です。教員には部活動指導に熱心なものもいます。こうした教員が兼業として一定の報酬を得て引き続き指導にあたることも具体的に検討していくべきです。

 このように部活動の地域展開を進めていくのであれば、一定の財源が必要です。財政措置 についても国が責任をもつべきです。そうした考えでよろしいですね。総理の答弁を求めます。

 修正案では、教育課程の在り方について検討を行うことが追記されました。かつて小学校4 学年以上は長らく 1015 時間の授業時数でしたが、2002 年、学校5日制への対応などのため 945 時間に削減されました。土曜日が休みになったのでその分の授業時数が減るのは誰が考えても当然のことです。

 しかし、その後、複数回の指導要領改訂を経て、授業時数は学校5日制実施前の 1015 時間に戻されました。この間、外国語科の新設、道徳の教科化など、矢継ぎ早に新たな施策が学校に追加されました。無茶振りとしかいいようがありませんでした。その度に学校は疲弊し、教員の勤務は過酷になりました。政権はこのことを真摯に反省すべきです。

 総理が、日本の授業時数は相対的に長くないと、度々答弁に用いる授業時間の国際比較は、諸外国の授業の在り方などを勘案すると比較対象として適切なものと思えません。そのことは文部科学省が最もよくわかっているはずです。その上で、教育課程の在り方、授業時数の在り方についての総理のお考えを改めて伺います。

 また、教育課程について、何をどのように改善し、勤務時間縮減につなげていくのか、文部科学大臣の答弁を求めます。

 2019 年の給特法改正の際、当時の萩生田文部科学大臣は、法改正の対応として、働き方改革の強力な推進、業務の削減、成果の確認、勤務実態調査の実施、そして、給特法の法制的な枠組みの検討を明言しました。法制的な枠組みの検討とは、当時のやりとりを想起すれば、当然給特法の廃止を含む抜本的見直しであったと思っています。時間外勤務は限定 4 項目に限るとされ、誰がどう見ても勤務である業務を勤務と見なすことができない、法そのものに無理があります。本改正は抜本的見直しではありません。

 今回の改正の先には何があるのか。給特法そのものを抜本的に見直し、教職調整額の廃止、真に働き方に見合う処遇の実現を視野に入れたものであるのか。明確な答弁を総理に求めます

 社会的な課題が表出すると、なぜかその解決を教育現場に求める風潮があります。政治や行政による教育への一時的な責任転嫁とも言えるものも少なくありません。

 学校教育は万能ではありません。子どもたちや若者を巡る多くの課題は、学校だけでなく、家庭や社会全体に起因するものがほとんどです。それでも教育現場はそうした要請に懸命 に応えようと努力をしてきましたが、もうそれは限界です。これ以上、教育現場を追い込むことはやめていただきたい。新たな課題解決を要請するなら、何かをスクラップするか、具体的な支援策を追加するしかありません。

 今回の法改正による労働環境の改善が、教育現場の努力に頼るだけでなく、行政主体の支援によるものとなるよう、改めてお願い申し上げ、私の質問を終わります。
【修正全文2】250521給特法(斎藤嘉隆).pdf

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