立憲民主党は、12月10日午前、食育基本法検討WT(座長・石垣のりこネクスト農林水産副大臣・参院議員)・農林水産部門(部門長・神谷裕ネクスト農林水産大臣・衆院議員)合同会議を国会内で開催、農林水産省、文部科学省、厚生労働省より食育をめぐる情勢について、次いで、衆議院法制局より食育基本法についてヒアリングを行い、食育基本法改正に向けた検討を開始しました。(司会:金子恵美食育基本法検討WT副座長・衆院議員)
冒頭、石垣のりこ座長より「食育基本法改正について超党派での議論が開始されたと聞いている。初回のWTを開催し、食育をめぐる情勢についてヒアリングをさせていただき、私たちの態度をどうとっていくのか議論させていただきたい」との挨拶がありました。
神谷裕部門長より「食育基本法について、各党みんなで議論していく枠組みを作ることとなり、改正案についての議論がスタートした段階。20年前の食育基本法案のとき、当時の民主党は、各省庁にまたがる事柄であり、それぞれのところでしっかりやっていこうという議論もあり、残念ながら反対の立場をとった。今回、改正食料・農業・農村基本法に盛り込まれた項目もあり、これに合わせ、ブラッシュアップしていこうというような議論になるというふうに承知している。我が党として、食育基本法をもっといいものにしていくための議論ができたらと思う」との挨拶がありました。
■食育をめぐる情勢についての農林水産省の説明
食育をめぐる情勢について、出席した3省庁を代表して、農林水産省から概略、以下の説明がありました。
<食育の推進に関する枠組み・体制>
・食育基本法は平成17年6月に公布、同年7月に施行。
・5年ごとに食育推進基本計画を策定。取り組むべき重点事項・目標などを規定。現在の基本計画は令和3年3月に策定された第4次基本計画(令和3年度~令和7年度)。今年度が最終年度であり、令和8年度以降の5次計画を検討していく。
・農林水産省は、平成28年4月から政府全体の総合調整を担当(それ以前は内閣府が担当。平成27年の「内閣官房・内閣府のスリム化法」により移管)。
・食育を国民運動として推進していくため、国、地方公共団体による取組とともに、地域においては、学校、保育所等、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等の様々な立場の関係者の緊密な連携・協働の下、食育を推進。
・基本計画に24の目標値を掲げているが、クリアしているのが2つ、残りは未達乃至長期下落。
・政府においては、食育月間の設定、食育推進全国大会の開催、食育活動のひょしょう、食育白書の作成・国会提出、最近の取組として、官民連携食育プラットフォームの展開と食育実践優良法人顕彰に取り組むとともに、消費安全対策交付金による地域の食育の取組の支援を実施。
<近年の食育の状況-国民の食育への関心>
・食育基本法の成立から20年を迎える中、食育に関心のある国民の割合は長期的に増加してきたが、近年伸び悩み。
・特に20歳代の男性においては、食育に関心を持っている人の割合が他の世代に比べて低く、若い世代(20~30歳代)では、「食事や食生活への関心はあるが、他のこと(仕事、趣味など)で忙しい」と回答する人の割合が高。
<近年の食育の状況-家庭・地域・学校等における現状>
・朝食又は夕食を家族と一緒に食べる「共食」の回数の平均は、週8.9回であり、減少傾向。
・地域等で共食したいと思う人が共食する割合は、コロナ禍で減少したが、回復傾向。
・子供・若い世代ともに朝食を欠食する人の割合が増加。
・家族構成の変化やライフスタイル、働き方の多様化等により、家庭での健全な食生活を実践することが困難な場面が増加。
・地域における食育推進運動の中核的役割を担うことが期待されている食育ボランティアは、近年、人口減少や高齢化等の影響により、減少。
・栄養教諭の配置数は増加しているが、都道府県によっては、栄養教諭と学校栄養職員の配置割合に差。
・学校給食における地場産物の活用は、児童生徒が地域の食文化や農林漁業に対する理解を深め、生産者に対する感謝の念を育むために、重要であるが、その取組は地域によって差。
<近年の食育の状況-大人の食生活の乱れ>
・食に関する経済性志向、簡便化志向が上昇傾向にあり、令和7年1月調査では、ともに調査開始以来、最高値。
・単身世帯や共働きの増加等社会情勢の変化の中で、食の外部化が進展。
・主食・主菜・副菜を3つそろえて1日に2回以上食べている日が「ほぼ毎日」と回答した割合は、全世代が36.8%に対し、若い世代は23.3%と低い傾向。
<近年の食育の状況-食と農の距離の拡大>
・農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合は2020年度に比べて減少。
・農林漁業体験は、食や農林水産業についての意義や理解を深めてもらうことに寄与。農林漁業体験に参加したことで、多くの人が自然の恩恵や生産者への感謝を感じられるようになったと回答。
・産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合、環境に配慮した農林水産物・食品を選ぶ国民の割合はともに2020年度に比べて減少。
・首都圏を中心とした大都市圏への人口集中や都市化の進展が続き、国民の食卓と農の現場の距離が拡大。
・地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理や作法等を継承し、伝えている国民の割合は、令和3年から横ばい。 ・単身世代や共働きの増加など社会情勢の変化や食の外部化などライフスタイルの変化があり、伝統的な食文化の継承が一層困難に。
<食料・農業・農村基本法及び基本計画>
・令和6年に改正された食料・農業・農村基本法では、食育の推進に関する消費者の役割として「食料の消費に際し、環境への負荷の低減に資する物その他の食料の持続的な供給に資する物の選択に努めることによって、食料の持続的な供給に寄与しつつ」と明記。
・食料・農業・農村基本法改正案に対し、衆参農林水産委員会において付された附帯決議に「また、食育は、食料自給率の向上等の食料安全保障の確保及び国内農業の振興に対する国民の理解醸成に重要なものであることから、その取組を強化すること。」と記載。
・令和7年に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、「食育の推進」として、(1)学校等での食育の強化、(2)「大人の食育」の推進、(3)国民の嘱託と農業の生産現場の距離を縮める取組の拡大、(4)行動変容に向けた機運の情勢等の取組を推進することを明記。
■食育基本法についての衆議院法制局の説明
衆議院法制局より、概略、以下の説明がありました。
食育基本法制定前、食に関する課題(不規則な食事、食料自給率の低下、伝統的食文化の喪失等)が顕在化し、国、地方公共団体が食育に関する取組を総合的・計画的に実施する必要性があるとして、第159回国会(平成16年)に議員立法として法案を提出、内閣委員会において提案理由が聴取され、第162回国会(平成17年)に委員会質疑が行われ、可決、成立。
食育基本法の構成は、前文、第1章総則(目的、基本理念、責務、政府による法制上の措置・年次報告)、第2章食育推進基本計画等、第3章基本的施策、第4章食育推進会議等、附則。
■参加議員からの質問と農林水産省・衆議院法制局の回答
<法律の名称を「食生活基本法」としなかった理由>
参加議員から「食育というと食事に関する教育のように捉えられ、大人は関係ないような印象を持つ。ただ、内容をみると食育というより食生活の基本法のような内容。なぜ、食生活基本法としなかったのか」(階猛衆院議員)との質問がありました。
衆議院法制局より「食生活の基本について、まずは知ることが必要ではないか、食を選択する力を習得し、これが生活の基盤になるという考え方に基づき、食に関する教育に重点を置いた表現となったのではないか」との回答がありました。
<経済的理由により食生活を犠牲にすることのないような政策が必要>
参加議員から「経済的理由によってろくなものを食べていないというアンケート結果は由々しき事態。経済的理由によって食生活を犠牲にすることがないよう、政策を講じるべき。どう考えるか」(階猛衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「現行の食育基本法には、経済的理由に係ることについてストレートには書かれていないと認識。これについて、昨年改正した食料・農業・農村基本法第19条に、食料の円滑な入手の確保ということで、国は、地方公共団体、食品産業の事業者その他の関係者と連携し、地理的な制約、経済的な状況その他の要因にかかわらず食料の円滑な入手が可能となるよう施策を講ずることが書かれている。今年作成した食料・農業・農村基本計画でも、そうしたことを踏まえた施策の展開を掲げ、スタートしたところ」との回答がありました。
以上の議論を踏まえ、参加議員から、「食育の推進に当たってのKPIがほとんどダメな危機的な状況であり、このタイミングで法律の名称を『食生活基本法』に改め、経済的支援を法律の中に入れるとか、大胆な見直しをしてもいい」(階猛衆院議員)との発言がありました。
<栄養教諭・学校栄養職員の配置割合の都道府県間格差の原因>
参加議員から「学校における栄養教諭と学校栄養職員の配置割合が都道府県によって差がみられるとのことだが、その原因は何か。教員免許を有する人の育成に課題があるのか、都道府県の採用に係る姿勢の違いか」(渡辺創衆院議員)との質問がありました。
文部科学省より「栄養教諭と学校栄養職員の違いは、本質的には任用形態の違い。栄養教諭は栄養教諭免許状が必須で、その職務内容は給食の管理に加え、食育を行うことができるというもの。学校栄養職員は、教育に参画することはできるが、あくまでも教員の補助として、学級担任や教科担任が隣にいて参画。配置状況の相違は、県ごとの考え方の違いによるところが多い。栄養教諭の募集に対して、7倍の応募があるので、養成数が足りていないことはないと考えている。栄養教諭になるには、栄養系の教員免許の取得が必要となる。栄養教諭制度発足時にすでに学校栄養職員であった方には、定年まで職員のままでいたいという方など、本人の希望であえて栄養教諭に移行しない方もおられる。栄養教諭制度の発足は平成17年で、当時一番若かった方でも今では40代後半。あと10年くらいすると状況も変わってくると思う。学校栄養職員から栄養教諭への移行を積極的にやっているところとそうでないところがあるので、これがパーセンテージに表れてきている。国としては、栄養教諭への任用替えを促してきている」との回答がありました。
<KPIにおいて学校教育における地場産物に係る食に関する指導を栄養教諭に限定している理由>
参加議員から「食育推進基本計画のKPIの中に『栄養教諭による地場産物に係る食に関する指導の平均取組回数』がある。学校栄養職員が同じようなことをできるのであれば、栄養教諭による指導に限定しなくても良いのではないか」(渡辺創衆院議員)との質問がありました。
文部科学省より「栄養教諭は給食の管理に加え、児童生徒に対する食育を行うことが本来業務。学校栄養職員は給食の管理が本来業務で、食育への参画は任意であり、本人のやる気や学校の方針で参画するかどうかが変わってくる。そのため、目標値の中には入れていない」との回答がありました。
<国の食育推進計画と都道府県・市町村の食育推進計画の内容の違い>
参加議員から「都道府県食育推進計画、市町村食育推進計画は、地域の実情に応じて策定されていると思うが、その内容、目標値は国の食育推進計画とどのように違うのか」(平岡秀夫衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「地域によって、農業的なものであったり、どちらかというと健康の関係であったり、学校給食について自分のところの特産品を何パーセントにするという目標値を掲げたりするなど、濃淡がある。91%の市町村で推進計画が作成されているが、取組内容に濃淡があるので、今後、中身についてよく見ていきたい。少し勉強していきたい」との回答がありました。
参加議員からの「国が定めた目標値よりも低い目標値を定めている地方の食育推進計画はあるのか」(平岡秀夫衆院議員)との質問に対して、農林水産省から「私の知っている限りでは、意欲的に目標を立てている方が多い。国では24項目建てているが、地域によっては、この中のいくつかに特化しているとか、違う目標を立てているところもある」との回答がありました。
<ボランティアによる食育の現場における課題>
参加議員から「子供に調理の仕方を教えているボランティアの方に、出来合いのもので作ってほしいなど、いろいろな制限があるという話があるようだが、実情はどうか」(横沢高徳参院議員)との質問がありました。
農林水産省より「当省としては、制限の基準などを定めているとの認識はない。例えば、京都などでは、鰹節などの出汁の原料から出汁をつくるという授業をやっておられる」「農業体験の方では、学校に限らないことであるが、少し怪我をしただけで大変になるので、農業現場の環境を整え、学校側乃至農家側が保険への対応をしておかないと厳しいという話はある。また、地元の農家の方々や栄養士の方々がボランティアで学校の食育に協力していただいているが、高齢化により協力していただける人が減り続けていることが現状の課題」との回答がありました。
<省庁ごとの政策目的の相違とKPIの関係>
参加議員から「食育の究極的な目的というものは国民の健康なのか。農林水産省は食料自給率の向上、厚生労働省は生活習慣病の予防という具合に目的が異なるが、省庁ごとにKPIがあるのか」(岡田華子衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「食育基本法の中で、食料自給率は条文上副次的な感じとなっており、健全な食生活を達成する過程での食に対する理解の中で、食料自給率向上にも寄与するという感じになっている」との回答がありました。
厚生労働省より「健康増進と言う観点から申し上げると、子供であれば、食べるという機能、高齢者であれば誤嚥防止、オーラルフレイスなどの取組がある。こうしたものに、都道府県、政令指定都市が取り組む場合に10分の10の補助金を出し、その取組状況についてのKPIを設定している」との回答がありました。
<KPIが達成できなかった原因の整理>
参加議員から「第4次食育推進基本計画の計画期間が終わるが、なぜ、KPIが達成できなかったのか。原因を整理してまとめるのか」(岡田華子衆院議員)との質問がありました。
農林水産省より「超党派の会議の中でも、次に向かって進むに当たってはきちんと整理していこうという指摘があった。政府の審議会において、背景のデータなどから、要因として考えられることを整理し、次年度以降も取り組んでいこうと考えている」との回答がありました。
<あるべき食生活の実現のために国が前面に出る必要>
参加議員から「国がもっと前面に出て、こうした食生活をした方がいいと促すべき。PFCバランスはアメリカから出てきており、その後、ダイエタリーゴールが示されている。国産のものを食べること、旬産旬消は、健康にも良く、エネルギーの無駄遣いをしなくて済む」(篠原孝衆院議員)との発言がありました。
農林水産省より「食料・農業・農村基本法で消費者の役割が規定され、広報に取り組んでいるが、人間の食に係る行動を変容させていくことはすぐに実現できるものではない。しっかりと地道にやり続けていく必要がある」との発言がありました。
文部科学省より「栄養教諭による地場産物に係る食に関する指導の平均取組回数を増やす取組に当たって、学習指導要領の中で、家庭科では調理実習、保健体育科ではどのような栄養素があり、栄養バランスがどのように体に影響するのか、知識として学ぶことが必須となっている。現状として、朝食を欠食する人が若年層で増えていることが目下の課題。小中高と学んできて知識があるはずだが、大学生や社会人になり、親元を離れて一人暮らしを始めるあたりで、知っているが、実践できない。こうしたことが、今回の食育基本法の改正に当たっての、大人の食育のテーマの一つであると思っている。文部科学省としては、その手前の小中高のところの教育に力を入れていくことになる」との発言がありました。
厚生労働省からは、「5年に1度、日本人の食事摂取基準を出している。この中で、年齢区分ごとにエネルギー、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルについて、どのくらい摂取すれば不足が免れるとか、栄養素をこのくらいとると、あるいは、このくらいにセーブすると生活習慣病の予防が期待されるという値を作っている。これが、職場の給食の基準、比較的健康な患者に適用される病院食の基準として使われている。厚生労働省としては、農業経済的な観点、国産、外国産といった観点からの検討はしていないが、食事の摂取基準により国民へ啓発を促している」との発言がありました。
これに対し、参加議員から「外国産はダメだとは言っていない。病院に行ってから、初めてこれを食べてはいけない、あれを食べろというのは遅い。おせっかいではなく、国民のためになるのだから、強制はしなくても、初めからやった方がよい」(篠原孝衆院議員)との発言がありました。
<食育基本法に「感謝の念」を明記することについての法案作成時の議論>
参加議員から「食育基本法に『感謝の念』という文言が何度も出てくる。感謝の念は結果として出てくるものであって、これが目標にあることはどうか。法案作成時にこうしたことは議論になったのか」」(石垣のりこ座長・参院議員)との質問がありました。 衆院法制局より「当時の議論を見たわけではないが、国民の内心面、生活面に関与することに対する懸念は当時から、また、普段認識している」との回答がありました。
■報告・協議事項(法案登録)
神谷部門長より、「法案登録については、次期通常国会ということで、今国会では特に行わず、持ち越しとしたい。議論が始まったばかりで、まだ形になっていないため、今後、議論を進めていきたい」旨の報告がありました。参加議員から「法案の形がないスタート時点で登録してもいいと思う」(篠原孝衆院議員)との発言がありましたが、次期通常国会でも再度登録することになることなどから、協議の結果、持ち越しということで了承しました。
