2023(令和5)年度税制改正についての提言

2022(令和4)年12月08日
立憲民主党 税制調査会

 現在、国民の暮らしは、長期化する新型コロナウイルス感染症の影響や物価高騰により、深刻な状況に直面している。同時に、高所得者と低所得者の経済格差、男女間の雇用・賃金格差、人口の都市集中と地方の過疎化、少子化による人口減少と高齢化の進行、気候危機の影響による災害の多発化・深刻化、エネルギー自給率の低さがもたらす脆弱性など、日本社会が従来抱えていた問題・矛盾が顕在化、深刻化している。これらの諸課題を解決する上で、税制が果たすべき役割は大きい。

 2023(令和5)年度の税制改正にあたっては、こうした新型コロナウイルス感染症や物価高騰の影響、それが浮き彫りにした問題・矛盾に向き合い、日本社会の活力を取り戻すため、個人・企業・団体等に対する税制上の措置を講じる必要がある。こうした基本認識の下、立憲民主党は、関係団体から要望聴取を行った上で、2023(令和5)年度の税制改正に関する提言を取りまとめた。

1.コロナ禍・物価高騰で困難な状況にある個人・事業者等への支援

 長期化する新型コロナウイルス感染症の影響や物価高騰により経済的に困難な状況に追い込まれている個人・事業者等を支援するため、必要な税制上の措置を講じるべきである。

◎原油価格の高騰が家計や事業者の負担を増大させていることに鑑み、復興財源に配慮しつつ、揮発油税のトリガー条項の凍結一時停止・発動を行うこと。

◎インボイス制度(適格請求書等保存方式)については、免税事業者が取引過程から排除されたり、廃業を迫られたりしかねないといった懸念や、インボイスの発行・保存等にかかるコストが大きな負担になるといった問題がある上に、現行の「区分記載請求書等保存方式」でも適正課税は可能であることから、廃止を目指し、少なくとも導入を延期すること。

◎新型コロナウイルス感染症の影響の長期化や物価高騰によるコスト高が事業を直撃している現状を踏まえ、欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の期間延長・拡充を図ること。

◎中小企業者等の法人税率の軽減措置(15%)は令和4年度末に期限が到来するが、コロナ禍の長期化や物価高騰など、中小企業を取り巻く環境の厳しさに鑑み、確実に延長すること。

◎コロナ禍で医療を支える医療機関を支援するため、控除対象外消費税問題の抜本的解決のために必要な措置を講じること。

◎コロナ禍や原油高騰により多大な影響を被る航空事業者の負担軽減を図るため、航空機燃料税の軽減措置を継続すること。

◎コロナ禍や物価高騰により、国民生活や国内産業に甚大な痛みが生じていることを踏まえ、税率5%への時限的な消費税減税を図ること。同時に、税負担の公平性の確保、経済的格差の是正、経済の活性化等を図る観点から、所得税・法人税等を含め、税制全体の見直しを行うこと。

2.賃金上昇に向けた取り組みへの支援

 現下喫緊の課題は、物価が高騰する一方で、賃金が十分に上昇していないことである。賃上げの促進、「人への投資」による生産性の向上等、必要な取り組みを税制面からも支援すべきである。

◎一部企業の過大な内部留保が賃上げに回るように、税制等による措置を強化すること。

◎仕事を退職して大学等で学び直しをする場合に、その際に要した資格取得費等を再就職後の給与所得から控除するなど、リカレント教育を受ける個人に対して税制上の優遇措置を講じること。

◎DX投資促進税制については、期限延長と要件緩和を図るとともに、「人への投資」の観点から、DX人材育成への投資を対象に含めること。

◎中小企業の成長投資を促進するため、中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制の延長・拡充を図ること。

3. 税制の所得再分配機能・財源調達機能の強化

 「失われた30年」とも言われる長期の経済低迷のなかで、高所得者と低所得者の経済格差は拡大し、日本社会の特徴とされてきた「分厚い中間層」は消滅した。こうした状況を打開するため、税制の所得再分配機能・財源調達機能を回復・強化すべきである。

◎所得税については、勤労意欲の減退や人材の海外流出等の懸念に十分配慮しながら、最高税率の引き上げを行うこと。

◎金融所得課税については、当面は分離課税のまま累進税率を導入し、中長期的には総合課税化すること。同時に、「分厚い中間層」の復活を目指し、資産形成を支援するため、NISA(少額投資非課税制度)については、制度の恒久化、年間投資枠・非課税限度額の拡大など拡充を図ること。

◎法人税については、租特透明化法に基づき精査を行い、抜本的な見直しを実行した上で、法人の収益に応じて応分の負担を求める税制に改革すること。

◎消費税の逆進性対策については、効果的・効率的な低所得者対策となっていない現行の軽減税率制度は廃止し、基礎的な生活費支出に占める消費税相当額を所得税から税額控除し、控除しきれない分を給付する「給付付き税額控除」の導入により行うこと。

◎資産格差が拡大・固定化している現状に鑑み、税率構造や非課税措置の見直しなどにより、相続税・贈与税の累進性を高めること。

4. 暮らしの安心を支えるための税制

 現在の日本経済低迷の一因は、GDPの半分以上を占める個人消費の減退にあるが、個人消費が伸びない原因は将来への不安にあることから、暮らしの安心を支え、将来不安の解消に資する税制上の措置を講じるべきである。

◎現役世代の社会保障への不安解消、高齢者の生活の安定に寄与するため、生命保険・介護保険・個人年金の各保険料控除の最高限度額を引き上げるとともに、保険料控除の合計適用限度額を引き上げること。

◎確定給付企業年金、確定拠出年金をはじめとする企業年金等の積立金に係る特別法人税については、公的年金制度を補完する企業年金制度の健全な維持・発展や、労働者の権利である受給権の保全に支障をきたす恐れがあることから、廃止すること。

◎奨学金の返還に追われる若年層を支えるため、奨学金制度の拡充を前提としつつ、貸与型奨学金の返還額について所得控除の対象とすること。

◎自動車関係諸税については、走行距離課税など新たな負担増の議論を始める前に、現行の複雑・過重な税制の見直しを図ること。具体的には、自動車重量税の「当分の間税率」を廃止するとともに、自動車重量税の国分の本則税率を地方税化すること等により、地方財源を確保しつつ、自動車の保有者・利用者の負担を軽減すること。

◎性暴力や児童虐待などによる被害者を支援するため、公認心理師・臨床心理士のカウンセリングを受ける場合、その費用を所得控除の対象とすること。

5.働き方や人生設計に中立な税制

 共働き世帯やフリーランスの増加など、働き方が多様化するなかで、税制がその選択を歪めるような事態は避けるべきであることから、働き方や人生設計に中立な税制を確立すべきである。

◎配偶者控除などにより就労調整が起こることのないように、関連する制度全体での整合性を確保しつつ、当面は最低賃金の上昇等に対応した控除額の引き上げ、中長期的には所得税の人的控除等の抜本的な見直しを図ること。

◎法人の欠損金の繰越控除期間が10年間とされていることに鑑み、法人・個人間の制度格差・不公正を是正する観点から、青色申告を行うフリーランスや個人事業主については、純損失の繰越控除期間(現行3年間)を延長すること。

6.カーボンニュートラルの実現に向けた税制

 深刻化する気候危機や輸入依存度の高い原油の価格高騰等に対応すべく、原子力エネルギーに依存しないカーボンニュートラル社会の早期実現に向けて、必要な税制上の措置を講じるべきである。

◎2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成できるよう、脱炭素の技術革新・技術開発を税制面からも強力に支援し、税制全体の見直しの中で炭素税のあり方を検討すること。

◎我が国の基幹産業である自動車産業の脱炭素化を推進し、国際競争力の維持・強化を図るべく、電動自動車の普及や脱炭素化に資する自動車開発等を支援する税制上の措置を講じること。

◎カーボンニュートラルに向けた投資促進税制について、電気自動車に係る充電設備や蓄電池など、カーボンニュートラルへの貢献度の高い取得資産を対象に加えるなど、拡充を図ること。

◎森林環境譲与税については、温室効果ガスの排出削減を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保するという本来の趣旨を踏まえ、人口が多く、森林が少ない自治体に厚く配分される現行の譲与基準を見直すこと。

7. 多発化・深刻化する災害に対応する税制

 近年、気候危機の影響を受け、災害は多発化・深刻化を極めており、国民生活に重大な影響を及ぼしていることから、災害に対応するための税制を拡充すべきである。

◎現行の雑損控除から自然災害による損失を独立させて「災害損失控除」を創設すること。なお、自然災害による被災者の生活再建には相当な年月を要することから、繰越控除期間は最低でも5年以上とすること。

◎地震保険料控除制度について、保険料の改定に合わせた控除額の引き上げなど、制度の拡充を図ること。

◎遺族の生活資金を確保するため、災害時の死亡保険金の非課税枠を拡充すること。

8. 地方財政の安定化

 長期化するコロナ禍や物価高騰への対応等により、地方財政は一層厳しい状況に置かれている。地方自治体の財政運営に支障をきたすことがないように、地方財政の安定化に向けて税制上の措置を講じるべきである。

◎地方一般財源総額及び地方交付税総額を安定的に確保すること。

◎国・地方の税源配分を見直すとともに、偏在性が小さく安定的な税収を確保できる地方税体系を構築すること。

◎地方の財源不足に関しては、臨時財政対策債に依存することなく、国税の交付税率引き上げにより対応すること。

◎航空機燃料税の軽減措置を継続するにあたり、航空機燃料譲与税について、税率の引き下げ幅に応じた譲与割合の引き上げ措置を講じ、安定的な確保を図ること。

9. 多国籍企業による租税回避の防止

 巨大IT企業などの多国籍企業による租税回避行為が横行していることに鑑み、昨年「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意」が実現したことを踏まえ、必要な対応を講じるべきである。

◎多国間条約の策定に向けた議論を加速するとともに、条約策定後の速やかな批准と国内法の改正などを着実に実施すること。

10. 納税環境の整備

 税務手続きの煩雑化に鑑み、デジタル化・簡素化を促進するとともに、実態に即した納税環境を整備することで、納税コストの低減を図るべきである。

◎e-Tax及びeLTAXの使用性を高めるとともに、その活用等を通じ、電子化対象手続きを拡充するなどして、税務手続きのデジタル化・簡素化を進めること。

◎電子取引における電子データ保存の義務化の宥恕措置(出力書面による保存を可能とする猶予措置)は令和5年末に期限を迎えるが、中小企業等における対応の遅れに鑑み、その期限を延長するとともに、改ざん防止等の目的を阻害しない範囲内で保存要件を緩和すること。

◎扶養親族の変更、保険料控除証明書の到達遅延などにより、翌年に年末調整のやり直しが必要になる場合があることに鑑み、年末調整の実施時期を1カ月後ろ倒しすること。同時に、その影響が及ぶ所得税の確定申告についても、申告期間を1カ月後ろ倒しすること。

各部門から提出された重点要望項目.pdf