自治体議員ネットワーク研修会で、お茶の水女子大学名誉教授の戒能民江さんから、2024年4月に施行される「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(以下、女性支援新法)」について「女性支援新法のポイントと自治体の役割」と題して話を聴きました。

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能登半島地震にみる課題

 今年は元旦に能登半島地震がありましたが、例えば地震や津波で何人亡くなったというデータは出るけれども、性別できちんと表すことがありませんでした。ジェンダー統計とジェンダー予算は、今までの日本の政治の中できちんと位置づけられてきませんでした。これはぜひ地方議会でも働きかけてほしいです。

 震災で亡くなった方を性別で見ると女性が多いという結果が出ています。それはなぜかを考え、そういうことが起きないようにするには政治は何をすればよいのかを考えていくべきです。

 避難所では必ずジェンダーの問題が出てきます。まず、性暴力の問題が出てきます。それから日本の社会に根強く残っている性別役割分業です。3度の食事を作るのは女性。同じ避難者なのに女性の役割になる。着替えの問題等、いろいろな問題が出てきます。仮設住宅に移ると、今度は集団ではなく、個々のファミリーの問題になってきます。危惧されているのは、非常に深刻な状況下でDVの問題が出てくること。こういったことを想定しておいた方がよいです。DVの問題は、年齢層が高くなればなるほど、プライベートなことは人には話さない、恥だという認識が強くありますので、なかなか実態が表面化しにくいです。そうしたことも考えて、どの地域であろうとも、必要ならば保護できるようにしておくべきです。

 地方議会の議員たちから、こういった問題が深刻化、潜在化しないように、潜在化しがちであるということを認識し、声を出しやすい環境を作ってほしいと思います。

女性支援新法の「女性」「支援」が意味すること

 この新法は、なぜ「女性」だけが対象なのか。男女共同参画社会基本法が1999年に制定されて以降、男女共同参画社会を実現する方向で進んでいるはずですが、現実は、ジェンダーギャップ指数で見れば146カ国中125位に落ちました。

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格差が拡大している状況は変わりません。そのような中、女性支援新法がなぜ今、制定されたのか。これが今日の話のポイントです。

 「支援」がなぜ今の日本の社会にとって大事なのか。約10年前から、自治体に相談窓口を作るという法律が立て続けに作られて、今や相談窓口がいろいろなところにあり、当たり前のことになっていますが、本当に当事者にとって必要なあるいは適切な、役立つ支援が行われているのか。また日本の社会で支援や相談は、大変ハードルが高いです。

 今年の4月1日に、女性支援新法が施行され、同時にDV防止法改正も施行されます。法律は抽象的一般的な規定です。具体的な運用については、基本方針で規定し、法律に必ずしも十分書き込まれていない点がたくさんあります。基本方針は去年2023年3月にパブリックコメントを経て公表されました。さらに、その下に女性相談支援センターガイドライン、女性相談支援員相談支援指針、女性自立支援施設運営指針といった指針等が、国の通知として策定されていきます。まだ省庁間の調整や市町村長会などとの調整を経て、間もなく策定されますが、加害者からどうやって逃げるか等も書かれているため、すべて公表されるわけではありません。

 2017年くらいまでは、婦人相談員は何のよりどころもなく、指針もなく相談を受けていて不安だと言う声がありました。ようやく2016年に婦人保護事業のもとで165ページにおよぶ指針を作りました。ただその中身は、例えばDVですと、DV加害者とされる人がそれを知ったら危ない場合があります。例えば逃げる時はこういうものを持って逃げるように、こういう人を頼りにするようにといった情報が書かれています。ですから、公表はできません。

 新法では婦人相談員にはアクセスしやすくなると思います。DVだけではなく、性暴力、今増えている親による性虐待。家庭内の性虐待ですから、逃げなければなりません。でも探して追いかけてきます。そういう意味ではいつも危険と隣り合わせです。ですから、情報のコントロールは非常に重要です。

 議員は相談を受けることが多いと思います。市民の方から相談を受ける時に、こういった点に十分留意してほしいです。

 新法の基本方針を受けて、現在、都道府県が基本計画を策定し、3月末までに公表することが義務になっています。それを受けて次年度以降になると思いますが、政令市、特別区を含む市町村の基本計画策定が努力義務になっています。パブリックコメントの意見を入れて基本計画を策定し公表するという段取りですが、全国的に内容のチェックが必要です。

売春防止法は社会秩序の問題

 1956年に売春防止法が制定されました。売春防止法は市川房枝さんら当時の女性を中心に作成した議員立法でした。売春防止法は簡単に言えば、売る方も買う方も禁止ですが、両方とも個別の行為は処罰しないという考え方です。その考え方に基づいて、売春防止を目的として売春防止法が制定されましたが、これは刑事法の中の刑事特別法であり、誰を処罰し、直接的な行為ではなく、何を処罰することで売春を防止するのかが問題になります。

 売春防止法が誰を処罰の対象とするかは、現代の日本の特に東京や大阪の「歌舞伎町問題」です。売春防止法5条「売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。 一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。 二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。」

 一般的には、歌舞伎町で展開されるように街角に立って売春を勧誘すると勧誘罪です。勧誘罪を処罰する、業者を処罰する、それだけではなく親が登場する場合が多いのですが、娘に売春を強要するケース、昨年起きた事件では、母親が業として売春で生活していた。そこに男性が現れ同棲するようになり、事業をしたいので、開業資金が必要になり、女性の20歳の娘に2カ月間、朝から晩までハードワークで稼がせたということで母親とその男性が逮捕されました。裁判では、両者とも執行猶予が付きました。大変危険な状況なので、被害者の女性はしかるべき所に保護され、両親に居場所が分からないようにしていると聞きました。親が娘に売春を強要する事件が、日本の社会で実際に起きています。

 売春防止法は、処罰対象の3つの類型を、売春を助長する行為として処罰することで、売春を防止するという考え方に立っています。問題はなぜ売春を防止するのかということです。売春防止法の第1章総則第3条に「売春の禁止」があり、第2章刑事処分で第5条勧誘罪がある。1条の目的では、売春は人間の尊厳を侵害するので禁止されるとは書いてありますが、その後に出てくる条文が実は本丸であり、性道徳とか婚姻秩序の問題です。社会秩序の問題ととらえている。実は道徳的な問題であり、人権の問題としなかった、明確にしなかったことによって、今からお話する婦人保護事業は女性の人権保障という仕組みにはなりませんでした。

 売春する女性や売春する恐れのある女性の背景には、当時の貧困な社会、親が身売りをするような社会がありました。そこで、街角に立って勧誘をするが、勧誘罪で処罰される。その件数は平均して約200件で推移してきました。

 ところが去年は半期で、東京と大阪ではこれまでの平均をオーバーしてしまいました。売春防止法は1956年に制定されましたが、過去の話でも何でもなく、実は現代の話で、人権ではなくて道徳の問題として売春を捉え売春防止を図ってきました。

 刑事処分をしても結局出てくると、あるいは執行猶予で刑務所も入らないとなると、帰る家がない。そうするとまた戻るところは売春しかない。

 決して差別ではなく、現実の話として、障がいのある方がターゲットになるということもある。そして家族も戻ってきても受け入れない、拒否するという中で、生きる道としては、売春しかないというようなところに追い込むことがあってはいけない。そのような背景のもと、1956年に売春防止法と共に婦人保護事業が創設されました。

差別され隠されてきた婦人保護事業

 婦人保護事業は、女性の人権を守るためではなく、あくまでも道徳的な観点から、あたかも社会にとって秩序を乱す加害者のように位置づけられてきました。だからそこから私どもを含めて人々の差別意識が根強くある。

 戦前から実はキリスト教婦人矯風会、慈愛会といったキリスト教関係の女性たちが、日本の女性たちを何とか救いたいという運動を婦人保護事業としてやってきました。今、東京都内に5つの婦人保護施設がありますが、戦前からの流れを汲んでいます。それを利用しながら婦人相談所、婦人保護施設といった機関を作って、保護をするという仕組みを作ってきたのが婦人保護事業です。

 貧困、障がい、家族からも見捨てられてしまう女性、まさに困難な問題に直面する女性たちが婦人保護事業のもとで隠されてきました。東京都内に5つある婦人保護施設は社会福祉法人がやっていて、公的な機関と同等の扱いを受けています。他の県では一つあるかないかです。任意設置ですから、現在設置されていない県が、休止中の岡山を含めて全国に8つあります。

 社会福祉法人法では、その地域の中で開かれた施設という考え方をとっています。しかし、例えば、その中で女性たちが一生を施設で過ごすことはありません。婦人保護事業は、社会、地域の中で、自立をしていくことを援助することを目的としています。しかし、ほとんどの人が性暴力を受け、メンタルも傷ついている状況で、自立の道は本当に大変です。それでも、なんとか手に職をというと聞こえは良いですが、手芸や織物を売ったり、敷地の中に喫茶店を作ったりしました。婦人保護施設の方が一番心を痛めることは「売春をした汚い女たちが作ったものだ」と言われ彼女たちが傷つけられることです。売春防止法を根拠にした施設だとは外には言いたくないと言っています。

 婦人保護事業は、ただ隠されているだけではなく、差別され続けてきました。そのような中から社会に向けて自立をしていかなければなりません。社会はやはり無関心で、60数年間ほとんど何もせずに、人権を軽視し続けてきた社会が、人権尊重の社会と言えるのかと問われています。そこをひっくり返そうというのが、女性支援新法です。

 ほとんど動かなかった政治を動かしたのは支援者たちです。これはDV防止法の時もそうでした。DV防止法の時も支援者たちがまず動き出して、女性運動として大きな形になりました。今回の場合は、婦人保護事業ということが大きなネックになり、女性運動というような広がりまでにはなりませんでした。研究者も、フェミニストも関心がない状況でした。

 支援現場が政治に働きかけて、そして議員立法として成立しましたが、与党主導型の議員立法でした。立憲民主党は早期からヒアリングをし、西村智奈美議員は「議員立法ではなく、政府の閣法でやるべきだ」と提案し、阿部知子議員などが尽力し、最終的には国民民主党、維新、共産党などの野党にも声をかけました。女性議員が女性の人権保障のために動くということは本当に大きな力になりました。

 女性議員は、性暴力もDV、セクシャルハラスメントの問題を、自分の問題として捉えている。それだけではなく、女性の人権というところで、本当に力強い連携ができたと思っています。

 結果として非常に短期間でしたが、議員立法として成立した。DV防止法から20年経ち、女性の人権立法として成立しました。

狙いは脱売春防止法

 女性支援法は、売春防止法を脱却することが一番の目標でありスローガンでした。売春防止法は要保護女子を保護して更生させます。一時保護の期間も要件について何の定めもないし、どのような支援をしているかもまちまちでした。同行支援さえしていないところもあります。

 一時保護所からは学校に行けない。母親も職場へ行けない。大学生も大学へ行けない。長期にわたりスマホも使えず閉鎖的な環境の中で過ごす。なぜ被害者が逃げなければならないのか。おかしい。見つかったら困るから、隠れていなければならない。同じ経験をしてる人たちがたくさんいるので、「自分はこうやって乗り切ってきたんだ」「こういう辛い思いをしてきたけれども、支援があって今ここにいるんだ」といったエンパワーメントの機会になるはずが、できてきませんでした。

 一時保護所を出ても行き先がないので、1カ月とか2カ月、行く先が見つかるまでいなければいけない。子どもも一緒で、子どもの学習権の保障はありませんでした。今は若い人も少し増えてきているので、「大学へ行きたい」と言うと、「危険だからダメ」と言われてしまう。市民的自由がない。一旦保護所に行くとしても、そこは一時的な場であって、その後地域社会にどうやって軟着陸していくかが課題です。

 それぞれの状況に応じて、それぞれの援助を受けながら、自立への道を進む場であるはずですが、婦人保護事業は売春防止法に基づくので、売春する恐れがある女性を保護して、道徳的意識を植え付けて更生をさせる。支援という概念がありません。もちろん自己決定やエンパワーメントといった概念もありません。それを66年間もこの現代社会で固持してきたということです。そうした中、脱売春防止法が第一の大きな目標でした。この目標を議員立法だからこそ突破できたことが、一番の成果だと思っています。

若年女性の複合的困難

 ジェンダーギャップ指数は、特に日本の場合は、政治分野と経済分野での格差が縮まりません。注目すべきは所得格差です。経済力の格差です。

 例えば、神奈川県が基本計画を策定するには、神奈川県内の女性の現状をきちんと把握する必要があるということで、ウェブ調査をやってスクリーニングをし、いくつかの困難な状況を列挙して、そこに当てはまる回答をした人を抽出して、困難な状況を分析しています。これはすごいことです。それを見ると、現代の特色が出ています。

 困難は1つではなく複合的だということです。いろいろな困難を同時に背負い込んでいる。その時に経済的困窮と、健康不安、特にメンタルヘルスの問題、家族問題が大きいです。家族の中での孤立。外側から見ると大変幸せそうな家族に見えるけれども、居場所のない若年女性がいる。家庭の中で、兄弟の中で、つまはじきにされる。今後、虐待、健康不安、家庭の問題と経済的困窮の因果関係を詳しく調べてほしいと思っています。

 今、経済的困窮の問題が切実です。フルタイムの男女の所得格差がまだ大きい。月8万円低いと、年にすると100万ぐらいの差になるというデータが出ていました。

 コロナ禍の2020年4月に、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「女性に偏って深刻な影響を与えている。経済政策の中心に女性を置かなければいけない」という声明を出しました。日本でも内閣府が、コロナにおける女性の影響を調査して、同様に、女性に偏った影響の深刻さを明らかにしました。それは言うまでもなく非正規雇用の問題であり、特にサービス業に就く若年女性が職場を失ってしまう。

 自殺は現在でも総数としては男性の方が多いです。ところがコロナ禍では女性、特に若年女性の自殺が増加しました。そこで国は、女性支援、特に若年を中心とした女性支援が自殺を防止するために必要だとして、新たな政策を打ち出します。将来に向けての不安が大変大きいということだと思っています。

個人的問題ではなく社会の課題

 支援が必要なのに、支援に届きにくい人。これは女性に限ったことではなく、中高年の男性が大変孤立していることもあります。しかし女性の場合には若年だけではなくて、中高年も含めて同じような困難に直面していても、例えば分かってもらえないとか、自分が悪いということで、結局自己責任論が極めて深く内面化されていることがあります。これは女性に多くあることではないでしょうか。日本社会の女性の置かれている状況で、「あなたは悪くない」とは誰も言ってくれないです。これは個人的な問題ではなく、社会が生み出す問題が背景にあるという見方をしない。「あなたが悪い」「ついて行ったでしょう」「アクセスしたでしょう」と責任をかぶせる。それと同時に親が悪いということになってしまう。

 若年女性がいろいろな問題に直面しているにもかかわらず、行政がきちんと取り組んできませんでした。現状も把握していないということです。ですから2009年頃から数は少ないですが、ボンドプロジェクトやColaboや若草などの民間団体が取り組んできましたが、ご存じのようにネットで誹謗中傷が多いという状況です。女性のためのシェルターを作っても、みんな写真に撮られてしまう。支援スタッフも顔が写される。そうするとそこに女性たちが来なくなります。今一生懸命やっていますが、マイナスの現象が出てきています。

 歌舞伎町で若年女性に声をかける時、「保護する所があります」とか「シェルターがあります」ではなく、例えば「シャワーを浴びることができます」とか「一緒にご飯食べることできます」と言った声かけが必要です。どこかの施設に入って保護される存在になるのではなく、ふらっと行って、好きな時だけそこで話を聞いてもらえるかもしれない、ご飯が食べられるかもしれない、ちょっと休める居場所を、民間の協力を得て、自治体がすぐにでも作るべきです。

 中高年女性の経済的貧困も深刻な問題です。2020年11月に渋谷区の幡ヶ谷のバス停で殺された女性がいます。その女性に対して区議が施設を紹介しました。しかし、誰かに助けを求めるとか保護されるのは嫌だというプライドがあります。ですから声をかけても断ったそうです。障がいのある女性、外国籍の女性など複合差別の問題もあります。

女性支援新法のポイント

(1)人権保障

 66年間も理念なきまま、よくやってこれたと思いますが、重要なのは新法で理念を明記したことです。人権保障、人権を具体化するための権利擁護、そして自己決定の尊重。いずれもこれは日本の福祉の基本的な考え方です。

 これまで、婦人保護事業は、福祉の領域の仲間には入れてもらえませんでした。刑事法であって、福祉でも何でもないということでした。ようやく売防法のくびきが取れたことが非常に大きく、福祉として、人権の問題として取り組める、自己決定を尊重できる建付けになりました。

 大事なことは、抱える事情が複合的で複雑になっているので、一人ひとりを尊重して、個別の事例に対応すること。一人ひとりの困難事例への対応には専門的な力が必要です。

(2)被害回復は国の責務

 条文に「当事者の意思の尊重」と同時に「心身の健康回復」を明記しています。これは、被害回復を意味しています。法律には、「被害回復」という言葉は使えませんでしたが、新法では「心身の健康回復」と書き込まれました。イコール被害回復ということです。これは非常に画期的なことです。

 被害回復を支援する。意思を尊重し、最適な支援をする。そのためには婦人保護事業というクローズドな世界で一部の人たちだけの力だけでは無理なことで、地域の関連機関や民間団体が重要になります。個人の尊重は、民間団体と力を合わせてやらないとできません。

 公的責任による支援は単に国や自治体による費用負担ということではなく、日本の社会での自己責任論からの解放と言えるのではないでしょうか。社会がきちんと責任を持って支援をする。困難に直面しており、支援が必要な人がいればサポートをするのは行政の責任だ、と言っているのです。

 厚生労働省の社会・援護局総務課に初めて「女性支援室」ができました。現在室長をはじめ8人、男女含めて8人のスタッフが頑張っています。

(3)官民協働で効果的な支援

 最適な支援に向けて、多機関や民間団体と連携・協働が必要になります。これは、今までの縦割り行政を大きく見直すことでもあります。当事者の女性や子どもを真ん中にして、その人が困難な状況から脱却して一歩進むために、それぞれの専門を活かしながら、部署を超えて力を合わせてやっていくということです。

 新しい概念としてアウトリーチがあります。閉室の時間まで相談室の中で電話が来るのを待っている。それでは、来るわけがないです。居場所や話しやすい場所を作るということです。

 若年女性を対象にする民間団体はまだ少ないです。少ないから作らなければいけませんが、そんなに簡単に作れないので、例えば自殺関係の団体や貧困関係の団体に、今まであまり関心がなかったかもしれませんが、女性の視点を持って一緒にやらないかと、ぜひ議員は自治体でも働きかけていただきたいです。

 それから行政と民間の関係を問い直す必要があります。民間団体に丸投げするとか、大変な事例だけ民間に持ってくるということがよく聞かれました。民間団体の人が一番嫌だと言っていたのは、民間の団体だけで行くと上から目線で見られるということでした。対等性を新法の基本方針の中で強調していますので、ぜひ行政の姿勢をどうやって変えていくのか、そもそも行政は気づいていないかもしれませんが、自治体議員の大きな力を借りたいです。

(4)大きくなる自治体の役割

 自治体の役割が大変大きくなります。「地域での福祉」をスローガンとして、実際に進めている自治体もあります。中でも、県はその地域の中心だという位置付けが、まだ弱いので強調してほしいです。

 市町村に注目してほしいのは、今まで婦人保護事業の実施機関は都道府県でしたが、「地方公共団体」に改まった点です。努力義務止まりですが、地方公共団体には市町村特別区が入ります。

 一番身近な自治体である市町村特別区から支援相談が始まり自立支援まで一貫した支援の場であることになります。そのためには体制整備が必要です。東京都は進んでいますが、全国で言うと、市に婦人相談員を設置している県は50%しかありません。婦人相談員が中心となって地域で支援のコーディネーターをしていくという役割を持ち、開かれた支援を民間と一緒にやっていくということを、ぜひ自治体に働きかけて、基本計画なども作っていただきたいと思います。