参院本会議で4日、「重要施設周辺等における土地等利用状況調査・利用規制等に関する法律案」(重要土地等調査法案)に関する趣旨説明と質疑が行なわれ、「立憲民主・社民」会派を代表して、木戸口英司議員が質問に立ちました。

 冒頭、木戸口議員は新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の長期化に懸念を示した上で、「急速に置き換わる変異ウイルスの拡大を抑え込み、20日に緊急事態宣言を解除できるのか。菅総理の7月末までにワクチンの高齢者接種を終わらせるとの大号令は実効性があるのか。多くの国民の懸念や不安を置き去りに突き進む東京オリンピック・パラリンピックは本当に開催できるのか」と国民への配慮と情報発信が著しく欠如している政府の姿勢を強く批判しました。
 また、「専門家や自治体との意思疎通と役割分担がいまだ不安定な政府に任せたまま国会を延長しないとすれば、国会の存在意義そのものが問われる」と危機感を示し、国会の会期延長を要請しました。

 本法案の主な内容は、自衛隊の基地や原発など安全保障上重要な施設や国境離島等の機能を阻害する土地の利用を防止するため、注視区域及び特別注視区域の指定、注視区域内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注視区域内にある土地等に係る契約の届出等の措置について定めるというもの。

 重要土地等調査法案について、木戸口議員は「本法案は私権制限を伴い、懲役を含む刑罰が科せられる。このような重要な法案をなぜ、会期末に参院に送ってきたのか」と述べ、立憲民主党が衆院内閣委員会において、私権制限に歯止めをかけつつ、法の実効性を高めるよう慎重審議を求めたにもかかわらず、委員長職権で審議を打ち切った政府・与党の強硬な姿勢を「言語同断だ」と強く批判しました。
 また、「参院での審議時間の確保を理由としたようだが、審議不十分の生煮え法案を安易に送ってこないでいただきたい。規制される行為も政府による調査の範囲もその詳細は明示されないまま、安全保障を盾に政府は説明責任を忌避していると言わざるを得ない」と断じました。そのうえで、「参院では政府が法案の不備を明らかにするまで、十分な審議時間、参考人質疑や連合審査が必要だ」と述べ、あらためて会期延長を求めました。

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 法案に関する具体的な質問は以下のとおりです。

(1)国境離島や防衛施設周辺等における土地の所有・利用をめぐって、安全保障上の懸念により、2010年、和歌山県議会から国に対し「外国資本等による土地の売買や適切な管理体制を構築するための法整備に取り組むこと」を求める意見書が出されて以来、複数の自治体議会から同様の意見書が提出されています。また、2013年の長崎県対馬市議会、2014年の北海道千歳市議会において、各市に所在する自衛隊基地等の周辺土地が外国資本に取得されていることが取り上げられ、問題提起がされてきました。政府は、2013年、「国家安全保障戦略」を閣議決定し、「国家安全保障の観点から国境離島、防衛施設周辺等における土地所有の状況把握に努め、土地利用等のあり方について検討する」との方針を示しています。法案提出まで時間を要した経緯について、また、外資による土地取得が問題視されてきた水源地周辺は調査・規制の対象外となりますが、地方の要請に応える法案となっているのか。

 これに対し小此木八郎担当大臣は、有識者会議で慎重に検討に進めていく考えを示しました。

(2)衆院内閣委員会の質疑において、本法案の立法事実について小此木大臣から「わが国の安全保障をめぐる内外情勢が近年厳しさを増している」との答弁がありました。この認識はわれわれも共有するところですが、「国家安全保障戦略」による方針が打ち出されて8年が経過し、この間、同様の認識が政府から繰り返される一方で、骨太の方針2020から昨年末のたった3回の有識者会議、窮屈な日程の中での国会提出に鑑みれば、審議が不十分であり、拙速感が否めません。現在のわが国を取り巻く安全保障環境に対し、本法律案の果たす意義と実効性について。(岸信夫防衛大臣)

(3)防衛省は、「国家安全保障戦略」の方針を受け、2013年から4年間、約650の防衛施設の隣接地について不動産登記簿等の一般に入手可能な資料により調査を実施しております。登記簿上の名義人が外国籍の者である土地が認められたとしながら、実態上の所有者と登記記録上の所有者の不一致や、不動産登記簿の地目以上の利用実態までは把握できないなど、調査に限界があるとの指摘がされてきました。当時の調査の総括について。(岸防衛大臣)

(4)本法律案による調査には、第6条の現地・現況調査、第7条の公簿収集、第8条の報告徴収と、第13条の特別注視区域における事前届出制度があり、重要施設を所管又は運営する関係省庁、事業者や地域住民の方々から機能阻害行為に関する情報を提供いただく仕組みも今後検討すると答弁されています。第22条では、「内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、資料の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができる」とあります。内閣官房から示された防衛関係施設における注視・特別注視区域の候補は、注視区域で約4百数十カ所、特別注視区域で約百数十カ所にのぼっています。これら区域の調査にあたり、関係行政機関は防衛省・自衛隊であり、自衛隊による住民に対する直接的調査への協力要請が行われる懸念があります。このような現地・現況調査がおこなわれるとすれば、自衛隊法においてどの規定によることになるのでしょうか。本法律案の目的達成のための自衛隊による住民への直接の調査がどの範囲まで許されると考えるのか。(岸防衛大臣)

(5)本法律案は、法案中の概念や定義が一義的ではなく曖昧であり、政府の裁量の幅が大きくなっている点が問題です。法案では、重要施設や国境離島等への「機能阻害行為」に対して、行為の中止を勧告し、正当な理由がなく勧告に従わない場合には命令をすることができ、命令に従わない場合の罰則も規定されています。しかし、どういった行為が機能阻害行為に当たるのかは、法律には明記されていません。政府は、閣議決定をする基本方針に機能阻害行為を例示する考えを示してはいますが、本法律案が国民の権利を制約する内容を含んでいることからすれば、少なくとも政府が答弁している機能阻害行為については例示として法律に盛り込むべきではないかと考えます。重要施設等の機能の阻害に使用されている物件に対し撤去など実効性ある措置を取ることはあり得るか、また、どのような規定によるか。(小此木担当大臣)

(6)本法律案で定義する「重要施設」の3類型の一つに、「生活関連施設」があります。この生活関連施設は、「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの」とされており、具体的な施設の指定は政令に委任されています。政府は、「原子力関係施設」と「自衛隊が共用する空港」を生活関連施設として政令で定めることを検討しているとしています。本法律案が国民の権利を制約する内容を含んでいることからすれば、機能阻害行為の例示の必要性と同様に、指定の基準を明確にするため、少なくとも政府が答弁している施設については例示として法律に盛り込むべきではないかと考えますが大臣の見解は。(小此木担当大臣)

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(7)本法律案では、国民の権利と自由に及ぼす影響が懸念されています。例えば、沖縄県は、県土そのものが有人国境離島である上に、多くの在日米軍基地を抱えています。大多数の沖縄県民が本法律案に基づく調査や規制の対象となり、本法律案の曖昧な定義や基準のために県民が知らぬ間に監視下に置かれてしまうこともあり得ます。本法律案には、土地等の所有者や利用者の利用状況を調査するため、「利用者その他の関係者」に情報提供を求める規定があり、従わなければ処罰されます。基地等の監視活動や抗議活動をする知人や協力者の個人情報の提供を迫られることで、地域や市民が分断されることとなり、市民運動や住民運動の自己抑制、萎縮につながりかねません。本法律案の規定による措置の実施に当たっては、憲法が保障する思想や表現の自由、団結権・団体行動権といった国民の権利と自由が不当に制限されるようなことがあってはならないと考えますが大臣の見解は。(小此木担当大臣)

(8)第8条では、内閣総理大臣は、注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に対し、当該土地の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができることとし、報告若しくは資料の提出をしなかった場合の罰則規定が設けられています。罰則が規定されている以上、関係者としてどのような者がその対象となりうるのか、法律上明確でなければ、国民に対する罰則の告知として不明確であり、また、行政による恣意的な処罰のおそれが排除できない点で、罪刑法定主義に反するのではないでしょうか。どのような者が該当しうるのか、法律に例示列挙を規定する考えはあるか。また、報告徴収についての罰則規定は削除すべきと考えますが大臣の見解は。(小此木担当大臣)

(9)注視区域及び特別注視区域は、内閣総理大臣が指定し、官報で公示することとされています。具体的にはどこが該当するのでしょうか。衆院において、防衛省からは、該当する自衛隊施設のリストは作成したとしつつ、内閣委員会理事会には、全体像の分かる資料は提出されませんでした。防衛省の答弁によれば、「このリストを公表した場合、わが国の防衛戦略構想の一端を示すことにもなりかねない」とし安全保障上の懸念が理由とされています。本法成立後、官報で公示される区域リストについて、安全保障上の懸念から法案審査の段階で公表できないとすることに合理的理由は見出せません。充実した審議のためにも施設リストを示すべきと考えますが、提示しない理由と合わせ大臣の見解は。(小此木担当大臣)

(10)本法律案では、注視区域及び特別注視区域の指定について、経済的社会的観点から留意すべき事項を基本方針に定めることとしています。この「経済的社会的観点から留意すべき事項」とは、具体的に、どのようなことを想定しているのでしょうか。市ヶ谷の防衛省を特別注視区域の対象から除外するとの報道について、答弁では「決定した事実はない」としています。法定された指定の要件、すなわち重要施設機能の阻害の容易性や代替困難性などが認められるにもかかわらず、基本方針に定められた留意事項によって結局指定されないことがあり得るのであれば、法律も国会での議論も骨抜きにできてしまいます。恣意的な運用のおそれのある「経済的社会的観点から留意すべき事項」の文言は削除すべきと考えますが大臣の見解は。(小此木担当大臣)

(11)第13条は、特別注視区域内にある土地の売買契約などにより所有権等が移転する場合に、契約に先立ち内閣総理大臣に届け出ることを義務付けています。この義務に違反し、事前届出をしないで売買契約を締結した場合について、罰則規定が設けられています。このような事前届出制度は、所有権の自由な移転を妨げるものであり、私権に対する重大な制約となります。私権制限を正当化する理由として、国家の安全保障という漠然とした保護法益を挙げることで説明ができているのでしょうか。事前届出制による制限を正当化する十分な根拠が示されないとすれば、届出義務に違反した場合の罰則規定は削除すべきではないでしょうか。小此木大臣の見解を伺います。また、国家の安全保障という抽象的な法益を保護するためであれば、事後の届出を要求することで、その目的は達成できるのではないでしょうか。事後届出制に改める考えはないか。(小此木担当大臣)

(12)有識者会議の提言では、「土地の所有・利用に関する情報を一元的に把握・管理する組織・体制を整備する」ことを求めていますが、同時に、「全国各地の土地等の所有・利用に係る情報を収集するに当たっては、公簿等の収集を始め、膨大な業務量が想定される」とし、「必要な人員・体制や予算を確保し、万全の備えを」行うことを要請しています。既に限られた人員で既存の業務に忙殺されている行政官庁において、この法律により新たに生じる膨大な業務の実施体制をどのように確保するのでしょうか。わが国の安全保障に関わる本法律案の性質上、調査の民間委託などは慎重にすべきと考えますが大臣の見解は。(小此木担当大臣)

■最後に

 木戸口議員は、「法案の根幹の詳細は成立後の基本方針で示すとするのでは、議論の前提が成り立たず、立法府としての責任を果たせません」と延べ、政府には誠意ある答弁を求め、委員会での十分な審議時間確保を要求し質問を終えました。

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