参院本会議で15日深夜、「参議院議院運営委員長水落敏栄君解任決議案」が審議されました。解任決議案は、同日夜の議院運営委員会理事会で水落委員長が、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案(重要土地利用規制法案)を、与野党の合意のないまま緊急上程させようとしたため、立憲民主党・社民と共産党が提出したものです。
発議者を代表して、議院運営委員会野党筆頭理事をつとめる吉川沙織議員が趣旨説明をおこないました。吉川議員は議院運営について「本会議先例206号、委員会の審査を終わった案件は議院の議決により議事日程に追加する場合を除き、次回の議事日程に追加する。14日議運委員会理事会において、さらには内閣不信任案決議案提出後に再開された議院運営委員会理事会において最大会派から全く提案のなかった重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案(閣法第62号)の緊急上程は、先例上、そして国会の議事運営の常道からすれば、これに外れるものであると言わざるを得ない。今回突如として、提案された緊急上程は予算案や年度末の日切れ議案など、例外的に認められるべきものだ。委員会で瑕疵なく採決されたのであれば、それぞれの賛否は別として、次の本会議の議事日程になることが原則であり理解はする。ただ、16日は会期末予定日であることからしても、その本会議の議事日程として正常な形で議会運営をすべきだ。本法案の採決を扱う議事日程を緊急上程を強行的に扱い、追加されるのではなく、16日の本会議で通常どおり扱いさえすれば、それぞれの賛否は別にして、原則に従って正常に扱うことができる」「先程の議院運営理事会においても先例上も次の本会議が原則であることを申し上げ、その本会議で扱いましょうと幾度も提案させていただいたにもかかわらず、今回強行的に議事運営の常道から外れた形で議事日程の追加をされるのであれば、そしてそれを議院運営委員長が容認なさるのであれば、議院運営委員長に対する解任決議案を出さざるを得なかった」と説明しました。
また、「14日夕刻の議院運営理事会においては、最大会派から、驚くべき提案がなされた。それは法的拘束力を有し、すべてに優先されるとする解釈と慣例が定着している内閣不信任決議案が提出されたとしても、15日10時の本会議を定刻どおり開会し、内閣委員長解任決議案を扱いたいという提案だった。内閣不信任決議案は仮に可決されれば、憲法第69条の規定により内閣は解散か総辞職を選択せざるを得ないものであり、その議案が提出されれば、その処理がおこなわれるまで衆参ともに本会議、委員会を開催すること自体、おこなわれていない。この国会のルールが確立されて以降は、当然、院の構成にかかわるからと言って先に処理した例も見当たらない」と指摘した上で、水落委員長が与党の主張を退けなかったことを問題視しました。これまで議会の先人が積み上げてきたルールを顧みず、あり得ない前例を最大会派が自ら作ってしまうところだったことに強く異を唱えました。
次に重要土地利用規制法案の問題点として、包括委任規定を取り上げました。吉川議員は、「包括委任規定を含む法律案は、細目的事項を具体的に明示せずに、実施命令の根拠規定を法律に設けようとするものであり、法律による行政の原理の意味を埋没させるおそれがあるとともに、立法府の空洞化を招来しかねないといった問題を抱えている。国会は憲法上、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関として、法律による行政の根拠である法律を制定するとともに行政執行全般を監督する責務と権限を有している。国会の憲法上の責務と権限を侵害しかねないような束ね法案と包括的委任規定については、立法府と行政府の関係が改めて問われている今こそ、与党、野党かは関係なく、行政府に対して厳に慎むべきと主張すべきではないか」と述べました。土地利用規制法案には、典型的な包括委任規定が包含されており、具体的事項は条文でなく内閣府令で定められることになっていることを批判しました。
吉川議員は、こうした法案の緊急上程を容認した議運委員長の解任決議への賛同を求め、趣旨説明を終えました。
続いて白眞勲が議院運営委員長決議案に対する賛成討論をおこないました。
白議員は、水落委員長の委員会運営について参院に重要土地利用規制法案が付託されるまでは円満な議事運営だったとの認識を示した上で、「ところがこの法案を与党の求めに応じて、粛々と議院運営委員会で本会議趣旨説明を採決し、その後の混乱を引き起こす原因を作り出し、菅総理がG7から帰国した途端、さらに豹変し、委員長職権のきわめて不適切な乱用をし始めた。14日の議院運営理事会開会について、両筆頭の合意が出ていないにもかかわらず、理事会開催を委員長判断で決定した点は断じて許せるものではない」と非難しました。
法案については、当初から多くの問題が指摘され、衆院内閣委員会では不正常な状態で議決され、荷崩れ状態で参院に送付され、参院が要求する十分な審議日数を確保できないことが明らかな状態だったと経過を振り返りました。法案の内容について、「わが国の安全保障に寄与するものという目的には共感できるものの、その目的を達成する手段の実効性に疑問があること、指定対象となりうる施設等の範囲があいまいであること等、問題は枚挙に暇がない。とくに国会を唯一の立法機関と規定する憲法の趣旨に反する、典型的な包括委任規定が含まれていることも看過できない」と述べました。
会期末予定日まで2週間しかない時期に参院に法案が送付されてくるのは、参院軽視も甚だしいと抗議しました。白議院は、「水落委員長による職権を悪用し、横暴かつ民主主義のルールを無視した国会運営に強く抗議し、猛省を強く促す」と述べ、討論を終えました。
その後、採決がおこなわれ、与党等の反対多数により解任決議案は否決されました。
休憩をはさみ、重要土地利用規制法案の採決がおこなわれ、与党等の賛成多数により法案は可決、成立しました。