立憲民主党として初めてとなった東京都議会議員選挙(7月4日投開票)では、公認候補15名、推薦候補2名が当選しました。注目選挙区の1つだった武蔵野市選挙区(定数1)では、新人の五十嵐えりさん(写真上、右)がSNSを効果的に活用し、ボランティアを積極的に受け入れる市民参加型の選挙戦を繰り広げました。
選対事務局長の川名ゆうじ武蔵野市議(写真上、左)とともに、選挙戦を振り返ってもらいました。
五十嵐えりさんのインタビューはこちら
https://cdp-japan.jp/article/20210622_1630
――初めての選挙、どうでしたか。
五十嵐)4月6日の朝、三鷹駅北口に立つことから始まりました。最初はどんな内容をどう話せばよいのかわかりませんでした。川名さんにアドバイスをもらい、まずは自己紹介から始めました。初日はとても緊張しましたが、菅直人衆院議員と松下玲子武蔵野市長が一緒でとても心強かったです。
川名)武蔵野市には駅が3つしかないですし、まったく無名の五十嵐さんの顔と名前を覚えてもらうには、とにかく駅に立つしかないんですよ。
五十嵐)そういう「ザ・選挙!」っていうものに最初は抵抗がありました。もっとスマートにできないのかなと思ったこともありましたが、途中から吹っ切れました。
川名)グチグチ言いながらも、よく回りましたね(笑)
五十嵐)そんなにグチグチ言ってましたか?(笑)。でも確かに、最初は「こんなことやってどんな意味があるの?」と思ったこともたくさんあります。
でも今となれば、すべて意味があったと思います。結果として、初めての選挙はとても楽しかったです
――五十嵐さんの経歴が話題を呼びました。
川名)6月に入ってから毎週のように新しいビラを作りましたが、その時点で「決まったな」という感じでした。「女性の弁護士」というだけでは不十分。過去の経験を軸に、五十嵐さんがなぜ立候補しているのか、どういう立ち位置なのかをしっかり見せることを意識しました。
五十嵐)自分の過去をさらけ出すのはとても嫌でした。でも、自分の思いを心の底から出てくる言葉にしないと相手に伝わらないし、なぜ自分が立候補したかを限られた期間で多くの有権者に伝えなければいけないと思うようになりました。
それはもちろん、選挙で勝って都政で仕事をするためです。1人区なので最後まで油断はできない。選挙で勝って都民のために働くため、と覚悟を決めました。
川名)個人ストーリーの引きの強さだけではなくて、コロナ禍で大きなダメージを被っている地域の苦境、一人ひとりのしんどさを顧みない政治状況をつなげて話せたからこそ、立ち止まって聞いてくれたりビラを受け取ってくれる人が多かったのだと思いますね。政治への不信がある中で、弱い立場にある人のことを理解できる政治家、普通の感覚を持つ政治家が求められているのだと思います。その感覚と、市民やパートナーズの皆さんと一緒に政治を変えたいと訴えたのが響いたように思います。
――投票箱が閉まる時には動画が約17万回再生と、多くの人に見られました。
五十嵐)街頭演説はどうしても一方的な口調になってしまうし、政治家や候補者って普通の人から見たら自分とは違う「別の世界の人」と見られがち。なので、動画の中では、友だちと話しているような雰囲気で、私は政治の場で誰の声を聞きたいのか、誰を代表したいのかをしっかり伝えようと思いました。
川名)SNSの盛り上がりはライバル陣営と比較して圧倒的でした。支持者以外にも届けたいと思っていたので、まずは10万回再生をめざして拡散をしました。
ただ、SNS上での「空中戦」だけでは勝つことはできません。素晴らしい動画を作って再生回数を稼ぐことが目的ではなくて、電話かけや口コミなどの「地上戦」にいかにつなげるかが大事です。
五十嵐)最初はフォロワー30人くらいだったのに、選挙が終わった時点で4800人くらいになりました。
川名)特徴的だったのは、五十嵐さんのツイートをコメント付きでリツイートしてくれる人が多かったことですね。五十嵐さんの動画やツイートに共感するだけでなく「周りの人に知ってほしい」と思うからコメントしてくれる。
五十嵐)街頭で「俺も昔10トントラック乗ってたんだよね」とか「実はうちの娘も不登校で…」など、本当にいろいろな方から話しかけてもらいました。みんなに「自分のことだ」と受け取ってもらえたのは、SNSでも街頭でもひしひしと感じていました。
私自身は、地上戦、空中戦、と意識してやっていたわけではなかったのですが、振り返ってみると全部つながっていました。
――コロナ禍で、SNSやウェブコンテンツの活用は必須ですね。
五十嵐)選挙期間中は目の回る忙しさで、どれほどのボランティアさんが来てくれたのか、どれほどの電話をかけてくれたのかなど、まったく把握できていませんでした。
川名)ボランティアを受け入れて回せる体制をつくるというのは、最初から意識していました。メニューを示して参加のハードルを下げ、初めてでも「行ってみようかな」と思ってもらえるよう心がけました。それを温かく受け入れられる事務所の雰囲気も大事です。
今回、電話かけの本数は国政選挙並みでした。スタッフが常駐し、数時間ごとに「今〇台空いてます!」というツイートなどをして盛り上がっている雰囲気が伝わるようにしました。
https://twitter.com/Igarashi_Eri/status/1410575161279934468
五十嵐)菅直人衆議院議員が長年、武蔵野市でそういう土壌を作ってきてくれたということもありますね。街頭で「今、電話かけしてきたんですよ〜」って声かけてくださる方もいて、いろんな方と一緒に闘っているんだ、という実感がありました。
川名)五十嵐さんの演説や動画に共感して「応援したい」と思って、そこから行動に移してくれる人が多かったと思います。実際、五十嵐さんのツイッターアカウントは告示日からおおむね30万インプレッションだったのが、動画を公開した6月29日には約76万インプレッション。電話かけの本数は最初の週末より動画公開後の平日のほうが多かったのです。
選対としては、きちんと受け入れ体制を整えて、空中戦と地上戦の好循環を生み出せるように意識しました。
突飛な広報戦略を立てても動画がバズっても、投票用紙に「五十嵐えり」と書いてもらわないと意味がないですから。
――SNSの発信をいかに地上戦につなげるかがカギですね。
川名)今回、動画やSNSに力を入れて、どこまで票として積み上がるかは未知数でしたが、SNS発信を地上戦につなげることを意識して良かったと思います。
五十嵐)たくさんの人に「素敵な動画だね」って言ってもらえたのですが、それだけで満足してはいけないですね。
川名)イメージを絞り込むのも大事です。毎日何本も動画を出すよりも「これ!」という1本をしっかり伝えていく方がいいのかもしれません。
コロナ禍で、定番の集会もオンラインになり、イベントができなくて物足りなかったですが、「集会が命」みたいなこれまでの選挙のあり方は見直すタイミングなのかもしれない。
五十嵐)リアルでもオンラインでも、関心のない人はそもそも来ないですよね。でも有権者の大多数は無党派。そういった方たちにもどうやって自分の思いを届けるかが大事ですね。
川名)核となるメッセージを練り、コンテンツに落とし込み、SNSで発信する、で終わりじゃなくて、そこから反応が返ってくる、というところまで計算しなくてはだめですね。
そういう意味でうまくいったのだと思います。SNSでの発信を受け取った人が実際にボランティアに来てくれて、常に街頭でビラまきができたし、受け取りもすごく良かったです。
五十嵐)ビラが選挙期間中盤に足りなくなるという事件が起きました(笑)。
川名)選挙期間中、ビラは手で配る分を3000枚用意して、その他は新聞折り込みに入れていたのですが、期間の中盤で足りなくなっちゃって。配分を調整してなんとか最終日までもたせました(笑)。
五十嵐)SNSを見て武蔵野市に応援に来てくれたボランティアの方がたくさんビラを撒いて下さったおかげですね。
川名)SNSを見ている人は武蔵野市民に限らないのですが、回り回って武蔵野市民にちゃんと届いているという実感がありました。
五十嵐)今回、私に託してくれた人たちは、必ずしも普段から政治に関わってる人ばかりじゃないと思うんです。だからこそ、継続的につながれる仕組みをつくりたいし、みなさんから頂いた声を都政で生かしていきたいと思います。これからが本番です。