菅義偉総理大臣が3日、自民党総裁選への不出馬を表明したことを受けて同日夜、枝野幸男代表と福山哲郎幹事長がりっけんチャンネルで緊急対談をおこないました。

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■菅総理、突然の退陣表明

 福山幹事長は都内で、新型コロナウイルスに感染して自宅療養中、または入院調整中の方が約2万5000人を超え、国基準の重症者が1200人弱、病床使用率が96.6%にのぼり、依然として病床がひっ迫し、医療提供体制が厳しい状況の中で菅総理が実質的な退陣表明をしたことについて、枝野代表の受け止めを聞きました。

 枝野代表は、「少しくらい新規感染者数が減っても、その中でも中等症や自宅に放置されてはいけない方が間違いなく増えていっている状況だ。新学期が始まったことによる、広がりも心配されている」との認識を示しました、昨年の3月の予算委員会で災害として対応し、災害対策基本法を使うべきだと主張したが、政府は1年半経ってようやく災害だと言い始めていると苦言を呈しました。東日本大震災と原発事故を枝野代表は官房長官、福山幹事長は官房副長官として経験し、「総理の仕事を近くで見ていたから、中身はいろいろな違いがあるにせよ、頑張って来られたのだとは思う」と述べた上で、衆議院選挙で1カ月政治空白ができるのがやむを得ないのに、それに先立って自民党の総裁選挙でさらに政治空白をつくり、さらに総理はレームダック状態となり、総理が発言しても国民には届かず、役所もどれくらい動いたらいいのか分からない状態に陥ると指摘しました。「したがって、感染対策が止まるという状況を、何の対応もなく、今日突然つくってしまったということは、正直、本当に信じられない」と非難しました。その上で「とにかく、今やらなければいけない緊急の対応をしっかりとやる、政治空白をどうしたらできるだけ小さくできるかについて、われわれも協力はするので、しっかりと考えていただきたい。この9年、政権を担ってきた自負があるならば、きちんとその始末はつけていただきたい」と語気を強めました。

 福山幹事長は、10月21日の衆院任期満了が迫っている中、与党は政治日程をきちんと決めるのが普通ではないかと問いかけました。枝野代表は、「過去の例を言えば、災害や災害級の緊急時でなくても、突然総理がお辞めになったような時には──辞めると表明した時にはレームダックなので──自民党の総裁選であれ、われわれの代表選挙であれ、1週間くらいの日程で次の総理候補を決めて、政治空白を最短にして迷惑をかけないようにするのが慣習だったと思う。この緊急事態なのに、(9月29日の総裁選まで)1カ月放置するのはちょっと考えられない」と述べました。

 これに対し、福山幹事長も「なぜ、そのような選択をするのか分からない」と同意し、小泉環境大臣が自民党の総裁選挙はよい宣伝になるという趣旨の発言をしたとの報道に触れ、コロナ禍で党利党略に走っていることに疑問を呈しました。

■自民党の統治能力の劣化

 枝野代表は、第2次安倍政権ができてからの9年近くで、自民党の統治能力が落ちてきいると指摘し、「こういう時にどうしたら国民の皆さんにおかけする迷惑、政治日程に係る影響を小さくして、事務処理をするかについて、少なくとも2000年代くらいまでの自民党なら当然、全部組み立てて、影響を最短にする知恵と力があったと思うが、まさに統治能力が失われたということがこの混乱ぶりを示しているのではないか」と述べました。

 福山幹事長は「誰も政治日程の絵を描いていない、まさに出たとこ勝負のような状況になっている」と話し、工夫をすれば10月21日の任期満了までに選挙を実施できるはずなのに、現状では「少し黄色信号が灯ってきたということだと思う。われわれとしては、憲政の常道で任期満了までに原則として求めていくのか」と確認しました。

 枝野代表は「逆にそれが、与党のマネージメント自体ができていないことの証だ」と指摘しました。一方で新総裁を決め、(国会を開いて)首班指名だけやって、何もせずにまた、総選挙で1カ月空白というのもおかしな話だ」と述べました。本来、菅総理であっても、新たに選出した総裁であっても衆院選挙を控えている選挙管理内閣だが、「そうでないと言うなら新総裁の下で、1カ月の空白に先立って、やるべきことをやっていただかなければいけない。国民生活、危機への対応をきちんと考えていかないといけない」と話しました。

 福山幹事長は、任期まで50日を切っている時に、総裁を変えて新しい総理で、新しい内閣をつくってもやれることは限られており、こうした状況で新内閣をつくること自体、異例であり、選挙管理内閣の色彩が非常に強くなると話しました。

 枝野代表は、衆院議員の任期、あるいは衆院の解散に連動して、いったん総辞職になるので、衆院議員の任期が総理の任期になると説明し、「29日に総裁選をやり、10月1日に首班指名し、総理になったとしても、その総理の任期は21日間しかない」「自民党もここまで統治能力が落ちてしまったのかと。政策的には時代状況に合っていない、間違った政策だと言ってきたが、政権運営は長年の蓄積があり、したたかで見習うべきところが多いなと思ってきたが、ものすごい劣化ぶりだと言わざるを得ない」と批判しました。

■安倍政権・菅政権に受け継がれた政治体質

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 福山幹事長が菅政権の1年間をどのように見るかを尋ねると、枝野代表は「コロナが深刻したのは昨年の春からで、半年以上は安倍内閣だった。菅政権がどうしてうまくいかなかったという原因を含めても、第2次安倍政権の2012年12月以来の9年近い全体で評価をせざるを得ない」と述べました。菅総理がコロナの感染状況について根拠なく楽観論であったことも、「安倍政権の時代から官僚に忖度を強いてきたことで、正しい情報が入っていなかったとしか思えない。あるいは、入れたくても入れられなかった。ファクトを大事にしない」「安保法制での憲法解釈の不当な変更をした際も、常識的な憲法学者が皆できないことだというアカデミックな専門家の専門性を無視した政治を積み重ねてきた。それを今度はコロナ対策でもやってしまった。この9年間の自民党政権の膿が全部ふきだしている。この本質のところが問われなければ、同じことの繰り返し。安倍政権から菅政権で劣化した部分がさらに拡大するしかないという状況だ」と分析しました。

 福山幹事長も、森友・加計、「桜を見る会」の問題も同じような原因。ある意味で言えば、安倍政権もコロナ対策を投げ出し、今回菅政権もコロナを投げ出すことが続いているとの認識を示しました。

■野党として何を訴えるか

 次に、自民党総裁選が始まると、そちらに関心が集まり、野党の存在が見えなくなるのではと心配の声が上がっていると問いかけると、枝野代表は「こういう時ほど、われわれは正論と正攻法だと思っているので、そのことをあまり強く意識せずに、たとえば事業者の皆さんには業種地域を問わず、減収分の一定割合を補填する持続化給付金をバージョンアップして支給するという法案も出しているし、生活困窮者に対する支援も具体的なことを提起している。この間もかなり現場の皆さんから話を聞きながら具体的な提案を積み重ねてきているが、さらにこの1、2カ月の間に現場の状況が深刻化しているところがあるので、そうした状況をきちんと把握しながら、われわれもまだ見落としている、十分に応えきれていない部分について とにかくレームダック政権でもこれくらいはやれということを含め、あるいはその先に、政権をお預かりしたら、すぐに着手するという備えを進めていることをきちんとお伝えしていくしかないと思っている」「自民党総裁選挙も1つのニュースなのかもしれないが、大型国政選挙の直前なので、既に菅総理が辞める辞めないの前からメディアは野党の動きも公平に扱っていただかないと、メディアの責任は果たせないのではないか」と話しました。

 福山幹事長は、政権を取ったらまず何を進めていくかを党内で検討しているとし、たとえば野戦病院型施設、宿泊療養施設の整備を例に挙げました。「われわれは過半数の候補者の擁立を目標にしているので、積極的に発信していく」と述べました。

 枝野代表は「政治は時間の関数」という考え方を大事にしていると述べ、「解散という普通の流れの状況で選挙にならない状況なので、かなりのところは既にその都度提案をして、われわれの政権ならこういうことをやると言ってきたが、選挙を明確に意識しながら、具体的にこういうことをやっていくと改めて整理をしたり、あるいはポイントでここをやろうと改めてきちんと順次打ち出していく、そういう流れ」であると説明しました。

■政権を担う準備はできている

 福山幹事長は、総選挙で政権を目指し、政権交代を求めていくことを国民の皆さんに訴えていくが、「結局は、次の総理を自民党の総裁なのか、枝野代表なのかという戦いにしていかなければならない」と述べ、枝野代表に政権交代への意欲、決意を聞きました。

 枝野代表は、「残念ながら、今コロナで国民の皆さんに渦巻いている不信は、決して菅総理だけの問題ではなく、安倍内閣の下で初動を間違えたから。われわれはあの時から、検査を増やせとか、水際対策を強化しろ、自粛と補償はセットだと言って来た。でもそうしたことに耳を傾けずに今の状態をつくってきている。忖度を強いる政治 事実に基づかない改ざん、隠ぺいという政治。どなたが自民党の総裁になろうと、それを支えてきた皆さんだ。『あればひどかった、間違っていた。私はあの時は黙っていて申し訳なかった』という方が出てくるとは思えない状況で、どなたがなっても結局、安倍・菅政権の継続なので、流石にちょっと酷すぎるから変えませんかという選択を国民の皆さんにしていただくこと(が必要)だ」
 「われわれとしては、選挙の選択になれる構造を作れるかどうか。4年前の総選挙の直前に立憲民主党を立ち上げて、最初は1人だったところから、まさか4年で政権を競い合える、政権の選択肢としての仲間、枠組みをつくれるとは思えなかった。ただ総理になったら何をするか、総理として政権を回すためには何をしなくてはいけないかは、官房長官、副長官として官邸にいて、そこを離れた10年前の9月、この時の経験、東日本大震災、原発事故の教訓から、危機に強い、危機の時でも国民の命と暮らしを守れる政府をつくるために、もう1回首相官邸に戻ってくる決意し、この10年間でその準備を積み重ねてきたつもりだ。準備が整ったと思ったから、4年前の9月、初めて所属する党の代表選挙に手を挙げた。それなので政権の準備は整っている」と断言しました。
 「ただ、選挙だけはしたたかな、権力維持だけはしたたかな自民党を相手に戦わなければいけない。立憲民主党だけではなくて、本当に今の状況を憂いていらっしゃる沢山の皆さんの総力を結集する結節点に私自身がならなければならないと思っている。私はずっと、総選挙までに政権の選択肢として認めていただける構造を作ると言ってきた。立憲民主党として準備を整えるとともに、同じように今の日本と社会を憂いておられる皆さんの力を結集できる構造をしっかりと総選挙までに皆さんにお示しをしたい。そして政権を変えたいと思っている」と述べました。

 福山幹事長は「政権の準備をしてきたということは、総理として日本の舵取りをする覚悟で衆院選挙に臨むといことでよろしいか」と重ねて尋ねると、枝野代表は「そうだ」と断言し、最大野党の代表には期待がかかるが、やれることには限りがある中で「しっかりと政権の選択肢をつくっていくのは本当にしんどい仕事で、やりたい仕事だとはまったく思わなかったが、政権を担って社会を変えていくためには、最大野党が野党を束ねて、さらに多くの皆さんの力を結集しないと、社会を変えるような政権奪取はできない。なので、この4年間歯を食いしばってやってきた。しかも10年間、準備をしてきた。おそらく自民党の皆さんで、10年間そのことだけを意識しながら準備をされてきた方は他にはいないと自負している。準備とその前提になっている覚悟はできている」と語りました。

 福山幹事長は、東日本大震災と原発事故の際に一生懸命取り組んだ官僚が沢山いて、首相官邸から離れる時に「また帰って来てください」と何人もの方から言われたと振り返り、もう一度官邸に戻り、枝野代表が総理としてこの国の舵を取ることを切望して、4年前にともに立憲民主党をつくることを選択したと話し、「このコロナの危機の時に枝野代表が、この国のトップになって命と生活を守るというのが立憲民主党の役割だと思っている」と期待を込めました。

 最後に枝野代表は、政権を取ってまず何をするかについて最終的に整理しているところで、来週の前半にも発表する考えを示しました。