衆院本会議で4月21日、SNSやインターネット上の誹謗中傷対策として、政府が提出した侮辱罪を厳格化する刑法などの改正案と、衆院会派「立憲民主党・無所属」が対案として提出した「加害目的誹謗等罪」を新たに設ける刑法などの改正案の趣旨説明・質疑が行われました。
党対案の趣旨説明は鎌田さゆり議員、政府案・党対案への質疑は藤岡隆雄議員が行い、党対案の答弁は米山隆一、山田勝彦両議院が行いました。
【趣旨説明】鎌田さゆり議員
鎌田議員は冒頭、一昨年5月、22歳の若さで命を失った木村花さんに哀悼の意を表し趣旨説明を行いました。
政府は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留または科料に処する」とする侮辱罪の法定刑に「1年以下の懲役、若しくは禁固、若しくは30万円以下の罰金を付加」する侮辱罪厳罰化法案を提出。鎌田議員は政府案を「SNS・インターネット上の誹謗中傷対策として有効ではない」と指摘。「死ねばいいのに」「いつ自殺するの?」といったSNSで見られる人を傷つける心無い言葉が「侮辱」とは言えず必ずしも処罰の対象とならない、また侮辱罪は「公然性」を要件としており、ダイレクトメッセージ(DM)や、電子メール、LINEなどで行われる少人数での誹謗中傷や、いじめにも対応できないと述べました。
さらに「お前アホやな」といった日常的な会話や、「〇〇さんは総理の器じゃない」と言った正当な論評のつもりで発言した批判の言葉も侮辱罪となり得るとして、言論の自由を強く委縮させる大きな問題点があると指摘しました。
対案の「加害目的誹謗等罪」は、「人の内面における人格権」を保護法益としており、人格を傷つける言葉が処罰対象になる一方で、日常的な言葉については、言った側が「加害の目的がない」と弁明する事が可能となると説明。さらに加害の目的を要件とすることで、被害者が「やめて欲しい」と言っている事を知りながら誹謗中傷した客観的事実により、処罰すべき誹謗中傷と、処罰すべきでない言葉を、適切かつ明確に画する事ができると説明しました。
また、明文で公共の利害に関する場合の特例を定めており、公務員・政治家に対する正当な批判をした人が、この罪で処罰されることないと述べ、法定刑も「拘留または科料」となっており、逮捕されたり、従犯が処罰されたりすることも基本的にないと説明しました。
さらに、犯罪被害者保護法における損害賠償命令制度の対象に、『加害目的誹謗等罪』『名誉棄損罪』『侮辱罪等』を加えて、被害者救済を図るとともに、『プロバイダー制限責任法』の使い勝手を良くして、誹謗中傷の行為者を特定しやすくする現実的対策を講じていると説明しました。
【質疑】藤岡隆雄議員
藤岡議員は冒頭、木村花さんに哀悼の意を表し、政府案に対して、処罰対象となる行為の範囲は変わらず、最も処罰すべき行為に対応できないと指摘。「公然」と侮辱する事を要件としていることからDMやLINEいじめのようなものは処罰対象とならないのではないかとただしました。
古川法務大臣は、「公然と人を侮辱する行為を処罰対象とするものである」として、法整備がされた後も変わりがなく、公然性の要件を満たさない場合は処罰対象とすることは適当ではないと答弁しました。
政府案では、逮捕・勾留が可能となることから、どの様な基準で警察が逮捕事案を選別するのか、また、時の政権の恣意的な運用により、言論弾圧、政治的な弾圧が可能になってしまう極めて危険な制度ではないかと懸念を示しました。
古川法務大臣は、侮辱行為を一律に重く処罰する趣旨ではないとした上で、「逮捕の必要性がある時に、あらかじめ裁判官が逮捕の理由及び必要性を判断した上で発した逮捕状によらなければならず、捜査機関においては法と証拠に基づいて適切に対処するもの」だと答弁しました。
立憲会派提出の対案については、(1)処罰範囲の把握(2)公共の利害に関する場合の特例の不存在(3)逮捕、共犯等(4)損害賠償命令制度(犯罪被害者保護法23条)(5)プロバイダー責任制限法改正――についてただしました。
【答弁】米山隆一議員
米山議員は冒頭、政府案では処罰対象の範囲は変わらず、現在侮辱罪で処罰されているのは年間60名程度であるため、年間60名程度の犯罪が抑制されるだけで効果はないと指摘しました。また、「侮辱」を処罰するのは極めて迂遠かつ不合理であり、「SNS・インターネット上の誹謗中傷」に対処するには「誹謗」「中傷」を処罰するのがもっとも直接的で効果的だと説明しました。
加害目的誹謗等罪を創設し、法定刑を現行の侮辱罪と同じにしている趣旨について米山議員は、「本罪が憲法で保障された表現の自由を制約する側面を有する」として、「国民の正当な言論活動を萎縮させることのないよう、あえて軽い法定刑にとどめた」と答弁しました。
【答弁】山田勝彦
山田議員は犯罪抑止効果について、「現行の名誉毀損罪や侮辱罪では処罰し難い誹謗中傷行為を、新たに正面から処罰の対象とするものであり、まずそのこと自体に大きな意味がある」「法定刑の軽重によって大きな差が生ずるとは考えておらず、本罪の創設それ自体により十分な効果が発揮されるもの」と答弁しました。
SNSやインターネット上で誹謗中傷がされた場合に、相手の特定が困難であるとして、プロバイダー責任制限法の一部を改正し、発信者情報の開示請求を被害者にとって利用しやすい制度とすると説明。(1)メールなどの1対1のやり取りも開示請求の対象とすること(2)ネット上の詐欺情報を誤信し財産上の損害を受けた場合も開示請求の対象とすること(3)権利侵害の明白性の用件を削ること――などを盛り込んだと答弁しました。