「正しい資本主義」への転換

―Made In Japan:日本産業の復権―

立憲民主党 経済・産業政策調査会

2022年4月28日
“政治は経済力によって政策の自由度が決まり、経済はその国が持っている科学技術の創造力を超えては発展しない”(大島敦 立憲民主党 経済・産業政策調査会長)

現状認識:慎重すぎる経営/行き過ぎた短期主義経営のままでは、日本社会が弱くなる

⚫ 行き過ぎた規制緩和/構造改革論は、経済・産業政策の原動力として「短期主義経営」を礼賛。こうした政策運営の本質は、長らく変わらなかった

➢ 1997 年からの日米通商協議による外圧により、規制緩和/自由化/民営化/金融化/グローバル化など新自由主義的な政策が奨励された。その後も、日本政府は自ら規制緩和/構造改革を推進してきた

➢ 中長期的な利益を見据えた技術開発や設備投資よりも、短期的な成果を追求する方が合理的とされる企業経営は、政策によって残存/強化され続けた(例:四半期決算の公表義務化、ストックオプション制度の導入、自社株買いの機動性向上、ROE 最低8%目標など)

➢ 短期的利益の追求は、従業員を大切にしない経営に繋がった(例:労働者派遣法の原則自由化、非正規/外国人技能実習生の拡大、OJT/OFF-JT 投資の減少など)

⚫ 従業員の賃金アップにも、思い切った設備投資にも繋がらない「慎重すぎる経営」は、企業の成長力を弱め、新たな財/サービスの創出を遅らせた。コロナ禍でも残存する可能性が高い

➢ 賃金も上がらず設備投資も進まない結果、内需も企業の成長力も低迷。その結果、賃金は上げられず設備投資にも踏み切れない、悪循環に陥っている

➢ 日経平均株価が高値を付ける一方、昨年度における上場企業の自社株買いは対前年度比 7 割増の 8 兆円。資金を振り向けるべき成長事業の創出が遅れている可能性

➢ 1990 年代半ば以降、企業は無形/有形資産や人的資本への投資を抑制しながら、貯蓄超過によって危機を乗り切ってきた「誤った成功体験」が、繰り返されるリスクが高い

⚫ 「成長しなければ分配されず」を 20 年近く実証してきた日本は、経済大国の地位を失った

➢ 所得水準の停滞が顕著。一人当たり購買力 GDP や平均賃金は、韓国の後塵を拝した

➢ 潜在成長率は足下0%近くまで低下。低金利や法人税減税でも設備投資が伸びず

⚫ 当面(7 月頃まで)は、物価高や中小企業の資金繰りが一層厳しさを増す見込み

➢ ウクライナ侵略も伴って、物価高が継続(燃料、食料、医療/福祉の原材料など)

➢ コロナ関連支援により中小企業は「減収増益」の傾向。倒産件数は低い一方、実質無利子・無担保融資による過剰債務に直面。賃金アップや設備投資に踏み出せない状況に追い込まれており、速やかかつ抜本的な対応が必要


基本的な方向性:慎重すぎる経営を解きほぐし、我が国に集う国民の能力を最大限に引き出す「正しい資本主義」へ転換。高い経済成長と日本社会の強靱さを取り戻す経済・産業政策を行う

⚫ 野心的な産業技術開発による「成長」:これまでと異なるレベルでの「課題解決による経済成長」を中長期的な目標として掲げることで、企業が内部留保の有効活用に踏み切れる事業環境を整える

➢ 「研究開発費が伸びないと、サラリーマン所得も伸びない」との認識に立ち、我が国の研究開発費を今後 10 年間で大幅に引き上げる

➢ 「研究者を支える研究者」も安心して働ける、任期付き職員による短期案件受注でなく中長期的/将来に実を結ぶ可能性がある研究開発へインセンティブを切り替えるため、国立大学の運営費交付金を維持・増額する

➢ 標準、規格、特許の分野での人材を育成強化し、世界標準を主導する

➢ 世界知的所有権機関(WIPO)が発表する世界技術革新力ランキング(GII)でトップ 3 入り(現在 13 位)を目指し、下記を例に波及効果が高いイノベーションを国家プロジェクトとして推進する

 創薬・バイオ:副反応情報や供給のほぼ全てが外国依存だったワクチンや治療薬について、国内での研究開発を推進

 光電融合:通勤/居住地など働く環境の不便を解消。産業基盤・インフラ全般を高度化

 量子暗号:絶対に見破られないと言われる量子暗号を利用したクラウドの国産化/社会実装を推進。併せて、サイバー攻撃への対応力を向上

 AI:情報の非対称性の解消やビッグデータ解析の最適化などを通じて、新しいビジネスモデルの社会実装する基盤を整備

 航空宇宙:経済安全保障の抜け穴を防ぐことと併せて、航空機産業と紐付く国内部品メーカーや安定的な雇用を確保。測位技術と紐付くサービス全般をカスタマイズ/高付加価値化

 超電導:産業/輸送分野におけるエネルギー利用の高効率化、医療提供技術の更なる安心・安全の向上

 次世代モビリティ:EV、自動運転、空飛ぶ車、物流

⚫ 海外依存を減らす「国内産業の多様性確保」:過度なグローバル化に歯止めをかけ、富を生み出す源泉たる国内産業の発展と国内雇用を守り、分散・分権型経済を実現する

➢ 食料、エネルギー、デジタルなど、国民生活や個人の尊重に不可欠な分野は、効率化や比較優位論によらず、国が責任を持って維持する

 農業:戸別所得補償制度の復活、輸出を要件とした補助金行政の見直しなど

 エネルギー:送配電網・系統運用の増強、住宅・建物の省/新エネ促進による地域社会の危機対応力の強化、ソーラーシェアリングの推進、各種設備の国産化など

 デジタル戦略としての個人情報管理:政府共通プラットフォームの次期基盤など、クラウドを国産化、データセンターの国内立地、国産ドローンの開発など

➢ 国内立地企業の事業再構築や、長期雇用/人材育成に対する支援を強化

⚫ 今あるものの「付加価値の増大」:新産業の創出や既存産業の強化と併せて、様々な生業の付加価値を高める取組を通じて、物心ともに豊かな国民経済を守る

➢ 文化・芸術・観光の事業継続や需要喚起に向けた支援

➢ コロナ後を見据えて中心市街地や地域経済の活性化を支援

⚫ 行き過ぎた所得格差の歪みを正す「分配」:誰もが将来の夢や希望を持ち続けられる社会をつくり、国民の活力を高める

➢ 「将来不安」の解消のため、ベーシックサービス(医療・介護、教育・子育てなど)の充実、最低賃金 1,500 円への引き上げ等を数年間かけて支援する

 中小企業に支援を行いつつ数年間かけて達成

➢ 給料や手取りが増え、中長期的な経常利益が高く維持される経営を、奨励し直す

 労働法制・取引適正化:非正規雇用の正規化、派遣業の在り方見直し、価格転嫁/下請取引適正化への監視強化、産休育休など働きやすい労働環境整備など

 人材育成:学び直し(リカレント教育)や多様な職業訓練プログラムの推進など

 経営指標:短期主義経営の見直し、コーポレートガバナンス改革など

➢ 「デジタル/AI に奪われた職以上の職を、生み出せる」、頑健な読解力を身に付ける人材育成を行う

 OJT/OFFJT に対する支援(安定した雇用により、特殊技能や自社内の技術開発に努める企業を応援)、雇用の公正な移行に向けたきめ細かい支援

 全ての国民を包含した教育投資を行い、国民の能力を底上げ

➢ 国民生活や国内産業に甚大な痛みが生じていることを踏まえ、税率 5%への時限的な消費税減税を実施することと併せ、応能負担の原則に立ち返って格差是正に繋がる税制の一体的見直しを行う

経済・産業政策調査会取りまとめ.pdf