米国による広島、長崎への原爆投下から78年、今も苦しみ続けている人が大勢います。ロシアによるウクライナ侵攻で核兵器使用の懸念が高まるなか、核兵器のない世界を実現するために必要なことは何か。「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(通称「カクワカ広島」)共同代表の田中美穂さんに、森本真治参院議員(広島県選出)が話を聞きました。

「カクワカ広島」とは
 主に広島に住む、高校生や大学生、会社員、カフェ店員たちが、広島選出の国会議員に面会し、核政策に対する疑問や核廃絶への道のりを尋ねています。

森本 はじめに、「カクワカ広島」がどういう団体かお聞かせください。

田中 カクワカ広島、正式名称は、「核兵器を知りたい広島若者有権者の会」と言います。2019年の1月に発足した当初の思いとしては、「広島、長崎の経験を持つ日本がどうして核兵器禁止条約に入っていないのだろう」と疑問を持った若い世代が集まってできた団体です。ノーベル平和賞を受賞(2017年)したI CAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のメンバーから、外交官や政治家と直接やり取りをして条約の締結までこぎつけたという話を直接聞き、日本でもこうした活動はできるのではないかと始めました。
 広島選出、もしくは広島にゆかりのある国会議員に面会を求め、お声かけをした18人中12人に直接お会いすることができています。お会いできた方も、条約に対しては賛否両論です。広島選出だといっても皆さんが賛同ではなく、今の状況を考えて「難しい」「そこに入るのは日本の安全保障を弱める」という考えの方もいらっしゃいます。そこに対して「なぜそうなのですか」と直接聞くことができる。面会した結果をSNSやウェブサイトに公開し、もっと多くの人たちに核兵器の問題を自分事として考えてほしい、自分も社会を変える一員なのだと知ってほしいという思いで活動しています。

必要なのは一人ひとりの具体的な行動

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田中 私は北九州市出身で、核兵器廃絶や平和の問題にもともと関心があったとは正直言えません。ご縁をいただいて2017年、就職で広島市に引っ越してきました。以前からぼんやりと「核兵器はなくなればいい」という思いはありましたが、それが自分個人の行動でどうにかできるものだとは全く考えていませんでした。広島に来て2年目に、共通の友人を介して先ほどのICANの国際運営委員の川崎哲さんと出会ったことをきっかけに核廃絶の運動に興味を持ち、活動を始めました。「カクワカ」発足の決め手となったのが、サーロー節子(※1)さんの言葉です。2018年に広島での講演会に参加し、「祈っているだけでは何も変わらない、必要なのは一人ひとりの具体的な行動です」という呼びかけに刺激され、そこから1カ月後くらいに「カクワカ広島」を作りました。

森本 私は広島出身で、子どもの頃から遠足や社会見学でも毎年のように平和公園、資料館に行き、8月6日は登校して皆で黙とうするのが当たり前な環境で育ってきました。自分のライフワーク、取り組みたいテーマは当然核兵器廃絶、そして世界の恒久平和です。核兵器は絶対悪で、そもそも核兵器で平和は成り立つことはないというものが広島には前提としてある。国会議員になって10年になりますが、特に核兵器の問題については最初東京と広島の温度差をすごく感じました。国会の議論では日本政府のスタンスに疑問を持つことが多かったのが正直なところです。
 田中さんも広島に来られてこの問題への思いが強くなられたというお話がありましたが、町自体の中での平和や核兵器廃絶への思いというのを感じられますか。

田中 暮らしのなかで「被爆」「平和」という言葉に触れる機会が格段に多いです。福岡にいるときは福岡にも被爆者がいることにも全く目を向けられず、自分が何かできると思えるほどの関わりを見つけられなかったのは事実です。報道などでの扱い方も違います。

核抑止力で平和が成り立つのか

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森本 もともと1945(昭和20)年の終戦後、しばらくは原爆の被害の状況はオープンにされてこなかったところから、市民の皆さんによる核兵器廃絶運動がスタートして、その後のビキニの第五福竜丸の被爆問題などもあって、市民の動きの中でどんどん取り組みが進んできました。核兵器廃絶をめぐって日本では、冷戦下、また例えばオバマ大統領の時代のような、核軍縮、核廃絶の機運が高まる時代等の変遷を経て、今は、国会の議論において日本政府からは、中国、ロシア、北朝鮮の軍事的な脅威に対して日米安全保障条約のなかで核抑止の話に終始しています。軍事的脅威に対し「まずは安全保障」だという、核軍縮や核廃絶に向けては若干逆風になっていると思います。
 こうした現状を、特に若い視点でどう考えていますか。

田中 多くの人たちは、例えば「ウクライナが核を放棄したからこうなった」「核はやっぱり持っていないといけない」と考えてしまっています。でも私たちは、ウクライナ侵攻は核抑止が機能していないことを明らかにしたと思っています。自分たちにとって都合のいい論理を集めて判断するのは避けるべきです。「ウクライナが核を持っていればよかったではないか」と言う時に、ウクライナは持ってもいいけれど北朝鮮、他の国は駄目だという、その構図自体が世界を危うくしてしまう。西側と東側に分けてしまうことが今の衝突を招いてしまっているわけですから、そういったダブルスタンダードが問題だと私たちはよく話しています。

森本 今回のG7広島ビジョンも冷静に議論しなければいけないのは、西側、NATOとの結束を示したことにより、むしろ対立が深まってしまう懸念があることです。日本は核兵器保有国と非核兵器保有国との橋渡し役を担うと言いますが、実際その立ち位置になっているのか。私たちの立場からも政府に対してもっと主張したいと思いました。
 核抑止力で平和が成り立つのかについても、私自身は広島の政治家として、どこまでリアリティがあるのか主張しなければいけない。今回のウクライナや北朝鮮の情勢等を受けて「自分たちも核兵器を持たなければならない」となると、かつての軍拡競争と同じです。お互いに脅しをかけあうということで収まればいいですが、むしろエスカレーションしてしまうことは、歴史も証明をしています。

大事なのは歴史を知ること

森本 こういう危機の時は世論自体がナショナリズムなど、強硬的な論調にもなりかねません。政党のなかにも核共有に言及する政党が出てきた。それに対し「もっともだ」と考える人が出てくる怖さを感じています。田中さんたちは世論、特に同世代の若い人たちに対してどういう働きかけをされているのでしょうか。

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田中 核共有の話が出てきたときも、そこまで言ってしまう政治家が出てきている日本の状況を危惧しました。そうしたなかで大事なのは、やはり過去を学び直すことだと思います。日本が太平洋戦争に突き進んでいったときも、安全保障環境が危ないと政府や軍が言ってきた。そういった過去の歴史の流れを知っていれば、今の状況を冷静に客観的に見ることができると思います。私たちの活動のメインは国会議員との面会ですが、歴史を知ることを広く伝えていくイベントも実施しています。

 もう1つは、若者に限らず日本の社会に対する不安が高まるなか、安全保障だけでなく「もっと強くならないといけない」といった方向に導かれてしまっているのではないか。若者の不安、奨学金のこと、仕事や家族、将来の年金等、自分自身の先行きが不安ななかで、政治を通してそこを変えていくことも、結果的に日本の安全保障を考えることにつながっていくと思います。一人ひとりの暮らしは政治だと伝えていくことが必要です。

森本 今は本当に多くの人が不安を抱え、特に格差からは対立、人に対する憎しみさえも生まれてくる。何のための平和なのか。究極的には、一人ひとりが本当に幸せになっていかないと平和にもならないし、平和がないと一人ひとりの個人も幸せになっていかないと思っています。
 私たち立憲民主党が目指すのは、人を大切にする政治です。外交的な問題はもちろん、内政での社会保障や教育、雇用の問題などでも人に重きを置く。この立憲民主党の理念をしっかり訴え、賛同してもらえるように頑張っていきます。

核兵器廃絶へ 市民の力と政治の連帯

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森本 NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議が始まり、秋には核兵器禁止条約の締約国会議もあります。あらためて今後の田中さんの取り組み、政治、私たち野党に対して求めるもの、期待することをお聞かせください。

田中 核は安全保障ではなく人権問題。最後はここに尽きるかなと思っています。この間、核兵器の問題に限らず入管法やLGBT法など、失望することが次々重なる一方、進んだこともありました。
 今回、G7広島サミットの動きを通して核だけでなくさまざまなアクティビストたちとつながり、一緒にイベントも実施できました。こうした市民の連帯をつなげていくことが、これからのフェーズをまた新しく変えていくのではないかと希望を持てる時間でした。市民はこれからもつながっていきたいと思っていますので、野党の皆さんにも連帯のパワーをぶつけていけたらと思っています。そのつながりを野党が一体となって、例えばジェンダーや気候問題の観点からも核兵器廃絶をと、訴えを広げていってもらえたらと思います。

森本 核兵器廃絶の問題は、究極的には平和、国民、市民一人ひとりの幸せを実現するものです。そのためには政治家だけの力ではない。実際、核兵器廃絶の取り組みをけん引してきたのはICANをはじめNGOや市民の力、都市の力であって、市民社会の皆さんに期待される役割は非常に大きいです。私たち立憲民主党もそういう活動がしっかり進むよう応援もしていきますし、連携させていただきたいと思っています。一緒に頑張りましょう。

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