立憲民主党農林水産キャラバン(隊長:田名部匡代参院幹事長・農林漁業再生本部長)は8月8日、9日の両日、兵庫県豊岡市、丹波篠山市、丹波市を訪れました。今回のキャラバンには、隊長の田名部匡代参院幹事長、田村直也衆院兵庫県第5区総支部長が参加しました。

 一行は8日に、豊岡市の「コウノトリ育む農法」による水稲無農薬栽培農家の水田を視察、意見交換を行い、次いで、ぶどうと有機野菜の生産に取り組む農家の圃場を視察し、意見交換を行いました。さらに、JAたじまピーマン選果施設を視察し、農業生産法人㈲あした代表取締役と意見交換を行いました。9日には、丹波篠山市民センターにおいて、丹波篠山市農都創造部より、同市の農業について説明を聴取し、意見交換を行い、株式会社丹波たぶち農場を訪問、意見交換を行いました。次いで、丹波市市島町有機栽培コミュニティーを訪問、圃場を視察し、農家の皆さんと意見交換を行いました。

■「コウノトリ育む農法」に取り組む農家の水田を視察、意見交換(豊岡市)

 かつて、コウノトリは日本各地で生息していましたが、戦後の経済成長に伴う生息環境の悪化で激減しました。豊岡市では、いったん絶滅したコウノトリを保護し、自然界へ帰すプロジェクトに取り組んできました。コウノトリが生きていくためには自然界に餌となる大量の生き物が必要となり、コウノトリの主な生息地である田んぼを生き物でいっぱいにする必要がある、という考え方から、農薬や化学肥料に頼らず、おいしいお米と多様な生き物を同時に育む「コウノトリ育む農法」が誕生しました。

 一行は、豊岡市コウノトリ共生部の担当者より説明を受けつつ、水田を視察、「コウノトリ育む農法」での米作りに取り組む瀬尾雅仁さんらと意見交換を行いました。

 都会出身で結婚を期に就農した瀬尾さんは、「シンボル的なコウノトリの存在が大きかった。いったん絶滅したコウノトリを再び野生復帰させようという取組に感化された。『コウノトリ育む農法』に取り組み始めた1年目に田んぼの生き物が激増したことに感動した。大変だが、コウノトリを中心として自然を守る営農にやりがいを感じている」と語りました。

 瀬尾さんは、小学生を対象として、「コウノトリ育む農法」を座学で教えた上で、田植え体験、田んぼの生き物調査を実施するなどの食育にも取り組んでいます。瀬尾さんからは、「農業の面白さを次の世代に伝えることが大事だが、自分一人では限界がある。お米のアニメを放送するなどすれば、興味をもってもらえるのでは」との意見がありました。

 他の農村地域同様、この地域でも鳥獣被害があり、瀬尾さんから「ハンターが高齢化する中、農家自ら取り組もうとも考えたが、そうすると、自分の農業ができなくなってしまう。猟友会の人たちが儲かるような仕組みづくりが必要ではないか」「多面的機能交付金による鳥獣被害対策への支援水準を維持・拡大してほしい」との要望がありました。

■ぶどう・有機野菜生産農家の圃場視察、意見交換(豊岡市)

 一行は、豊岡市で、ぶどうと有機ニンジンの生産に取り組む中嶋俊博さんらを訪問、圃場を視察し、意見交換を行いました。

 就農して9年目になる中嶋さんからは、「有機農業に限った話ではないが、資材費がすごく高騰しているが価格には乗らない。ぎりぎり、もがいているが、これ以上、輸送費や資材費が上がると価格に乗せていくことは難しいのではないか。頭を悩ませている」との不安の声がありました。

 中嶋さんは、旧民主党時代に創設された農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)について、「この資金があったので、投資ができて助かった。ありがたかった」と述べたほか、「有機JAS認証の手間暇がかかる。新規就農向けでもいいのでフォローしてほしい」「日本は、農業後進国だと思う。国産神話があるが、他国の方が絶対に進んでいる。消費者が有機農産物を選んでくれるよう国もPRしてほしい」「高齢化により、施設の維持管理、メンテナンスが困難になっている。地域の将来を考え、国からの支援をお願いしたい」と要望しました。

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■JAたじまピーマン選果施設を視察、農業生産法人㈲あした代表取締役との意見交換(豊岡市)

 豊岡市但東町を中心とした但馬地域は、関西最大級のピーマン産地として知られています。JAたじまピーマン選果施設は、昨年、農山漁村振興交付金を活用して完成、稼働を始めたものです。一行は同施設を訪問し、JAたじまの担当者からピーマンの選別、箱詰め作業について説明を受けながら、施設を視察しました。

 その後、同施設内では、農業生産法人有限会社あした代表取締役霜倉和典さんらと意見交換を行いました。

 霜倉さんは、中山間地域対策について、「現在の中山間地域等直接支払制度では守れない。もう少し考えていただきたい」と述べ、農産物価格については「低すぎる。消費者に国産農産物を評価し、きちっと買ってもらうような食育をしてもらわないと日本の農家は残れない。コストと労働力を考えた価格を守ってほしい」と語りました。

 また、機械更新が農家にとって一番負担になるとして、「地域の農地を守るという責務を負わせた上で、支援が必要」と述べました。

 新規就農については、「生活保護のような支援をしても一人前の経営者にはなれない。雇用就農で人を育てる農業法人を支援すべき」とし、「農地の引き受け手となる大規模経営体を育て、支援していけば、地域は守られる」と述べました。

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■丹波篠山市の農業についての説明聴取、意見交換(丹波篠山市)

 一行は、丹波篠山市民センターにて、同市の担当者より、同市の農業の概要について説明を聴取しました。

 丹波篠山市は、丹波篠山ブランドの下、黒大豆などの伝統的な特産物を育む全国的な産地です。丹波篠山では水不足に対応するため黒大豆栽培が始まり、在来種子から優良な種子を選抜育種する取組が続けられています。2021年には、この丹波篠山の黒大豆栽培が日本農業遺産に認定されました。2009年、同市は、自然の気候風土に恵まれた日本一の農業の都「丹波篠山農都宣言」を行っています。

 同市では集落営農の組織化が進んでおり、その取組を支援するため、2023年度から、市独自の「農業集落守り隊応援事業」により、農業機械の購入支援を始めています。また、自然環境や生き物に配慮した栽培方法を市が認定した米「農都のめぐみ米」を全ての米飯給食で使用する取組が行われています。

 伝統的な特産品の産地であり、さまざまな取組がなされている丹波篠山市ですが、基幹的農業従事者数の減少、高齢化が進み、後継者がいない農家が6割、経営を縮小したい農家が3割となっていることから、市の担当者は、今しっかりしないといけないという思いで、地域計画づくりなどに取り組んでいるとのことでした。

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■株式会社丹波たぶち農場との意見交換(丹波篠山市)

 一行は、株式会社丹波たぶち農場を訪問、同社の田渕真也さんらと意見交換を行いました。

 田渕さんから、コストの価格転嫁による適正な農産物価格の形成について、「当農場は、商談をすれば、コストを転嫁した価格で販売できている。農協は高く売ることよりも、捌くことが使命となっている。農協のシステムを改善したほうがいいのではないか」との意見がありました。

 有機農業にも取り組んでいる田渕さんは、有機JASについて「ビーガン、動物愛護など多様化している消費者ニーズに応えきれていない。猛暑の中、除草作業を行う農業従事者の人権配慮の視点がない」として、見直しが必要と語りました。

■丹波市市島町有機栽培コミュニティーの圃場を視察、意見交換(丹波市)

 一行は、丹波市にて、有機栽培により給食米と酒米を作付けている圃場を視察したのち、丹波市市島町有機栽培コミュニティーの皆さんと意見交換を行いました。

 農家の皆さんからは、「除草機械が必要と感じるが、高額で踏み切れない。何かしらの仕組みがあれば」「有機農業に取り組む生産者に対する補償がないと、後継者が育たない」といった意見がありました。

 また、有機JASについて、「認証取得後の定期調査を1年ごとでなく3年、5年ごとにしてほしい」との要望、「有機農業の取組には有機JAS認証取得などの縛りがあるのに対し、慣行栽培にはなにもないのはおかしい」との指摘がありました。

 さらに、「有機農産物を買いたくても、収入が目減りして買えない消費者が増えている。政治の力でシステムを変える必要」との意見がありました。

 また、「農業は男社会のルール。これではマーケットを支えている人の心をつかみきれない」といった意見、農家と自治体職員との間で有機農業推進に向けた意識に相当程度の温度差があるとの指摘、「食育といっても机上論。良い政策を掲げても、国から県、市へ伝わるごとに内容が劣化してくる」「国の施策は大規模層をターゲットとしたもの。中小規模の農家にとっては持続不可能で、由々しきことになる」との指摘がありました。

 先の国会で成立した食料供給困難事態対策法について、「農家への罰則がある法律が成立した。おかしすぎる」との意見も寄せられました。

 田名部議員は、今回の農林水産キャラバンで、多くの意識の高い取組に見聞きしてきたことを前提に、いただいた意見を参考にさせていただくと述べ、「有機農業の推進には国のリーダーシップが大事。自治体を含め、有機農業を推進しやすい方法を考えていかなければならない」「高齢化が進み、あと10年したら一気に米を作る人がいなくなり、当たり前にごはんが食べられなくなるかもしれない。農業・農村をしっかりと支え、食料供給を守るために税金を使うことについて、消費者の理解、認識の共有が必要」と語りました。

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