参院本会議で4月23日、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、打越さく良議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下の通りです。


「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に
対する質問

立憲民主・社民・無所属 打越さく良


 立憲民主・社民・無所属の打越さく良です。
 私は会派を代表し、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対して法務大臣に質問を行います。

 情報通信技術は、何よりも国民の権利・利益の保護・実現のために活用されるべきであり、刑事手続における情報通信技術の利用の拡大が、憲法上保障された国民の権利を侵害するようなことはあってはなりません。

 本法案の作成に先立って設置された「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」の取りまとめでも、「刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続に携わる者の負担を軽減し、その合理化に資するものであるが、それのみを目的とすべきではなく、『公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする』(刑事訴訟法第1条)刑事手続の円滑かつ適正な実施に資するために、そして、被疑者・被告人、被害者をはじめとする国民について、捜査・公判に関与する負担を軽減し、それらの者の権利利益(憲法上保障されたものを 含む)の保護・実現に資するために活用されるべきである」という視点が重要であることについて認識が共有された、と確認されていました。

 しかしながら、今国会に提出された刑事デジタル法案は、捜査機関の権限を拡大する一方で、国民のプライバシーや、被疑者・被告人の立場に置かれた国民が弁護人の援助を受ける権利を著しく軽視しているのではないでしょうか。

 今日、個人が保有・利用するスマートフォンやクラウドには、大量かつ様々なプライバシー情報や、企業・労働組合・市民団体等の秘密情報が保存されています。それはまさに、「私的領域」そのものであって、正当な理由なく侵入を受けることのない権利が強く保障されなければなりません。このような国民の私的領域に属する大量の情報を捜査機関が収集するという事態は、現行刑事訴訟法が制定された当時には想定されていなかったものです。刑事手続をデジタル化し、電磁的記録提供命令を創設するのであれば、それと同時に、私的領域に侵入を受けることのない権利、プライバシーの権利を保護する仕組みを設けることが必要不可欠です。本法案には、そのような国民の権利を保護する規定が欠けているのです。この点について法務大臣の見解を求めます。

 まず、電磁的記録の収集に対する不服申立てについてお尋ねします。捜査機関による電磁的記録の収集から国民のプライバシーを保護するためには、収集された個人情報の主体である国民の不服申立ての権利が実質的に保障されることが必要です。衆議院における修正により、「電磁的記録提供命令により電磁的記録を提供させ、又は電磁的記録に係る記録媒体を押収するに当たっては、デジタル社会において個人情報の保護がより重要となっていることに鑑み、できる限り被告事件又は被疑事件と関連性を有しない個人情報を取得することとならないよう、特に留意しなければならない」ことが明記されました。この規定にもかかわらず、裁判官が犯罪事実と関連性のない個人情報等を含む電磁的記録の収集を許す令状を発付した場合や、捜査機関が令状で許可された範囲を超えて個人情報等を含む電磁的記録を取得した場合、違法に個人情報を取得された国民が不服申立てをし、有効な救済を受けられる仕組みが必要となります。しかし、例えば、捜査機関がクラウド事業者から個人情報を含む電磁的記録を取得した場合、その個人情報の主体である本人にその旨を通知する仕組みがなければ、本人は自分の個人情報が取得されたことを知ることができず、不服申立てをする機会が保障されないのではないでしょうか。不服申立ての権利を実質的に保障することは、違法な電磁的記録の収集を抑制するためにも必要ですが、個人情報の主体である本人に通知する仕組みを設けることなく、どのようにして不服申立ての権利が実質的に保障されるとお考えなのか、法務大臣に見解を求めます。

 また、不服申立てを受けた裁判所が電磁的記録提供命令や電磁的記録媒体の押収を違法なものとして取り消した場合、違法に収集された電磁的記録が消去されなければ、違法なプライバシー侵害は継続することとなり、救済として意味がありません。国民にとっては、意味のある救済が受けられないのであれば、わざわざ不服申立てをする動機がないのです。法務大臣、如何ですか。

 捜査機関にとっても、裁判所に違法と判断されても消去義務を負わないとすれば、違法とならないよう慎重に電磁的記録を取得しようとする動機は乏しいものとなってしまいます。このように、違法に収集された電磁的記録の消去が義務付けられていないことは、プライバシーを侵害された国民を有効に救済しないものであることに加え、違法な電磁的記録の収集を助長するおそれすらあります。電磁的記録提供命令や電磁的記録媒体の押収が取り消された場合の電磁的記録の消去の手続の規定がないことは、本法案の重大な欠陥ではないでしょうか。法務大臣に見解を求めます。

 捜査機関が収集した電磁的記録に含まれる個人情報等の利用についてお尋ねします。電磁的記録が違法に収集された場合に限らず、適法に収集された電磁的記録の中にも、犯罪事実と関連性のない個人情報が含まれ得ることは否定できません。近年、取調べの録音・録画の下でも、不適正な取調べが行われていることが明らかとなり、批判が高まっていますが、捜査官の不適正な言動の中には、犯罪事実と関連性のないプライバシー情報を利用して、被疑者を侮辱したり、威迫したりしている例が見られます。このような、電磁的記録に含まれる犯罪事実と無関係なプライバシー情報等の不適正な利用は違法であり、その禁止を徹底する必要があるのではないでしょうか。法務大臣に見解を求めます。

 捜査機関による個人情報の取扱いの適正確保についてお尋ねします。捜査機関による個人情報の取扱いの適正を確保するためには、独立性のある機関による監督が必要であり、ヨーロッパ連合加盟国では、フランス、ドイツで独立性のある監督機関が設置されていると承知しています。我が国には個人情報保護委員会が設置されていますが、捜査機関による個人情報の取扱いを監督する権限は与えられていません。今後、デジタル化に伴って、捜査機関が保有する個人情報の量は飛躍的に拡大すると考えられることから、その取扱いの適正確保は喫緊の課題であり、個人情報保護委員会の権限を強化するなどして、独立性のある機関による監督が必要であることは明らかであるように思われます。個人情報保護委員会の権限を強化するなどして、独立性のある機関による監督をすることについて、何か弊害が生じると考えられるのでしょうか。法務大臣に答弁を求めます。

 電磁的記録の提供を命じるに当たり、自己負罪拒否特権を侵害しないようにするための措置についてお尋ねします。電磁的記録提供命令は、刑罰の威嚇によって国民に行為を強制するものであり、被疑者・被告人をも対象としていることから、自己に不利益な供述を強要されない権利を保障した憲法38条1項に抵触するとの指摘もあります。衆議院本会議において、法務大臣は、電磁的記録提供命令は供述を強要するものではなく、ロックの解除方法やパスワードを供述することを義務づけることは、自己負罪拒否特権と抵触をし、許されないと答弁されていましたが、実務家の間では、ロックの解除方法やパスワードを供述することを事実上強制する運用が行われることを懸念する声が聞かれます。電磁的記録提供命令が刑罰の威嚇によって国民に行為を強制するものである以上、ロック解除方法やパスワードを供述することが命じられているものと誤解させ、あるいは、そのように誤解していることに乗じて、それらの供述を得ることも自己負罪拒否特権と抵触をし、許されないと言うべきでありますが、捜査の現場に対し、その旨の周知徹底は行われるのでしょうか。法務大臣の答弁を求めます。

 国民は、裁判員、被害者、証人など、さまざまな立場で刑事手続に関与し得ますが、最も深刻な権利侵害の危険にさらされるのが、被疑者・被告人の立場に置かれたときです。えん罪を繰り返さないためには、被疑者・被告人の立場に置かれた国民の権利を保護することが必要不可欠であり、そのためにとりわけ重要なのが、弁護人の援助を受ける権利です。法務大臣の見解を求めます。

 本法案は、令状手続の電子化など、捜査機関の負担を軽減し、合理化を図る制度を創設する一方で、被疑者・被告人がオンラインで弁護人等と接見する権利を認めていません。衆議院における修正により、「政府は、被告人又は被疑者下「被告人等」という。)にとって、弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)の援助を受けることが重要であることに鑑み、刑事訴訟法第39条第1項の規定による接見のほかに、身体の拘束を受けている被告人等と弁護人等との間における映像と音声の送受信による通話を可能とするための運用上の措置について、地域の実情を踏まえ、被告人等と弁護人等との間の秘密の確保に配慮するとともに不正行為等の防止に万全を期しつつ、必要な取組を推進するものとすること」が附則に明記されました。オンライン接見の権利を規定しないのは、全国一律実施が困難であることが理由であると承知しておりますが、仮にそうであるとしても、弁護人の援助を受ける権利の重要性や、情報通信技術を国民の権利の保護・実現のために活用するという観点からは、遠くない将来にオンライン接見は制度化されるべきであります。オンライン接見の制度化に向けて、日本弁護士連合会等の関係機関と協議を進め、具体的なロードマップを策定すべきではないでしょうか。法務大臣の答弁を求めます。

 本法案により、証拠を含めて、刑事訴訟に関する書類は電子化され、オンラインで送受信されるようになります。刑事訴訟法39条1項は、被疑者・被告人が弁護人等との間で、立会人なくして接見することに加え、書類若しくは物の授受をすることができるものとしています。刑事訴訟に関する書類を電子化するのであれば、電子化された書類を、オンラインで授受する権利も保障されるのが当然ではないでしょうか。法務大臣、如何ですか。

 しかしながら、本法案は、身体の拘束を受けている被疑者・被告人が電子化された書類を授受する権利を認めていません。刑事訴訟の当事者である国民が、電子化された証拠をありのままの形で閲覧することすらできないというのは、デジタル化から一部の国民を取り残すものであり、あまりにも不公正ではないでしょうか。刑事施設や留置施設で電子化された書類を授受する設備を整備する上で課題があるとしても、その課題を解決する道筋を示すべきではないでしょうか。法務大臣の見解を求めます。

 以上、申し述べて私の質問を終わります。

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