立憲民主党は、4月23日午後、農林水産部門会議(部門長・金子恵美ネクスト農林水産大臣・衆院議員)を国会内で開催。米国の関税措置に係る日米交渉に関する委員会決議について報告を聴取し、参院選に向けた重要政策について協議しました。(司会・野間健部門長代理・衆院議員)
金子部門長は冒頭のあいさつで「今日は、党内での政策についての議論の場。一方、トランプ関税についてどのような対応ができるかということで、現場の議員には大変なご努力をいただいた。それにもかかわらず、形にすることができなかったという状況にある。後ほどご報告をいただければと思う」と述べました。
■米国の関税措置に係る日米交渉に関する委員会決議
野間部門長代理から「一昨日、トランプ関税の問題で、おそらく月末に赤澤大臣が再訪米する。米について妥協するのではないかとの報道があり、農業を犠牲にして取引をするのではないかと言われている中、衆院農林水産委員会の与野党筆頭間で委員会決議の話があった。しかし、委員会決議を行う時期について与野党で折り合わず、わが党としては、今この時期に決議案を出すべきと考え、昨日お示ししたたたき台を作成、野党各党に賛同を求めた。いいところまで行ったが、ある党の賛同を得られず残念な結果となった。与党としては、赤澤大臣が帰国した後の状況をみて、全会一致ができれば、決議案を出したいということであった。これについては、その時点でやりましょうという経緯でした」との報告がありました。
神谷裕副部門長・衆院議員から「まずは、形にできなかったことをお詫び申し上げる。皆さまからご賛同いただき、昨日、一日かけて、野党、与党と協議をさせていただいた。基本的に文言について、賛同いただいた。ある野党からは、「一、米や牛肉をはじめとした農林水産物については、交渉の対象としないこと」について、交渉に入っているという前提で、守るべきものは守るという書きぶりであれば了とするというところまで行った。別の野党からは「二、我が国の食料安全保障を確保するため、農林水産業の生産性向上や農林水産物の付加価値向上などの体質強化を図ることにより、国内の農林水産業を振興すること」「三、我が国の貿易をめぐる状況が変化する中でも、食料・農業・農村基本計画において定められた目標が確実に達成されるよう、各般の施策を進めること」を落とさなければ呑めないとの返事があった。これを落とすことは受け入れられないということで、もう一度協議をしたが、折り合えず。可否同数、委員長の反対でテーブルにも乗らないという状況。国対から全会一致でなければ無理はしないようにというご判断をいただき、再度協議し、今回は見送るが、近いうちに全会派が一致できるような決議を、ということで矛を収めることとした次第。米国から実際に何を求められているのか判然としないので、それを見てからでもいいのではないか、あるいは、衆院農林水産委員会の決議にこだわらず、国会決議にするという提案もありうるということで、頭の体操を始めている状況」との経過説明がありました。
参加議員から「後ろから鉄砲を撃たれている方が交渉担当者はやりやすい。ウルグアイラウンドの交渉をやっているときにEUが強硬手段に出ていたが、言い訳が常に決まっていて、フランスが絶対にこれでは呑まないというもの。これは本当である。農業分野で妥協したらデモもすごい。共通農業政策が壊れる。日本の場合、与野党一致して、米は絶対にだめだと。米は絶対に死守した。だから、ミニマムアクセスは主として日本向けの仕組み。こういう時期だからこそ、国会で与野党一丸となって、最初から、これはだめだと明確に示した方が、交渉担当者が強く出ることができる」(篠原孝衆院議員)との指摘がありました。
金子部門長より「篠原議員のおっしゃるとおり。現場の先生が他に走り回っていただいた。昨日、急きょ部門会議を開催し、われわれの決議案たたき台について一任をいただいた。どうしても野党がまとまらず、与党が全く引いてしまっている状況があり、決議案の採決ができなかった。極めて残念である。私たちの考え方は発信していいのかなと準備させていただいた。現場で汗をかいていただいた神谷理事、野間理事、渡辺創理事には感謝申し上げる」と発言しました。
また、「国会決議は全会一致でなくてもいい。与党が全くのってこないのはだめだが、一部の党がのってこない場合であっても、決議として意思を示すことは大事ではないかと思う」(小山展弘衆院議員)、「国として与野党を超えて国益を守る交渉の環境を作っていくことは大事。参議院でも与党に投げかけ、今後につなげていければいいと思っている」(田名部匡代参院議員)との発言がありました。
■参院選挙に向けた重要政策-食料確保・農地維持支払制度と新規就農プラン
金子部門長より、最重点項目として(1)食料確保・農地維持支払制度の創設(2)新規就農プラン――を掲げ、重点項目として(1)タネ(種子)を守る法律の制定(3)農業関係者を刑事罰から守る法律の制定(4)鳥獣被害対策の強化(5)森林・林業・山村振興政策の推進(6)水産政策の推進――を掲げたことに触れた上で、最重点項目の内容について、以下の説明がありました。
(1)食料確保・農地維持支払制度については、農地を農地として維持する活動に交付する「農地維持支払」(約8,000億円)を基礎とし、これに中山間地域加算と多面的機能・環境加算(約1,000億円)、水活交付金の後継対策である自給率向上直接支払(約3,000億円)を措置。米価に農地維持支払の交付額を加えた額が生産コストを割り込んだ場合に発動する主食用米直接支払(米のトリガー)については、約100億円を見込み、総額約1兆2,000億円。
次の内閣で野田代表から、農業者戸別所得補償制度という文言の使用について指摘があった。制度の名称についてはこのままでいいが、何か、テーマ的なことを付けてはどうかということで、「令和版直接支払制度へ大転換」という文言を入れさせていただいた。
(2)新規就農プランについて、前回もお示しさせていただいたが、まずは、就農準備資金、経営開始資金、経営発展支援事業、雇用就農資金の年齢制限を65歳以下まで引き上げる、経営開始資金の交付期間を3年から5年に延長、経営発展支援事業については、国:都道府県で2:1の負担割合であるところ、都道府県の負担をなくし、4分の3を国の負担とする、親元就農の経営リスク条件を外す、新規兼業就農等の農業への取組を食料確保・農地維持支払制度の中で支援し、多様な新規就農のかたちを応援することとしている。また、新規就農者に寄り添うワンストップサービス・相談窓口の整備、「農業やってみたい」という人材の掘り起こしを行う。新規就農者の支援は約200億円であったところ、総額約2,500億円となる。「新規就農プラン」について「老いも若きも緑の大地へ」との文言を加えた。
以上の説明に続き、党内議論に移りました。
参加議員から「野田代表の問題意識としては、農業者戸別所得補償制度がすごく良かったからあのイメージをもう一回持ってもらいたいということか。地元を回ると、『所得補償』『所得補償』と皆さんがおっしゃる。『直接支払』とおっしゃる方はいない。今回、『直接支払制度へ大転換』と言った時に、農業をやっておられる方にどれだけ響くか」(岡田華子衆院議員)との発言がありました。
金子部門長から「この議論はずいぶん長くやってきた。昨年6月に農林水産政策大綱を作成するときに、日本型直接支払制度ができて、収入保険制度の仕組みがある中、単なる農業者戸別所得補償制度の復活にはならず、新しい制度を、ということになった。農業者戸別所得補償制度自体も直接支払の一形態である。大きな枠で見ていく形になる。名称にはいろいろな付け方がある。食料・農業・農村基本法が改正され、消費者に向けてのメッセージを発信する内容となり、食料安全保障をしっかり考えなければならないことになっている。新たな直接支払制度を創設するに際し、かなりの予算を投じなければならないことを考えたときに、農業者の方々の所得の安定を求めるだけではなく、消費者の方々に対し、食料確保、食料安全保障のための制度であるということを発信したい。農業者戸別所得補償制度というと農業者だけの所得補償という発信になってしまい、誤解を招くので、もう少し大きなくくりでみていただけるように、直接支払とさせていただいた。確かに、民主党政権の農業者戸別所得補償制度という名称は定着しているが、以前の農業者戸別所得補償制度に対応する仕組みは米のトリガーの部分だけである。今般、特に、農地を維持してくださる方々に支払う仕組みを手厚くしている。以上について、野田代表にもご説明させていただいている」と説明がありました。
また、「農業者戸別所得補償制度の考え方は米のトリガーの中にしっかりある。さらに加えて、農地維持支払を創設しようというもの。一時は戸別所得補償制度復活と言っていた。すごく評価された良い制度だったので、現場で期待があると思うが、15年も経ち、現状に合わせて、戸別所得補償制度の考え方をしっかりと盛り込み、農地を維持して食料安全保障を確保するという制度にしようしているもの。より期待を抱いていただく発信をしていただければよいのではないか」(田名部匡代参院議員)との発言がありました。
参加議員から「インパクトのあるキャッチフレーズが必要」(小山展弘衆院議員)、「戸別所得補償制度は1反15,000円であったところ、今回は最大44,000円になる」(野間健部門長代理)との指摘がありました。
また、「米のトリガー発動は良いと思う。金額を示して、手厚くなることをご理解いただければいい。米価が上がっている中にあって、消費者に対しては食料確保のための必要な予算であることを説明する」(田名部匡代参院議員)との発言がありました。
以上を踏まえ、金子部門長より、「食料確保・農地維持支払制度と新規就農プランの所要額は、総額1兆2,000億円+2500億円である。消費者の皆さんにご理解をいただかなければならない」との発言がありました。
さらに、「総額1兆2,000億円+2,500億円が、この先、党の話合いの中で確保されるのか。中小企業を回っていると、なぜ農家ばかり補償するのかと言われる。食料安全保障のため、農地を守らなければならないというフェーズに変わったと説明するとしてもかなりの増額になる。中小企業への支援、介護、社会保障関係予算との比較で、維持できそうか」(岡田華子衆院議員)との質問がありました。
これに対し、金子部門長より「今、この場で答えることはできないが、当初予算115兆円のうち、農林水産予算が2兆2,700億円しかない。これで食料安全保障をやれといわれても、少なすぎるだろうというのが私たちの考え。プラス1兆円あってもいいという考えを持っていた。今回の積算はこれを超えた形となっている。これだけの予算はとっておきたいという考え。新規増額分については、食料確保・農地維持支払制度は約8,000億円、就農支援では約2,000億円なので、1兆円強。米のトリガーはその時々で異なるので予備費対応」との説明がありました。
関連して、「ガソリンの補助金に8兆円も使っている。米価が高くなっているのに何も補填していない。次世代半導体ラピダスに1兆円も使っている。ラピダスも大事で、産業の米と言われているが、本当の米には何も支援しない。これはおかしい。防衛費に5年間で43兆円。令和の百姓一揆では『10年後米を作る人がいなくなってしまう』と言っていた。バックアップしなければならない。今回の米騒動の背景はよくわからないところがあるが、明らかに米が不足していた。流通の問題ではない。農業分野での予算増額は他の分野と比較して雀の涙であると言ってよい」(篠原孝衆院議員)との発言がありました。
また、「中小企業予算は1,800億円しかない。そこを我々は直していかなければならない。低いもの同士で比べ合ってもしようがない。中小企業対策はしっかりやるというべき」(野間健部門長代理)との発言がありました。
以上の議論を踏まえ、「食料確保・農地維持支払制度の創設」「新規就農プラン」について、文言調整は一任することとし、明日の次の内閣に提出することについて了承されました。
■農林水産政策大綱の改訂
次いで、農林水産政策大綱の改訂について、党内協議が行われました。
農林水産政策大綱は立憲民主党の農林水産政策の方向性を取りまとめたもので、2024(令和6)年6月に次の内閣で了承されたものです。今般、「食料確保・農地維持支払制度の創設」と「新規就農プラン」を最重点項目として打ち出したことに伴い、これを改訂しようとするもので、金子部門長より、役員間で議論した改訂案について、説明がありました。
なお、金子部門長より、小山展弘衆院議員から、農林水産政策大綱に、農協法に「営利を目的として事業を行ってはならない」「地域の維持・振興に資することを目的とする」との条文を書き込む改正を行い、農協が協同組合としての役割を発揮し、地域の課題の解決を図る旨の内容を盛り込んではどうかとの指摘があったことが報告されました。金子部門長からは、役員間で議論した結果、農協法の改正となるので、ヒアリングや平場での議論が必要ということから、今回は、最重点項目を盛り込む形での改訂とし、農協法改正については、別途、議論させていただくこととしたいとの説明がありました。
農林水産政策大綱の改訂案について、文言調整について指摘があり、その対応は一任することとし、明日の次の内閣に提出することについて了承されました。
