衆院本会議で5月20日、重要広範議案である「国民年金法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、井坂信彦議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下のとおりです。

「国民年金法等の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑

衆議院議員 井坂信彦


 立憲民主党・無所属の井坂信彦です。
 会派を代表して、政府提出の国民年金法等の一部を改正する法律案について、総理および厚生労働大臣に質問いたします。
 冒頭、コメ価格高騰で国民が苦しむ中、江藤農水大臣が今月18日に「コメは買ったことがない」などと発言したが、高い米価で困っている国民の気持ちを全く理解できない農水大臣に米不足対策を任せるわけにはいかないのではないでしょうか。
 石破首相は昨日、江藤大臣を官邸に呼び、厳重注意したものの、江藤氏を続投させる考えを示しました。
今朝の新聞報道によれば、江藤大臣は「首相に辞職すべきだと言われれば、そうするつもりで官邸に来た」と明かしたとのことですが、なぜ江藤大臣を辞めさせなかったのか、総理の任命責任をどう考えているのか、合わせて総理に伺います。(総理)


●はじめに

 年金改革法案の質問に入ります。
 まず初めに、今国会の最重要法案である、年金改革法案の提出が2ヶ月も遅れたこと、ようやく出された法案が骨抜きになっていることに対して、怒りを込めて抗議します。
 なぜ、重要広範議案である年金改革法案の提出がここまで遅れたのか? そのことの責任についてどう考えているのか? 総理に伺います。(総理)
 骨抜き法案のままでは、現役世代と若者の年金は最大3割減ってしまいます。
 選挙が怖くて問題を放置するなら、石破総理に政権担当能力はありません。
 この法案は、将来の問題から逃げる無責任法案です。
 総理は、全ての現役世代と若者を見捨てるつもりですか?(総理)
 減り続ける年金を、総理はいつまで放置するのですか? お答え下さい。(総理)
  私が本日、与野党の皆様に訴えたい、最大のポイントは一つです。
 今からでも遅くない、厚生年金等の底上げをしましょう。
 年金を底上げして、現役世代や若者が老後の貧困に陥るリスクを解消しましょう。


●減り続ける現役世代の年金

 2004年に導入されたマクロ経済スライドにより、このままでは年金は、2057年まで毎年減り続けます。
 もらえる基礎年金の水準は今より3割も減ってしまい、国民年金だけでなく、厚生年金の加入者でも、老後の生活が成り立たなくなります。
 「今のままでは厚生年金を含めた現役世代の年金が減り続ける」という厳しい現実について、総理がどの程度の危機感を持っているのか? お伺いします。(総理)
 この問題を解決するために、今回の年金改革法案が提出されるはずでした。
 だからこそ私たちは、年金改革法案を今年の最重要法案の一つと位置付け、重要広範議案に指定したのです。
 しかし、3月に提出されるはずだった法案は、自民党の中で了承を得られず、提出が遅れに遅れました。
 そして、先週ようやく提出された法案からは、驚くべきことに、一番大事な現役世代の年金底上げが削除されていました。
 このような骨抜き法案は、到底認められません。
 「あんこの入っていないあんパン」など、いりません。
 厚生年金を含めた現役世代の年金が減り続けることが分かっていながら、なぜ年金の底上げを削除したのか?(総理)
 また、会期末まで1ヶ月しかないタイミングで、無責任な骨抜き法案を出してきて、本当に今国会で衆議院と参議院を通す気があるのか? 併せて総理に伺います。(総理)
 現役世代と若者の年金底上げをしないと、将来の年金額が最大3割減ってしまうだけでなく、大変なことが起こります。
 NIRA総研のシミュレーションによると、現在50歳前後の世代は、老後に貧困となる可能性が高いとのことです。
 潜在的な生活保護受給者は77万人、その方々が実際に生活保護を受給すると、追加の予算が累計で20兆円近く必要になると予想されています。
 政府は現役世代の老後の貧困率や、生活保護の受給者数について、将来見通しの数字を持っていますか? 厚生労働大臣に伺います。(厚生労働大臣)
 マクロ経済スライドで年金を減らし続ければ、年金制度は100年もっても、現役世代と若者の老後の生活がもちません。
 減り続ける年金を放置したことが理由で、生活保護が増えるなどということは、絶対にあってはならないことです。総理の見解を伺います。(総理)
立憲民主党は野党第一党として、この問題に正面から取り組みます。
 厚生年金等を底上げして、現役世代と若者の年金を増やし、老後の貧困を防ぐための修正案を用意しています。
本日この後、修正案の骨子を政府と与党にお渡しします。
 総理には修正を受け入れて頂き、自民党の総裁として、年金底上げのために責任を持って、自民党内を説得して頂きたいと思います。

●厚生年金等の底上げの効果

 今回の年金底上げに対しては、「厚生年金加入者のお金が国民年金に流用されて、厚生年金の人は損をする」との批判が数多く見られます。
 しかし、これは政府の説明が下手だったことによる誤解です。
 私たちが修正提案する、厚生年金等の底上げは、こういう内容です。
 これまでも厚生年金のお金は、厚生年金加入者の2階の報酬比例部分と1階の基礎年金部分に投入されていました。
 今後は1階の基礎年金部分に多めに投入するよう、配分割合を変えようという提案です。
 基礎年金部分が増えれば、自動的に国庫負担分も増えます。
 この修正が実現すると、果たして厚生年金加入者の年金額は減るのでしょうか。
 実は多くの場合、増えるのです。
 先週の厚生労働委員会で、私なりの試算を発表しました。
 計算してみて驚きました。
 低年金の方は、もちろん年金が増えます。
 加えてなんと、平均的な収入の厚生年金加入者であっても、幅広い世代でもらえる年金が増えるのです。
 ついては、厚生労働大臣に確認します。
 私たちが修正提案する厚生年金の底上げで、男女それぞれ何歳以下の厚生年金加入者の年金が増えるのか、政府側の試算についてお答え下さい。(厚生労働大臣)
 私たちが修正提案をする現役世代の年金底上げにより、増える年金額の多さには皆さんも驚かれると思います。
 社会保障審議会の資料によれば、厚生年金加入者で現在50歳のモデル世帯の年金は、修正で厚生年金が底上げされると、一生にもらえる年金額が、夫婦二人でなんと451万円も増えるとのことです。
 更に40歳・30歳と若い世代になるほど、厚生年金の底上げで増える年金額もさらに大きくなると、厚生労働省からは回答を頂いています。
 私たちの修正案は、もともと社会保障審議会で議論されていた案ですから、厚生労働省は詳細なデータを持っているはずです。
 そこで厚生労働大臣に伺います。
 仮に私たちの修正案が実現し、厚生年金の底上げが行われたら、現在60歳・50歳・40歳・30歳・20歳の厚生年金加入者は、一生にもらえる年金額が何万円増えるでしょうか?(厚生労働大臣)
 私たちの修正案で、50歳以下のほとんどの方の年金が増え、60歳の方でも平均的な収入の方は年金が増えるはずです。
 しかし、年金が増える現役世代や若者の中にも「厚生年金の流用で自分たちの年金が減る」と反対している方々がおられます。
 この週末の共同通信の世論調査でも、年金受給額が増える世代である30代以下の43%と、40〜50代の54%が年金底上げに反対しています。
 私は本日の質問で、一部の方のための底上げだという誤解を防ぐために、あえて「就職氷河期世代」という言葉を使いませんでした。
 政府には、正しい説明で国民やメディアの誤解を解く責任があります。
 「今回削除した年金底上げは、厚生年金を一方的に減らしたり、国民年金だけを増やす変更ではない。厚生年金加入者の報酬比例部分のお金を、厚生年金加入者が9割を占める基礎年金部分に回す変更である。年金底上げをすれば、現役世代のほとんどの厚生年金加入者の年金額は増える」と、総理から分かりやすく説明して下さい。(総理)
 一方で70代の厚生年金受給者を中心に、年金額がわずかに減ってしまう方々も出てきます。
 ここは大事なポイントで、年金額がマイナスになる方々を何もせずに放置していると、世代間対立が起こって年金改革は進みません。
 立憲民主党の修正案では、改革で年金額が減ってしまう世代への緩和策を検討するよう求めています。
 厚生年金を含めた現役世代の年金底上げを行うと同時に、年金額が減ってしまう方々に対して、何らかの手当が必要だと考えますが、検討できないか総理に伺います。(総理)

●厚生年金の適用拡大

 次に、厚生年金の適用拡大について伺います。
 今回の法案では、中小企業のパート労働者に対する厚生年金の適用について、最長で2035年まで先送りされます。
 この企業規模要件は、2012年の法改正で経過措置として設けられたものです。
 すでに10年以上が経っており、当初の予定通り2030年までに企業規模要件を撤廃すべきではないでしょうか?(総理)
 また、企業規模要件の撤廃で新たに保険適用される中小企業の保険料負担について、経過措置として財政支援を行うことはできないでしょうか? 併せて総理に伺います。(総理)

●その他の論点

 今回の法改正には、在職老齢年金の見直しも含まれています。
 望めば何歳になっても働き続けられる社会と、働き続けても損をしない制度は重要です。
 しかし、在職老齢年金があるから働く時間を減らすという高齢者はどれだけいるのか、政府の持っているエビデンスをお示し下さい。(厚生労働大臣)
 また、今回の法改正では、第3号被保険者の実情に関する調査研究も、検討事項に盛り込まれています。
 総理は将来的に、第3号被保険者制度を廃止すべきと考えているのでしょうか? お伺いします。(総理)

●終わりに

 最後に、議場の与野党全ての皆様にお訴えします。
 私たちが修正提案する年金底上げには、「厚生年金の流用だ」と、相変わらず批判が寄せられています。
 しかし、私たちの修正案で、現役世代と若者の厚生年金は増えます。
 いわば、現役世代と若者の厚生年金底上げ案です。
 低年金の方々だけでなく、多くの現役世代と若者が老後の貧困から救われます。
 生活保護の増加による、将来の財政破綻を防ぐことができます。
 与野党を超えて、未来を見据え、いま2025年の国会に身を置いている意味を自覚し、年金改革に正面から向き合って参りましょう。
 皆様に、修正案へのご協力を心よりお願い申し上げます。
 ありがとうございました。

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