参院本会議において6月13日、年金改革法案(「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」)の討論が行われ、立憲民主党から高木真理参院議員が登壇しました。予定原稿は以下の通りです。
立憲民主・社民・無所属の高木真理です。
私は、会派を代表して、ただいま議題となりました「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」に対し、賛成の立場から討論を行います。
まず、冒頭、年金という極めて国民生活に大事な法案が、重要広範議案であるにもかかわらず、衆議院に通常より2カ月も遅く提出されたことは、極めて許しがたいと申し上げなければなりません。3月14日という国会提出期限だけでなく、4月中下旬に提出するという約束も守られませんでした。ただでさえ年金は、制度が複雑であるため、国民の皆さんに正しく理解していただくのが難しいものです。しかし、国民誰にとっても大事な制度であるため、より十分な時間をかけて、議論をすべきものであります。それが、2カ月近く遅れた上、国民の基礎年金の底上げという、一番重要と思われる中身が抜け落ちた状態で、衆議院に提出されました。まさに、「あんこのないアンパン」でした。そして、そうした事態となった原因が、自民党内で近づく参議院選挙への影響を考えたからというから、呆れます。党利党略も甚だしい。
年金制度については、その重要性ゆえ、政争の具にすることなく、真摯に話し合い、全ては国民のために、長期的な視野に立って決めていくことが必要と言われています。
それを選挙の為にねじ曲げたとあっては、もはや責任政党とは呼べないと申し上げなければなりません。こんなことは、金輪際あってはいけない。断固抗議申し上げます。
さて、ようやく提出された政府の法案には、ただ今申し述べましたように、一番の重要事項、マクロ経済スライドにより、将来の基礎年金が3割目減りしてしまうことに手当をする「基礎年金底上げ措置」が抜け落ちていました。
政府は、「就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、就職氷河期世代の支援を強化するとしていますが、就職氷河期世代は非正規雇用で働かざるを得ない期間の長さなどによって被用者保険に十分な期間加入できず、老後の生活を基礎年金のみに頼らざるを得ない方が多くいらっしゃいます。将来の基礎年金が3割目減りすることによって就職氷河期世代が老後の貧困に陥ってしまうことを放置するのは、明らかに矛盾した政策です。
われわれ立憲民主党は、就職氷河期世代や今の現役世代の老後の貧困を防がなくてはいけない、国民生活に直結する年金制度改革を政争の具にしてはいけないとの思いから、年金の目減りに歯止めを掛けるため、年金底上げ措置を復活させる修正を提案しました。自民、公明両党との3党合意で衆議院での修正となりました。
本来であれば、他の野党も含めて、さまざまな論点について十分な修正協議を行いたかったのですが、政府の提出遅れにより限られた国会会期の中では、時間がなかったことが残念でなりません。
基礎年金の目減りは、低年金である方ほど、また男性より女性について大きく影響し、生活困窮につながることが懸念されます。
また、老齢基礎年金だけでなく、障害基礎年金や遺族基礎年金についても給付水準が低下してしまいます。
低年金により生活に困窮する方が増えると、生活保護に頼らざるを得ない者の増加が見込まれ、財政が悪化するだけでなく、保険料未納者の増加による年金制度の崩壊にもつながりかねません。
今回の修正では、基礎年金の目減りが食い止められると試算しており、今申し述べたさまざまな懸念を防ぐためにも、重要な修正が行われたと考えています。
特に、障害のある方にとっては、就労の場が限られている中で、障害年金が非常に重要な役割を果たしています。
現在でも十分な年金額であるとは言えない中、3割も目減りしては更に生活が苦しくなってしまいます。
今回の修正では、将来の障害基礎年金の額が減ることを食い止め、逆に少し額が増えるという非常に重要な効果があります。
さらに、今回の法案には、子どもがいる障害年金受給者への加算が2割増額される改正も含まれており、この点は評価できるものと考えます。
次に、遺族厚生年金の見直しについてです。
今回の法案では、遺族厚生年金において男女差を解消する見直しが行われますが、その内容が国民の皆さんに正しく伝わっておらず、SNSなどでは、給付が大幅にカットされるような誤解も広がっています。
既に遺族厚生年金を受給している方には見直しの影響がないこと、子のない男性への給付が拡大すること、子のない女性への給付期間の見直しは20年掛けて進めること、有期給付の場合は受給額の加算があり、配慮が必要な方には給付継続の措置も創設されることなど、今回の改正はプラスの要素やさまざまな配慮措置が盛り込まれています。
また、障害年金と同様に、子どもがいる遺族年金受給者への加算が拡充されます。
こうした前向きな改正を実現することが重要であると同時に、このことを正しく理解していただくために、政府が分かりやすい周知・広報に取り組むことは引き続き重要な課題です。
今回の修正による年金底上げ措置について、厚生年金の積立金の流用であるという誤解がまだ拭い切れていないようです。昭和60年改正による基礎年金創設以来、国民年金積立金、厚生労働積立金から基礎年金財政へと拠出するルールになっており、法に則った支え合いの仕組みで拠出するにも関わらずです。
この基礎年金の底上げ措置は、全国民共通の基礎年金の給付水準を底上げするものであり、厚生年金の人も、国民年金だけの人もほとんどの人の給付水準を上げるものです。
底上げ措置で厚生年金が減る方も一部にはいらっしゃいますが、今回の修正では、そのような方々への影響を緩和する措置も盛り込んでいます。
現役世代や若い世代を中心とした多くの方々の給付水準を上げるための底上げ措置であるにも関わらず、誤った情報の拡散等により、プラスの影響を受ける方々にも正しく理解していただけていない状況は、非常に残念です。しかし、誤解を恐れて年金底上げ措置を行わず、20年後、30年後の将来のことについて見て見ぬふりをすることが責任ある政治家の姿勢とは言えません。
年金制度は複雑でありますが、政府はもとより、われわれ国会議員も正しい情報を分かりやすく伝えていく姿勢が求められていると考えます。
本法案は、給付水準を引き上げ、再分配機能を強化する改正内容が盛り込まれていますが、物足りないと感じる部分があることも事実です。
まず、短時間労働者への被用者保険の適用拡大に関して、企業規模要件を撤廃することとしていますが、これを10年掛けて段階的に撤廃することとしています。
10年という期間は、働いている期間の4分の1程度にもなるわけですが、この間に適用されないことで不利益を被ってしまう方も出てきてしまいます。
周知期間の長さではなく、事業主への支援をしっかり行うことで適用拡大のハードルを下げるなどして、適用拡大を前倒して実施することも検討すべき課題ではないかと考えます。
このほかにも、法案の附則でも示されているように、基礎年金拠出期間の延長、第3号被保険者制度の在り方など、引き続き検討すべき大きな課題は山積しています。
改めて申し上げますが、国民生活に直結する年金制度改革は、政争の具にしてはなりません。
こうした課題を解決していくためには、国会での議論だけでなく、政府が改正内容を検討する段階においても、与野党を超えて議論していく場を速やかに設置することが必要であると考えます。
立憲民主党は、将来世代の安心を確保するために努力を惜しまない覚悟であることを申し上げ、私の賛成討論といたします。