5日午後の参院予算委員会(総括的)質疑では、3番手として小西洋之議員が質問に立ち、日本学術会議の任命問題を取り上げました。小西議員は、日本学術会議法が現在の形に改正された、昭和58年当時の様々な歴史的資料を紹介しながら、総理の任命拒否の違法性を強調。以下の論点について、政府を厳しく問いただしました。
1)総理の任命行為が「付随的」な行為であることを、菅総理は知っていたのか
小西議員は、昭和58年当時の国会の議事録(昭和58年5月12日参院文科委員会会議録)から、当時の政府委員が、総理の学術会議会員の任命行為が「(推薦に伴う)付随的な行為」である、と述べた部分を取り上げ、「あなたの任命権の法的性質――あなたの任命権は、推薦を破ることができない『付随的なもの』である――そうしたことをご存知でしたか」と、菅総理を繰り返し問いただしました。しかし、菅総理は、「推薦された方々を必ずそのまま任命しなければならないということではないという点については、内閣法制局を含めた政府の一貫した考え方」と、同じ答弁を繰り返すばかりでした。
2)中曽根元総理の国会答弁は、法令解釈か
小西議員は、日本学術会議法の改正を審議した昭和58年当時の中曽根康弘元総理が、総理の会員任命は「形式に尽きる」と、繰り返し答弁していたことを取り上げ、元総理の答弁が法令解釈であるのは明らかではないか、とただしました。
「中曽根総理は、法令解釈として述べているはずなんです。ところが菅総理は、別の解釈をお持ちなんですね。日本国の総理大臣は、前の総理大臣が国会で作った法律を、別の解釈を作って、好きなことができる――そういう国なのですか」
「学術会議の任命は、形式に尽きると国会で何回も何回も答弁しているんですよ。この国会で、形式的任命件しかない、実質的任命権はない、できないという風に国会で議決された法律の下で、任命拒否をやることが合法なんですか?」
と、問いただす小西議員に対して政府側は、「当該行政機関の職務の独立性等に鑑みて、何らかの申し出や推薦に基づいて任命するものと規定しているとしても、憲法第15条第5項の規定で明らかにされてるところの、公務員の終局的任命権が国民にあるという『国民主権の原理』との調整が必要である」(内閣法制局長官)と、繰り返し憲法15条を引き合いに答弁するのみでした。
3)文科大臣の任命制度を根拠に、なぜ任命拒否ができるのか
菅総理は、学術会議会員の任命を総理が拒否できる理由の一つとして、文科大臣も国立大学の学長の選出を拒否することができるから、という趣旨の答弁を国会で繰り返ししています。小西議員は、昭和58年当時の国会でもこの類似性が議論され、大学学長のケースとは異なり、総理に任命拒否することはできない、との結論に達していたことを指摘しました(昭和58年5月12日参・文教委員会での粕谷照美議員と高岡完治説明員とのやり取りから)。
「文科大臣の任命制度――実質的な任命権を持つーーそういう考え方によって、この学術会議法の世界でも任命拒否が起きないですか、とそれを何度も何度も念押ししている。『起きないという保証はこの法律のどこにあるのですか』という風に尋ねられて、この高岡さんという方が『今まさに審議している法律の第7条であります。この7条はこういう条文なので、総理が形式的な任務を行う、こういう条文として、内閣法制局と相談をして法規範として作っている』という答弁をしている。この質疑があるにも係らず、文科大臣の任命制を根拠に、学術会議法において任命拒否はなぜできるのか?論理的に説明してください」
「文科大臣のようなことが起きないですね、なぜ起きないんですかと聞かれ、この日本学術会議法の法律の『条文7条2項の法律の条文でそれを排除してる』、と答弁しているんです。なぜ総理の任命拒否が、日本学術会議法7条の2項において合法になるのか」
と、小西議員は総理の任命拒否について、繰り返し合理的な説明を求めました。
これらの質問に対して政府側は、「私どもも判断するには当然、法制局の相談した上で判断をするわけでありますから、私はその上で判断をした」(菅総理)、「形式的任命権、あるいは実質的任命権というところの定義自体が必ずしも定まってない」(大塚官房長)といった、言い逃れ的な答弁に終始しました。
4)内閣法制局の審査に持ち込まれた別案との整合性
小西議員は、改正案が議論された昭和58年当時の法制局の内部資料から、現在の7条の法文とは別案が議論されていたことを取り上げ、現在の条文の解釈との整合性を問いました。
「内閣法制局において同じ日の同じ審査において別案として二つの文が出されています。一つは日本語として100%、形式的任命としか読めない、『推薦した者を任命する』という条文です。そしてもう一つは、今の推薦に基づいて任命するという条文でございます。であるならば、今の推薦に基づいて任命するという条文は100%、形式的に任命する条文としか法的に読めない」
「同じ時に別案として審査されてるはずですから、同じ意味であるに決まってるわけですが、最終的になぜ『(推薦に)基づいて』任命するという条文になったか、ちゃんと記録が残っています」
後者について小西議員は「先例がない」という便宜的な理由から別案が採用されなかったことを明らかにしました。
「いずれにしても、初めから推薦した者を任命拒否することは絶対出来ないーーそういう条文を作ろうという審査をやっていたわけでございます。菅総理、これだけの確実な明らかな記録が残っていて今なお、あなたが任命拒否を行ったその学術会議法の7条、これは任命拒否ができる条文だというふうにお考えでしょうか」 と、菅総理を追及しましたが、菅総理は「私どもが判断する時は、法制局長官と相談をして確認をして決めます」と、これまでの延長線上の答弁に終始しました。
5)日本学術会議会長の国会での発言との整合性
昭和58年当時、学術会議会長が7条の任命制度について、「形式的任命である、実質的任命ではない」という答弁を国会でしていたことを取り上げました。
小西議員は、「総理が一貫しておっしゃっている、任命拒否ができるという解釈が昭和58年からあったとする考えは、日本学術会議を騙していた、そういうお考えてないですか」と、菅総理を追及しました。
【予算委員会配布資料】
201105 予算委員会・パネル資料.pdf
201105 予算委員会・形式的任命の立法経緯.pdf
201105 予算委員会(S58改正の条文案の変遷).pdf
201105 予算委員会・S58会議録等.pdf