衆院厚生労働委員会で17日、「予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律案」に関する質疑が行われ、参考人として川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さん、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さん、公益社団法人・日本医師会常任理事の釜萢敏さん、薬害オンブズパーソン会議事務局長の弁護士・水口真寿美さんの4人が出席し、意見を陳述しました。
立憲民主党の中島克仁議員は、参考人からワクチンの使用について安全性などの観点から慎重な意見が上がるなか、新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領が治療を受けた人工抗体による抗体治療について質問。宮坂参考人の解説に、「重症化予防、免疫パスポート的な役割も果たせるということで大変興味深い」と述べ、「日本での第Ⅲ相試験(3つの治験のステップのフェーズ3、第Ⅱ相試験より年齢、病態、重症度などにおいて幅のある被験者群を用いて有効性、安全性、使い方を最終的に検証する)が困難な中で、人工抗体は切り札と言えると捉えていいか」と尋ねました。
これに対し宮坂参考人は、「可能性としてはある」とする一方、日本での第Ⅲ相試験が必要だと強調。海外のデータをうのみにして第Ⅲ相試験せずに行うのは難しいとの見解を示すとともに、日本のメーカーはリウマチの抗体医薬を作っており、技術的には抗体を生成し医薬品にする技術はあると発言しました。
立憲民主党では、国民の皆さまが納得して接種することができるように、「新型コロナワクチン5原則」をまとめています。
1.政府はリスクとベネフィットを包み隠さず、最新情報が更新される度に迅速に説明する。
2.政府がリスクとベネフィットをどう比較衡量して接種を判断するのか、わかりやすく科学的根拠に基づいて説明する。
3.接種対象者の選定や優先接種者の決定を行う場合は、その科学的根拠を示した上で、国民の意見をよく聞き判断する。
4.接種についてはあくまで個人の判断とする。その判断のために国民が求める情報はタイムリーに迅速・的確に届ける。
5.副反応含め疑い事象について相談窓口を周知し、迅速な対応と情報公開を徹底する。救済制度のさらなる充実を図る。
岡部参考人は、今回の新型コロナウイルス感染症は、現れてまだ1年足らずの病気であり、免疫機構が分からないままでの使用であることを基本に考える必要があると発言。日本の予防接種は、個人の意思が尊重されていること、改正で過剰な勧奨にならないようにと規定されていることも重要だと述べ、「万が一有害事象が起きたときは、それを誰が説明し、健康被害の救済が必要な場合はどこが中心となってやるのか、司令塔を明確にしていただきたい」などと求めました。
宮坂参考人は、「有効率」「副反応」「開発中に注意すべき点」について発言。まず、「ワクチンに関する誤解」として、「有効率90%」という報道があることに、100人にワクチンを接種したら90人に効果があったと理解しがちだが、被接種者の発病率を1としたときに接種をすると、その発病率がどのくらいに下がったかというもので、「0.1下がると1マイナス0.1で0.9、すなわち9割の人に有効性が認められたことになる」と説明しました。
その上で、「日本では感染者が少なく、第Ⅲ相試験の実施が困難。第Ⅲ相試験を海外のデータ試験に依存しようとしているが、ワクチンの使用にはリスクがある。自国の第Ⅲ相試験を飛ばして条件付き早期承認をするのがいいのかどうか。今回のワクチンは、有効性はかなり高いことは間違いないが、安全性についてはまったく担保されていない」などと指摘。「もしも使うのであれば極めて慎重に使わなければならず、希望者から接種するというのが大事なポイント。努力義務を与えるべきではない。接種するのであればリスクの多い集団からで、医療従事者から優先的に接種するのは、このワクチンに関しては極めて疑問」「大事なのは安全性を確認することであり、個人の意思が尊重されること」だと強調しました。
釜萢敏参考人は、今後薬事承認の手続きにあたって、「これまで積み上げてきた基準、手順をしっかり踏んで、国民が納得した上でワクチンを供給できることが大事」だと指摘。接種後の有害事象に対しては、「必ず起こりうるが、有害事象をいかに早く察知するか、その因果関係、情報などについても速やかに公表され、共有されることが重要。接種に携わった医療従事者が行政と速やかに情報を共有して対応していきたい」などと述べました。
接種に対する勧奨と努力義務について、できたあと柔軟に対応できるようになっている意義を強調。「(柔軟な対応が)ワクチンに対する国民の信頼につながってくる」と評しました。
水口参考人は、英国のアストラゼネカ社が、有害事象が発生したため、開発中の新型コロナウイルスワクチンの臨床実験を一時中断したことに言及、「自己免疫性の疾患の1つであることを十分に考慮に入れて審査してほしい」と求めました。免疫に作用するワクチンは人種差が大きいため、「特例承認」すべきではないとも主張。「安全性の確保、有効性の確認の観点からも問題がある」と指摘しました。その上で、これまでの改正の経緯も踏まえ、市場に出た場合に接種を勧奨し努力義務を与えるに十分な安全性と有効性を満たすと言える状況とは言えないとの見解を述べました。