事件を起こした18、19歳を「特定少年」として厳罰化する改正少年法が5月21日、成立しました。しかし、なぜ今なのか。法改正は、若者の更生という観点から大きな後退だと言わざるを得ません。
 今回、立憲民主党が提出した修正案の作成に関わった、衆院法務委員の松平浩一議員に話を聞きました。

立法事実なき法改正

 今回の改正は、少年法が適用される20歳未満の者(「少年」)のうち18歳と19歳の少年を「特定少年」と位置づけ、手続きや処遇を大人に近づけるものです。背景には、来年の4月から施行される民法の改正(成人年齢を現行の20歳以上から18歳以上に引き下げる)があり、政府・与党はこれとの整合性を取るため、形式的な理由で今国会での成立を急いだにすぎません。審議でも、政府は「責任ある主体となったのだから積極的な役割が期待される。だから、こういう措置を取る」という形式論を主張するのみで、この法改正が少年にとって、あるいは社会にとって何がいいのかを問うても答えられませんでした。その点は散々指摘しましたが、明確な回答を得られないまま審議が進んでしまったことは、非常に残念です。

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少年非行の概要(2018年 犯罪白書2019年版より)

 少年犯罪はどうしてもセンセーショナルに報道されるので、それが印象付けられ凶悪犯罪が増えているイメージですが、実際は必ずしもそうではありません。人口減少の影響もありますが、人口あたりの比率で見ても少年犯罪は減少しているのが実態です。令和元(2019)年の少年犯罪の人口比(少年10万人当たりの検挙人数)は、昭和56(1981)年の6分の1程度で、少年法は機能しているということ。つまり、少年犯罪について厳罰化を必要とする立法事実がありません。そうしたなかで、果たして少年法を改正していいのか。実態を見た立法となっていないことが、そもそもの問題としてありました。

社会復帰や更生を妨げる懸念

 今回の改正による主な変更点は、特定少年について(1)家庭裁判所から原則検察官に送致(「逆送」)される対象犯罪に強盗や強制性交など「短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪」を追加(2)不良行為などから将来罪を犯す恐れがあると判断された虞犯(ぐはん)少年を保護処分の適用対象から外す(3)資格制限の特例の適用除外(4)少年の実名など身元が明らかになるような推知報道の禁止を解除――の4つです。

 ほかにも変更点はありますが、これまでも多くの指摘があり、国会審議でも野党議員はもとより、参考人から特に懸念の声が上がった点について、われわれの修正案は、規定の削除を求めました。

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衆院法務委員会で修正案に対する質問の答弁に立つ松平議員

 第1に、特定少年の保護事件について、虞犯を対象から除外する規定及び家庭裁判所による保護処分の特例に関する規定の追加を、行わないこととしています。虞犯が少年法の対象から除かれることになると、罪は犯していないが犯罪予備軍になるような人たちとつきあっている少年たちに対し、これまでできた保護処分ができなくなり放置せざるを得ません。少年が更生し自立できるための社会のセーフティネットとして特定少年にも保護処分を維持すべきです。

 第2に、人の資格に関する法令の適用に関する規定について、特定少年のとき犯した罪により刑に処せられた者を適用除外とする規定の追加は、行わないこととしています。資格制限の特例は、本来少年の教育可能性を重視し、広く更生の機会を与え、社会復帰を容易にすることを目指す重要な規定です。資格制限の特例が適用除外となると、罰金以上の刑に処された場合、医師、保健師や助産師、看護師になれない、また禁固以上の刑に処された者は、裁判官や弁護士、教員、公務員等の職業に就くことができなくなります。これは、将来の夢もあきらめざるを得ず、少年の健全育成という少年法の理念に反するものです。

 第3に、記事等の掲載の禁止に関する規定について、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における記事または写真を適用除外とする規定の追加は、行わないこととしています。現行少年法では、少年の名誉やプライバシーを保護するとともに、そのことを通じて少年の社会復帰や更生を図ることを目的に推知報道を禁止していますが、今回特定少年に関しては推知報道の禁止を解除し、これを容認してしまいました。個人の名誉やプライバシー保護の要請は、以前よりも格段に高まっているなか、当該少年の非行内容や生育歴、家庭環境等に関する極めてプライバシー性の高い情報が広く不特定多数の者に知れわたり、なおかつ半永久的に残存することになる。これでは少年の社会復帰や更生を妨げることは明らかです。

犯罪被害者や遺族への支援拡充求める

 これら3項目に加えて、第4として、われわれの修正案では、犯罪被害者遺族に対して配慮する規定を盛り込みました。少年事件に関する記事等の出版物への掲載に当たっては、被害者及びその家族または遺族の名誉または生活の平穏が害されることのないよう十分配慮されなければならない旨の規定を設けることとしています。近年、ご遺族の方々に対する配慮を欠く報道が相次いでいることから、少年報道に対し配慮する規定とのバランスをとる形で、被害者への配慮を手厚くしたものです。

 修正案に関しては関係団体などからも評価をしていただき、政府案の問題点を解決する形で良い提案をできたと思っていますが、与党の反対で修正案は否決され、われわれは反対しましたが与党の賛成により、原案のまま可決・成立してしまいました。報道に関する被害者への配慮については、与党議員も指摘していたところであり、こちらの提案を踏まえてもう少し議論を深めたかっただけに非常に残念です。

 審議のなかで被害者の方々が訴えた「われわれの思いに目を向けてほしい」という言葉。これを重く受け止め、犯罪の被害者や遺族に対し現行法で配慮に不備がある点については、どういった措置がとれるか、今後被害者の思いにフォーカスした議論をさらに進めていきます。

 例えば、真摯な謝罪はもちろん、加害少年から被害者への賠償金が支払われていない事例があります。自治体によっては、訴訟支援や賠償金の一部立て替えなどの制度を設けており、こうした取り組みを参考にし、犯罪被害者給付金の拡充も進めていくべきだと考えています。

改正による影響を注視していく

 今回の法改正では、付則で5年後の見直し規定を設けています。修正案は通りませんでしたが、今後の見直しに向けて改正による影響、例えば少年犯罪の再犯率の変化などを注視し、継続した議論ができるよう取り組んでいきます。少年法の厳罰化は、寛容でない、自己責任だけを強いる今の菅政権の思想が反映された改正のように思います。だからこそ、この改正による影響を追いかけていきたい。繰り返しになりますが、今回の改正は、政府が民法改正との整合性を求め、実際の少年の保護原理や立法事実を無視するようなやり方で強行したものです。本当に少年の更生や保護、教育につながっていくのか、しっかりと検証していくことが必要です。あわせて、今回の審議は被害者の声をあらためて再考するきっかけにもなりました。被害者遺族の保護の仕組みを党内でしっかりと議論していきます。

【要綱】少年法改正案に対する修正案.pdf
【条文】少年法改正案に対する修正案.pdf
【新旧対照表】少年法改正案に対する修正案.pdf
【趣旨説明】少年法改正案修正案.pdf
【法務省資料】少年法改正案.pdf