「長期退去命令」で被害者の負担を減らす

打越)DV防止法の改正を検討する際も、井上先生には現行法の問題点や、比較法的に見て日本法の弱い点などご教示いただき、お世話になりました。ご意見を踏まえて「日本の法制度をラディカルに変えたい」という思いと、「実効性を得るためにはどうしたらいいか」という狭間で悩みながら、党として検討しております。

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打越)大きなポイントとしては、(1) 通報・保護命令の対象を 「身体に対する暴力」だけでなく、精神的暴力(「心身に有害な影響を及ぼす言動」)にも拡大(2)保護命令の迅速な発令を促すため、第14条1項ただし書(※)に例示を追加し無審尋での発令要件を明確化(3)加害者更生に関する施策の充実に向けて、基本方針及び都道府県基本計画の記載事項として、「加害者更生プログラムの実施に関する事項」の追加――等があります。加えて、個人的な思いとしては、被害者が子どもを連れて出ていくのはものすごく負担で大変なことですから、「(加害者に)出ていってください」と求める「長期退去命令」を入れました。これが現行法と大きな違いであり、「子どもを連れて出ていくことを考えると、子どもがかわいそうだから私がDVに耐えます」という相談者たちを多く見てきた立場としても、ぜひ実現したいところです。ぜひ引き続きお知恵をお貸しください。

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井上)3点とも非常に重要です。第1の点は、今回の改正の中心的な論点になると思われます。DVの実態からも改正が急がれます。諸外国の制度を参考にしつつ、刑法やその他の法制度との調整も含め、積極的に取り組むべきです。第2の点は、法改正をせずとも対応できる点ですね。ぜひ、取り組んでいきたいです。保護命令に実効性をもたせるための改正は非常に重要ですが、やや難しいと感じるのは、実効性をもたせるには、単純な強化ではうまくいかないということです。要件と効果のバランスをとった上で、メニューを豊富に準備することが大切です。いずれにしても、保護命令が強⼒なものにすることにより、発令されにくくなるのも、とても困ります。保護命令はあくまで被害者の安全を確保するためのテンポラリーなものであり、所有権秩序を侵害するものではないこと確認しつつ、実効性をもたせる必要があります。退去命令でも、どちらが出ていくかは⽣活実態に合わせて判断することになるのだと思います。例えば加害者である夫が商売をやっている家庭では、やはり退去命令を出せません。そこは知恵の出しどころだと思います。

意に反する性行為は性暴力

岡村)法改正のポイントはいろいろありますが、1つは性的DVです。DVというのは性暴力の側面があると感じています。DVの関係がある中で起こる性関係は全て性暴力だと思いますが、社会にその認識がまったくありません。

 例えば、暴行や脅迫を伴うような夫婦間レイプが性的DVだという理解までは多少進んでいますが、司法の現場でも、家を出る前日にも性行為をしていたという事実について、「夫婦関係があったのだから仲良くしていた」ということの根拠として主張する弁護士がいまだにいます。「明日には家を出よう」というほど相手のことを怖かったり嫌だったりしているにもかかわらず、相手の機嫌が良くなるならと意に反する性行為を受ける、そのことを被害者自身もあまり自覚していません。私が「意に反する性行為は性暴力になる」と話すと、「そう言われてみれば」と、次から次へと皆さんお話されます。

 さらに、「精神的DVは軽い」という勘違いもあると思います。弁護士ですら「軽いDVなのに、なぜこの人はこんなに重たい症状なんだろう」と思ってしまっている事案があります。電車に乗れないとか、昼夜が逆転するとか、魂の殺人と言われる性暴力を受けた人と同じ症状がDV被害者にも出ているにもかかわらず、訴訟上、性的DVとして扱われていません。何故ならその性行為は円満におこなわれているから。DV被害を理解する上でこうしたことについての社会認識が広がればと思っています。

 それとは別に、同性カップルのDVの相談がすごく増えています。昔に比べてLGBTの方の司法アクセスはしやすくなっていますが、まだまだ司法にアクセスするハードルが高いと思います。同性カップルについても、DVからの保護の対象となるということは、絶対に法律に取り込まないといけないと思います。

子どもをサポートしていく体制を

岡村)最後にもう1点、親子間ストーカーが非常に多くなっています。子どもに対する執着があり、例えばスポーツ虐待、教育虐待などですが、本人は自分のことをイクメンだと思っている。やっている行為はストーカーなのですが、警察もなかなかピンとこない。ようやく、恋愛感情がなくても「つきまとい行為」に該当するということで今は迷惑防止条例によって対応ができるようになりました。これに限らず、従来型の夫婦の問題でDVを捉えていたのでは収まらない事案、ファミリーバイオレンスとも言うべき事案が増えていると感じています。

井上)子どもを親とは独立した主体としてきちんとサポートしていく体制をきちんと制度を整備していくことが必要です。もちろん子どもの代理人制度もあるので緒に就いたところですが、親とは別にソーシャルワーカーがきちんとついて継続的に見ていくといった体制を作っていかないと、今の問題は解決しないと思います。

子どもを蚊帳の外に置かない

井上)「児童相談所(児相)があるじゃないか」と言われることもありますが、児相は人的リソースの問題もあってなかなか手が回っていません。また、夫婦が離婚する際に、子どもをどのように守っていくかという意味で、子どもに対する説明が十分ではない。離婚ないし離婚を考えている家庭の法教育をやっているのですが、子どもは素直で面白いですよ。「弁護士さんをどう思う?」と聞くと「喧嘩させようとしている」と言ったりする。片方の言い分しか聞いていないという場面を見聞きしているのだと思います。事実を話し、きちんと離婚の手続きなどを説明すると、子どもは落ち着いていきます。フランスやイギリスでは法手続きという絵本がありますから、離婚家庭や離婚を考えている家庭だけでなく、広く子ども向けの法教育があるといいと思います。「この人には正直に話しても大丈夫」「あなたの味方になってくれるのはこの人です」と、子どもに言える制度を作りたいです。

打越)私も一方の代理人、そのときはお母さんの代理人という立場であっても、お母さんの許可を得た上で、お子さんにも来てもらって、今何が起こっているのかを説明したことがあります。話を聞いたからと言って、子どもはお父さんとお母さんの紛争には何も介入、対応することはできないのですが、手続きを知っただけで全く変わるんですよね。何もかも蚊帳の外ではなく説明されるだけで全然違います。子どもの代理人というか、子どもが話せる人を公費などで拡充できるといいと思います。

【骨子案】DV防止法一部改正法案(2021年3月25日現在).pdf

【内閣府男女共同参画局】ドメスティック・バイオレンス(DV)とは