コロナ禍が長期化するなか、2020年度のドメスティックバイオレンス(DV)相談件数は過去最多の19万30件(速報値)と19年度の1.6倍に急増、深刻さを増しています。
 2019年、立憲民主党の提案により児童虐待防止法改正にDV防止法改正検討条項が盛り込まれました。これを受けて、政府での検討が始まり、今年3月には、女性に対する暴力に関する専門家調査会報告書「DV対策の今後の在り方」を公表しました。が、今後の進め方については何も具体的に決まっていません。
 立憲民主党はこれまで、有識者らのヒアリングを重ね、報告書も参考に、DV防止法改正に向けた作業を進めています。
 被害者の安全を守るために何ができるか。神奈川大学教授の井上匡子(いのうえ・まさこ)さん、弁護士の岡村晴美(おかむら・はるみ)さん、弁護士時代からDV被害者支援に取組んできた打越さく良参院議員に語ってもらいました。
 司会は、DV被害者保護のための「住民基本台帳閲覧制限等の期間制限の削除等を求める申し入れ」を提案した山内康一衆院議員(福岡第3区)が務めました(写真上は、左が井上匡子教授、右が岡村晴美弁護士)。(以下本文、敬称略)

家庭に負荷をかけるコロナ施策

山内)まずは、コロナ禍でDV被害がさらに深刻化している状況について、支援をされるお立場からあらためてお聞かせください。

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井上)相談件数は非常に増えていますし、基本的に感染防止策としてはステイホームが呼びかけられ、外へ出るな、人流を減らせという方向で動いていますので、全体としての施策は家族や家庭に負荷をかけています。施策の良し悪しをここで論じることは難しいですが、家族の中に葛藤がある場合には、それがより強い葛藤へと動いていく可能性は非常に高い。それを受けて相談が非常に増え、あるいは非常に深刻な相談が増えている印象です。DVが起こる背景にはいろいろな原因がありますが、経済状況や仕事の状況の悪化によって、より家庭内の問題が表面化してきます。そういう副次的な要素も含めて、DVや児童虐待など家庭内の問題が非常に深刻になっているのだと推測されます。

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DV相談件数はコロナ禍で前年度の1.6倍に

岡村)それは現場でも感じています。特に昨年、ステイホームで学校は一斉休校、仕事は在宅ワークが進みました。DVのある家庭で、家族が平日も休日問わず、日中ずっと一緒にいる状況が生まれたことで、普段ほとんど子育てに関わってこなかった親が、突然勉強やスポーツに口を出し、その圧力に、子どもが「もう耐えられない」というケースが増えました。DVもあり、虐待もある、ファミリーバイオレンスという形です。子どものためにDVに耐えてきたけれど、子どもが耐えられないなら離婚や別居に踏み切った方がいいのではないか。昨年の夏頃は、そういう相談がたくさんありました。

 また、国会でも問題になってた特別定額給付金が、すべて世帯主に持っていかれてしまうという相談が非常に多くありました。行政の窓口で相談した方が、「それは世帯主に全額入ることの適否の問題ではなく、そもそもDVがあるのではないか、弁護士の相談に行った方がいいのでは」とアドバイスをされたことで、相談につながる方も増えました。コロナ禍でDVも深刻化していますが、「DVなのではないか」と気づくきっかけが増えたこと、法テラスを利用した電話相談が可能になるなど相談窓口へのアクセスがしやすくなったことも相談が増えている要因だと感じています。

打越)給付金で言えば、立憲民主党は当初から個人単位での給付を求めましたが、迅速に給付する必要があるとの理由で政府に却下されました。通常国会で審議したデジタル改革関連法が成立すれば申請手続きをしなくてもマイナンバーを活用して給付が可能になるとの話がありましたが、結局制度設計によるものなのでデジタル化は関係ないことが分かりました。今後そうした点も含めて党としてきちんとやっていかなければいけないと思っています。

自治体間格差解消のための法整備を

打越)コロナ禍で昨年は女性の自殺者数が前比の1.5倍になりました。しかしながら、国は自殺の原因・動機について「家庭問題」「健康問題」「経済・生活問題」といった大雑把な括りで十分な分析ができておらず、ケーススタディが見えません。DVの影響で心理的に病んでいった、鬱になり自殺念慮が出てきたといった検証ができていない状態は問題です。そうしたことも原因が分かるように見える化をしていく必要があります。

井上)コロナ禍以前から、自殺の原因が家庭問題や人間関係であるケースが増加傾向にありました。しかし、今回のコロナ禍では明らかに男女差が出ました。自殺の原因は複雑に絡み合っていることが多く、単純な判断は難しいところがありますが、今回のジェンダーに基づく差は、個別の事情を超えた構造的な影響があることが伺われます。したがって、その対策においても、若年層やセクシュアルマイノリティなども含めてジェンダーに基づく構造的な差別の視点をもち、分析し、展開する必要があります。したがって、自殺対策といえば、メンタルヘルスの相談などが中心になりがちですが、ひとり親家庭や雇用形態の違いに基づく具体的な支援など、これまでの発想とは異なる支援が必要です。

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岡村)経済的なことで言いますと、相談にはつながっても経済的に貧困だから家を出られない、家を出ても就労する場所がないという人がすごく多いです。私が住んでいる名古屋市は、経済的に恵まれていなくてもシェルターに入れたり、生活保護を受けられたりと、比較的行政の対応がしっかりしていますが、愛知県でも名古屋市以外は必ずしも十分ではありません。DVの保護施策は地域差があって、相談に来た被害者に「まず(家を出ていくための)お金を貯めなさい」と言ってしまう窓口の方もいます。熱心な担当者だと問題意識を持って取り組むけれど、その人が配置換えになった途端に進まなくなることもあります。経済的な影響でDVも深刻化している側面もある中、行政の担当者次第ということで、本人が気づいて相談に来ても支援につながらないのは問題だと思っています。

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山内)地域や自治体ごとに差があることに対して、国として法律をきちんと整備していく。各自治体が取り組みやすくするためにも大事だと思います。

井上)とても大事です。

山内)そうした点に関して立憲民主党として法改正に向けた準備をしております。